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第3章 既往植栽地の状況調査(現地調査)
 琵琶湖岸の既往のヨシ植栽地等において、植栽後のヨシの生育状況とその生育環境の状態との関係に係るデータを取得することを目的として、現地調査を実施した。
 本章では、3.1節において、現地調査の対象場所として選定した調査地区及び調査測線について記載し、3.2節では現地調査の方法及び内容と併せて各調査測線ごとに設定した調査地点の数と位置を示した。また、3.3節では現地調査の結果を調査項目ごとに整理し、調査地区全体あるいは調査測線の特徴についてとりまとめた。
3.1 調査地区及び調査測線
 現地調査は、湖岸に5カ所の代表調査地区を選定し、各地区ごとにヨシ帯を湖岸から沖に向けて横断する調査測線を複数設けて実施した。
(1)調査地区の選定
[1]選定の方針
 調査地区は、前章で整理した既往植栽地での植栽条件やヨシ生育状況等を踏まえ、基本的に下記の点に留意して選定した。
i)ヨシ生育の有無
 生育環境条件の相違からヨシ植栽の成否に言及するためには、植栽が成功したと考えられる場所のみでなく、失敗したと判断される場所も含めるのが有効と考えられる。しかしながら、現状において全くヨシが消失してしまっているような場所は、人為的要因や波による消波柵の流出、陸上植物の繁茂等、特定の要因が大きく影響したと考えられる場所であり、ヨシの生育と環境条件との微妙な関係について検討するには不向きと考えられる。このため、失敗事例としての要素を考慮して選定する場合にも、ある程度のヨシの生育が見られる場所を対象とした。
ii)環境条件の多様性
 植栽立地の違いも比較の対象とし得るよう、近年の植栽事業が集中している南湖のみでなく、湖東や湖北にも調査地区を選定した。
 また、同一地区内において、比較し得るできるだけ多様な環境条件を反映した調査測線の設定が可能であることも重要なポイントとした。例えば、ヨシ植栽地の近隣に自然のヨシ帯が存在している所や植栽成功地と失敗地が隣接している所、消波柵が設置されている所と設置されていないまたは一部途切れている所、他植物混生状況が特徴的な所などは、できるだけ調査測線設定箇所の候補とした。
iii)植栽年度
 ヨシの現状の生育状況には、植栽後の経過年数も大きく関わっていると考えられる。解析を行う際にはこの点を考慮する必要があるが、この影響が寄与として大きすぎると、他の環境条件との関わりが見えにくくなる恐れがある。このため、現状で既にヨシ帯がある程度安定的状態にあるとみなし得るよう、できるだけ植栽後数年程度が経過した場所を選定するようにした。ただし、湖北エリアでは植栽地の箇所数が少なく、かつ全般に比較的植栽年度が新しいことから、数年経過程度の植栽地はほとんどない。よって、このような場合には、現地の状況に応じて平成10年度植栽分までを許容するものとした。
[2]現地視察
 以上の点に留意しつつ、琵琶湖岸の既往植栽地の状況について、下記の日程で現地視察を実施した。
《現地視察日》
 2001(H13)年7月5日(琵琶湖岸全周視察)及び7月10日(南湖の補足視察)
 ※ただし、植栽年の古い一部植栽地等を除く
[3]選定検討
 琵琶湖岸で植栽地の存在するエリアを大きく「南湖東岸」「北湖東岸」「北湖西岸」の3つに区分し、現地視察の結果も踏まえてそれぞれ以下の観点から代表調査地区を選定した。
i)南湖東岸
 南湖東岸はこれまで植栽が集中して実施されてきており、数多くの既往植栽地が存在している。植栽地区としては、南から新浜、南山田、北山田、下笠、赤野井、木浜の6つの地区に分けられる(表2.2.3参照)。
◆新浜地区(不選定)
 新浜は淡海環境保全財団が1995(H7)、1996(H8)、1997(H9)、1999(H11)年と4年度にわたり植栽を実施してきた場所であり、一部にヨシが他の水生・陸生植物に置換している場所が見られるものの、全体的にはヨシの生育は良好である。しかし、矢橋帰帆島の中間水路南端出口付近にあって他の湖岸植栽地と比べて立地が特殊であるとともに、狭い区画に多年度にわたり少しずつ場所を変えて何度も植栽が行われていて複雑であること、調査のための陸上からのアクセスが困難な場所にあることなどのため、調査地区として選定しなかった。
◆南山田地区(選定)
 湖岸に細長く広範にヨシ帯が分布するゾーンであり、1995(H7)年の淡海環境保全財団の植栽地、1990(H2)年3月の水資源開発公団の植栽地(山寺川北地区、山寺川南地区)のほか、自然のヨシ帯も分布している。財団と公団の植栽地は植栽年がかなり異なるが、近接する箇所の中で前者は陸上植物への置換が進み植栽がうまくいっていない事例、後者は良好に定着した事例としての比較が可能であるとともに、さらに周辺の自然ヨシ地も比較し得る点を考慮し、調査地区として選定した。
◆北山田地区(選定)
 北山田は財団が1994(H6)、1995(H7)、1996(H8)、1998(H10)年と4年度にわたり植栽を実施してきた場所である。凹地形部で湾状にヨシの部分的流出の認められる箇所とそれに近接して残存する箇所、当初設置されたエリ型消波柵の撤去後も湖岸に帯状にヨシが良好な生育を見せている箇所が存在し、比較のために有効と考えられることから、調査地区として選定した。
◆下笠地区(不選定)
 北山田とは草津川河口を挟んで北側に隣接するゾーンであるが、1994(H6)年と1995(H7)年に財団が実施した河口部の植栽箇所は、現状ではヨシがほとんど消失してしまっている。近隣に水資源公団による植栽地(草津川北、下笠第1樋門北・南、志那第1樋門北)が存在するが、志那のみ植栽年が1992(H4)年で、他は1988(S63)年と古い。このため、調査地区として選定しなかった。
◆赤野井地区(不選定)
 1997(H9)年の財団植栽地は良好なヨシの生育が見られているが、植栽場所が前浜として造成整備された湖岸公園の親水護岸前面というやや特殊な立地にある(今後同様の立地が植栽地となる可能性はあまり高くないと想定される)。また、この周辺に存在する公団の植栽地(法竜川水門南、天竜川水門北・南)はいずれも植栽年が1985(S60)年と古い。このため、調査地区として選定しなかった。
◆木浜地区(選定)
 1994(H6)、1995(H7)、1999(H11)年の3カ年にわたる財団植栽地が存在するゾーンであり、その南側には自然のヨシ帯が湖岸に沿って分布している。ひとまとまりの植栽地の中に、消波柵のある場所と無い場所があり、双方の比較が有効であると考えられるとともに、自然のヨシ帯との比較も可能であることから、調査地区として選定した。
ii)北湖東岸
 北湖東岸の植栽地は、植栽事業開始初期に植栽実験箇所とされた所を含め、南から中主、近江八幡、能登川、姉川の4地区に分けられる(表2.2.3参照)。
◆中主地区(不選定)
 1992(H4)年に須原地先において県による植栽実験が行われたが、現状ではヨシはほとんど消失していることから、調査地区として選定しなかった。
◆近江八幡地区(選定)
 財団による植栽が1993(H5)年(牧)、県水産課による植栽が1996(H8)・1997(H9)年(南津田)、1997(H9)年(牧)、1998(H10)年(野田)、1999(H11)年(大房)と実施されており、多くの植栽地が存在している。ヨシの良好な生育の見られる場所と部分的に消失・他植物の進入の見られる場所があり、ヨシ帯の規模も比較的大きいとともに、さらに自然のヨシ帯も存在するなどの理由から、調査地区として選定した。
◆能登川地区(不選定)
 1993(H5)年に財団が栗見出在家地先で植栽実験を実施しており、それ以前に公団が1989〜90(H1〜2)年に植栽を実施している。現状でヨシの生育が見られるものの、公団植栽時のヨシである可能性があり、その場合は植栽年が古い。北湖東岸の代表調査地区として上記の近江八幡地区を選定することを前提に、当地区は選定しなかった。
◆姉川地区(不選定)
 1983(S59)年(新余呉川北)と1988(S63)年(今西舟溜南、海老江舟溜北・南)に公団による植栽が実施されているが、いずれも植栽年が古いことから調査地区として選定しなかった。
iii)北湖西岸
 北湖西岸の植栽地は、南から志賀、安曇川、新旭、今津の4地区に分けられる(表2.2.3参照)。
◆志賀地区(不選定)
 小野地先に1996(H8)年、財団による植栽が行われたが、植栽ヨシは陸生植物に置換され、ほとんど消失してしまっていることから、調査地区として選定しなかった。
◆安曇川地区(不選定)
 北船木地先に1994(H6)年、財団による植栽が行われたが、現状でヨシはほとんど消失してしまっていることから、調査地区として選定しなかった。
◆新旭地区(不選定)
 針江地先において1998(H10)年と1999(H11)年に県による植栽が行われたが、植栽年が新しい。次の今津地区との比較において、植栽年が1年早い今津地区を選定することとしたため、当地区は不選定とした。
◆今津地区(選定)
 桂地先において1997(H9)年と1998(H10)年に財団による植栽が行われている。上記の新旭地区と比べて植栽年が1年早いこと、挿し木苗植栽の場所とマット苗植栽の場所、自生のヨシ帯のそれぞれについて測線の設定が可能な状況にあったことから、調査地区として選定した。ただ、当初、測線設定の候補箇所として含める予定であった1997(H9)年の植栽地は、現状でヨシがほとんど消失してしまっていたことから対象から除外し、1998(H10)年の植栽地とその周辺部を選定地区とした。
[4]調査地区の選定結果
 以上により、琵琶湖岸の5地区を調査地区として選定した。
 調査地区は、南湖東岸で3箇所、北湖東岸で1箇所、北湖西岸で1箇所設置し、南に位置する地区からA〜Eという略称を付けた(A地区:南山田、B地区:北山田、C地区:木浜、D地区:近江八幡、E地区:今津)。
(2)調査測線の設定
[1]調査測線の設定
 選定したそれぞれの調査地区に3〜4の調査測線を設定した。
 調査測線は各地区を代表するラインとして、A地区に4測線、B〜E地区に各3測線の計16測線を設定した。主に過去にヨシが植栽された場所を選定したが、その生育状況を自然状態と比較するために、16測線のうち5測線は自生群落のラインとした。また、各地区ごとに、ヨシの生育状態が良好、不良な場所を選定し、その違いを生じさせた環境条件の違いを検討できるように設定した。
[2]調査測線の設置と断面測量
 各調査測線の地盤の高低変化(B.S.L.標高)を把握するため、下記に示す内容で断面測量を実施した。
i)現地測量実施日2001(H13)年
 8月8日:E地区全測線、D地区(D−1、D−2)
 8月9日:D地区(D−3)、C地区全測線
 8月10日:A地区全測線、B地区全測線
ii)測線の設置及び基準点
 各測線のヨシ帯の手前(湖岸側)に木杭を打ち、そこから湖岸に概ね垂直方向に沖側に向けてロープを張り、ヨシを含む植生帯を越えたところに再度木杭を打ち込んでロープを固定し、測線を決定した。
iii)測線基準点
 上記の湖岸側木杭の位置を基準点(距離0m地点)とした。
iv)測量方法(図3.1.1)
 地形測量の方法は、直接水準測量法とした。
 基準点にオートレベル(ニコン製オートマチック水準測量機)を設置し、測線上の見通しに垂直に立てたスタッフ(測量尺)の水平高さの目盛りをオートレベルで読みとり、2点間の高低差と水平距離を記録した。これをおよそ2m間隔で次の点に繰り返していくことにより、断面の高低変化を測量した。ただし、測線上のヨシその他の植物によりスタッフの見通しが確保できない場合は、随時オートレベルを植生帯内に移動して測量を実施した。なお、現地測量で得られた地形の相対的高低変化量については、測量時の琵琶湖水面高さの読みとり値と当日の琵琶湖水位(B.S.L.)からB.S.L.標高に換算した。
 
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図3.1.1 断面測量の方法及び測量結果のBSL換算方法
[3]調査測線の概要及び位置
 調査地区及び調査測線の一覧を表3.1.1に、これらの概略位置を図3.1.2に示す。
 また、調査地区ごとの調査測線の概要を表3.1.2〜表3.1.6に、各測線のやや詳細な位置を図3.1.3〜図3.1.7に示した。
 なお、断面地形の測量結果については、次節において調査地点位置と併せて後掲する。
表3.1.1 調査地区及び調査測線一覧
調査地区 調査測線 ヨシ帯の形態 植栽事業主体 植栽年月
A.南山田 A-1 南山田駐車場南 自生    
A-2 山寺川南 植栽地 水資源開発公団 1990(H2)年3月
A-3 伯母川北 植栽地 淡海環境保全財団 1995(H7)年7〜11月
A-4 矢橋帰帆島北 自生    
B.北山田 B-1 草津川南 植栽地 淡海環境保全財団 1995(H7)年7〜11月
B-2 北山田駐車場北 植栽地 淡海環境保全財団 1995(H7)年3月
(H7、8年度補植)
B-3 北山田駐車場北 植栽地 淡海環境保全財団 1995(H7)年3月
(H7、8、10年度補植)
C.木浜 C-1 守山市木浜 植栽地 淡海環境保全財団 1994(H6)年10〜11月
(H7年度補植)
C-2 守山市木浜 植栽地 淡海環境保全財団 1994(H6)年10〜11月
(H7、11年度補植)
C-3 守山市木浜 自生    
D.近江八幡 D-1 長命寺橋南 自生    
D-2 近江八幡市牧南津田 植栽地 滋賀県水産課 1997(H9)年8月
D-3 近江八幡市牧 植栽地 滋賀県水産課 1997(H9)年9月
E.今津 E-1 今津町桂 自生    
E-2 今津町桂 植栽地 淡海環境保全財団 1998(H10)年10〜翌1月
E-3 今津町桂 植栽地 淡海環境保全財団 1998(H10)年10〜翌1月
 
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図3.1.2 調査地区及び調査測線の位置








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