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(2)ヨシの環境保全機能
[1]水質浄化
 ヨシによる水質浄化機能について述べている文献としては、実際のヨシ帯による水質浄化機能に関して述べたものや、水路などに人為的にヨシを植栽し、ヨシを水質浄化装置の一部として利用する試みについて述べたものなどがある。
 実際のヨシ帯の水質浄化機能についての調査例としては、湿地78)、休耕田のヨシ地71)73)、印旛沼のヨシ帯70)があり、また、その水質浄化機能について解説したものも数報ある。これらの主なものについて下記する。
A.ヨシ帯における水質浄化機能(鈴木69))
 湖辺の抽水植物帯では、水中の茎の乱立(琵琶湖のヨシ帯では80〜120本/m2)により、波浪の減衰作用、フィルター効果、沈殿効果があり、水中の付着面積の増大により微生物活性が高くなる。
 ◇琵琶湖のヨシ帯で水深1mの水域では、水中の表面積は1.8〜4.3m2/m2
 ◇沈水植物では7〜30m2/m2
 ◇ヨシ帯での付着微生物現存量は、例えば、1〜550mg・dry/m2
 ◇ヨシ帯の微生物による総無機化量は、例えば、3〜45mgC/chl.mg/日
 ヨシ群落内の有機物分解に伴う一時的な溶存酸素不足は脱窒の役割を果たし水中の窒素量の減少に役立っている。付着藻類の窒素・リンの含有量は霞ヶ浦のヨシ群落内では窒素が960〜1900mg/m2、リンが60〜120mg/m2である(渡辺未発表)。
 また、水生植物群落内の生物群集が浄化に果たす役割のひとつにヒメタニシがあり、ヒメタニシは貝の個体数が増えるほど植物プランクトンの増殖を著しく抑制し、クロロフィルa濃度は減少する(汚濁型の貝であるカワニナは逆となる(図2.2.6)。
 
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図2.2.6 ヒメタニシとカワニナ類の植物プランクトン増殖への影響の違い69)
B.内湖における水質浄化機能(倉田75))
 琵琶湖内湖の自然浄化機能のメカニズムには次のものがある。
 1)懸濁物質の沈降作用(1次処理槽):
西の湖の事例では、内湖へ流入した後、約300mぐらいで濁度が1/4程度に低下する(図2.2.7)。
 
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図2.2.7 流入口から流出口までの各定点における懸濁粒子の減少パターン75)
●懸濁粒子、□pH、▲水温
 
 2)従属栄養微生物の密度が琵琶湖に比べて100倍程度高く、水深が浅く水温が高いため有機物活性が極めて高い。これにより、流入した有機物が分解、無機化される(図2.2.8)。同様に、ヨシ茎や沈水植物に付着した微生物により有機物が分解され、無機化される(2次処理、表2.2.3)。ヨシ付着微生物には脱窒菌が含まれており、実験室ではあるが、高い脱窒作用を確認している。
 
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図2.2.8 湖水中(A)と湖底堆積物表層中(B)の各種機能別細菌数75)
 
表2.2.3 湖水中に浸漬したガラスに付着した微生物*75)
微生物数(細胞数/ml) 定点1 定点4
従属栄養細菌 8.3×107 2.1×106
放線菌** 8.9×104 1.7×103
糸状菌*** 9.5×104 1.5×103
酵母 3.0×102 2.0×101
*西の湖のそれぞれの定点に2週間浸漬
**グリセロール・アルギニン寒天培地に抗生物質添加
***グルコース・イーストエキス寒天培地に抗生物質添加
 
 3)流入水に比べて植物プランクトン密度が高く、沈水植物も存在するため、流入した栄養塩類を吸収する(3次処理)。
 4)ヨシの刈取りや漁獲(淡水真珠の母貝の水揚げ)などで内湖から有機物が取り除かれる(表2.2.4)
表2.2.4 水郷地帯でのヨシ収穫による窒素、リン除去75)
ヨシ生育面積 50ha
m2当たりの平均、ヨシ数 52本
m2当たりの平均、ヨシ中の窒素量 36.6g
m2当たりの平均、ヨシ中のリン量 4.3g
ヨシ収穫量 910t
ヨシ収穫による窒素除去量 16.4t
ヨシ収穫によるリン除去量 2.3t
 
C.沿岸域の水質浄化機能(中島56))
 近年、沿岸域はエコトーン(推移帯、移行帯)と呼ばれており、陸上部と水中部が相互に関連を持っている(1つのユニット)と捉えることが重要である(図2.2.9)。
 
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図2.2.9 湖岸域のエコトーン56)
I.広義のエコトーン II.狭義のエコトーン(Pieczynska,1990より)
 沿岸域の水質浄化機能が湖沼の水質保全の立場からも注目されており、バラトン湖では、湿地帯を再生させ流入河川水を浄化した例があり、1988〜1989年で流入河川水中の懸濁物(SS)が12〜82%、全窒素(T−N)、全リン(T−P)はそれぞれ16〜25%、38〜52%除去されている。
 Brix(1987)によると、根圏法による2次処理水の浄化実験では、除去率はBODが51〜95%、T−Nで10〜88%、T−Pは11〜99%であったが、窒素、リンの除去にヨシ自身の吸収による寄与率はわずかで、土壌による吸着やヨシの根から供給される酸素によって促進された微生物活性が大きい。
 Howard−Williums(1985)は、これまでに出されている多くの文献より、大型の水草による栄養塩吸収は、相対的に多くはなく、水草の機能は、
 1)浄化の重要な過程である脱窒が起こりやすいような酸化還元条件を作り出すこと
 2)水草のデトリタスが脱窒に必要な硝酸塩の供給となること
 3)水草によって水の流速が遅くなり、対流時間を長くすること
 4)景観面に貢献すること
 5)生育する生物が多くなること
 としている。これらのことは、湿地や水草帯を系全体の機能と捉える必要があることを意味している。
 沿岸域の水草帯に水質浄化機能があるという報告がある一方、沈水植物からのリンの放出があるという報告もあり、諏訪湖では水草からの栄養塩の回帰が湖の汚濁原因のひとつと考えられ水草帯を無くす湖岸化が行われた。これまでの研究の結果では、汚濁化が進んでいない水草帯では豊富な植物と付着微生物、動物群集が生息しており、物質のトラップ効果や微生物活性、高度な食物連鎖があることにより浄化能力が発揮されている。最近、抽水植物の茎や沈水植物の表面に付着する微生物以外にもその微生物を食べる巻き貝のような動物の働きなどが浄化に寄与していることが解ってきている。また、ヨシの根が発達している部分での脱窒も明らかにされつつある。しかし、湖岸域は水流が複雑で、開放的な場なので、物質循環全体に関する研究が少なく、その実体は十分には解明されていないのが現状である。








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