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D.ヨシ群落の水質浄化機能(鈴木55))
 ヨシ群落の働きとして、
 1)水の浄化
 2)生物生存の場
 3)漁業生産の場
 4)湖辺の浸食防止
 5)景観形成などの働きがある。
 ヨシ茎の表面積は普通、水深1mの所で湖底の面積の2〜3倍に達することから、バクテリア、珪藻類、アオミドロ、ツリガネムシ、ワムシなどの付着生物が棲み、それらは動物プランクトン、エビ、貝、魚などの餌になり、魚の生息場所にもなる。生物種が多いと生物の種類組成は安定する効果があり、ヨシの存在は、多くの種類の生物の生存を支え、安定した環境を作り出す上でも重要である。
 また、水質浄化機能として、ヨシ群落の密生した茎が、水の動きを緩やかにするため有機物が蓄積しやすくなる
 →ヨシ茎のバクテリアがこれを分解する
 →増殖したバクテリアをツリガネムシやワムシが摂食し、バクテリアの9/10を分解し1/10を同化する
 →次の食物連鎖の段階で9/10が分解される
という形で有機物が分解されていくメカニズムがある。また、有機物分解の際に消費された溶存酸素は付着藻類から供給され、有機物分解の際に放出される栄養塩類は沖合いの沈水植物や、ヨシ茎の付着藻類が吸収する。また、ヨシ群落内のヒメタニシがヨシ茎の付着藻類を摂食することにより、付着藻類の増殖率が維持される機能もある。
 ヨシ群落と共に多くの生物の生育場所と水質を浄化する能力を高めるためには、ある規模(奥行き50m)以上のヨシ群落が必要である。しかも、ヨシ帯の復元だけでは不十分で、沈水植物の復元がどうしても重要である。また、水資源開発のための大幅な水位低下はヨシ茎に付く付着藻類が乾燥死滅するので水質浄化能力を低下させる。
E.水質浄化装置としてのヨシ利用
 水質浄化装置としてのヨシ利用については、ヨシフィルター3)、有孔ポット10)、人工浮島11)13)27)39)、イカダ植栽12)、人工ヨシ原19)41)、植栽水路68)80)などの文献が見られた。藤井88)は、これらの水質浄化装置についてまとめ、ヨシなど湿地植物を利用した水質浄化装置は多くあり、その効果はBODやCODなどの有機物・窒素やリンなどの栄養塩類のほか、多数の汚濁物質に及ぶことを示した(表2.2.5)。
表2.2.5 湿地帯による排水処理実験例88)
方式 場所/
条件
面積
m2
水深
m
HRT
除去率 (%)
BOD COD SS TN TP
表面流れ 湿 地   1336 0.14-
0.24
  78-
82
       
フトイ 400 0.5   88   93   30
フトイ
 ・ガマ
372 0.3-
0.6
           
ヨシ・ガマ 1200     94     68 76
ヨシ植裁水路   828 0.25 4.8 9 8   20 28
48 0.20 5     48 25 32
    50 27 29
0.10 10     53 23 29
    63 42 38
晴天時 320 0.10     33 79 45 3
    24 81 47 -32
降雨時     37 87 40 20
    35 87 47 2
湿 地 ヨシ 1200     95 79   70 78
ヨシ・
フトイ
#### 0.40 8-
 29
96 87      
ヨシ・
ガマ
1224   1.5-
2.0
88-
97
65-
87
     
浸透流れ ヨシ
湿地
砂利 64.8   6 81   86    
レキ 1.50   1 96   79   67
水 槽   1.35 0.50            
黒ぼく土 0.76 0.80 16       89  
川砂 4       79  
黒ぼく土 16       82  
川砂 4       65  
ポット 0   14   92-
98
     
 
 また、ヨシ原における脱窒機能についても研究が進みつつあり77)81)84)、戸田ら77)は、脱窒の最大値は4月に見られ、底泥表層から15cm深までで200〜600ngN/cm3/hという値を得ている。
 また、木村ら84)は、15Nトレーサー法を用いて、ヨシフィルターの窒素除去に対する脱窒の寄与を評価することを目的とした室内実験(図2.2.10)を行った結果から、2月と3月では気温が低いため脱窒がほとんど認められないこと、気温が17.9℃以上となった4月〜11月の間は1〜5gN/m2/dayにて窒素が放出されていること、この間の脱窒速度を平均するとヨシフィルターにより除去された窒素のうち、60%(27〜84%)が脱窒によるものであることなどを報告した(図2.2.11)。また、脱窒速度が比較的低かった12月調査の後、装置を室温25℃に移し、36時間後に再び脱窒速度を測定したところ、0.69から2.95g−N/m2/dayに増加したことから、ヨシが枯死する冬季でもヨシフィルターの温度を高く保つことで脱窒能が維持できる可能性を示した。
 
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図2.2.10 ヨシフィルター装置84)
 
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図2.2.11 ヨシ植生装置における流入窒素負荷量、窒素除去速度、脱窒速度の変化と気温84)
[2]生物保全
 ヨシ帯の生物保全機能については一般に、鳥類に関するもの17)、魚類に関するもの65)及び植物や微生物に関するもの55)56)がある。ヨシ群落は、鳥類の営巣や塒、魚類の産卵や避難場所として利用されるなど、ビオトープとしての機能が期待されている。
 鳥類の例を挙げると、中村ら17)は、29のヨシ群落における観察結果から、ヨシ群落内で営巣するカイツブリとオオヨシキリなどの鳥類について、群落の規模がこれらの生息に関わっており、面積が増大すると繁殖種類数、ペア数ともに増加すること、自然ヨシも植栽ヨシも大きな差がないことなどを示した。また、蓮尾117)は、繁茂したヨシ群落は、その内部での移動が困難になるので水鳥にはあまり好まれず、むしろ開水面もありヨシもあり沈水植物もあるバラエティに富む系がよいと述べている。
 魚類の例として藤原ら65)は、近江八幡市牧町沿岸に自生するヨシ群落内でニゴロブナの仔魚を放流し、その分布と溶存酸素量DOの測定値から、
 ◇DOは群落奥部ほど低い傾向があったこと
 ◇DOが昼間に上昇し、夜間に低下する日変動が見られ、群落の奥部では、夜半から夜明け前に無酸素となること
 ◇低DOのヨシ群落奥部に多くのニゴロブナの分布が見られたこと
などの観察結果を示し、ニゴロブナがヨシ群落奥部で生息し得るのは、比較的低酸素に強く、仔魚期には魚体比重が環境水より若干小さいため水面に浮遊しやすい性質があり、大気中からの酸素供給を受けやすいなどの理由によると推察した。そして高DOを好むニゴロブナがあえて低DOのヨシ群落奥部に集積することにより、ヨシがこの魚種の生育場として重要な役割を果たしているとともに、本種が発育し成長するためには、ヨシ群落に一定以上の奥行きが必要との見解を示した(図2.2.12参照)。
 
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図2.2.12 近江八幡市牧町沿岸に自生するヨシ群落内に設置した緩地製通路内に放流したニゴロブナの分布.
放流はE点及びL点に実施.
供試魚は14日齢の仔魚.採集尾数は200×150mmのタモ網1すくいで採集された尾数.65)
[3]景観保全
 ヨシ帯による景観保全機能については、認識としては一般的55)56)であり、ヨシ保全条例7)にも記載がある。しかしながら、景観は定量化しにくい価値観であり具体的な研究例は見あたらなかった。
 景観保全に関する既述としては、桜井21)が、国内における土木工事により湖沼、河川の沿岸帯あるいは水際線の自然環境に著しい損傷を与えている例や自然回復の試みの例を挙げ、
1)工事に際して土木工学的な発想と計画が優先し、既存の植物群落や自然環境の積極的な保存と活用が考慮されていない
2)植栽する植物の種が限られており、様々な抽水植物、浮葉植物、沈水植物及び木本植物が取り入れられていない
など一般論として問題点を挙げている。
[4]護岸
 ヨシによる護岸機能に関しては、ヨシを植栽した人工浮島による消波効果とヨシの存在による湖浜安定化効果についての報告があった。
 人工浮島の例では、中村ら39)が、霞ヶ浦において人工浮島技術を応用した消波構造物(消波浮島)による湖岸植生帯の復元を試みている。その結果、消波率53%と設計された消波浮島は、消波率が観測で約40%、さらに反射・回折波の影響を取り除くと約50%となり、消波構造物として機能を満たすと報告している。
 また、ヨシ帯による湖浜安定化効果も報告されており、宇多ら49)は、琵琶湖において、ヨシ群落の漂砂下手側が浸食されてフック状の汀線が形成され、ヘッドランドと同様な効果を有していること、ヨシ群落背後で汀線が穏やかに突出して舌状砂州が形成されるとともに、前浜上の植生の繁茂が良好であることを報告している。








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