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[6]地下茎の分布
 桜井ら34)はヨシの地下部に関する測定を行った結果から、ヨシの根が60cm深まで分布していること、地下茎の大部分は多くの場合40cm以浅に分布していることを報告している。
 また、滋賀県116)の実施した琵琶湖赤野井湾の調査でも、ヨシ群落内の密な根域は地下15〜20cmにあり、非常に浅かったことが報告されている。
 一方、ヨシの根の伸長がシートなどによって影響を受けるといった報告もある(詳細後述)31)
[7]発芽条件
 ヨシ種子の発芽条件に関わる文献では、塩分や底質種類に関するものが見られた。
 細見18)、加藤ら42)は、低温処理をほどこした場合、種子を塩分濃度0%に浸した系は未処理と変わらないが、塩分濃度0.5%に希釈した自然海水に浸した系では発芽促進効果が見られたこと、種子の発芽率は温度が上がるにつれて高まり、26.5℃以上の温度で定常となること、塩分濃度1.0%、1.5%溶液では、淡水産種子より汽水産種子の発芽率が高いことを示した。
 また、立花52)は、発芽特性調査の結果、20、25、30℃の温度条件では、1日に10℃の変温を与えることによって発芽促進が見られたこと、0〜5000luxの電灯照明下では、明るい方が幾分高率で発芽することを示した。さらに、底質と発芽との関係では、砂または砂まじりの土壌では85%以上の生き残り(35日後)があったが、土または泥では35〜75%しか生き残りが見られなかったと報告した。
 これらの報告によるヨシの発芽に関する促進要因と阻害要因を整理すると次のようである。
<発芽促進要因>
◇温度: 26.5℃以下の範囲で高温になるほど促進。
◇温度変化: 温度の日変化が10℃の時に促進。
◇底質: 砂、または砂まじり土壌で良好。
<発芽阻害要因>
◇塩分: 淡水産種子では、1.0%以上で発芽阻害。
汽水産でも阻害要因となる。
◇底質: 土または泥質では生き残り率が低下。
 立花96)によれば、近年、琵琶湖では水位が安定しているためにヨシが種子によって世代交代せずに栄養繁殖だけで群落を維持しており、南湖の大きなヨシには遺伝的な異常花粉が多く、また、かなり老衰しているようである。立花95)は、自然状態でのヨシの種子からの群落形成は、出水後にできる砂質の日当たりのよい浅瀬にのみ可能とも述べている。
[8]生育場所(水深、水質、地盤、地質、他)
A.水深
 ヨシの生育する水深に関する既述は多く、一般には、ヨシの生育範囲として陸上から湖中の水深が1 mぐらいまでの範囲46)であるとか、B.S.L.−0.8m程度で生育可能49)などと言われている。立花96)は水深90cm以上の急に深くなったところにはヨシ帯はできないと述べており、また吉良54)は、ヨシは水の中でも耐性があるために、湿った陸地から地下水位1mくらいまでの陸側と水深1mくらいまでの水側の両方に拡がることができるとしている。
 このほか、細見3)は、河口域のヨシ湿地の成立には、満潮時にも水が浸からない場所や、満潮時でも潅水しているような場所であればヨシ以外の植物が優占するか、または植物が生育しない可能性が大きく、ヨシの生育にはこの中間の水位がよいと述べている。また、中村ら17)は、琵琶湖での調査結果より、ヨシが良好な状態で生育している場所は、水深が60〜80cm程度であると報告した。
 栗原ら40)は、汽水性の潟の奥部におけるヨシの生育条件を検討した結果、ヨシは満潮時にのみ底土表層部まで冠水する場所が最も植物体の重量が大きく、中潮時に底土表層部まで冠水する場所では重量の低下が認められたこと、干潮時でも底土表層部まで冠水する場所では生育が不能であったことを報告した。
 水位が植栽後のヨシに与える影響として、田中ら14)は、植栽2年目のヨシについて、根圏の発達で陸域からの酸素供給が行われるようになり、高水位時においても成長可能になる現象を報告するとともに、陸域における個体数密度は植栽1、2年目とも同程度であったが、沖側(B.S.L.−27,−15cm)では2年目に陸域を上回ったことを報告し、これより、ある程度の冠水は2年目のヨシ生育に好影響を与えることを推測した。
 さらに田中ら32)は、植栽株毎のヨシ茎個体数と年間平均水深との関係から、年間平均水深が32cmを越えると無発芽株の割合が増加し、全体的にヨシ生育状況が悪くなる傾向が読みとれたことなども報告している。
B.水質
 収集した文献の中には、ヨシ帯内外の水質に関する報告例が少数見られた。
 生嶋44)81)は、ヨシ帯内と沖合の水質を比較し、COD、T−N、T−P、SSの各項目はヨシ帯内が沖合いよりも高いこと、逆にpH、DO、BODはヨシ帯で低いことを示した(図2.2.2)。また、滋賀県衛生環境センター(1989)の引用により、ヨシ帯内ではアンモニア態と亜硝酸態窒素の量が桁違いに多いのに比べて有機態窒素の量は群落外と大きく変わらないこと、群落内では有機懸濁物質と全リン濃度の高いことを示した。さらに、水の流速はヨシ帯内で0.5〜1cm/sec、群落外で1〜4cm/secであり、ヨシ群帯内の水は数時間単位でヨシ群落外と交換されているとも推測している。
 
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図2.2.2 沖水域(P−10)とヨシ群落内(Y−2)の湖水について、
水質主要項目からみた特長44)(1989年測定)
 汽水域の事例では、栗原ら40)がヨシの生育と塩分濃度(11,14,21,26,33‰)との関係について検討した結果、塩分濃度11‰でヨシの各器官の重量が最も大きい値を示し、塩分の増加とともに阻害の程度が増大したことを示した。そして21‰ではかなりの阻害が認められ26‰以上では成長不能であったことを報告している。
C.地盤・波
 ヨシの生育場所の地盤変化には波の影響が大きく関わっているため、両者を並列して報告する文献があり、その場合、本書でも並列的に記述した。
 立花52)は、琵琶湖のヨシ帯はなだらかな湖岸に発達し、急深の西部、岩礁地帯の北部には少ないこと、湖東彦根の南部の砂地の遠浅の地域にヨシ帯がない原因は、この地域が北西の季節風を受ける吹送距離が長く、入射波エネルギーが大であるため、大きな打ち返し波の作用でヨシが定着できないことによると考察している。
 また、森田ら23)は琶湖湖(近江八幡市牧地先)での植栽実験の結果、波の影響を最も強く受けている地点(B.S.L.−98cm)では、水草などによりヨシの地上部が押しつぶされたと報告した。
 湖岸破壊とそれに伴う植生の変化に関する報告例もある。鈴木ら45)は、湖辺の傾斜が3度を超えるとヨシの株立ちが起こりやすいこと、風浪による底泥の巻き上げや浸食、岬や河口による地形なども関係し、ヨシ群落の生育の状態が変わることを述べた。
 また、西嶌66)は、琵琶湖での実測に基づいて検討を行い、琵琶湖岸の植生帯の有無は平均波高25cmを限界値として区分され、平均波高が低いほど植生の繁茂が盛んであること、平均波高が25cm以上の場合でも細粒の底質が集積しやすいところでは植生帯が見られるが、沿岸漂砂の卓越する湖岸では一般に湖岸は砂浜で形成されることを報告した。
 宇多67)は、霞ヶ浦の湖岸植生帯の分布を調査し、波高が40cmより低いところでは植生の繁茂が盛んであるが、勾配が1/30以上の急勾配になると波高40cm以下でも植生は繁茂しないことを報告した。
 小沼90)は霞ヶ浦におけるヨシ原の破壊過程として、ヨシ原の周縁部に砂礫が打ち上げられてバーム(盛り上がった部分)が発達することを契機にヨシ原の湖岸寄りに浅い池沼が生じ、その後、バームが湖岸寄りに前進し、湖岸寄りの浅い池沼は無くなるといった過程を報告した。
 一方、ヨシ帯による湖浜安定化効果も報告されている。宇田ら49)は、琵琶湖において、ヨシ群落の漂砂下手側が浸食されてフック状の汀線が形成され、ヘッドランドと同様な効果を有していること、ヨシ群落背後で汀線が穏やかに突出して舌状砂州が形成されるとともに、前浜上の植生の繁茂が良好であることを報告した。
 また、村岡89)は、淀川河口から12〜13kmの湾曲部の右岸側に位置する豊里地区の水草帯を含む高水敷を調査対象とし、調査地においては、ヨシ群落は次第に泥土を集積して比高を高める傾向があることを報告しており、同時に、ヨシ群落の存在が浸食に対して威力を発揮するためには、植生帯の幅が充分必要であること、植生帯の幅が充分になるためには、河岸の傾斜が緩やかであることが必要であると述べた。
 これらのことから、ヨシ及びヨシ帯には堆積物の蓄積により砂州を発達させたり比高を高める作用があるため、一定の湖浜安定化効果があるものの、その能力を超えるような波高の高い沿岸においてはヨシ帯が発達しないこと、また、ヨシ帯のある沿岸に何らかの変化があり、波高が高くなって浸食などにより地盤勾配が急になった場合には、ヨシ帯が衰退することなどが知見として整理される。
D.地質
 収集した文献では、ヨシ植栽や生育に好ましい底質の検討事例があり、ヨシの生育には砂質が有利であるとの報告が見られた。
 桜井ら35)は、様々な土質の土を入れたプラスチックコンテナに春先のヨシの苗をビットマンに従って植え、秋に掘り取って成長を比較した結果より、苗の活着率について表2.2.1の結果を得た。これによると、粒子の細かな畑土区と細砂区ではほとんど差が無くほぼ100%活着しているが、粗砂区はこれらに劣り、小礫、礫区では畑土、細砂区の1/3であった。桜井らはこの結果をもとに、ヨシを植栽する場合には、細砂以下の細かい粒子を多量に含む土壌が、50〜60cm以上の厚さに存在する立地を先ず造成する必要性が示唆されたことを述べた。
表2.2.1 ヨシの成長と土質の関係35)
  植付月日〜測定月日 植付本数 土質 畑土 細砂 粗砂 小礫
1987 5/3〜9/14 25 株数 25 25 22
15 8
活着率% 100 100 88 60 32
茎本数 148 91 73 51 36
1988 5/14〜9/26 28 株数 28 25 24 12 9
活着率% 100 89 85 42 32
茎本数 112 147 103 69 31
 
 また、森田ら25)は、近江八幡牧地先での植栽ヨシの追跡調査の結果から、底質が粘土質のフィールドでは岸寄りの部分から衰退傾向となるが、石垣護岸前の細砂(B.S.L.−30〜−50cm)では、最大草丈が3.4mに達する良好な生育を示し、天然のヨシに近い状態であったと報告している。
 さらに中村ら17)は、地盤高と泥厚の関係によってヨシ、マコモ、ウキヤガラ、オギなどの優占種が変化しているとする栗林ら51)の文献を引用した上で、ヨシ植栽地の造成はできるだけ表層50cmまでを砂質土とするのがよいとした。
 一方、現地調査の結果からは、ヨシが泥土に対して耐性を示すという事例もある。
 栗原ら40)は、汽水性の潟の奥部において採取した底泥及び干潟の底土(干潟砂)を基質とした場合のヨシの生育条件に係る検討結果から、シルト・粘土含有量の多い還元の進んだ基質に対し、ヨシが適応していると報告した。
 また、陣野ら38)は、諫早市の中心部を流れる本明川の高水敷において、生育地の土壌性質(深さ20cm)を調査した結果、ヨシの生育地の土性は重埴土〜軽埴土であり、ヨシは粘土が30〜70%の範囲で生育が可能で、土性に対して高い適応力を持つと述べた。さらに、ヨシの生育地の土壌は含水比と電気伝導度が高く、含水比約40〜60%、電気伝導度6.16〜96.5mS/cmの値であったことも報告している。
 桜井ら34)は、ヨシ等の自然立地の土壌条件について調査を行い、地下50〜60cm層のN,P含有量と地上部の現存量との間にかなり明らかな正の相関が見られた(図略)ことから、湖沼沿岸帯にヨシ等の抽水植物群落を成立させるには、少なくとも深さ60cmの安定した土壌の層が必要であると述べている。
 このほか、ヨシの生長を抑制する視点での検討もあり、天野ら31)は、ヨシ等が様々な素材
A: 厚さ0.2mmの鉛箔+アスコン  
B: 厚さ1.2mmの中密度ポリエチレンシート+アスコン  
C: 厚さ1.6mmのPP織布+アスコン  
D: ドイツ製止根シート(主材料ゴム)+アスコン  
E: 厚さ2.0mmのゴムシート  
F: 厚さ4.0mmのアスファルトシートに対し突き抜け能力を有しているか実験した。この結果、Fのみにヨシが突き抜けており、平滑面を持ったシート下に伸張した芽は、シート面に沿って地表を這っていたことを報告した。  
 桜井ら33)は、湖岸や河岸帯の裸地にヨシ等を植栽する際に、植物が充分に繁茂して地面を覆うまでの間、土壌を被覆して浸食を防止するための材料として、再生羊毛製フェルトマットを用いて霞ヶ浦の湖岸において植栽実験を行った。その過程において、フェルトの基布(PP)がヨシの地下茎の成長や新芽の成長を抑え、それらがマットの下で”とぐろ”を巻いている状態が観察されたことを報告した。
 以上をまとめると、ヨシの生育には一般に砂質が向いているが、一方でヨシには泥土や粘土質に対する比較的強い耐性があり、また、ヨシの芽や根は平滑面を持つシートによって比較的容易に成長阻害を受けることがあることがわかる。
[9]他植物との競合
 ヨシの生態に関し、他植物との競合について述べた文献は数報ある。それぞれの研究者が扱ったフィールド毎に要点をまとめると以下のようである。
 陣野ら38)は、諫早市の中心部を流れる本明川の高水敷の上中下流において、イネ科の植物(ヨシ、ツルヨシ、アイアシ、オギ、ススキ)が分布を異にしている要因について調査した結果から、生育地の土壌性質(深さ20cm)としては、
 ◇ヨシが重埴土〜軽埴土
 ◇アイアシが重埴土〜軽埴土〜微砂質埴土
 ◇オギが軽埴土〜埴質壌土
 ◇ススキとツルヨシが砂質壌土
 であることを報告した。また、
 ◇ヨシは粘土が30〜70%の範囲で生育が可能であること
 ◇ヨシ、アイアシの生育地は含水比と電気伝導度が高いこと
 ◇オギの生育地の電気伝導度はヨシ・アイアシとススキ・ツルヨシの中間であること
 ◇ヨシとアイアシは強い耐塩性を有するが、ススキとツルヨシは耐塩性を有しないこと
 などより、イネ化植物5種の分布には、土壌の含水率、電気伝導度が関与していると考察している。
 また、村岡89)は、淀川河口から12〜13kmの湾曲部の右岸側に位置する豊里地区の水草帯において植生状況、土壌状況などを調査した結果から次のような知見を整理した。
 ◇調査地においては、ヨシ群落は次第に泥土を集積して比高を高める傾向がある
 ◇これにより、通常水位からの比高が高くなった結果、オギの優先する群落が形成される
 ◇オギの群落も泥土を集積して次第に比高を高めるが、浸食に対する抵抗性が低いために、一旦浸食が始まると河岸の傾斜が浸食平衡に至るまで浸食が継続され、緩傾斜地が形成される
 ◇この傾斜地にヨシが進入し群落が形成される(図2.2.3)
 
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図2.2.3 調査地域の植生遷移系列89)
 佐々木61)らは、浮葉、挺水植物群落及び汀線付近の陸域湿地植生の調査より、琵琶湖の湖岸植生をパターン分けし、次の植生の分布類型を得た(図2.2.4)。
A: ドクゼリ・ミクリ群落型:湾入地形の小河川の河口部など泥土の堆積が厚い地域  
B: ヒシ・マコモ群落型:ヨシ帯の中心部で湾入地形部、泥土の堆積がやや厚い  
C: ヨシ・ヤナギ群落型:ヨシ帯の中心部、砂地から泥土  
D: ギョウギシバ・クロマツ型:砂浜を主体とした開放景観の地域  
E: ツルヨシ・ハンノキ群落型:山地が湖岸までに迫り出している岩礫湖岸域  
F: 人工湖岸型:人工的に改編された湖岸で植生がほとんど無い地域  
 
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図2.2.4 各群落型の代表的な帯状分布構造61)
 また、各植物群落の発達場所での水深、泥土堆積量の計測結果から、次の点を報告した。
 ◇ツルヨシ群落は20cm前後の水深に多く最大でも80cmであったのに対し、ヨシ群落は水深150cmにまで至っていた
 ◇ヨシは砂地にも発達するが、ほとんどの場合、多少の泥土の堆積がある
 ◇ウキヤガラーマコモ群落では水深70cm以下の浅い場所を占め、泥土の堆積がある
 ◇ドクゼリーミクリ群落では、最低でも40cm以上の泥土堆積がある
 栗林ら51)は、琵琶湖及び周辺のヨシ帯主要構成種がどのような環境条件を持つ場所に生育し、相互にどのような「すみわけ」関係にあるのかといった問題を検討するために、陸上から水中に至る植生の連続構造が比較的健全に残されている箇所を選び、ベルト・トランセクト法による調査(11測線、506スタンド:1982〜1985年)を行った。この結果と既存調査(北湖10測線450スタンド:1981年7月調査;栗林・松井1983、南湖東岸10測線273スタンド:1982年9月;栗林)を含めて解析を行った結果、次の分布特性が見られたとした。
 ◇全領域に高い頻度で出現するが、泥厚が厚い部分では優占頻度が低下するもの:ヨシ
 ◇レベル(標高)が低く、泥厚が厚い部分を中心に分布するもの:マコモ、ドクゼリ、ヒメガマ
 ◇レベルがやや高く(中間的で)、泥厚が厚い部分を中心に分布するもの:ウキヤガラ
 ◇レベルがやや高く(中間的で)、泥厚が中間的な部分を中心に広く分布するもの:カサスゲ、クサヨシ、シロネ
 ◇レベルが高く、泥厚が薄い部分を中心に分布するもの:オギ、セイタカアワダチソウ
 このことはすなわち、ヨシがきわめて広い環境に生育可能であるのに対し、マコモ、ウキヤガラ、オギの3種は生育可能な環境が狭い範囲に限られるものの、その分布の中心域ではヨシに対する相対的な競争力が強く、ヨシを押さえて優占種となる場合が多いことを示している。逆に言えば、ヨシは生育可能域は広いものの、レベルが低く泥厚の厚い部分ではマコモとの、レベルがやや高く泥厚の厚い部分ではウキヤガラとの、レベルが高く泥厚の薄い部分ではオギとの競争に負ける場合があり、結果的に優占域を狭められていると結論づけられる。各植物の分布下限レベルを見ると、ウキヤガラ、カサスゲ、クサヨシ、シロネの4種は−30〜−20cm、オギ、セイタカアワダチソウは、±0cm前後である。また、泥厚は様々な環境要因(粒度組成、栄養条件、波浪、溶存酸素、保水力)を複合化した指標ととらえることができる(表2.2.2)。また、この結果は琵琶湖の沿岸植生の基本形として複数の文献46)88)で引用されている(図2.2.5)。
表2.2.2 泥厚と他の環境要因の関係51)
   泥厚     薄⇔厚
◆◇粒径組成  粗⇔細
◆◇栄養条件  貧⇔富
◇波浪       強⇔弱    
◇溶存酸素    多⇔少
◆ 保水力     小⇔大
◆: 陸上  ◇: 水中
 
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図2.2.5 湖岸ヨシ帯の主要優先群落の立地の模式.立地の高低と泥の堆積厚の2要因で示す.
栗林ら(1988)のデータから描く46)
 上記以外の検討例として、内田ら28)は、耕作が放棄された谷戸(丘陵地や洪積台地に向かって幾つもの谷が入り込んでいる地形)の水田の植生(ヨシが優占的)に対して、刈取を行った場合の植生変化を調査し、7月に刈取りを行った場合(ヨシ以外の植物の)出現種数が増加することから、刈取りが他の植物の生育環境を改善する効果が考えられると報告した。
 また、田中ら43)は、琵琶湖南湖沿岸にあるヨシ植栽地において、ヨシ植栽後の植物群落構造について検討し、確認種は159種であり、ヨシ以外にも多様な植物が生育していること、植栽後の経過年数別の植物種数は、1年目が37種、2年目が74種、3年目が92種、4年目は102種であったこと、ヨシ植栽後の経過年数が長くなるにつれて、指標植物の出現率は低下することを報告した。
 以上の文献を総括すると、ヨシと他の植物の競合関係に関わる環境要因は、主として底質の状態であり、概してヨシが比較的広い環境に適合するのに対して、競合する植物はある程度限定された環境下でのみ生育可能であることが示唆される。また、刈取りや植栽など人工的に植生の状態に変化を与えた場合、ヨシが無くなったことにより他の植物が繁茂することや、ヨシのみを植栽しても時間とともに他の植物が植生に入り込んでくる現象のあることがうかがえる。
[10]その他(現存量)
 ヨシの現存量(乾重)についての実測調査の例は幾つかあるが、ここでは吉良107)が既存の知見を整理したものを引用し、下記に挙げておく。
 ◇琵琶湖のヨシ地上部現存量の報告値
 ・陸ヨシ最大4500g/m2(生嶋1966)
 ・夏季(最大)現存量(立花1983)
 湖岸13地点の平均値731.4±170.0g/m2
 生育良好な陸ヨシ1800〜2500g/m2 水ヨシ1000〜1800g/m2
 うち70%が茎、20%が葉、10%が葉鞘
 ◇琵琶湖の地上部・地下部現存量の報告値
 ・木ノ浜の水ヨシ(小山1985)
 7月末地上部現存量1192g/m2 地下部現存量3456g/m2
 12月の地下部現存量5333g/m2
 ◇猪名川河川敷陸ヨシ群落報告値(三原1981)
   夏の地上部最大現存量1340g/m2
     地下部現存量2790g/m2








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