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童話部門選評
十川信介委員
 「たこのおくさん」は子供を守って死んでいくタコの母親の物語で、軽快なテンポが内容の重苦しさをカヴァーしている。ただ、ヒトデが悪者だとしても、「おくさん」に同情するアマダイが、小エビを土産に持って帰ることはどうなるのだろうか。
 「しらすのまさご」は現代の「公害」問題を子供の目から見た作品で、手堅くまとまっているが、公式どおりの感じもある。「海の音色」はセピア色の情調で仕上げられたネオ・クラシックの作品。美しいがやや新鮮さには乏しい。
 全体として今年の応募作は、キラリとしたイメージを持つものは構成がまずく、構成がよいものは内容が類型的という傾向が目立った。
木暮正夫委員
 選考の際の大きなポイントに、「読後感の良し悪し」がある。これが決め手といってもよい。童話は"向日性"の文学。「読んでよかった」「子どもたちに読ませたい」と思わせる心楽しさがないと、候補どまりに終わってしまう。今回はなぜか、ネガティヴな読後感の作品が多かった。
 それだけに、書きっぷりの元気な「たこのおくさん」のコミカルなタッチとエンディングの明るさが際立ち、「しらすのまさご」は主人公の少年の前向きな姿勢に親しみと共感が持て、「海の音色」はほのぼのとした味わいの良さが評価された。三作共に一長一短があって、この中の一作だけを大賞に推すことはできなかった。残念だが、賞の権威のためにも悔いのない結果である。
遠藤寛子委員
 「たこのおくさん」軽快でリズミカルな語りの中で海中の生物たちのきびしい生と死、新しい命の誕生を描いて、ひかれるものがありましたが、やや荒けずりです。「しらすのまさご」いま注目のそれと覚しき潮受け堤防による海の被害を、漁師の父をもつ少年の目で描きます。会話の方言が力強く、未来への希望で明るく終りますが、まだ結論の出ていない問題を、一方の側からだけ幼い読者に語る事には、疑問も残ります。表題、ひらがな表現のむずかしさが出ました。「海の音色」美しくまとまっているけれど、既に多く描かれた世界、他にも同傾向の作品が幾つかありました。というわけで一長一短今回は大賞なしとなりました。残念です。
さくらともこ委員
 本年も、多数の応募がありましたが、大賞に該当する作品が見当らなかったのは、ほんとうに残念でした。しかし、最終選考に残った作品は、もう少し練りあげてまとめれば、おもしろい童話になったものばかり。
 佳作となった三作品のうち「しらすのまさご」は、社会性のある内容で迫力のあふれる力作。ただし、小学校低学年の子どもたちにこのテーマを伝えるには、文章にもうひと工夫あっても良いのではないでしょうか。「たこのおくさん」は、コミカルな語り口が魅力的な作品で、着想のおもしろさが光っていたが、こまかい詰めが、あと一歩。「海の音色」は心あたたまる秀作だったが、ともすると類型的なパターンなのが惜しまれます。








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