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小説・ノンフィクション部門選評
北方謙三委員
 ほのぼのと海を感じさせる作品が並んだ。
 受賞作は、セールトレーニング体験記としてよくまとまっていた。今後、こういう種類のものに参加しようという人にとっても、いい資料となり得るものだ。
 ほかには、「北緯三十度線」、「子捨て村」、「オールマン」が印象に残った。それぞれに違う海に主人公たちが生きていたと思う。小説として不満な点がないわけではないが、プロを育てる賞ではない、と認識している選者にとっては、それぞれの心の内なる海を見せて貰えば、それでいい。
 ほかには、「天保山異聞」が惜しかったが、長編の素材だと感じさせた。次回の応募を期待したいと思う。
谷 恒生委員
 今回の海洋文学大賞の受賞作は、それほどの異論もなく決定した。受賞作は稔航一郎氏の「帆船の森にたどりつくまで」である。
 五十枚というかぎられた枚数のなかで、作者は海との出会い、帆船との出会いを熱い思いで語っている。ただ、枚数が短いせいで、作品がレポートのようになってしまい、帆船や海、ヨットレースなどのディテールの積み重ねに乏しく、臨場感に欠けるという印象は否めない。百五十枚から二百枚の作品であったなら、と、残念でならない。
 佳作三作の中では「北緯三十度線」が印象にのこった。ある種感動的な後味のよい作品である。「オールマン」、「子捨て村」はいずれもそれなりに面白く読めた。
十川信介委員
 大賞の「帆船の森にたどりつくまで」は、現在の生活に安住していた青年のセイル・トレーニング体験記。それを通じて海や人との出会いに目覚めていく過程がさわやかに記されている。題名の「森」は、彼が迷いこんだ、あるいは自覚した人生の深い森を含意しているようだ。航海の一部をどこか犠牲にして、代わりに印象的な事件や人間関係を強調すればもっとよかったと思う。
 学校の建材を求めて米軍占領下の「国境」を突破する「北緯三十度線」と、殺人を転機として別人生を送った「オールマン」はともにおもしろい題材だったが、不用意な欠点があった。「子捨て村」はそつなく整った作品だが、もう少し海との関わりが欲しい。








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