日本財団 図書館


 
8月11日(土)
本日のスケジュール・内容
1) マニラヘ移動
2) 湯浅先生宅訪問
3) UP学生との交流会
 
 
z1053_01.jpg
 
湯浅先生のご自宅にて
 
 
1) マニラヘ移動
 本研修においては、バスでの移動に相当な時間を割かれていたように思われる。移動中、私達の半分は削られた睡眠時間を取り戻そうとバスの揺れに耐えながら眠りこけ、残りの半分は仲良くなった仲間達と談笑していた。しかし、もう帰路につく前日である。タイムリミットが頭にちらついてはいたが、最終日の総括ミーティングの準備もままならないままマニラに到着してしまった。
 
2) 湯浅先生宅訪問
 JICAの湯浅先生のご好意でお招き下さり、ご自宅を訪問した。おいしい料理をご馳走になりながら、湯浅先生と、同じく医師でSALTで無料検診のボランティアもされているご夫人、フィリピン日本国大使館の三宅邦明先生、また同じく招待された筑波大学熱帯医学研究会の学生等とお話をすることができたということは、「国際保健」に憧れる私達一人一人にとって素晴らしい経験となった。
 
3) UP学生との交流会
 話はつきず、湯浅先生のご自宅での歓談は夜遅くまで続いた。その後、ホテルに着くと、テスト期間中にも関わらずUP学生が我々の帰りを待っていてくれた。フィリピン滞在最後の夜は、みんなで楽しく過ごした。
(担当:高岡志帆)
 
8月11日 今日の一言 〜川柳〜
飯 田: 気がつけば 男だらけで しかもゲイ  
五十嵐: マニラにて 熱とセキあり デングかな  
植 木: 親切や フィリピン大の 学生は  
 岸 : うまいもの 食べて踊って 最終日  
後 藤: 汗だくで 湧き出る思い 止められず  
佐々木: ちょっとだけ(?) おくれておどる MY Dance〈NlGHT LlFE lN MANILA〉  
佐 藤: ネエネエの 声響きたり 夏の夜  
清 水: マニラの夜 500ペソ払い おつりなし  
高 岡: sleepin’time バス中惜しんで talkin’time  
田 村: 離れても ずっと一緒さ 友達だもの  
豊 川: 若さかな 広げ広がれ 大風呂敷  
橋 口: ありがとう 何度も唱え さようなら  
橋 本: 友達の やさしさあふれ がんばれる  
山 田: クラブでね クレアに言われた マグネットゲイ  
 
8月12日(日)
本日のスケジュール・内容
1) 総括ミーティング
2) 帰国
 
1) 総括ミーティング
 a) 日本とフィリピンを通じて、国際保健を考える
 b) “Think Globally, Act Locally”
 c) 医療の本質について
 d) 医学教育
 e) バルア先生のメッセージ
 
 フィリピンにおける、国内を含む11日間にわたる研修に対する総括ミーティングが行われた。総括ミーティングにあたり、前日から3グループに別れ、もっとも総括とすべきテーマは何かということを議論した。議論は多岐にわたったが、「日本とフィリピンを通じて、国際保健を考える」、「Think Globally, Act Locally」、「医療の本質とはなにか」に焦点を当て、最終的には、「医学教育」にまで言及することで一致した。
 当日は、はじめに、豊川チームリーダーが中心となり、参加者各人が上述のテーマを考慮しながら研修全般の感想・反省を率直に語り、そこから議論を深めた。
 
a) 日本とフィリピンを通じて、国際保健を考える
 中部ルソンにおける母子保健プロジェクトを実際に見学し、国際保健協力の中の草の根の活動を具体的に知り得たことは大きな意味がある。そこでは、単に物資を投与したり、援助するのではなく、地域の人たちを動かして、共同で確実にプロジェクトを展開し、その事業が終了しても形が残るような援助のあり方ができており、まさにこれが国際協力であることを実感した。バルア先生に教えていただいた中国の詩の一節には、「本当にすぐれた指導者が仕事をしたときは、その仕事が完成したとき、人々はこう言うでしょう。我々がこれをやったのだ、と。」と歌われている。湯浅先生や柴田さんの活動は、この詩の精神に通じるところがあるのではないか。
 一方で、我々は、パヤタス・スモーキーバレーでは、ゴミの山積する土地で貧困に喘ぐ人々の生活の一端を目の当たりにした。参加者の誰もが、パヤタスにはじめて足を踏み入れた瞬間の衝撃を忘れることはないだろう。昨年、脆弱なゴミの層が崩れ、多くの住民が亡くなられたという現実を考えると、国際保健協力の複雑さが浮き彫りになってくる。
 確かに、母子保健プロジェクトは、国際保健協力における成功例ではあるが、援助の中には、多くの困難を抱えた活動も決して少なくないという状況を、我々は冷静に認識し、二重、三重の目で見ていかなければならない。
 また、開発途上国の実情を考えると、医療だけでは問題の根本は解決できない。どこに問題が存在するのかを、様々な角度から、社会、政治、経済、文化、宗教などの視点から考察し、疾患そのものも、同様に捉える必要があるのではないか。我々は、医療を足場にして、必要があるなら、社会の枠組みまでも変えることを視野に国際保健を捉えることで、一定の結論に達した。
 
b) “Think Globally, Act Locally”
 WHO/WPRO事務局長の尾身先生をはじめ、多くの先生の講義から、WHOは健康推進のプログラムを策定し、提言する機関であることを、具体的な形で学ぶことができた。WHOの対象は、あくまでも個人ではなく集団である。
 このフィールドワークに参加する以前には、公衆衛生とは集団を対象とし、個人の顔が見えにくいという認識を抱いていた。しかし、このプログラムに参加して、一見無味乾燥的な公衆衛生の統計の裏側には、地域に住む一人一人の生活が存在していることを知った。その視点からみると、“think globally”とは、“think individually”を包含しているものであり、さらに、“think individually”のために、我々の創造性を鍛えることが求められるのではないかということも、議論された。創造性を高めるために、我々は、フィールドに出て、直接体験し、リアルな世界を実感し、議論しあうことが、いかに有効であるかを、この研修で学び取ることができた。
 それでは、なぜ、“act locally”でなければならないのか。“Locally”とは、一人一人が地域に根ざして生きているということであり、その場からあらゆる行動が開始されるのであり、それ以上でもそれ以下でもないのである。バルア先生が、11日間を通して、我々が抱く夢の実現のために、「まず、できることからはじめなさい。」 と幾度となく繰り返されたが、その言葉には、“act locally”という意味があることに気がつくであろう。
 
c) 医療の本質について
 ある意味で、このフィールドワークは、日本を離れ、かつての第2次世界大戦の激戦の地で、医療の原点、本質とは何かを模索し続けた日々であるとも言える。このテーマに対しては、参加者の誰もが、数年後の医療従事者として、現場に立つことを意識した上で、率直な思いを語り合った。その中から、いくつかを取り上げてみる。
 バルア先生から、レイテ島の陸戦の歴史を聞き、胸を突き上げるものがあった。それは、祖父が、フィリピンに出征し、片腕をなくし生活していたからである。自分が子供のころ、祖父に接する中で、戦争というものが、どちらが悪いというのではなくて、戦争で傷を受けた人間も、負わせた人間も互いに傷つけあったのだと思った。当然、日本人も傷ついているが、フィリピンの人々にも傷が残っている。祖父の血を受けついだ者として、ある種の責任感を持って、後に残され、傷ついた人を、互いに癒しあえるような医療に、これから関わることを望んでいる。(この話題に関連し、高齢の祖父が、歩兵として出征した体験を有している学生から、日本に戻り、歴史の事実をしっかりと認識し、戦争の悲惨さを風化させないことが、我々の責任であるという発言があったことを付け加える。)
 骨髄バンクの推進者である大貫貴子さんが、「医者である前に人間であり、患者である前に、人間である。」ことを強調された。フィリピンの人々も、フィリピン人である前に、人間である。
 我々は医療に従事し、将来、国際保健に関わることになっても、自らの人生の中で、人間としてどう生きていくのかを基礎として、次の段階がどうあるべきかを、常に考えることが大切なのではないか。
 この研修に参加する前と後では国際協力に対する意識が変わった。先進国と言われる日本であっても、経済の低迷、失業者の増加、凶悪犯罪の発生など、必ずしも社会は幸福な状況ではない。敢えて、開発途上国に対して多額の援助する必要があるのか、疑問を感じていた。しかし、国内研修で世界の実情について学び、フィリピンを訪れ多くの人に出会い、中でも、パヤタスで乳癌を患いながらも十分な医療の恩恵を受けることができず、後に残るであろう子供の教育のことを憂慮する母親と話し、医療とは何かを考えさせられた。苦しみを持つものは、誰でも、人種、文化、宗教を越えて、助けをもとめるであろう。医療の原点とは、病める人がいるなら、救いの手を差しのべることに他ならないのだということを確信するに至った。聖路加国際病院の日野原重明先生の説く、「よきサマリア人」としての国際医療サービスという意味を思い起こし、医療の本質を考えると、なぜ国際協力が必要なのか、その真の意味を掴むことができた。
 尾身先生の講演は、「WPRO focuses and policies」にとどまらず、医療系の大学で学ぶ学生の苦悩に光を投げかけたものであり、予定時間をはるかに延長した熱弁は、深く我々の心に刻み込まれている。「病めるひとのために、医学という道具を使って奉仕するという意識を持たないと、医療者は路頭に迷うことになる。癒すという使命を果たすことによってしか、医療者の満足は得られない。」という言葉が印象的であった。尾身先生の慈愛に満ちたメッセージは、人生の選択肢の幅を広げ、これからの人生の指針を与えてくれた。
 フィリピンでは、地域の中核病院であっても、日本のように近代的なハイテク医療が行われているわけではないが、人間同士のふれあいが基本として存在している。医療は、単に検査や処置をするものではなく、そもそもハイテクではなく、ハイタッチであったはずだ。日本の医療は、産業化という時代の潮流に乗せられて、技術に重点が置かれすぎているのではないか。「病気を診ずして病人を診よ。」という有名な言葉にもあるように、病める人に触れ、訴えに耳を傾けることが基本であろう。学生の一人は日本に戻り、地域の診療所での実習を希望している。
 以上のように、我々は医療というものを、各々、異なった方向から考えてみた。最後に強調したいことは、病による苦痛というものは、病気や身体が病んでいるのではなく、病んでいるのは、それを持つ人間であって、その人の感じ方、態度、習慣がわからなければ、苦痛は取り除くことはできないということである。それゆえ、医療とは、「癒し」と捉えられ、暖かさであり、ときには慰めであり、祈りなのかもしれない。
 
d) 医学教育
 総活ミーティングの予定された時間内で、医学教育のあり方まで議論を展開するというのは無理があった。それは、どのテーマも、抽象的なものであり、難解であったからである。一方で、どの発言をとっても、すべてのテーマにリンクしており、必然の課題であるとも思われる。我々は、このミーティングを継続し、ホテルから空港に向かうバスのなかで、そして、日航機が離陸する直前まで医学教育に何がもとめられるのか、意見を出し合った。紙面上では、すべてを網羅することはできないが、キーワードをいくつか上げてみたい。
*自らを主張できる能力の獲得(語学力、特に会話力の修得と並んで、わかりやすい言葉で自らの意志を伝える訓練をする。)
*社会学、人類学といった医学以外の学問の必要性、すなわち、教養の深さ
*出会いの大切さ、チームワークの構築
*責任ある行動の取り方
*Personality and Manner
*探求心と積極性への評価
 
 これらは、我々がそれぞれの大学に戻ってからも、絆をより深めるなかで、互いに刺激し合いながら、考え続けなければならないテーマである。
 この場での結論として、我々は、このフィールドワークのなかで学んだこと、考えたこと、感じたことを、正確に周囲の人々に伝えることから始めようと、相互に確認をした。
 
e) バルア先生のメッセージ
 総活ミーティングの最後に、この研修を振り返って、バルア先生から、我々の人生の道しるべともいうべきメッセージをいただいた。
 一つは、「現場に出なさい。」ということ。人間は、なにかにぶつからないと、本当のことはわからない。現場を歩き、テキストには書かれていないことを発見し、そこでinspirationが起こり、「自分が、これから、なにをしたいのか。」を確認できるのである。だからこそ、「現場にあたって、自分の生き方を苦労しながら見つけなさい。」
 もう一つは、「金持ちよりも、心持ちになりなさい。」ということ。バングラデシュご出身のバルア先生は、「日本人の生活の豊かさと心の貧しさ」を指摘された。現代日本社会は、物質主義の固まりと言ってよいほど、消費財貨を買い整えているけれども、心は富んでいるのだろうか。我々がこの夏に出会ったフィリピンの子供たちは、栄養は不足しているかもしれないが、その瞳は澄んで輝いている。まさしく、心の豊かさ、美しさを反映しているのだろう。そのような豊かさは、いくらでも分かち合うことができることを知ってほしいと教えて下さった。
 終わりに、バルア先生は、「自分が医者になる前に、患者になりなさい。」という言葉の意味を、我々一人一人に問いかけた。「人間として、人間の世話をする。」、「白衣を脱いだ、人間としての立場で、医療の現場に出る。」という、医療の原点を忘れてはならないと訴えられた。
 
2) 帰国
 JAL742便は順調にマニラ国際空港を飛び立った。知力、体力とも振り絞り、密度の濃い日々を過ごした我々は、心地良い疲れとともに、大きな満足感に包まれながら、様々な思いを巡らし帰国の途に着いた。
 
 最後に、今回の研修にあたって、貴重な時間を割いて、ご案内、ご説明して下さった先生方、各団体の皆様、そして、このよう貴重な機会を与えていただきました笹川記念保健協力財団に対しまして、心よりの感謝を申し上げまして報告の結びとさせていただきます。
(担当:サブリーダー佐々木将博)
 
 
z1058_01.jpg
 
無事帰国した私達
 
 
8月12日 今日の一言 〜総括ミーティング〜
飯 田: みんなとの出会い、そして共に過ごしたこの日々を財産に、ときにはお互い手を取り合って、羽ばたいていきましょう!
五十嵐: フェローシップの感想をお互い共有して、自分とは異なる視点が学べたと同時に、この経験をどのように生かすかを考えさせられた。
植 木: 睡眠不足でも誰も居眠りしていなかった。もっと長くバブさんの話を聞いていたかった。
 岸 : 日本全国にまた散っていく私達は、戻ったらどんな花を咲かせることができるのだろう。すごく楽しみです。
後 藤: 次のミーティングはML上でね!
佐々木: 私のすきな言葉「終わりよければ、すべてよし。」フィールドワークでのキーワード「出会い、人、共感」これからの私の人生の中で、かけがえのない人々に巡り合え、これに勝る喜びはありません。
佐 藤: みんな、時間厳守ね!そして、ありがとう!
清 水: もっとディスカッションしたかった。これからもいろいろな人と交流して経験を共有して自分の視野を広げ、自分なりの哲学を持てるよう頑張りたい。
高 岡: responsibility...
田 村: この研修で得た一番のものは、かけがえのない友だと思う。みんなありがとう!そして、これからもよろしく!
豊 川: リーダーの重責からの解放感と寂しさが胸を満たす。そして、新しいスタートヘの緊張感を感じる。
橋 口: 今日話し合ったことを10年後に読んだ時私達は何を思うのだろう。
橋 本: ホップ、ステップ、ジャンプ!!教育を受ける心構えとは。
山 田: 毎日勉強になることばかりで未消化のものが多く残った。何が未消化なのか今日はっきりした。また勉強になった。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION