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8月7日(火)
本日のスケジュール・内容
1) JICAフィリピン事務所訪問
2) UP(University of Philippines Manila)医学部訪問
 
1) JICAフィリピン事務所訪問
 a) JICAフィリピン事務所の説明
 b) フィリピン家族計画プロジェクトの説明
 
 a) JICAフィリピン事務所の説明
 JICAの活動について升本潔次長により説明があった。JICAは1974年に設立されて以来、日本のODAの実施機関として、開発途上国の人材や社会経済的発展を援助してきた。
 JICAフィリピン事務所は、主に技術協力を通じて長期にわたり、フィリピン政府と共にフィリピンの開発・発展に寄与してきた。具体的には、以下のような活動を行っている。
*研修受け入れ事業:本邦研修、第三国集団研修、現地国内研修、国別特設
*青年招へい事業
*専門家派遣:長期専門家、短期専門家、個別専門家チーム派遣、研究協力、第三国専門家、カンボディア難民再定住・農村開発プロジェクト(三角協力)、国民参加型専門家
*プロジェクト方式技術協力:産業構造強化、経済インフラ整備、農業・農村開発、基礎的生活条件の改善、環境・防災、行政能力の向上
*開発調査:経済インフラ整備、農業・農村開発、基礎的生活条件の改善、環境・防災、その他
*在外ミニ開発調査
*無償資金協力:(基本設計調査として)経済インフラ整備、農業・農村開発、基礎的生活条件の改善、防災(実施促進として)農業・農村開発、基礎的生活条件の改善、防災、初等・中等教育
*災害援助
*開発投融資事業
*開発パートナー事業
*青年海外協力隊事業
 
 JICAは2000年1月に組織を再編したが、それは第一に、近年の開発途上国や国際社会のニーズの急速な変化に対して、適切に対処出来るようにするためである。また第二に、援助をその国の情勢にあったものにより特化させて、一層効果的・効率的な技術提供をするためである。このように、JICAの海外オフィスは、フィリピン事所を含め、その国ごとに固有の援助形態を取るようになってきている。
 
 b) フィリピン家族計画プロジェクトの説明
 JICAのプロジェクトの一つである「プロジェクト方式技術協力」の中の「家族計画・母子保健」について、プロジェクトリーダーの湯浅資之先生より講義があった。国際保健というものの定義から始まり、歴史という大きな流れの中の活動について、ダイナミックな内容だった。
 国際保健とは、「発展途上国に存在する保健医療の諸問題を解決するための公衆衛生の研究および活動」のことである。このような学問が求められた背景には、第一に、世界人口の7割は貧困であるために現代医療の恩恵を受けられないでおり、そのような健康水準の格差を改善するための研究および活動が求められるようになったということがある。また、第二には、人類活動のグローバル化により、開発途上国の問題は先進国を含めた全世界に大きな影響を与え得ることから、開発途上国の健康関連問題の解決には先進国も関心を払う必要が出てきたということがある。
 第一の、開発途上国に住む人々の健康水準の格差を是正するという具体的な健康課題については、クレチン病による知的障害・発達障害に対する食塩ヨウ素添加計画や、ビタミンA欠乏による失明・衰弱死に対するビタミンA投与計画、コレラなどの急性下痢症に対する経口補水療法(ORS)、また、結核の薬剤耐性獲得に対する直接監視下短期化学療法(DOTS)などがある。このように、開発途上国の健康問題を解決するためには、(1)お金がかからないこと、(2)簡単にできること、(3)素人にもできること、という三つの条件が必要であり、これこそPrimary Health Care(PHC)の考えそのものである。PHCとは、(1)適正技術であること、(2)科学的であること、(3)社会経済学的合理性があること、(4)持続可能なこと、(5)自主性があること、という5つの原則を満たす公衆衛生活動のことであり、開発途上国に住む人々の健康問題を考える上で必要不可欠な基本理念である。
 
 
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JlCAフィリピン事務所にて、湯浅先生の講義の様子
 
 
 第二の、世界規模の影響力を持つ開発途上国の健康問題の解決について、人口問題を具体例に考えてみる。世界人口は現在61億人であるが、国連経済社会局による世界の人口予測によると2050年には93億人に達するとされている。人口増加の主な原因は開発途上国の人口増加で、2050年には世界人口の90%が途上国に住むという計算になる。では、人口はなぜ増加するのだろうか。人口転換理論によると、欧米先進国では社会の発達段階に従って、多産多死から徐々に少産少死へと移行したため人口増加は生じなかったが、開発途上国の多くでは、社会の内的発展を経ずして、多産多死から一気に多産少死の段階へ移行したため急激な増加を招いたという。つまり、現在の世界人口の増加は人工的所産なのである。人口が急激に増加すると貧困や環境破壊をもたらすため、人口増加はそれ自体悪でなくても、人口問題への対策が必要になってきたのである。人口増加を食い止めるために、まずマルサス・新マルサス主義の立場から人口抑制政策・産児制限がなされたが、十分な効果は得られなかった。しかし、丁度その頃、時期を同じくして女性の健康と人権擁護の気運が高まっており、この理念が人口政策にコペルニクス的転換をもたらした。つまり、それまでの半ば強引な家族計画によるマクロ的人口抑制政策から、個人の意志・ニーズを尊重したリプロダクティブヘルス/ライツヘと政策を転換させたのである。そのことは1994年のカイロ国際人口開発会議において明文化された。リプロダクティブヘルス/ライツが、女性の健康と人権を擁護し、結果的に出生率を減らし、人口増加が緩和されるということは、その後のケララ州などの考察などから正しいことが示されている。現在、人口問題の解決は、従来のような人口抑制対策によらないで、個人とカップルの性と生殖に関する権利を尊重することを基本にして、公衆衛生(国際保健)と基礎教育の充実、貧困の軽減、女性の社会的地位の向上を推進することにより達成されると国際的に合意されている。
 このような世界的な流れを受け、1997年からフィリピン家族計画・母子保健プロジェクトがスタートした。フィリピンの乳幼児死亡率は35%、妊産婦死亡率は10万人当たり280人と、保健衛生指標はASEANの中でも中、下位に位置しており、また、人口増加率は2.0%と人間開発中位国の平均値(1.6%)を大きく上回っている。このような中、フィリピン政府は1994年に新たな人口政策を発表した。それは、伝統的な家族についての価値観を尊重する一方、リプロダクティブヘルス/ライツの考えに立脚して、個人に配慮した人口家族計画を実施する方針であった。JICAはそれ以前の1992年より、ルソン島中部のターラック州において家族計画・母子保健活動を改善することを目的にプロジェクト方式技術協力を実施してきたが、フィリピン政府は、本プロジェクトの成果をより広い地域に波及させるために新たな協力を要請してきた。そして、1997年より、このフィリピン家族計画・母子保健プロジェクトがスタートしたのである。このプロジェクトはリプロダクティブヘルス/ライツを基本概念として、三つの大きな柱から成り立っている。
*統合母子保健プログラム
乳幼児検診などのサービスの向上、BHWや助産婦などの保健従事者の教育
*リプロダクティブヘルス推進プログラム
教材の開発、思春期保健、男性の為のリプロダクティブヘルストレーニング
*住民組織活動支援プログラム
 
 簡易トイレ設置事業、洋裁生計向上プログラム、TV 99プログラム、Teatro 99プログラム、村落協同薬局プログラム
 この三つのプログラムにより母と子供の健康を改善し、フィリピンの人口の適正化を計ろうとするものである。
 JICAの様々な事業・プロジェクトを通じ、実際に行われている日本の国際協力を知ることができた。様々な人間が各々の歴史や宗教を抱え、個々の考え、立場を持ち暮しているという、複雑な要素が渾沌と絡み合った「世界」というものに対して、日本はどのような立場でどのような角度からアプローチすべきなのか、大いに考えさせられた。自分というものの限界を知った上で最大限の効果を出せるよう、ある面では厳しく、ある面では優しく、為すべきものを取捨選択し、優先順位を付けていかなくてはならない。辛いことではあるが、人間という混沌の渦に飲み込まれないためにも必要不可欠なことである。しかし、このことを、理想と現実の狭間で行き先を見失いかけていた自分に言い聞かせるのは、辛くどことなく悲しかった。
(担当:田村寿英)
 
 
2) フイリピン大学(University of Philippines Manila:UP)医学部訪問
 初めに大学医学部の概要と沿革の説明を受け、次にUPの医学部学生の案内で、その教育病院であるThe Philippine General Hospitalを見学させて頂いた。
 フィリピンの医学部には、かつてはアメリカと同様、学士の取得者しか入学できなかったが、現在は高校を卒業したばかりでも入学できるようになっている。これはThe INTARMED Program(INTegrated liberal ARts-MEDicine)というもので、医師養成にかかる時間を短縮した7年間のコースである。初めの2年間はPre-medical course、次の4年間はRegular medical studies、最後の1年間はClinical internshipとなっている。Pre-medical courseでは、コミュニケーションスキルや歴史、化学などといった一般教養科目を学ぶ。Regular medical studiesでは、基礎医学科目や臨床医学科目を学び、病棟実習を行う。Clinical internshipでは、地方病院で臨床経験を積む。大体の目安としては3年生でメディカルインタビューの方法を習い、5年生で各科の病棟実習を始め、6年生では手術の手伝いもでき、7年生になると自分の判断で医療行為ができるとのことであった。地域医療や医療経営論といった科目もカリキュラムにあり、興味深かった。
 The Philippine General Hospitalは国内で最大規模の第3次病院である。年間約80万人もの患者が訪れるという。外来部門、救急救命室、小児科病棟、手術室を見学させていただいた。診察は先着順のため、外来部門には朝から多くの患者が並んで列を作る。スタッフや医学生は問診をとり、各科に振り分けをする。救急救命室では、運ばれてくる患者の中には結核による熱を持った人も多いので注意が必要、ということを聞き、フィリピンにおける結核の罹患率が高いことを思い知らされた。
 日本との一番の違いは、病棟がCharityとPayに分かれていることであろう。経済的に支払いが困難な患者は無料のCharity病棟に行く。UPの学生達は専門医の指導のもと、問診取りから診断、病態管理まで、Charity病棟の患者さんを受け持つ。Pay病棟の患者にはベテランの医師が診療行為を行う。また、学生達は病棟実習中、各科の救急外来も担当するので、非常に実践力がつくと思われる。
 私達が見学させていただいた小児科病棟もCharityであった。クーラーのない大部屋に20床程のベッドがあり、看護婦の目が行き届かない部分を補うべく、各ベッドに家族が付き添っていた(Pay病棟はクーラーが付いている)。
 フィリピンでは英語を用いたアメリカ式の医学教育制度が取られているため、医学部卒業後、高給と高技術を求めてアメリカヘ人材が流出することが多い。UPの学生にこのことについてどう思うか聞いてみた。「地域医療を学ぶ講義や実習も増え、地方病院でのintertnshipなど、流出を阻止するカリキュラムの充実が図られている。しかし、アメリカの方が経済的に恵まれているし、できれば自分もアメリカに行きたい。」と正直に語ってくれた。
 また、病棟実習や医学教育システムについての感想も聞いてみた。すると、「3年生の時から病歴の詳しい取り方を習っているし、先生方もついていて下さるので、患者さんとの応対にはそれほど不安はなく診療実習を行っている。実習中に何か失敗をしたら正直に申し出る。進級制度はとても厳しい。同じ科目が二回不合格になるとそれは退学を意味する。先生方は多くを要求するし、一方で患者さん達には親切に、失礼のないようにしなくてはならないし、非常に難しい。」と語ってくれた。日本の医学生以上に、実習に研究に、大変なようであった。
(担当:橋口聡子)
 
 
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オペ室見学の前に
 
 
8月7日 今日の一言 〜フィリピン大学〜
飯 田: フィリピンでは、異常なくらいゲイから人気がある!?
五十嵐: 今日の病院見学は日本で臨床を始めるにあたって、良い経験となった。
植 木: タイ人の友達からタイの事情を聞いて知っていたことが理解の助けになりました。
 岸 : 病棟でmanpowerが足りなくて、家族がここまでやらなくちゃなの!?と思うことをやっていた。家族が一人でも病気になったら一家総動員なのかーーー。
後 藤: フィリピンの医療現場、なかなか考えさせられるものがありました。百聞は一見にしかず...。
佐々木: オペ室のボードの言葉。“Attitude is a little thing that make a big difference.”
佐 藤: 小児の救急にデング熱患者が多いと聞いてびびっていたのは俺だけ!?
清 水: 病院見学では、フィリピンの学生は、日本よりもずっと実践的なことをしていることが良く分かった。
高 岡: 院内見学の際、私達にマンツーマンでガイド(学生)がついてくれた。効率より中身重視か、気持ち重視か...。この国民性(?)の違いは、サービス、医療方針にもひょっとしたらあらわれていたのかもしれない。
田 村: フィリピンに数多くの友人ができた。病院も日本とシステムが違っていて、医療というものを多角的に見ることができたような気がした。
豊 川: 施設、器具の違いこそあれ、病める人に対する医療従事者や家族の姿勢に違いはなかった。
橋 口: フィリピン大学の学生が非常に熱心に説明してくれて、とっても嬉しかった。
橋 本: 院内感染を防げる体制になれば良いなと思いました。
山 田: PGHの外来にとても活気があった。








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