まとめ
1.研究成果
本事業では、神戸海洋気象台が蓄積してきた歴史的な船舶海上気象観測データを約38万8千通電子媒体化した。これにより、平成7年度から継続して電子媒体化してきたデータと合わせると、合計約270万通の「海上気象報告」が電子媒体化された。本事業で電子媒体化したデータは、気象庁において品質管理され、CD-ROMに納めて国内外の気象海洋研究機関や利用者等へ配布する予定である。
夏季降水量の年々変化の長期傾向を調べた結果、全国的に近年の降水量の長期傾向はみられず、降水量の年々変化は東北・関東・東海では明らかに激化しており、北海道と沖縄では、明らかに減少していることが示された。
また、夏季の日最高気温の年々変動を調べた結果、東北南部から九州までの地域では、最近25年間の変動の大きさが増加していることが有意に示された。海上の月平均気温・海面水温については、年々変動の変化傾向は陸上と異なることが示された。
解析作業部会により次の三つの研究成果が上げられた。その一、北半球海面水温場に見出されたレジームシフトには、中・高緯度で独自に発生したものと、熱帯太平洋の変動(南方振動)と強く結びついたレジームシフトがあることが示された。
その二、COADSによる1950年代以降の経験的直交関数の最低次モードは、北太平洋中・高緯度域における西風の増大傾向を示し、アリューシャン低気圧の強化に特徴づけられる海面気圧の低次モードと対応する。西風の増加量は、海面気圧勾配から求めた地衡風の増加量より有意に大きく、測定誤差(風速計高度の変化)が示唆された。
その三、1890年から1932年の期間の神戸コレクションと米国の海洋気象統合データセット(COADS)を用いて解析を行った結果、1910年〜1932年の期間で、エルニーニョ現象時にみられる気候状態が他の気象要素にも表れている期間が確認された。
2.今後の課題
過去7年間の事業で約270万通のデータを電子媒体化したが、残り約50万通あまりがまだ電子媒体化されないままである。これらの未電子データをできるだけ早く電子媒体化する意義は大きい。
本事業において電子媒体化されたデータは、品質管理されて国際的なデータセットと統合される予定である。これら歴史的なデータは地球環境変動の研究にとり大変貴重なものである。今後はこのデータが多くの分野で利用されることが望まれる。
気候変動の解明には長期間蓄積されたデータが不可欠であるが、残念ながら1940年代以前のデータが十分ではない。この事業を契機として、国内外の気象および海洋の諸組織が持つ紙べースのアナログデータが、電子媒体化される動きが加速することを願いたい。
今年度事業では、陸上における降水量と気温の偏差の長期変動解析を実施した。海洋要素に関する変動解析は、次年度事業で実施する予定である。