研修の概要
はじめに
WHOによるPalliative Careの定義は、「Palliative Careとは治癒を目的とした治療に反応しなくなった患者に対する積極的で全人的なケアであり、痛みや他の症状のコントロール、精神的、社会的、霊的な問題のケアを優先する。Palliative Careの目標は患者と家族のQOLを高めることである。Palliative Careは疾患の初期段階においても、がん治療の過程においても適用される」である。現在、わが国の承認緩和ケア施設は89施設(平成13年9月現在)となり、社会の関心とともに緩和ケアに携わる看護師の数も増加している。ますます緩和ケアにおける看護師の専門的スキルヘの期待は高まっていると言える。
日本看護協会 看護教育・研究センターでは、昭和54年より「看護と死」「ターミナルケア」「がん看護」等の研修を継続的に実施し、この領域に必要となる知識・技術を有する看護師の育成に努めてきた。平成10年からは日本財団の助成を受け、看護教育・研究センター(以下清瀬とする)および神戸研修センター(以下神戸とする)で「緩和ケアナース養成研修」をそれぞれ年1回開催し、今年で計169名の受講終了者を送り出すことができた。
本研修では緩和ケアに関する知識・技術を習得し、患者やその家族への緩和ケア実践能力を育成することを目的としている。平成13年度の研修の概要と受講生の学習の成果を報告する。
研修実施期間
清瀬:平成13年6月6日〜7月17日
神戸:平成13年10月22日〜12月3日
受講生の背景
  |
清瀬 |
神戸 |
緩和ケア病棟勤務者 |
7名(35%) |
6名(26%) |
開棟準備中の施設勤務者 |
7名(35%) |
7名(30.4%) |
訪問看護従事者 |
1名(5%) |
1名(4.3%) |
一般病棟勤務者 |
5名(25%) |
9名(39.1%) |
合計 |
20名 |
23名 |
研修のねらい
ホスピス・緩和ケア病棟においてケアの質向上を図るために患者とその家族への緩和ケアの基礎を学び、ホスピス・緩和ケア病棟における看護の実践者を育成する。
【学習目標】
1.緩和ケアの基本的理念を理解する。
2.緩和ケアに必要な知識・技術を習得する(患者の持つ症状の緩和技術を習得し、実践できる)。
3.家族や患者の心理を理解し、こころのケアに対する知識・技術を習得する。
4.チーム医療の理念を理解し、チームアプローチが実践できる能力を養う。
5.学習を統合し、緩和ケアに対する知識・技術を深めることができる。
カリキュラム構成について
学習目標にそって科目設定した。
「腫瘍学」「がん医療の動向」などがんの基礎知識から始まり、「緩和ケア」の概念や「倫理」によって、看護観を再確認できるようにした。次に緩和ケアの中で重要な症状マネジメントについて、病態生理から見た症状のアセスメントの必要性を知り、マネジメントの方略を患者主体で考えられる視点を学習できるようにした。コミュニケーションスキル、チームアプローチはロールプレイやゲームなどを取り入れ、実践的に学ぶことのできる講義形態をとった。また、進行性疾患の患者の心理を捉え看護介入について学び、患者本人だけでなく、患者を支える家族へのケアについても習得できるようにした。ホスピスや緩和ケア病棟においては診療報酬体系が他の病棟とは異なるため、制度に関する知識やそこに入る人々への社会的な保障の知識も必要であると考え、プログラムした。
事例検討では、各自の事例をまとめ、グループ演習でディスカッションをしながら、事例の中の問題と解決への糸口を見つけていくことができたようだ。受講生は、看護の臨床経験年数も所属施設の背景も様々であるが、それゆえに自分ひとりでは見えなかった問題や、事例の捉え方の方向転換など新たな発見を得ることができる。また、ホスピスケア認定看護師に演習援助者を依頼し、ホスピスケアの実践者から有効な意見や助言をもらうことができた。
2週間の施設実習では、既に実績のある緩和ケア病棟に受講生1〜2名を配置し、講義・演習で学んだことを統合、検証できることを目標とした。
受講生のアンケート結果から
〈評価基準〉 |
1「できない」または「自信がない」〜5「できた」または「自信が持てた」の5段階評価とした。値は%表示。 |
1 緩和医療、緩和ケアについての基本的な考え方を理解できましたか
2 緩和ケアに必要な症状コントロールについて理解できましたか
3 症状を持つ患者への看護について実践できる自信が持てましたか
4 がん患者及び家族への看護について理解を深めることができましたか
5 緩和ケアを行う上でのチーム医療における看護の役割について理解できましたか
6 施設に戻り、チームアプローチを実践できる自信が持てましたか
7 学習を統合し、緩和ケアに対する自己の課題を明確にすることができましたか
8 実習を行うことによって、具体的な実践への方向性を見出すことができましたか
アンケート結果は清瀬及び神戸で殆ど差は見られない。「自信が持てましたか」ということを聞く設問に対しては若干評価が下がるが、概ね高い評価である。設問7については研修全体を統合して尋ね、設問8については実習の成果を尋ねている。この2問に対しても3以上の評価と回答した人が比較的多かったことは、特筆に値する。
おわりに
今後、ますます緩和ケアを必要とする患者数は増加すると考えられ、それに伴って病床数も増加していくことが予測される。ケアを必要とする人々が、可能な限り人間的で快適な生活を送れるような看護を提供できるために、この領域での看護職の人材育成はまだまだ必要である。さらに、在宅で死を迎える人々やがん以外の疾患で緩和ケアを必要とする人々も多くなり、専門的な学習と経験を積んだ看護師の活躍の場も増加するだろう。本研修を修了したこれまでの受講生からも、研修後に緩和ケア病棟の開棟に携わったことや、認定看護師の資格を取得したこと、研修時と同じ施設でさらにリーダーシップを発揮している様子など、近況が届いている。今年度の受講生も幅広く緩和ケアナースとして活躍されることを信じてやまない。
この報告書に載せた、受講生一人一人のレポートはどれもすばらしく、6週間の学びから看護の原点を考えることのできるものである。多くの関係者の方々に読んでいただけることを願うとともに、執筆者(受講生)本人も、時々読み返して、この時に感じたことを思い出して欲しい。そして、今後も緩和ケアの質向上のために邁進していくことを願っている。
(文責 金子 祐子)
平成13年2月
社団法人日本看護協会
看護教育・研究センター
センター長 國井 治子
神戸研修センター
センター長 関 育子
研修担当
看護教育・研究センター
継続教育部 北角 栄子
金子 祐子
神戸研修センター
吹原 知代美
学習目標別時間数
平成13年度 緩和ケアナース養成研修 学習日標
学習目標 |
講義科目 |
内容 |
時間 |
清瀬 |
神戸 |
1.緩和ケアの基本的理念を理解する。 |
がん医療の動向
腫瘍学
緩和医療
緩和ケア
生命倫理
看護倫理
ホスピスケアの現状・課題・展望(神戸) |
・緩和医療の基本的な考え方
・進行がんの病態生理、疾患プロセス
・緩和ケアの基本理念
・緩和ケアにおける看護の役割、特徴
・QOLを高めるための援助
・死生観、患者の権利、現代の医療における倫理的側面
・緩和ケアにおける倫理的諸問題へのアプローチ(ジレンマ、ICに伴う看護の役割など)
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27 |
24 |
2.緩和ケアに必要な知識・技術を習得する。
(患者の持つ症状の緩和技術を習得し、実践できる) |
症状マネジメント
1〜4
ナーシングバイオメカニクス
コミュニケーション論 |
・主な症状の病態生理、アセスメント
・薬物的対応と薬物以外の方法による対応
・各症状を持つ患者への看護
・患者自身が症状コントロール能力を身につけるためのマネジメント
・傾聴、共感。コミュニケーション技術の活用
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30 |
33 |
3.家族や患者の心理を理解し、こころのケアに対する知識・技術を習得する。 |
進行がん患者の心理的特徴と援助
1〜2
家族援助論
1〜2 |
・患者心理の理解(対応規制、防衛規制、予期悲嘆他)
・危機的状況における心理に対する看護
・家族力動、家族の発達課題、ストレスコーピング、家族援助の方法
・家族が当面する問題と援助(家族関係、介護、喪失体験、予期悲嘆、死別後の悲嘆の理解と援助)
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24 |
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4.チーム医療の理念を理解し、チームアプロ一チが実践できる能力を養う。 |
緩和ケアにおける社会資源の活用と諸制度
チームアプローチ |
・診療報酬、病棟設置基準、社会資源の活用
・緩和ケアにおけるチーム医療の基本的な考え方
・緩和ケアにおけるチームアプローチの意義
・チーム医療における看護の役割 |
9 |
9 |
5.学習を統合し、緩和ケアに対する知識・技術を深めることができる。 |
グループワーク
実習
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・事例を基に自己の看護を振り返り緩和ケアにおける今後の課題と展望を見出す。 |
12
60 |
12
60 |
6.その他 |
実習報告会 |
6 |
6 |
コンピュータとネットワーク |
- |
3 |
オリエンテーション・情報交換・研修のまとめ |
12 |
9 |
合計 |
180 |
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