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沖縄
 日本における米軍の大半−約七五%−は沖縄に駐留している。彼らが沖縄に駐留しているのは、安全保障絡みの問題では距離が物を言うからである。沖縄は東シナ海と太平洋が交わる地点に位置している―朝鮮、台湾、南シナ海から航空機でわずか一時間前後である。
 嘉手納の米空軍基地は、同地域全体に対する米国の力の投入にとって欠くことのできない中継地点となっている。また、日本の防衛にとって重要な存在だ。沖縄の米第三海兵遠征軍は同地域の諸問題に迅速に対応する独立した合同前方部隊であり、非戦闘員の退避から、大規模編成部隊が敵の侵略を撃退できるよう最前線戦闘分隊としての役割までこなす。
 しかし米軍の沖縄集中はまた、日本にとって明白な負担を、米国にとってさほど明白でない負担を強いており、この負担は、例えば、訓練などさまざまな分野の制限から生まれている。詰まった作戦スケジュールと低年齢の隊員構成のため、この日本の最南端県の駐留米軍に、何らかの変化があることを待ち望んでいる日本国民から厳しい監視の目が注がれている。
 海兵隊は、より良い隣人になろうと努力してきたが、基地周辺の不法行為が原因で課される制約の増加で、即応態勢と訓練に悪影響が出ている。そして、米兵の違法行為の件数は激減しているにもかかわらず、現在の政治環境にあっては、ひどく痛ましい事件が実際に起きると、過剰反応と言えるほどの関心が集まる。
 一九九六年の沖縄に関するSACO合意は沖縄の米軍基地の再編、整理統合、削減を謳っている。米国と日本はこの合意を完全に履行しなければならない。この合意は米国の資産を約五〇〇〇ヘクタール、一一施設に減らすというもので、これには海兵隊の普天間飛行場も含まれている。
 われわれはSACO合意に重要な目標がもう一つ含まれるべきであったと考えている。それは、アジア・太平洋地域全体への分散である。軍事的な見地に立てば、米軍が同地域全域で幅広く柔軟なアクセスを獲得することが重要だ。ところが政治的な観点に立つと、沖縄の人々の負担を減らして米軍の駐留を持続可能かつ信頼できるものにすることが肝要だ。在日米軍の戦力構造に対する米国の思考がSACO合意で停止してしまってはならない。米国は海兵隊に関して、同地域全体におけるより広範で柔軟な展開と訓練の選択肢を検討すべきである。
 
情報活動
 東アジアにおける米日両国にとっての潜在的脅威や明白な脅威の特質は変化しつつあり、二つの同盟国間の情報収集能力の協力と統合の強化が必要になっている。二国間同盟の重要性にもかかわらず、日本との情報共有は、米国が北大西洋条約機構(NATO)加盟国とこの地域でますます緊密な関係を享受していることと、際立って対照的だ。地球規模の発展がこの傾向を加速しているだけでなく、減少しつつある資源や、平和維持、平和構築といった新しい使命のため、同盟国の情報活動能力の協力・統合の強化が必要になっているとの認識がまた、この傾向を加速化させてきた。
 皮肉にも、冷戦の終結で脅威の性質が曖昧になり、政策の選択肢がしばしば複雑になっていることが、世界中で共有される安全保障上の脅威に関する重要情報を分析・収集する上での協力の必要性を際立たせている。東京は、既存の米日間の情報協力関係がその需要に見合っていないということを明確に示している。
 米国にとって、日本との協力強化に潜在的可能性があることは明らかだ。同盟国は、比較検討や互いに競い合って行う分析に基づき、政策実行で合意を形成しつつ、両国の相違点をはっきりさせる必要がある。情報共有が、その目標への道筋を示している。さらに、分析の任務を互いの比較上の優位性に従って割り当てる分業は、資源の枯渇した情報活動分野の利益になる。日本は世界的に果たしているその役割から、戦略的な情報対話に多様な情報や洞察をもたらす能力を持っている。
 おそらくもっと重要なことは、日本との情報活動協力における戦略的ビジョンがかなり遅れていることだ。米日間の情報活動の連携強化に失敗するということは、同盟国間に共通の理解と行動が必要になる難局で、われわれの理解(そしておそらくわれわれの政策)が分裂していく危険性を高めることにほかならない。
 情報活動協力の向上は、日本にとっても重要だ。日本の国際貢献の推進には、日本独自の情報収集能力の強化と米国との協力強化の両方が求められている。
 情報活動協力の強化は、日本自身の政策立案、危機管理、政策決定過程の向上にも役立つ。加えて、アジア地域内外で、日本はより多様な脅威とより複雑な国際責任に直面していることから、国家安全保障上のニーズをよりよく理解するための情報を必要としている。
 情報活動協力はまた、二国間同盟における日本の役割を強化する。米国と日本の情報活動組織の大きさの不均衡を考えれば、よりバランスの取れた分担を行えるようになるまでに時間がかかるのは避けられない。しかし、長期的な取り組みの成果(潜在的脅威に関する情報の質の向上や、競い合うようにして行う分析作業の成果、互いに見解を補い合うことなど)は、同盟国双方により多くの情報をもたらすとともに、協力の質を向上させることになる。
 米日の情報活動協力は、両国の国家レベルの問題として、国家レベルの管理が必要だ。新しい形の協力をとり、既存の関係を拡大していく必要がある。以下のことを実行するのがワシントンの責務だ。
▼国家安全保障担当大統領補佐官は、情報活動協力の強化を政策化し、情報活動の優先事項として位置づけなければならない。
▼米国の政策立案者と協調し、中央情報局(CIA)長官は、日本の安全保障上の優先事項に見合う方法で協力を拡大できるよう同国とともに取り組まなければならない。不法移民や国際犯罪、テロリズムのように国境を超えた問題については、両国の関係機関が連携したプログラムを必要とする。
▼米国は、日本が自前の衛星を含め、独自の情報収集能力を発展させたいという妥当な願望を支持すべきだ。分担の本質を改善することに迅速な配慮が求められる。
▼情報活動のネットワークを向上させるため、米国は、分析を行う研究施設の人事交流や研修の相互実施など、実際にそでをすり合わせて取り組むような事業を優先する政策を取るべきだ。
 米日間の情報活動関係の向上はまた、両国内での政治的支持を必要とする。この観点で、東京はいくつかの基本的な方策を講じる必要がある。
▼日本の指導者は、機密情報を保護する新法に対する国民的・政治的支持を取り付ける必要がある。
▼情報活動能力が進歩すれば、日本の政策立案のより大きな支えになるが、東京の指導者は同時に、彼ら自身の政策決定のプロセスについても真剣に検討する必要がある。情報共有は米日間のみならず、日本政府内でも行わなければならない。
▼経験則から情報活動の過程に国会をどのように絡ませるのかについての議論が強く求められている。民主主義国家における情報活動の監視は、政治的支持を維持する上で非常に重要な要素だ。
 
 つまり、日本が将来の国防ニーズに真剣に取り組み、政府機構を再構築している今、われわれの情報活動協力を押し入れの中から表に出す時が来ている。
 
経済関係
 日本が経済的に健全であることが、二国間パートナーシップの繁栄に極めて重要だ。実際、アジア全域における米国の国益は、順調に発展し続ける強靭な日本経済によって恩恵を受ける。日本は世界第三位の米国産品の輸入国で、日本経済の停滞の継続は米国の労働者や企業にとって利益の喪失を意味する。脆弱な日本は、世界規模の資本の流動に不安定性や不確実性を与える。加えて、日本の国民が、内向きになり、失望感を抱いて不安定になれば、同盟間でより大きな役割を担うのに乗り気でなくなる。
 残念なことに、日本は経済不況と景気後退という希望のない一〇年間を経験してきた。一九九二年から九九年まで、実質経済成長率の年間平均は、たった一%だ。この一〇年は、九七年から九八年と九九年後半の景気後退で締めくくられた。
 日本の持続的な経済成長の復興は主に、市場開放と、民間企業をグローバル化の力に対応させることこそが経済回復のカギになるとの認識をもてるかどうかにかかっている。これには、規制緩和の継続と貿易障壁の削減とともに、より開放的な市場を支えるより強力な規則や制度の育成が関係してくる。
 これは日本人の政策中枢の一部に理解され、一九八六年の前川リポートをはじめとする多数の公式報告書の中でも指摘されている事実だ。七〇年代半ばから、諸外国は日本の政策立案者に経済の透明性と開放性を増大させる方策を講じるよう促してきた。いら立ちを募らせた歴代の米政権は、熟慮に熟慮を重ねた貿易・経済政策の一連の選択を採用するよう東京に働きかけてきた。
 改革の障壁はかなりのものだ。熟年の労働者(依然として終身雇用制という居心地のよい聖域を享受している二〇〜三〇%の人々を含め)、保護された産業、そして長いこと多くの産業を監督することに慣れ切ってきた官僚たちが、現状維持を守り続けている。さらに、日本人は他に選択肢がない場合を除き、急進的な変革を嫌う傾向にある。一部には、日本の経済問題はまだ危機的状況に達していないと論じる人もいる。切迫感の欠如と確立された慣行の急転換に抵抗のある国民性が、政治的にも心理的にも痛みを伴うが、どうしても必要な構造改革措置の採用を阻んでいる。
 同時に、経済問題への取り組みでいくつかの進歩が日本にあったことを認めるのも重要だ。例えば、多くの欧米の経済学者は、東京のいわゆるビッグバン、金融分野の規制緩和策と一九九八年の銀行救済に高い評価を与えた。外国からの直接投資は劇的に増えた(主要工業国の中では最低のままだが)。こうした進展は、競争の激化と新しい商取引の形態をもたらした。企業は(企業間の)なれ合いよりも利潤に重きを置き始めており、この転換がますます古風になってきた"系列"制度を弱めている。起業家が台頭し、ベンチャー・キャピタル市場は成長している。
 IT(情報技術)分野は、急速に発展している。新しい企業が立ち上がり、多くの経済分野における潜在的な利益は相当なものだ。しかし、IT分野がここ一〇年間の不況から経済を救い出すのに十分なほど成長するかどうかについては、経済学者の意見も分かれている。規制の壁が成長を抑制し、他産業へのIT技術の導入を遅らせた。したがって、経済におけるこの分野の潜在的重要性が、上向きな先行きを確保する方策の一環として、経済システムのさらなる改革と規制緩和を行う必要性をさらに高めている。おそらく、I Tにできる最も重要な貢献は、日本経済に幅広く、規制緩和や商取引形態の柔軟性向上を促進させるため、くさびを打ち込むことだ。
 しかし、回復への障害は残っている。特に、銀行問題は依然、適切に取り組まれていないし、財政的な景気刺激策は、長期的成長を促進する可能性がほとんどない利益誘導型の公共事業に頼り過ぎている。この欠陥のある財政アプローチによって、国の債務残高と国内総生産(GDP)の比率が少なくとも一・二対一と、世界の他の主要先進国よりもはるかに高くなった。
 経済改革を推し進めるため、民間セクターの勢いを利用した、より革新的なアプローチは今は機能している。日本は今後も大きな犠牲を払うだろう。長期的に健全な日本経済を回復するには、日本の政治家がこれまで拒否してきた短期的な財政出動が必要になる。米国は日本に、以下の方向に沿った政策を促進するよう求めるべきだ。
▼日本経済の体系的な改革の推進。(内外ともに)すべての参加者に向けて市場の開放を進めることは、持続的な経済回復に重要だ。
▼短期的な財政・金融刺激策の継続。日本の債務拡大問題にかかわらず、東京は将来的な成長促進を見込める分野に焦点を当てるべきだ。必要のない橋やトンネル、高速鉄道網を建設する時代は終えなければならない。
▼会計や商慣行、制度づくりで透明性を拡大しなければならない。日本の経済統計の質を改善しなければならないし、金融機関や地方自治体は、財政状況の実態について、全面的な説明を行うことが求められるべきだ。政府も同様に、情報開示でより開放的になる必要がある。
▼情報通信のように経済に好影響を与える可能性が最も高い分野で、特に規制緩和を加速すべきだ。
▼日本とシンガポールの間の自由貿易協定は、韓国、カナダ、米国や関心のあるその他の国との、同様の協定のための試験的取り組みとして促進するべきだ。
 
 日本の市場を開放させ、構造改革を推進させる米政府の主導力は縮小しつつある。不十分な改革が米企業に影響を与え、世界経済を危機にさらしている時、米国は正当な利害関係を有しているといえる。優良な企業統治基準や商慣行の透明性拡大の確保を含めたこれらの分野で、米政府の配慮や言動は引き続き重要である。
 米国は次期政権で、二国間パートナーシップの向上を促進するため、いくつかの重要な目標を追求すべきだ。
▼米国の経済的な国益に関する主張は、一つの声で表明されなければならない。日本が行っている体系的な改革に効率的に対処するため、ワシントンは優先度の順位をすっきり整理しなければならない。これに関し、次期政権は明確な経済アジェンダに対する米国民の支持を取り付けなければならない。
▼ワシントンは、日本における外国の直接投資を増やすための対話を始めるべきだ。外資系企業は、直接的にも、日本企業との競争という影響を通じても経済を支える新技術や新しい商取引の形態をもたらす。
▼新政権は、世界的な貿易交渉の新ラウンドの開始を政権の最優先事項の一つにしなければならない。米国のリーダーシップは、その第一歩に不可欠だ。この試みの中で、米国とそのパートナーは、産業関税や農業助成金、金融サービスにおける貿易障壁の撤廃を追求し、国際的に受け入れられるような、特に金融機関向けの会計基準を巡る交渉を進めるべきだ。
▼米国と日本が紛争を解決し、新しい協力の扉を開くために世界貿易機関(WTO)に頼っている現在でも、米日間の経済関係の重要性から、二国間貿易交渉は不可欠な手段であり続けている。
▼米国は、日本と韓国の間で始まったばかりの経済協調を応援すべきだ。
 
外交
 伝統的に米国は、日本により大きな国際的役割を担うよう促してきた。見落とされていることだが、現実に日本はしばしば米国と協力し、特に人道的な取り組みや、かつてはかかわりがなかった安全保障の分野でも、この呼び掛けに応じている。日本は、世界銀行、国際通貨基金(IMF)、国連、アジア開発銀行(ADB)において一、二を争う資金拠出国となっていると同時に、主な多国間機関のすべてで主要な拠出国となっている。現在の協力体制を持続し、新しい二国間の取り組みの扉を開けるため、米日両国内で国民の支持をはぐくむことが必須だ。
 外交上の協力に際しては、不意打ちを行うべきではない。日本はしばしば、アジア通貨基金のような構想をワシントンと調整せずに推進してきた。米国も、自国の外交活動に後から日本を取り込むことがよくある。両国関係が、後から気の付いた政策立案という格好で取り上げられているようでは、両国は苦労することになる。米国にとって、日本の外交政策上の協力は小切手外交というイメージを捨てる時期はもう過ぎている。日本は、国際的なリーダーシップをとるには、昔ながらの資金援助者の役割を超え、リスクの引き受けを伴うということを自覚しなければならない。
 米国の政策は、われわれのアジェンダが東京に十分に理解され、積極的に支持されるのを確認しようと奮闘している時でも、日本の目標に配慮しなければならない。ワシントンは、多国間協力が東京にとって重要だということを理解しなければならない。日本政府はそうしたイニシアチブを、米国の指導力を過小評価する試みとしてでなく、国家のアイデンティティーを示すものとして考えている。静かな舞台裏の戦略調整の方が、二国間首脳会談の結果として土壇場になって大急ぎでまとめられる大掛かりなパートナーシップ宣言よりも効果的なことがよくある。
 国際情勢における日本独自のアイデンティティーの模索は、米国の外交活動に抵触しない。実際、米国と日本は概して、共通の総合的な外交目標を共有している。両国は多くの共通利益を抱えている。
▼アジアにおいて、任務を与えられた前方展開の米国のプレゼンスを維持する。
▼国連を紛争予防・平和維持・平和構築活動に、より効果的に対処できる機関に改革する。米国は安全保障理事会の常任理事国の議席を求める日本の取り組みを支持し続けるべきだ。しかし、日本には、正面から取り組まなければならない集団的安全保障の明らかな義務がある。
▼中国を域内の政治・経済問題に積極的な存在になるよう促す。米国と日本はこの問題で、進行中の戦略的対話にいっそう努力すべきだ。
▼朝鮮半島の和解を促進させる。ワシントンと東京は、南北朝鮮の協力拡大の機会を模索すると同時に、朝鮮半島に関連する問題に対処するため、三国調整グループ(韓国、日本、米国)を維持し続けなければならない。
▼極東におけるロシアの安定を支持し、広大なロシアの天然資源の開発を促進する。米国と日本は、対ロシア政策をより効果的に調整すべきだ。
▼米国と日本は、東南アジア諸国連合(ASEAN)の個別の国々に異なる政策をそれぞれ抱えていても、活動的で独自性があり、民主的で繁栄するASEANを奨励する。
▼インドネシアの領土保全と復興を支持する取り組みに関する調整を行う。
 
 世界第二位の経済力をもつ日本は、援助の提供側より受け入れ側の利益に焦点を当てた海外援助政策の進展を、自国の経済問題を言い訳に逆行させてはならない。日本はアジアにおける経済成長と開放を進める政策をとるべきだ。日本円を国際化しようとの東京の提案は、日本の金融市場が透明になった場合にのみ成功する。
 
結論
 ペリー提督の黒船が約一五〇年近く前に東京湾に到着して以来、よくも悪くも米日関係が日本とアジアの歴史を形づくってきた。新しい千年紀の夜明けに、免れられないグローバル化の力とポスト冷戦時代のアジアの安全保障情勢は、米国と日本に新しく複雑な課題を突き付けている。両国の相互作用が、過去の経済的・政治的・戦略的構図に影響を与えてきたように、両国が個別に、あるいは同盟国としていかに対応するかが、新世紀の可能性とともにアジア太平洋地域の安全保障と安定の行方を決定づけていくことになろう。
 








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