第6章 今後の取組の考え方
1 関連主体の役割分担
(1) まちづくりの主体と今後の方向〜市民、企業、行政のパートナーシップヘ〜
まちづくりの推進主体は官民に大別できるが、近年では、より具体的に市民、企業、行政に分ける考えが定着してきている。
これは、社会の成熟化ならびに地方への分権化などの時代の流れを受け、
○市民が、社会的個人として、権利と義務に関する認識を深めたこと
○企業が、経済活動と併せて社会貢献に対する認識を深めたこと
○行政が、市民主権の行政としての認識を深めたこと
などによるものであり、これからのまちづくりにおいては、これら三者の果たす役割の重要性が大きくクローズアップされていることを示している。
市民・企業・行政の三者は、一般に、以下のように定義されている。
○「市民」とは、社会性の自覚と自立性を備えた一定の地域で生活している住民(老若男女など)を指す。この中には、設立が相次ぎ活躍がめざましいNPO(非営利団体)、NGO(非政府機構)なども含まれる。
○「企業」とは、経済活動の主体を指し、法人企業から個人企業まで規模・業種ともに多様である。第三セクターもこれに含まれる。
○「行政」は、行政事務を直接担う公務員及び行政体自体を指す。
地域経営の基本は、生活者の生存・生活を一定水準で持続的に確保することである。
これからのまちづくりは、かつての官(行政)主導方式から、民(市民、企業)主導官支援方式で進めていくことが求められており、まちを構成している「市民・企業・行政のパートナーシップ(官民協働方式)」による生活者の主体のまちづくりを進めていく必要がある。
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そのためには、市民・企業・行政の三者が、まちづくりに対する共通の理解・認識を持ち、それぞれが真の意味での「市民化」を果たす必要がある。ここで「市民化」とは、三者が社会的協働の必要性と、個々の役割を認識した主体となることを意味している。
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(2) 関連主体の機能 〜市民は非営利、企業は市場原理、行政はインフラで相互補完〜
関連主体の役割分担は、地域の「市民化」の熟度によってさまざまであるが、基本は市民、企業と行政が協働して「公共性」を分担しながら、創造的なまちづくりを進め、豊かで楽しい市民生活を築くことである。その展開の基本となる考え方は、「参加」を基本とする主体間の「相互補完」である。
市民の役割は、[1]公共領域をわがものとして行政と共有する、[2]多様な市民(価値観)の存在を認め相互協力の意識を高める、[3]まちづくりへの参加の権利とともに義務意識を高める、ことなどを前提として、私的領域と非営利的領域での協働にある。
企業の役割は、市場原理に基づく営利や効率性領域での協働にある。
行政の役割は、[1]市民意識やニーズを十分に把握し、個人の利害利益のみを追求する私的な要求や、個人的な趣味や趣向のつながりを追求する共的要求、地域の活性化や地域全体の利益をもたらす公的要求とを峻別する機能を高める、[2]国を頂点とする上位下達型の行政文化を払拭し、自治体としての主体性と意思決定能力を高める、[3]多様で総合的な住民ニーズに応えるために縦割り行政の総合化・効率化などを前提として、市民、企業単独では解決できない地域課題について協働で解決することにある。
言い換えれば、新たな時代や地域ニーズに適正に対応すべき新たな社会資本整備、公共サービス、地域経営の総合プロデュース、市民、企業と行政の役割分担をふまえた総合的な「情報開示」と「参加機会の拡充」が主たる役割である。
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(3)海南市における展開の視点 〜行政依存型からの脱却と市民イニシアチブの確立〜
海南市は古い歴史と伝統をもった地方小都市であり、紀州漆器や日用家庭用品産業のような、海南独自の創意工夫による伝統的な地場産業が今なお受け継がれている。
しかし、戦後の本市におけるまちづくりは、重厚長大型基幹産業の誘致などを中心に、いわゆる企業誘致型の地域開発手法で進められてきた経緯があり、一方、市民意識においても行政依存型の体質がうかがえる。
したがって、今後、市民・企業・行政の協働関係(パートナーシップ)を進めていくには、市民側では「住民意識の市民化」ともいえる意識改革や行政依存型の地域づくりのあり方を払拭・再編することが必要となる。
また、企業においては、固有の地場産業の高度化・サービス化とともに、地域資源や立地を活かしたコミュニティ・ビジネスなど新しい地場産業の起業化への挑戦、及びそのためのイノベーション(自己革新)が必要となる。
さらに、行政においても、これまでの官(行政)主導型の地域経営・まちづくりの手法から、市民・企業・行政協働型に大きく変容させる必要がある。そのための基本理念として、「海南地元学」(独自の地域づくり、生活づくりのために、市民自らが海南固有の風土と暮らしをテーマに即して調べ、実践的に体系化する地域学)を確立し、市民・企業・行政のそれぞれが公私にわたる“自分づくり”を進め、自助、共助、公助の考え方に基づき、「住みたくなるまちづくり」、「住みたい人が快適に住めるまちづくり」、「参加型のまちづくり」を実践していくことがポイントである。
2 当面の取組に向けて
重点プロジェクトの推進に向けて、今後の取組の足掛かりと、行政の対応の方向を示す。
(1) 重点プロジェクトの優先度
5つの重点プロジェクトは、実現可能性の高さや既に取組がみられるものによって構成されているが、若者定着まちづくり全体の方向付けや計画的な取組はこれからである。
その意味で5大プロジェクトのうち、市民参加で若者定着まちづくりのグランドデザインの確立と推進体制を構築することを目的とするAの「海南若者定着まちづくり会議創設プロジェクト」を先行的に立ち上げることが急務である。
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(2) 若者定着まちづくりに向けての行政対応の方向
若者定着まちづくりを進めるには、市民主導性を引き出す「若者定着まちづくり会議」の立ち上げとともに、地域自治の根底をなす自治会の自主性を強化し、一方で、市民参画や自治会の再編を推進するための行政の体質改善やさらなる支援体制を強化することが不可欠である。
それは、「行政をより市民化」し、「行政の文化化」を促進することである。換言すれば、市民の身近にあり、地域全体の活力や魅力の向上のための意向をくみとることができる対応力のある行政職員の育成やその契機となる意識の高揚、市民の自立自助活動の優先的支援、縦割り行政の転換を促進して総合行政に移行させる各種の組織や制度的な再編を促すことといってよい。
このような観点から、その展開の大枠は以下の点に集約される。
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参考事例:滋賀県草津市「市民と行政の協働体制構築の取組」
■草津市の概要
草津市は、滋賀県近江盆地の最南端に位置し、古くから東海道と中山道が結節する宿場町として栄えてきた。県内第一の工業都市で湖南地域の産業・経済の中心地であり、京阪神圏のベットタウンとして、また立命館大学の市内移転などによる人口増加により県内第2位の人口規模(113,449人:平成12年国勢調査)となる。
<草津市の主要データ>
■人口:11,5450(平成12年国勢調査:対平成7年度比13.4%増)
■世帯数=45,282(同上)
■昼夜人口比率=97.61%(平成7年国勢調査)
■産業別就業人口比率:第1次2.6%.第2次39.9%.第3次57.1%(同上)
■財政力指数:0.98(平成9年度)
■市民と行政の協働体制構築に向けた取組内容
草津市では、平成11(1999)年3月に策定された第4次総合計画「くさつ2010ビジョン」において、市の将来像として「パートナーシップで築く「人と環境にやさしい 淡海に輝く出会いの都市」」を掲げ、市民に身近な行政として、住民自らの創意と工夫による地域に根ざした自主・自立のまちづくりを、市民と行政の協働(パートナーシップ)により推進することを目指している。その具体的な取組として、平成12(2000)年に設置されたパートナーシップ推進課を中心に、行政内部での検討会や、学識経験者、まちづくり市民活動者などによる研究会を設置し、行政組織改革とともに全庁的な職員意識改革運動を推進するとともに平成13年度から市民会議を発足し、市民と行政のパートナーシップ確立に向けて総合的、実践的な活動を展開している。