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2 行政の動き
(1) 地方分権
 平成5年に、衆参両院において地方分権の推進に関する決議がなされ、平成7年には地方分権推進法が成立した。同法により、地方分権推進委員会が発足し、平成8年の第1次勧告を皮切りに、第5次までの勧告がなされた。そして、平成12年には分権推進一括法が成立し、国から地方公共団体及び広域連合へかなりの権限が移譲された。現在、地方分権推進委員会を引き継いで、地方分権改革推進会議が地方分権を進めている。
 地方分権により、自治体が自らの判断で決定できる範囲が拡大した。これは、自治体の責任範囲が拡大したことを意味する。業務量が増大した一方で、財源は増加していないため、自治体内の業務の効率化や総合化を図る必要がある。自治体の組織構成に関する自由度が増加したが、適正な規模に職員数を抑えることも必要となっている。また、地方分権を活かして、地域条件に合った個性的な政策を立案、実施するため、総合的な人材育成も求められている。
(2) 行政改革
 地方分権や規制緩和の推進、市民意識の高まり、財政状況の悪化などを背景として、多くの自治体で行政改革が進められている。
 地方分権に対応するため、政策形成機能の充実・強化が叫ばれ、職員の能力開発・意識改革が推進されている。これらと平行して、市民参加のしくみづくり、組織の見直しも行われている。
 市民意識の高まりを受けて、行政運営の公正さの確保と透明性の向上の必要性が増している。そのため、都市部の自治体などでは、情報公開条例を制定し、請求に応じて行政情報を公開したりしている。一方で、個人情報の保護に注意が払われている。
 財政状況の悪化などを理由に、行政の事務事業の見直しや効率化が推進されている。三重県をはじめとして多くの自治体が、すでに行政評価を導入し、個々の業務などに関して評価し、その結果を公表している。このような結果を踏まえて、事務事業の廃止、縮小、統合、簡素化、あるいは、民間委託などがなされている。
(3) 住民参加の制度づくり
 社会的に合意形成を得るために、多くの自治体だけではなく、中央官庁においても、市民参加に関する様々な取り組みがなされている。
 旧建設省は、平成4年に都市計画法を改正し、その中で、市町村の都市計画マスタープランを導入した。その策定に際して、市民の意見を採り入れる機会を積極的に設けるように法律で義務づけた。そのため、アンケート調査や住民説明会の他にシンポジウムやワークショップなど、新しい参加の仕組みを取り入れる自治体が増えてきている。
 また、旧建設省は、長良川河口堰に対して、無駄な公共事業、あるいは、自然破壊という市民からの批判や反対運動に危機感を抱き、河川法を改正し、河川事業の意思決定に住民参加の道を開いた。すなわち、河川に関する計画作成に際して、地元住民に対する意見の聴取を義務づけた。
 このほかにも、道路整備などに関して、パブリック・インボルブメントという手法も取り入れられている。これは、政策形成の段階で人々の意見を吸い上げようとするために、人々に意思表明の場を提供するものである。従来の市民参加と比べて、計画段階から参加を図り、参加の対象も住民だけでなく、種々の関連団体も含めている。
(4) NPO法の制定
 特定の非営利活動を行う団体に法人格を付与することなどにより、ボランティア活動をはじめとする市民が行う自由な社会貢献活動としての特定非営利活動の健全な発展を促進するため、平成10年に、特定非営利活動促進法(NPO法)が制定された。
 平成13年12月14日現在の認証累計数は、全国で5,543件、静岡県で155件となっている。
図表1−4 特定非営利活動促進法に基づく申請受理数及び認証数・不認証数(暫定数)   
  受理数 (累計) 認証数 (累計) 不認証数 (累計)
全国合計 6,453 5,543 25
静岡県 174 155 0
注:平成10年12月1日〜平成13年12月14日累計
出典:内閣府ホームページより作成
 全国のNPO法人の分野構成は、次の図のとおりである。保健・医療・福祉が圧倒的に多く、続いて、まちづくり、子供の健全育成、社会教育の順となっている。
図表1−5 NPO法人の分野構成(全国)
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注1 : 「活動上の連絡、助言・援助活動」とは、「以上の団体の運営、活動上の連絡、助言・援助活動」
注2 : 複数回答
出典 : 経済企画庁「平成12年度 国民生活白書」平成12年11月
 静岡県(平成13年10月30日現在)では、保健・医療・福祉61.6%、社会教育58.9%、活動上の連絡・助言・援助活動53.0%、まちづくり47.0%、子供の健全育成44.4%、環境保全33.1%、文化・芸術・スポーツ32.4%となっている。
図表1−6 静岡県のNPOに対する支援状況   
環境整備 [1] 条例及び規則の制定 (H10〜)
[2] 法人県民税の減免 (H10〜)
[3] 本庁にNPO推進室、9つの県行政センター内にNPOの相談窓口を設置 (H11〜)
啓発、人材・団体育成 [1] NPO市民大学院の開設 (H13)
[2] NPO市民公開講座の開催 (H12〜)
[3] NPOマネジメント養成塾 (H12〜)
[4] ふじのくにNPO活動センター設置 (H11〜)
[5] NPOアドバイザーの派遣 (H12〜)
情報提供 [1] インターネットでのNPO団体紹介 (H11〜)
[2] NPO活動センターの図書・資料の充実 (H11〜)
NPOへの業務委託 情報誌・ホームページの作成、講座の開催 (H12〜)
行政とNPOの連携 NPOアイディア活用協働推進事業 (H13)
出典:静岡県NPO推進室資料より作成
 なお、全国の自治体を対象に行った「NPOに対する地方公共団体の支援施策等に関する調べ」(平成13年9月)によればNPOに対する独自の補助制度を持っているのは、平成13年において、福島、群馬、埼玉、神奈川、山梨、香川の6県と、仙台や大阪などの20以上の市区である。NPO活動を支援する基金は、青森、岩手、秋田、埼玉、神奈川、岐阜、愛媛、高知、宮崎の9県が設置している。NPOに関する条例や要綱、指針などについては、21都道府県と札幌や鎌倉など15以上の市区で定められている。NPO支援センターは21道府県と横浜や神戸など40以上の市区で整備されている。
 多くの市町村では、ボランティア活動支援について、福祉分野以外に対象を広げる動きが目立っている。NPO、市民団体、ボランティアの情報の一元化に向けて、社会福祉協議会との連携や調整が不可欠になっている。また、活動分野が比較的広いNPOと従来の地縁団体との調整も課題となっている。
 静岡県では、上記のように、環境整備、啓発、人材・団体育成、情報提供の面でNPOを支援している。また、NPOへ業務委託を行っているとともに、NPOと行政の連携も図っている。
(5) 行政の課題
 いずれの地方自治体にとっても、高齢化への対応が最重要課題の一つになっている。我が国は、先進国の中で高齢化のスピードが最も早く、平成12年において、老年人口比率(65歳以上の人口の比率)が17.7%となっている。この比率は、平成27年には25%を超えると予測されている。平成12年から始まった介護保険制度は、地域社会における高齢者の福祉の充実や生活支援体制の構築を目標としている。これらのサービスの提供者として、公的セクターだけではなく、市民団体などの多様な主体が必要となっている。
 また、価値観の多様化にともなって、公共サービスに対する住民のニーズも多様化しており、地方自治体単独では個々のニーズヘの対応が困難になってきている。行政にとって、公平性が重要な価値基準の一つであり、福祉分野などにおいて、一定の公共サービス以上のサービスを必要とする市民への対応が課題となっている。
 組織面において、自治体は、個性的な政策立案能力の不足、行政の硬直性、財政難などの課題に直面している。
 以上のようなことから、自治体による地域運営の限界が指摘されるようになり、また、自治体内部でも同様な認識がなされるようになってきている。








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