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第4章 横須賀市の景観実態
1 景観実態調査について
(1) 景観実態調査の位置づけ
 先に示した、空間モデルによる横須賀市の景観の現状の解読を補うために、ここでは沿岸域における景観実態に関して調査分析を行う。
(2) 景観実態調査の対象地区
 調査対象地区の選定にあたっては、先に示した「空間モデル」の各タイプを代表することを基本として、以下の3地区を選定した。
図表4-1 調査対象地区の選定
調査対象地区 選定のポイント 特   徴
[1]中央地区 「磯浜モデル・丘陵迫り型」
沿岸部の埋め立て、建物の高層化により、空間構造自体に大きな変化がみられる。  
・埋め立てによる海岸線の前進、建物の高層化、により、丘陵部からの海への眺めに大きな変化がみられる。
・沿岸部における限定的な土地利用により、市街地と海との関係が希薄となっている。ただし、その一方で、港湾緑地や「海と緑の10,000mプロムナード」等の整備により、市民と海とのつながりの回復も進められている。
[2]秋谷地区 「磯浜モデル・丘陵迫り型」
景観変化は見られるものの、空間構造自体に大きな変化は見られない。
・空間構造の変化は少ないが、近年少しづつ高層建築が建ちはじめると共に、丘陵頂部に住宅が建ち始めており、今後の景観改変が危惧されている地区である。
[3]浦賀地区 「浦モデル」
景観変化は著しいものの、空間構造自体の大きな変化は見られない。
・湾部の海岸沿いには造船所や港湾施設が立地し、海や対岸への眺めが阻害されていると共に、沿岸部の一般利用が行いにくい状況にある。
・海岸線沿いの平坦地にマンションを中心とする中高層建築が建ちはじめており、今後の景観改変も危惧される地区である。
 
(3) 景観実態調査の方法と調査項目
 第3章においても述べたように、横須賀市の沿岸域においては市街化の進展に伴って、その景観(眺望)に変化が見られると同時に、沿岸部における土地の利活用にも変化が見られる。
 具体的には、沿岸部における埋立て(市街化の面的拡大)や建物の高層化(市街化の鉛直的拡大)により、地区の空間構造に根ざした特徴的な景観(眺望)が失われている場合や、沿岸部における限定的な土地利用(港湾物流施設や工場等)により、市街地と海との関係が希薄となっている場合等である。
 このため調査は、以下の2つ項目について行うものとする。
 
ア 主要視点場からの眺望調査
 はじめに、眺望調査を行う上での基礎的な情報として、地区内に立地する建物の階高の状況を整理する。具体的には、「平成7年度 神奈川県都市計画基礎調査」において示された建物階高の調査結果、及び最近の動向を補うための階高の現地調査を基に、対象地区内の建物の配置・階高の状況を整理・把握する。
 次に、沿岸部における建物の配置・階高の状況を踏まえ、主要視点場から見た対象地区の眺望の特徴を把握・整理する。
 なお、先にも示したように、本章で行う景観実態調査は、基本的には先に行った空間モデルによる横須賀市の景観の現状の解読を補うことを目的としており、また同時に、空間モデルによる景観の解読が実地に即したものであるかについての検証という意味合いも含んでいる。このため、主要視点場の選定にあたっては、調査対象地区が該当する空間モデルに特徴的な視点に対応した場所を選定する。
 
イ 沿岸部における土地の利活用調査
 沿岸部における土地の利活用の実態を把握するために、以下の項目について調査を行う
(ア) 沿岸部へのアクセス性に関する事項
・ 沿岸部への一般車両のアクセス状況
・ 沿岸部への一般歩行者のアクセスの状況
・ 一般車両の駐車場の分布
(イ) 沿岸部における一般市民の活動・利用(魅力施設)に関する事項
・ 緑地・公園の分布
・ 海を眺めることのできる飲食店の分布
・ 海辺関連施設(マリンショップ、マリーナ、乗船場、貸しボート屋等、海の利用を伴う各種魅力施設)の分布
・ 宿泊施設(ホテル・旅館)の分布
2 各地区の景観実態調査結果
 ここでは、先に調査対象地区として選定した「中央地区」「秋谷地区」「浦賀地区」の景観実態調査の結果を示す。
(1) 中央地区
 
ア 主要視点場からの眺望調査
 
(ア) 建物の配置・階高の状況
 「平成7年度 神奈川県都市計画基礎調査」において示された建物階高の調査結果、及び現地調査を基に、対象地区内の建物の配置・階高の状況の把握を行った。
 中央地区における建物の配置、階高の特徴は以下のようにまとめられる。
 
● 高層マンションが建ち並ぶ平成町
 「よこすか海辺ニュータウン」の建設が進められている平成町には、10階以上の高層マンションが集中して立地しており、高層マンションからなる街区を形成している。
 
● 中高層の業務ビル、ショッピングセンターが建ち並ぶ大滝町
 本地区だけでなく横須賀市を代表する商業地でもあり、都市計画の用途地域において「商業地域」に指定されている大滝町一帯には、概ね10階以下の中高層の業務ビル、ショッピングセンター等が立地している。
 
● 高層マンションや業務ビルが建ち並ぶ小川町
 小川町には、10階以上の高層マンションや、10階以下の中層のビル、学校が立地している。
 
● 国道16号沿い中高層建物が建ち並ぶ安浦町
 安浦町には、国道16号に沿って10階以下の中高層の建物が建ち並んでいる。
 
● 高層マンションが点在する日の出町
 海に面した日の出町一帯は、10階以下の中低層の建物が主であるが、所々に10階以上の高層マンションが点在している。
 
以上、中央地区の建物の配置、階高の状況に関する調査結果を図表4-3に示す。
 
(イ) 主要視点場からの眺望の状況
 
a 視点場の選定
 中央地区は、空間モデルにおける「磯浜モデル・丘陵迫り型」に該当する地区であり、市街化以前は「丘陵斜面地から水面(海)、弓状の汀線(海岸線)が見晴らせること」「海上から丘陵斜面の緑と集落が眺められること」「汀線の端部から、弓状の汀線が眺められること」「海と直交する道路や坂道から海への通景が得られること」が、本地区の空間構造に根ざした景観上の大きな特徴であったと考えられる。
 以上から、主要視点場としては、丘陵斜面地上の視点として、「[1]中央公園」「[2]豊川稲荷」「[3]龍本寺」「[4]聖徳寺」を選定した。また、海上からの視点として、「[5]猿島」を選定した。海岸線の端部からの視点として、平成町の埋立てに伴い、その東岸に近年整備が行われた「[6]海辺つり公園展望台」を選定した。丘陵地と海岸部を結ぶ坂道上の視点として、「[7]聖徳寺横の坂道」を選定した。
図表4-2 視点場とその選定のポイント(中央地区)
視点 選定のポイント
[1] 中央公園 丘陵斜面地上から、水面(海)、海岸線を見渡す視点として
[2] 豊川稲荷 丘陵斜面地上から、水面(海)、海岸線を見渡す視点として
[3] 龍本寺 丘陵斜面地上から、水面(海)、海岸線を見渡す視点として
[4] 聖徳寺 丘陵斜面地上から、水面(海)、海岸線を見渡す視点として
[5] 猿島 海上から、丘陵斜面の緑と市街地を見返す視点として
[6] 海辺つり公
園展望台
汀線の端部から、海岸線を眺める視点として
[7] 聖徳寺横の
坂道
丘陵地と海岸線を結ぶ坂から、海を見通す視点として
 
b 眺望の状況
 丘陵斜面地上に位置する[1]〜[4]の視点場のうち、水面への眺望が得られるのは、標高54mと視点場の位置が比較的高い「[1]中央公園」のみであり、その他[2]〜[3]の視点場からは、市街地の建物に隠されてほとんど眺められない状況となっている。また、[1]〜[4]のいずれの視点からも、現在の海岸線を眺めることができない。
 また、「[5]猿島」からは、丘陵斜面地下の低地部や沿岸部の埋立地に建つ建物により、後背の斜面緑地の大部分が隠されている。
 「[6]海辺つり公園展望台」からは、走水方面へと続く海岸線が眺められ、埋め立てによってできた新しい浜端部の視点場となっている。
 「[7]聖徳寺横の坂道」からは、京浜急行の高架橋、埋立地に立地する建物によって、海への通景が失われている。
 以下に、主要視点場からの眺望の状況を示す。また次頁以降に、対象地区に立地する建物の階高の状況と主要視点場の位置図をまとめて示す(図表4-3)。
 
視点[1]: 中央公園(標高:54m、海岸からの距離:600m)
 標高50m前後と比較的高い台地上に立地する中央公園からは、水面と猿島が眺めることができる。また、埋め立てによる海岸線の前進と、米が浜通、日の出町に建ち並ぶ建物により、海岸線は隠されている。
また、猿島の水際線の一部が、日の出町の沿岸部に建つマンションによって遮られている。
 
視点[2]: 豊川稲荷(標高:32m、海岸からの距離:700m)
 大滝町に建ち並ぶビル群によって、海への視界がほぼ完全に遮られており、ほとんど水面を眺めることはできない。
 
視点[3]: 龍本寺(標高:43m、海岸からの距離:700m)
 小川町に建ち並ぶビル群、マンション群によって、海への視界がほぼ完全に遮られており、ほとんど水面を眺めることはできない。
 
視点[4]: 聖徳寺(標高:24m、海岸からの距離:1000m)
 猿島の一部がかろうじて眺められるものの、水面(海)への視界の大部分は、安浦町の国道16号沿いに建ち並ぶビル群、平成町に建ち並ぶ高層マンション群によって遮られており、ほとんど水面を眺めることはできない。
 
視点[5]: 猿島(標高:2m、海岸からの距離:1300m)
 丘陵斜面地下の低地部や沿岸部の埋立地に建つ建物により、後背の斜面緑地の大部分が隠されている。また、海岸線に比較的近い位置に立地する平成町、日の出町の高層マンションが、背後の山並みのスカイラインを遮っている。
 
視点[6]: 海辺つり公園展望台(海岸沿いに立地)
 平成町の埋立地の東岸に整備された「海辺つり公園」の展望台からは、走水方向へと続く海岸線の印象的に眺められ、新しい浜端部の視点場となっている。
 
視点[7]: 聖徳寺横の坂道(標高:20m、海岸からの距離:1400m)
 かつてはこの坂のすぐ下に海が広がっていたが、現在は海岸部の埋立て(安浦町、平成町)とそこに建つ建物により海への通景はほとんど得ることができない。水面は、建物の上にその一部が見えるだけの状況となっている。








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