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(4) 浦モデル:横須賀本港、長浦、深浦、浦賀等
 
ア 空間モデルの景観的特徴
 地形的には、凹状の海岸線と海岸沿いの平坦地、それを取り囲む丘陵斜面地から構成されており、内水面(湾)の存在がその景観を大きく特徴づけている。
 海岸沿いの平坦地は、湾の両側で狭く、湾奥方向に広くなっており、海岸沿いに道路が通っている。
 湾奥部の平坦地の道路沿いには漁村集落が形成されており、かつての漁村集落の空間構造は、「磯浜モデル」の漁村集落と類似し、集落前面の海浜部は、様々な活動が行われる「共有の場」として利用されており、人々の生活と密接に結びついていた。
 丘陵斜面地やその上部には、神社や日和の場が立地し、「磯浜モデル」と同様、海や集落への眺めに優れている。特に、湾両側の丘陵地からは、内水面越しに、対岸の集落とその背後の丘陵地の緑が眺められるが、本モデルの空間構造に根ざした、内水面を挟んだ非常に緊密な景観関が生み出されている。同様の緊密な景観関係は、湾両側の丘陵地から沿岸部へと至る道路からの通景や海岸部を走る道路からの内水面越しの丘陵斜面の緑への景観にもみることができる。
 また、湾奥部の丘陵から沿岸部へと至る道路からは、両側を丘陵で縁取られた遠くまで続く海への眺望・通景が特に特徴的である。
 一方、海上からの見返り景は、背後だけでなく周囲を緑豊かな丘陵斜面地に囲まれた集落が眺められる点に特徴があるが、内水面の入り込みが深いため、沖合いの海上の視点だけではなく、湾口の端部や湾内の視点からも同様の景観体験が得られることが特徴である。
図表3-17 空間モデルの景観的特徴(浦モデル)
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イ 空間モデルの変遷と現状の認識
 沿岸部の平坦地が比較的狭いため、人口、産業の集積に伴う市街化の進展により、景観構造の大きな変化が見られる。
 市街化の進展により、湾の埋め立てが行われ、現在の沿岸部のほとんどが埋立地となっているとともに、埋立地の多くには工場や港湾物流施設が立地している。
 市街化の進展は、内水面の埋め立てによる面的な拡大が主であるが、その一方で、近年では中高層の建築物が建ちはじめており、鉛直方向の拡大も徐々に進行しつつある。
 埋立地における工場や港湾施設の立地、中高層建築物の建設により、本モデルの空間構造に根ざした本来的な景観の特徴である、内水面越しの対岸の市街地、丘陵斜面の緑への眺望や通景が、視点場前面の建物により得られにくい状況になっているとともに、対岸の建物によって視対象となる市街地や斜面の緑が隠される等、景観構造に大きな変化が生じている。
 浦モデルに特徴的な点は、空間構造の有していた景観関係が非常に緊密なものであったために、数少ない建築物の中・高層化や小規模な埋め立てといった比較的小規模な改変に対しても、景観的な特徴が大きく変容してしまうところにあるといえる。
 一方、埋め立てによる海岸線の前進と、そこに展開されている新しい土地利用(工場や港湾物流施設など)により、「海」と市街地(集落)との関係が希薄になっており、かつて海浜部が有していた意味や、集落の「共有の場」としての性格が消失しつつあることが危惧される。
図表3-18 空間モデルの変遷と現状の特徴(浦モデル)
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写真3-8 海上からみた現在の浦賀(上写真)と長浦(下写真)
 
 湾部を取り囲む斜面地には豊かな緑が残っている一方で、中高層の建築物が目立ち始めており、景観構造が変化しつつある。また、沿岸部は港湾施設や工場が建ち並び、極めて限定的な土地利用となっている。
 
ウ 景観形成に向けてのポイント
 内水面を挟んだ市街地と丘陵との景観的関係が浦モデル特徴であり、この関係をどのように保全・再生していくかが重要な点である。浦モデルでは、この景観的関係が非常に緊密で繊細であるため、保全・再生に対しても、画一的・一律的な対応では対応しきれないことが予想されるため、個々の景観に対する個別的な対応が有効であり、必要になると考えられる。
 このような観点に立った上で、内水面越しの対岸の市街地、丘陵斜面の緑への眺めをどのように守っていくかを考えていくことがポイントになる。
 もう1つのポイントは、埋め立てにより大きく変容した沿岸部の状況であり、沿岸部の状況をどのように再構成して、内水面への見通しや市民共有の利活用の場を確保していくかが重要になる。








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