写真3-5 海上からみた現在の中央地区
沿岸部は埋立てが進行し、また高層の建物が建設されるなど、背景としての丘陵斜面地と沿岸部との関係や、海への意識が希薄になっている。
写真3-6 海上からみた現在の秋谷地区
最近では、丘陵の頂部にも住宅が建ち始めていると共に、海岸沿いの道路沿いには、中高層の建築物が目立ち始めており、その景観構造の変化が危惧される。
ウ 景観形成に向けてのポイント
丘陵迫り型ならではの、丘陵、市街地、海(海岸線)の緊密な関係の在り方が重要である。具体的には、海岸線の前進、建物の高層化・稠密化に伴い、丘陵上から海への眺望、丘陵部から海浜部に至る道路からの海への通景、海上からの見返り景といった景観的特徴がどの程度変容してしまったのかが1つのポイントであり、その維持・保全と再生を考える必要がある。
もう1つのポイントは、疎遠化が危惧される海と市街地との結びつきといった課題であり、市街地と沿岸部をどのように結びつけるか、港湾緑地等の整備が進められている沿岸部のオープンスペースを市民に共有な場としてどのように利・活用できるかが、旧市街地から沿岸部へのアクセスも含め、総合的に対応を図ることが重要であると考えられる。
(3) 磯浜モデル・丘陵離れ型:北下浦、久里浜、小田和等
ア 空間モデルの景観的特徴
磯浜モデルとして、先の磯浜モデル・丘陵迫り型と共通的な特徴も多いが、丘陵離れ型には以下のような景観的特徴がある。
地形的には、弓状の汀線とその奥に比較的広範囲に広がる緩斜面地、さらにその背後の丘陵斜面地から構成されている。
かつては、海岸線沿いに設けられた道路沿いを中心に、漁村集落が点在していた。丘陵が離れているために、集落内に神社が立地することも多く、このような場合には神社から海への通景が得られることが一般的である。また、「丘陵迫り型」と同様に、海岸線に沿って走る道路は、弓状の汀線を印象的に眺める視点場でもある。
海岸線に沿って走る道路は、弓状の汀線を印象的に眺める視点場でもあり、特に汀線の端部からは、汀線の弓状の形状がより誇張されて眺められ、本モデルの空間構造に根ざした特徴的な景観を得ることができる。
海岸沿いには、漁業を基盤とする集落が形成される一方で、海岸から内陸部に広がる緩斜面地には、農地がみられ、全体としてみれば、漁業と農業を基盤とする社会構造となっていたと考えられる。
緩斜面地背後の丘陵斜面地からは、緩斜面地に広がる農地を前景として、海への眺望が得られるものの、海までの距離があることから、「丘陵迫り型」においてみられた程には顕著ではない。
また、小さな沢筋沿いには、「丘陵迫り型」と同様に、沿岸部と丘陵部を結ぶ道路が設けられているが、やはり海までの距離があることから、海への通景は、「丘陵迫り型」においてみられた程には顕著ではない。
また、海上の視点からの見返り景は、背景となる丘陵斜面地の緑と、その前面に広がる農地、海岸沿いの集落という多層的な景観が得られるが、丘陵部までの距離があることから、やはり「丘陵迫り型」程には顕著ではない。
図表3-15 空間モデルの景観的特徴(磯浜モデル・丘陵離れ型)
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イ 空間モデルの変遷と現状の認識
市街化の進展は、かつては農地として利用されていた緩斜面地の住宅地化が主であり、沿岸部の埋め立てや丘陵斜面地の開発はほとんど行われていないため、景観構造自体に大きな変化はみられない。
そのため、一般利用が可能な海浜部が比較的残っており、海岸沿いに広がる市街地(集落)と海との関係にも大きな変化はみられない。
しかしその一方で、近年、沿岸部の道路沿い及び、内陸の緩斜面地に中高層の建物が建ちはじめており、海と市街地、その背景としての丘陵斜面の緑との景観的な関係が弱くなりつつある点が危惧される。
図表3-16 空間モデルの変遷と現状の特徴(磯浜モデル・丘陵離れ型)
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写真3-7 海上からみた現在の北下浦地区
住宅地の背後に豊かな緑が残っているが、中高層の建築物が目立ち始め景観構造が徐々に変化しつつある。
ウ 景観形成に向けてのポイント
本来的に丘陵と海との関係はそれ程緊密ではないことに加え、市街地の高層化・稠密化に対しても空間的な余裕があるため、景観変化に関しては比較的寛容な空間であるといえる。そのため、丘陵部から海への眺めといった景観阻害の観点よりは、丘陵斜面の緑の景観の維持・保全を図っていくことが重要と考えられる。具体的には、斜面地開発の抑制や、市街地における建築物の高層化・稠密化、特にまとまった面的な高層化の抑制に対する対応がポイントになると考えられる。
また、現在比較的保たれている海浜部の利用性を維持し続けるためにも、海岸部の埋め立てに対して配慮し続けることが重要と考えられる