(2) 磯浜モデル・丘陵迫り型:中央、馬掘、秋谷等
ア 空間モデルの景観的特徴
地形的には、弓状の汀線とそれに沿った狭い平坦地、その背後に迫る丘陵斜面地から構成され、平坦地部には、海岸線沿いの道路に沿って、集落が点在していた。
海岸線に沿って走る道路は、弓状の汀線を印象的に眺める視点場でもあり、特に浜の端部のちょっとした突出部からは、弓状の汀線の形状が誇張されて眺められるため、本モデルの空間構造に根ざした特徴的な景観を得ることができる。このような浜の端部は「崎」「鼻」などの地名が付けられることも多く、豊かな丘陵斜面の緑とそれに抱かれた集落を眺められる視点場としても重要である。
集落の原型は、漁村集落と考えられるが、このような漁村集落では、集落前面の海浜は、揚場や作業ヤードのような生産の場としてだけでなく、「浜降り」や「浜出」と呼ばれる渡御や、集落のレクリエーションの場として利用されていたのが一般的であり、海浜部は人々の生活と密接結びついた「共有の場」となっていた。
一方、丘陵上部や斜面地からは、平坦地が狭く海岸線が迫っているが故に、平坦地に立地する集落と海を間近に見晴らすことができ、本モデルの空間構造に根ざした特徴的な景観を得ることができる。また、このような場所には、日和の場や寺社の立地などが見られることも多く、古くより特別な場所として利用されていた。
また、海上の視点からは、豊かな丘陵斜面の緑とそれに抱かれた集落を眺める特徴的な景観が得られる。このような海上の視点は、沖合いの島の存在などの地形条件により定まるものであるが、かつての漁村集落では、船に乗り沖合いから自分の住んでいる場を眺めることはかなり一般的な現象であり、このような景観体験が緑豊かな斜面地の良好な景観を保持することにつながっていたとも考えられる。
また丘陵上部と海浜部を結ぶ道路が小さな沢筋に設けられ、これらの坂道からは海への眺望(通景:ヴィスタ)に優れており、「汐見坂」等の名前で呼ばれることも全国的には多い。これらの通景が得られるのも、丘陵が海に迫っているからこそであり、本モデル空間ならではの景観的特徴であるといえる。
図表3-13 空間モデルの景観特徴(磯浜モデル・丘陵迫り型)
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イ 空間モデルの変遷と現状の認識
「磯浜モデル・丘陵迫り型」については、その後の市街地開発の度合いにより大きくその変遷の姿が異なっている。市街地開発には先にも示したように、面的拡大と鉛直拡大の2つの側面があり、鉛直的拡大(建物の高層化)は、丘陵上からの眺望、その逆の市街地あるいは海上から丘陵への眺望に影響を与え、面的拡大(埋め立てによる海岸線の前進)は、磯浜モデルの丘陵迫り型の空間構造自体の変化に結びついている。
中央・馬堀地区は、市街化開発の影響が横須賀の中でも最も強い地区であり、鉛直的拡大、面的拡大の両面での変遷が進んでいる。その結果、空間構造上の大きな特徴である弓状の汀線が失われるとともに丘陵上からの海への見晴らしも、海岸線の前進と建物の高層化によりかなりの程度で失われている。また同様の理由から、丘陵部と海浜部とを結ぶ道路や坂道からの海への通景も失われている。
一方海岸線の前進と、そこに展開されている新しい土地利用(工場・港湾物流施設等の限定的な土地利用)の下では、市街地と背後の丘陵地、市街地と海との関係が物理的にも離れたものとなっている。これは、「海」との直接的な関わりの希薄となった現代都市社会が、丘陵上の眺望の場や集落前面の海浜部が有していた特別な意味を消失しているともいえる。しかしその一方では、平成町にみられるように、うみかぜ公園や海辺つり公園等の港湾緑地が整備され、市民に親しまれる海辺づくりも進められている。
また、例えば秋谷地区のように、市街地開発の影響がそれ程顕著ではない地区では、本モデルの景観構造に根ざした特徴的な景観が比較的保たれている。しかし近年では、丘陵頂部付近の住宅建設が目立ち始めており、丘陵斜面地の緑の減少が懸念されると共に、沿岸部の道路沿いに、中高層の建築物が目立ち始めており、市街地とその背景としての丘陵斜面地の緑との景観的な関係が弱くなりつつある。
図表3-14 空間モデルの変遷と現状の特徴(磯浜モデル・丘陵迫り型)
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