5 森と川の遊学校
自然志向の高まりのなかで都市の市民の多くが、ふるさと(農山漁村)で自然体験をしたいと考えている。都会ではできない体験ができる<場>がふるさとであり、この遊学校は、鹿角にふるさとを求める「ふるさと市民」のための<ふるさと体験の場>となるものである。そして、厳しい環境にあるマスツーリズム対応型の観光にかわる(あるいは付加される)新しい体験参加型観光として位置づけ、鹿角の観光振興を図るものである。
森と川の遊学校は、十和田湖と八幡平を擁する地域の特色を生かしたアウトドアライフのメッカとして、まず市民がここに暮らすことの楽しみを知り、その楽しみを来訪者に分けてあげるというライフスタイルの確立を目指す事業でもある。これは前述の交流を基盤とした新しい観光のあり方にもつながる。
また、地域の子供たちに、ふるさとのおもしろさ、愛着を感じてもらう場として活かし、ふるさとの強い絆をもつ将来の「ふるさと市民」の育成を図る意味ももつ。
(1) 森と川の遊学校の基本概要
ア 理念
ふるさと市民の心の糧となる「鹿角の森・川」を保全、活用しながら、鹿角の森・川、まちにかかわる文化を多くの人に伝える。
イ 体験内容
図表4−7 森と川の遊学校のイメージ
ウ 対象者
図表4−8 森と川の遊学校参加対象者
期間 |
対象者 |
参考 |
土曜日や休日、休暇 |
ふるさと市民
子ども・学生・一般 |
・地域の子供たちも含む
|
平日1 |
小中学校など |
・学校の学習の一環。市内及び周辺
市町村の小中学校、幼稚園、保育
所など
・修学旅行の一環
|
平日2 |
主婦層 |
  |
企業 |
・各種研修の場
(自然に接しながら環境学習)
|
エ 展開場所など
・自然、生活文化の博物館として活用できる鹿角全域が対象。
・リピーター確保に向けて体験内容に多様性をもたせるため、集落の資源・人材などに応じて複数地域でそれぞれ特徴をもった事業を展開する。
・事業をネットワーク化することで多彩な体験メニュー、楽しみを確保して、ニーズに応えるとともに、地域での負担を軽減する。
(2) 体験プログラム(例示)
ここでは全国の事例を参考に、厳密な区分ではないが通年型・季節型に分けて例示する。内容は、自然体験と生活・文化体験で構成される。
図表4−9 体験プログラムの例
【通年型】
自然 |
森と川の遊学校 |
森や川の知識を学ぶとともに、実際に森や川に出かけて、森や動植物、昆虫を観察したり遊んだりする(ネイチャートレイル、冒険教室、バードウォッチングなど) |
保全活動 |
下枝落とし、下草刈り、里山活性化(雑木伐採、炭焼き)、川の清掃、エコキャンプ(環境学習と保全活動)など |
生活・食文化 |
クラフト教室
文化講座 |
木工(例えば椅子づくり)、手工具づくり、漆工房、わらじづくり、夏休み工作教室、野草の紙漉、花輪ばやしを学ぶなど |
食文化講座 |
野草料理、川魚の薫製づくり、郷土料理づくり、食べられる森の植物を知り・探し・食べるなど |
イベント |
森の絵画教室、森の演劇祭、川の音楽会(十和田湖畔での明治マンドリンクラブとの共演など)、森の音楽祭(八幡平音楽祭) |
【季節型】
季節 |
プログラムの例 |
冬 |
雪遊び(子供用:動物の足跡観察、雪の造形アート)
ネイチャースキー、耐寒キャンプ、きりたんぽづくり、雁木文化講座 |
春 |
山菜採り、渓流釣り(秋まで) |
夏 |
ジュニア・サマーキャンプ、ツリーハウス(樹上の家)づくり、ナイトハイク、ラフティング、カヌー |
秋 |
ドングリ拾い、きのこ狩り、炭焼きによるチャコールアート作成 |
(3) 森と川の遊学校のシステム
ア 達人・名人活用システム―伝統・文化・技術継承システム
・ふるさとに伝わる伝統・文化・技術を若い世代に継承するシステムを構築する。
・伝える人は、森林など自然と共生し、その活用・保全技術にたけている高者を中心とする人たちである。
・きのこ採り名人など、各分野での名人・達人を捜して指導者とし、この遊学校で教える。
イ 地域クラブシステム
・シーズンオフの期間など、訪れる人が少ない時期は、地域の子供達がふるさとの伝統・生活文化を学び、自然を体験する地域のクラブとして運営する。
・指導者は、高齢者や地域の人たちである。
ウ 「生徒が先生」システム
・子供の交流は、大人から教わるより同じ子供同士で学び合う方が促進される。また、知識や文化は伝え・教えることで獲得されていく。
・この現象に着目し、森と川の遊学校で学んだ生徒が、先生となって教えるシステムを構築する。
・地域クラブで活躍する子供達や「遊学校」で学んだ一般人を登用する。
エ 既存施設活用システム
・施設として最低必要な会議室・研修施設、工房、調理施設・食堂などは、学校や公民館(廃校・廃止施設を含む)、チャレンジ工房、伝統的民家を利用するなど、極力既存施設を活用していく。
・宿泊施設は既存のホテルの他、集落経営型グリーンツーリズムにおけるゲストハウス(宿泊施設)などを活用する。
図表4−10 農村で体験してみたいこと
地域項目 |
大阪府北摂の
都市住民 |
和歌山県南部の
観光客 |
宮津市山間部の
観光客 |
自然体験 |
81.1 |
53.3 |
25.7 |
生活文化体験 |
24.9 |
24.9 |
37.1 |
農林漁業体験 |
11.2 |
19.1 |
8.6 |
定住したい |
29.8 |
8.0 |
5.7 |
特にない |
7.1 |
15.1 |
28.6 |
その他 |
18.0 |
0.0 |
2.9 |
備考 |
  |
  |
近隣地方都市・農村からの客が中心 |
注)1997年宮崎猛の調査による
資料:「人と地域をいかすグリーンツーリズム」(学芸出版社)