第3章 軸系装置およびプロペラの概要
1. 軸系装置
一般に軸系装置とは主機関あるいは減速機出力軸端から後のプロペラヘ動力を伝達し、軸系およびそれに関連する装置の総称である。3・1図に示すように軸系は1軸船の場合、船首から推力軸(主機関または減速機に内蔵されている場合が多い)中間軸、中間軸受、プロペラ軸、船尾管軸受、プロペラなどの付属部品から形成されている。
軸系は主機関で発生する出力をプロペラに伝達し、プロペラにて生ずる推力を推力軸受にて船体に伝え、船を推進するもので、船舶の推進にもっとも重要なる要素をもつものである。
軸系は、その数によって1軸、2軸、3軸、4軸などの種類があり、多軸船とは2軸以上の軸系装置を有する船舶をいう。軸系は船首から推力軸、中間軸、船尾管軸(多軸船の場合)、プロペラ軸から形成される。
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3・1図 軸系装置の構造
1.1 軸系装置に関する用語とその説明
3・1図に示すような軸系装置に関する用語とその説明を述べる。
1) 軸系装置
軸系装置とは主機関からプロペラに軸出力を伝達し、船に推進力を与えるもので、軸、軸受、船尾管、プロペラなどを機能的に配列した装置を言う。
2) 中間軸
中間軸とはプロペラ軸と主機関あるいは減速機とを連結する軸を言う。一般に中実軸である。
3) プロペラ軸
プロペラ軸とはプロペラを装備する軸を言う。一般に固定ピッチプロペラの場合は、中実軸である。可変ピッチプロペラの場合は中空軸である。
4) プロペラナット
プロペラナットとはプロペラをプロペラ軸に締め付けるナットを言う。
5) 中実軸
中実軸とは軸の中心部が中空でない軸を言う。
6) 中空軸
中空軸とは軸の中心部が中空にしてある軸を言う。
7) 船尾管軸
船尾管軸とは多軸船などで船尾管内を通る中間軸を言う。
8) 10年軸
10年軸とはプロペラ軸の抜き出し検査間隔を10年としうる設計の軸系構造を言う。油潤滑式の船尾管軸受の場合で、プロペラ取付け部がキーレスおよびフランジ構造のプロペラ軸は、10年の設計条件を満足し、延長検査を受ければ10年の抜き出し検査が可能である。
9) 推力軸
推力軸(スラスト軸)とはプロペラのスラスト(推力)を推力軸受を介して船体に伝える軸を言う。
10) 軸スリーブ
軸スリーブとは海水との接触による軸の腐食を防ぐために軸に焼嵌された覆い(スリーブ)を言う。一般にプロペラ軸および船尾管軸に青銅鋳物で製造されたものを焼嵌めされる。軸受に当る部分はスリーブを焼嵌し、軸受に当たらない部分はゴムを巻いたものまたは合成樹脂(FRP)を巻いたものなどがある。
11) 軸継手
軸継手とは軸をつなぐ継手を言う。軸継手の種類としては、継手フランジが軸と一体に鍛造される一体型継手、軸にはめ込む構造の組立型継手およびスリーブによる締め付け力で軸をつなぐ構造のスリーブカップリング(3・6図)などがある。
12) 軸継手ボルトおよびナット
軸継手ボルトおよびナットとは軸継手を結合するボルトおよびナットを言う。軸継手ボルトの種類としては通常使用される平行リーマボルト(3・7図)の他にテーパボルトなどがある。
13) 軸コーンパート
軸コーンパート(テーパ部)とはプロペラまたは組立型軸継手を取り付けるために軸に設けた円すい構造のはめあい部を言う。
コーンパートのテーパはつぎのように表わす。
一般にはコーンパートのテーパはつぎのように表示されている。
固定ピッチプロペラの場合 |
    |
キー付き 1/10、1/12、1/12.5 (但し最近は1/12.5の採用はすくない。) |
キーレスプロペラの場合 |
    |
1/20 |
組立型軸継手の場合 |
    |
1/10、1/12 |
14) 推力軸受
推力軸受(スラスト軸受)とはプロペラのスラストを受けて船体に伝え、船を推進させる軸受を言う。一般に主機関あるいは減速機に組み込まれている。
15) 中間軸受
中間軸受とは中間軸を支える軸受を言う。中間軸受の種類として、白己給油式(3・8図)、強制給油式(3・9図)などがある。
16) プロペラ軸受
プロペラ軸受とはプロペラ軸を支える軸受で船尾管より船首側の船内にあるものを言う。
17) 最後部軸受
最後部軸受とは軸系装置で船内側にある最も船尾側に設ける軸受を言う。プロペラ軸受の場合と中間軸受の場合とがある。通常軸受構造は中間軸受と同じ構造である。
18) 船尾管
船尾管とはプロペラ軸または船尾管軸が船体を貫通する個所に装備する筒状の構造物である。一般に鋳鉄製あるいは鋳鋼製が多い。比較的大型船では溶接構造で船体構造の一部を形成するものである。
19) 船尾管軸受
船尾管軸受とは船尾管内にあってプロペラ軸または船尾管軸を支える軸受を言う。一般に船尾管の船首側および船尾側に装備される。
20) 水潤滑式船尾管軸受
水潤滑式船尾管軸受とは海水または淡水によって潤滑を行う船尾管軸受を言う。軸受支面材としてはリグナムバイタ、合成ゴム、合成樹脂などが使用される。
21) 油潤滑式船尾管軸受
油潤滑式船尾管軸受とは潤滑油によって潤滑を行う船尾管軸受を言う。軸受支面材としては一般にホワイトメタルが使用される。
22) 船尾管軸受裏金
船尾管軸受裏金とは船尾管軸受を構成する部分で、その内面に軸受支面材を保持する筒状の構造物を言う。一般に船尾管軸受ブッシュと呼ばれる。
23) 張出軸受
張出軸受とは多軸船などでプロペラ軸を支持するために船外に張り出した軸受を言う。通常シャフトブラケット軸受とも言う。
24) 水潤滑式船尾管軸封装置
水潤滑式船尾管軸封装置(シール装置)とは軸系の船体貫通部から船外の水が船内(機関室)に流入するのを防ぐ装置を言う。船尾管の機関室内側に装備されるもので、グランドパッキン方式のものや端面シール方式(メカニカルシール)のものがある。
25) 油潤滑式船尾管軸封装置
油潤滑式船尾管軸封装置(シール装置)とは船外の水が船尾管内に流入するのを防ぐとともに船尾管内の油が船外および機関室に流出するのを防ぐ装置を言う。船外側の船尾側シール装置と機関室内側の船首側シール装置によって構成されている。シール装置としては通常リップ式のものが多く装備されるが、端面式のものもある。
26) シールライナ
シールライナとは油潤滑式船尾管シール装置においてシールリングとの摺動部に設けられる円筒状で軸を覆うものを言う。船尾側シールライナはプロペラに固定され、また船首側シールライナは、軸上に設けられた二つ割りクランプリングに固定され軸と共に回転する。シールライナはシールリングと摺動し、密封機能を形成する。
一般には船尾側シールライナには高クロムステンレス鋼、船首側シールライナには高クロムステンレス鋼または特殊鋳鉄が使用される。シールライナはクロムライナとも呼ばれる。
27) シールリング
シールリングとは船尾管シール装置において水または油を密封する働きをするリングのことを言う。シールリングの構造としては、リップシール方式、端面シール方式、セグメントシール方式などがある。使用される材料には、合成ゴム、合成樹脂、炭素などがある。
28) 非常用シール(緊急用シール)
非常用シールとは船尾管シール装置に端面シール装置が採用される場合、端面シール装置内に装備される合成ゴムなどで作られた部品で、シールリングの損傷などでシールリングの密封性が機能しなくなった非常時にプロペラ軸停止中、圧力空気などによって一時的なシールを目的として用いられる緊急時のシールである。
29) 軸系アース装置
軸系アース装置(軸系接地装置)とは軸系と船体との電位差をなくすことによって電気的腐食を防ぐために軸系と船体を導体で結ぶ装置を言う。
30) 軸系アライメント
軸系アライメントとは軸系装置で、プロペラ軸、中間軸などの軸のたわみ、軸受荷重などを考慮した軸系の掘付け配置を言う。軸系が直線となるような軸受配置のストレートアライメントおよび各軸受の位置を上下に調整して軸受荷重の分散配分を考慮した軸受配置のオフセットアライメントとがある。
31) 軸レーキ(軸傾斜)
軸レーキとは船体の基線に対する軸系基準線(軸芯)の傾きを言う。軸レーキには、船体側面(べースライン)に対する軸傾斜と船体平面(船体中心線)に対する軸傾斜とがある。一軸船の場合、プロペラの浸水深度の関係で船体側面に軸レーキがつくことがある。多軸船の場合船体側面および船体平面の両方に軸レーキがつくことがある。
1.2 中間軸
中間軸は船舶機関規則などにより、主要寸法が決定されると共に合格した規格材を使用しなければならない。一般に中間軸は、鍛鋼製で3・2図に示すような両端は軸と一体に鍛造された軸継手フランジを有している。また艤装上の作業性などを考慮して、軸継手を3・3図〜3・6図に示すような組立型継手とすることがある。3・3図は軸継手が軸に焼嵌めされる焼嵌め方式のもの、3・4図および3・5図は、軸継手がテーパによって軸に取付けられるものである。軸継手を押込み取付ける方法にナットで押込む方式と油圧押込式のものがある。3・6図に示すようなスリーブの締め付け力によって、軸をつなぐスリーブカップリングもある。
軸継手は継手ボルトで結合される。継手ボルトは鍛鋼製で一般に広く使用されるのは3・7図に示すような平行リーマボルトである。リーマボルトの径は継手フランジのボルト穴の径に対して、或る所要の締め代をもって機械加工される。
3・2図 軸継手一体型
3・3図 焼嵌式
3・4図 テーパ式
3・5図 油圧押込式
3・6図 スリーブカップリング
3・7図 平行リーマボルト
1.3 中間軸受
一般に使用される中間軸受は3・8図に示すような自己給油式と3・9図に示すような強制給油式とに大別される。自己給油式は、鋳鉄製または鋳鋼製の上下部本体、ホワイトメタルを内張りした軸受メタル、オイルリングまたはオイルカラーで構成される。軸受下部本体は軸受支持台と油溜りを有し、油溜りの油は軸の回転によってオイルリングまたはオイルカラーでかき上げられ、軸受メタル面を潤滑する。必要に応じて油溜りは海水にて冷却される。
強制給油式は、鋳鉄製または鋳鋼製の上下部軸受本体、軸受メタル、潤滑油供給管などで構成される。この軸受は極低速回転時、軸受面の油膜形成に有利な無冷却の軸受構造である。軸受面の潤滑および冷却は潤滑油ポンプからの潤滑油によって行うので海水による冷却は不要である。
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3・8図 自己給油式
3・9図 強制給油式