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3. 潤滑油、燃料油、冷却水
3.1 潤滑油
 
1) 潤滑油の働き
 エンジン内部での潤滑油の働きは次の通りである。
(1) 潤滑作用
 各摺動部分に油膜を形成し、摩擦抵抗を減少させると共に、摩耗、焼付きをを防止する。
(2) 冷却作用
 各摺動部分から発生する摩擦熱や、燃焼ガスによって加熱された部分から熱を運び去って、過熱を防止する。
(3) 密封作用
 シリンダライナ及びピストンとピストンリングの間に油膜を作り、圧縮漏れや燃焼ガスの吹き抜けを防止している。
(4) 清浄作用
 燃焼生成物や潤滑油自身の劣化によって生じるスラッジを洗い流し、こし器で濾過して、摺動部分や機関内部を清浄に保つ。
(5) 酸中和作用
 燃焼生成物からの強酸を中和し、腐食やこれに起因する摩耗を防止する。
(6) 応力分散作用
 軸受け面に油膜を形成し、燃焼による衝撃荷重を油膜を介して分散させる。
(7) 防錆作用
 金属表面に油膜を形成し、酸化を防止する。
 
2) 潤滑油の分類
 ディーゼルエンジン用の潤滑油はJIS規格に規定されているが、一般には品質及び使用区分を分類したAPI分類と、粘度のみを分類したSAE分類の組み合わせで表示されている。
2・1表 ディーゼルエンジン用のAPIサービス内容
分類 サービス内容 慣用呼称
CA ライト・デューティ・ディーゼル・エンジンサービス用
高品質の燃料を使い、マイルドないしモデレートな運転を行うエンジン用で、軸軸受けの腐食防止性、高温酸化安定性を有する。
ストレート
(S)
CB モデレート・デューティ・ディーゼル・エンジンサービス用
マイルドないしモデレート運転で耐摩耗性、耐腐食性を要する低質燃料(高硫黄燃料)を使う無過給ディーゼルエンジン用で、軸受けの腐食防止性、高温酸化安 定性を有する。               
プレミアム
(PM)
CC モデレート・デューティ・ディーゼル・エンジンサービス用
モデレートないしシビアな運転条件の低過給ディーゼルエンジン用で高温デポジット防止性と錆、腐食、低温スラッジ防止性を有する。               
ヘビー
デューティ
(HD)
CD シビア・デューティ・ディーゼル・エンジンサービス用
広範囲の品質の燃料を使う高速、高過給ディーゼルエンジンサービス用で、耐摩耗性並びに、優れた軸受腐食防止性、高温デポジット防止性を有する。
スーパーヘビーデューティ
(SHD)
CE へビィデューティの過給ディーゼルエンジン用で、低速高荷重と高速高荷重で、運転するものに用いる。CD級より更にオイル消費性能、デポジット防止性能、スラッジ分散性能を向上させたもの。  
(1) API分類
 APIとは、米国石油業界(American Petroleum Institute)の略で需要家に対し、エンジンの構造、運転条件、使用燃料油及び添加剤の種類等、油の品質全般について分類している。
 APIサービス分類はガソリンエンジン用と、ディーゼルエンジン用にわかれており、それぞれの品質分類に要求されるサービス内容が明記されている。2・1表にディーゼルエンジン用のサービス内容を示す。
(2) SAE分類
 SAEとは、米国自動車技術協会(Society of Automotive Engineering)の略で、エンジン油については粘度のみによる分類を制定している。
SAEでは、粘度を0W、5W、10W、15W、20W、25W、20、30、40、50、60の11種類に区分している。2・2表 に代表的なもの数種に付きその性状を示す。
2・2表
SAE粘度番号 0°F(-18℃) 210°F(98.9℃)
cp cSt
5W 1,250未満  
10W 2,500未満  
20W 10,000未満  
20   5.6以上9.3未満
30   9.3以上12.5未満
40   12.5以上16.3未満
50   16.3以上21.9未満
(注) WはWinter Gradeの意味です
(マルティグレードオイルについて)
 低温において粘度が増加し、高温において粘度が減少すると云う油の特性が改善されて、低温でも高温においても規定された粘度を維持するという油が造られました。○○W−△△と云う油がそれです。
2・2表によれば5Wとか、10Wという油は−18℃の粘度のみ規定し、又20番とか30番と云う油は100℃の粘度のみ規定して、それ以外の温度での規定はありません。
 従って2・238図に示すようにAの油も、Bの油も30番の粘度を有する油ですが、100℃以外の温度では粘度が非常に違ってきます。これに対してCの油は−18℃の時10Wの粘度を有し、温度が100℃になっても30番の粘度をもっています。このように低温、高温両方の粘度が規定値を満足し、温度の変化に対して粘度変化の少ない油を粘度指数の高い油といい、温度差の大きい地方や、温度差の大きいエンジンに適用されています。
 このように低温、高温いずれでも規定値を満足する油をマルティグレードオイルと云います。
2・238図 潤滑油の粘度変化
 
3) 潤滑油の選定
 潤滑油はエンジンの種類、使用燃料の種類、使用条件などにより異なるためメーカの推奨する潤滑油を使用することが望ましいが、通常は下記を基準に選定する。
(1) 適切な粘度の潤滑油を選ぶ。
 SAEの粘度区分より適切な粘度の潤滑油を選ぶが、地域、夏冬等、気温により使い分けることもある。
(2) 適切なアルカリ価の潤滑油を選ぶ。
 API分類の内よりメーカの指定するアルカリ価を保有する潤滑油を選定する。
 
4) 潤滑油の交換基準
 潤滑油の交換時期は、エンジンの形式、運転条件、使用燃料の種類、潤滑油の種類、張込み量(補油量)補給量等により異なるので、油メーカに分析してもらい判断するのが最も望ましいが、実際には難しいので、通常はメーカの指定した交換時間を基準にして交換するか、又はオイルメーカの提示しているスポットテストにより、スラッジの混入量、アルカリ価の残存量を調べメーカの判断基準に基づき交換する。
 
5) 更油時の注意事項
(1) 異種の油を混用しないこと。
 最近の潤滑油にはいろいろな添加剤が入っているので、メーカの異なる油の使用は避けること。但しオイルメーカの許可があれば使用してよい。
(2) 不純物の混入に注意すること。
 水分、塵埃等が混入すると、運動部分の摩耗、焼き付きの原因となるので、保管、取扱に注意すること。
(3) 機関内部をきれいに掃除すること。
 残油があったり内部が汚れていると、新油の清浄性によりスラッジが洗い流され、こし器の閉鎖を起こすことがある。なお、機関内部の掃除には、毛ゴミがこし器を詰まらせるのでウエスや綿の手袋は絶対使用しないこと。
3.2 燃料油
1) 燃料油の規格
 ディーゼルエンジンに使用される燃料油には軽油と重油があり、それぞれ2・3表及び2・4表に示すように日本工業規格(JIS規格)で規定されている。
 A〜C重油は、石油製品の製造過程で作り出される軽油と残渣油を適当に混合し、所定の粘度に調整したものである。
 A重油はその90%以上が軽油分であるが、C重油は基材となる残渣油の粘度と、低粘度の軽油との混合割合で、必要な粘度が決まるので、その組み合わせは無数にある。
2・3表 軽油のJlS規格
種類\性状 反応 引火点

蒸留性状
90%留出温度
流動点

10%残油の
残留炭素分
質量%
セタン

指数(1)
動粘度
(30℃)
cSt(2)
(mm2/s)
硫黄分
質量%
特1号 中性 50以上 350以下 +5以下 0.10以下 50以下 2.7以上 0.50以下
1号 350以下 -5以下 50以下 2.7以上
2号 350以下 -10以下 50以下 2.5以上
3号 330以下 -20以下 50以下 2.0以上
特3号 330以下 -30以下 50以下 1.8以上
   (注) (1) セタン指数は、セタン価を用いることもできる。
      (2) 1cSt=1mm2/s
2・4表 重油のJlS規格
種類\性状 反応 引火点

動粘度(50℃)
cSt(mm2/s)
流動転

残 留
炭素分
体積%
水 分
体積%
灰 分
質量%
硫黄分
質量%
1種 1号 中性 60以上 20以下
(20以下)
(1)
5以下
4以下 0.3以下 0.05以下 0.5以下
2号 中性 60以上 20以下
(20以下)
(1)
5以下
4以下 0.3以下 0.05以下 2.0以下
2種 中性 60以上 50以下
(50以下)
(1)
10以下
8以下 0.4以下 0.05以下 3.0以下
3種 1号 中性 70以上 250以下
(250以下)
    0.5以下 0.1以下 3.5以下
2号 中性 70以上 400以下
(400以下)
    0.6以下 0.1以下  
3号 中性 70以上 400を超え1000以下
(400を超え1000以下)
    2.0以下    
   (注) (1) 1種および2種の寒候用のものの流動点は0℃以下とし、1種の暖候用の流動点は10℃とする。
      (2) 上表中1種はA重油、2種はB重油、3種はC重油を示す。
 
2) 燃料油に要求される性状
(1) 適当な粘度を有すること
 良好な燃焼を得るためには、適切な粘度の燃料油を使用する事が必要で、粘度が高いと霧化が悪く燃焼不良となる。
(2) 不純物の少ないこと
 硫黄分、残留炭素分、灰分、水分、バナジュウム等が多いと堆積物や、スラッジが増加し燃焼不良や摩耗の原因となるほか、腐食の原因となる。
(3) 着火性の良いこと
 着火性を示すセタン価、又はセタン指数が低いと、始動不良が発生する他円滑な運転が出来なくなる。
 
3) 燃料油の選択
 使用燃料はメーカ、機種、用途等により異なるが概略下記のようになっている。
 小形高速機関  : 軽油
 中形高速機関  : A重油
 中小形中速機関 : A重油
 中形低速機関  : A重油又はB、C重油
 大型低速機関  : C重油
 なお、A重油仕様の機関には、軽油を使用しても差し支えは無いが、軽油仕様の機関にA重油を使用すると、不純物によるこし器の早期目詰まり、硫黄分の増加による腐食等が考えられるので使用燃料変更の場合はメーカと十分打ち合わせする必要がある。
 
4) 燃料油取扱上の注意
(1) 燃料タンクやドラム缶には雨水や、海水が入らないように注意する。(タンク底には水やゴミが沈澱しているので底から吸い上げないこと)
(2) 燃料タンクの底部には、燃料取り出し口より低い部分にドレン抜きを付ける。
(3) 燃料タンクよりエンジン入口間に沈澱槽、油水分離器、精密こし器を取り付け、水やゴミ等を除去する。
(4) ドレン抜きは定期的に実施する。
(5) 燃料フィルタは指定時間毎に交換する。
3.3 冷却水
 水質の良否によって機関におよぼす障害としては、主にスケールによるものと錆(腐食)によるものとがある。シリンダヘッドや過給機のケーシングなどにスケールが付着すると冷却効果が悪くなり熱応力のために亀裂を生じる事がある。スケール発生の主因は、冷却水中のCaや、MgがCa塩や、Mg塩となって析出するためであり、全硬度の高い冷却水を使用すると発生する。なお、錆については単に冷却水の水質のみに起因するとは言い切れないが、pHが下がると(酸性が増すと)鋼などに対する腐食性が増す他、塩素イオンや、硫酸イオンは、クーラチューブなどの腐食に関係する。
 
1) 冷却水の選定
 清水には、全硬度の低い雨水や水道水を使用する。そして防錆剤を必ず投入して金属表面に強い保護皮膜を形成させ、腐食を防止する。
 
2) 防錆剤の種類と取扱について
 防錆剤には、亜硝酸塩系、珪酸塩系、酵素系などがあるが、使用にあっては、次のような注意が必要である。
(1) 濃度を適正に保つこと
 濃度が適正でないと効果が発揮できないばかりか逆に入れないときより腐食が増すことがある。
(2) 取扱はメーカの指示に従うこと
 投入法、濃度管理、廃液の処理方法等はメーカにより差があるので使用に際してはメーカの指示に従うこと。
(3) 防錆剤は水質検査にもとづき選定すること
 防錆剤選定の根拠となるのは水質検査の結果であり、検査結果にもとづきメーカと十分話合って決めることが望ましい。
(4) その他
 冷却水は年1回交換すること。
 
3) 不凍液の使用について
 冬季凍結の恐れがある場合は、不凍液を入れて使用するが、不凍液は予想される最低温度に余裕を持たせてた温度に合わせて混入量を決めること。なお、防錆剤と混用する場合は、互いに影響することがあるのでメーカの指示を受け使用すること。
 又不凍液は通常防錆剤としての機能をもたないので注意が必要である。








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