[2] 輻流式タービン過給機(ラジアルタービン)
輻流式タービン過給機はタービン扇車内をガスが半径方向に流れる形式であり、中高速機関用として多く用いられている。輻流式タービン過給機はガス流量が少なく、ガス圧力の高い場合は、理論的にも軸流式タービン過給機よりすぐれており、小形になるため中小形高速過給機関に適しており、最近では漸次従来の軸流式タービン過給機に代わって進出する傾向にある。排気ガスは2・200図の様にタービンケースの外方から流入し軸端より軸方向に放出される。タービン扇車は、精密鋳造等による特殊耐熱合金製で軸と一体、又は焼嵌または溶接構造となっている。なお、輻流式タービン過給機の多くは機関の潤滑油ポンプにより強制潤滑している。
2・200図 輻流式タービン断面図
(過給機運転上の注意)
コンプレッサ出口の給気圧力または過給機回転速度を測定し、同一運転条件時の機関記録の給気圧力(または過給気回転速度)と比較し、機関または過給機の異常点検の目安とする。また潤滑油が軸受部に正常に供給されているか、潤滑油ポンプ内蔵の過給機では油溜りの潤滑油油面、外部給油式過給機では過給機入口潤滑油圧力を点検する。その他、過給機に不具合が生じた場合は過給機から発生する音にわずかな変化が生ずることが多く、この場合負荷を下げ、聴音棒等により過給機が正常に回転しているかどうか事前に確認することも事故を未然に防ぐ上で有効である。
(a) 使用潤滑油
過給機の軸受形式により、またメーカにより多少の相違はあるが、取扱説明書に指示されたものを使用することが必要である。
一般にはディーゼル機関用と同質の油またはタービン油が使用される。近年は機関の正味平均有効圧力の上昇にともない油溜りをもつポンプ内蔵式の過給機では油溜り油温が80℃を越えるものもあり、特別の潤滑油を指定される場合がある。いずれにしても正常な潤滑油を常に使用することが好ましく、油溜りの中の水分や凝縮物をドレン栓を抜いて時々除去するとともに指定された交換時間を守ることが必要である。
(b) 使用冷却水
水冷式タービンの冷却水には清水、海水のいずれでもよいが、その出口温度はケースの腐食防止、及び水中の塩分の附着防止上から、低過ぎることも高過ぎることも好ましくない。
(c) 過給機の汚れ
過給機の汚れは、主としてコンプレッサ側では吸込空気(一般には機関室内空気)とともに霧状の油性ミスト等を吸込み、インペラ、ディフューザ、ケースおよびフィルタ等の表面に粘性の付着物がつく場合であり、一方タービン側では排気ガス中のカーボンおよび燃料中の無機物質等によりノズル、タービンブレード、ケース等に固い付着物がつく場合である。したがって汚れの度合いは吸込空気の清浄度、燃焼の状態および使用燃料によって左右されるので、汚れの早い場合は、メーカの定期的点検時間にこだわらず状況に合わせて適時に各部の洗浄を行うことが必要である。
過給機の汚れは性能の低下をまねくばかりでなく、回転部の不釣合が増すこととなり、ベアリングの損傷、インペラあるいはタービンブレードの損傷につながることから、過給機の保守の上で最も注意すべきことの一つといえる。
汚れをできるだけ防止するためには
(i) 吸込ダクトにより機関室外部より空気を吸込む方式とする。
(ii) 機関の燃焼を良好に保つ。
(iii) フィルタの除塵性をよくする。(エバーライトフィルタなどをフィルタサイレンサの外周に巻く)
等の処置をすることが必要である。
(d) コンプレッサの洗浄
前記の過給機の汚れのうち、吸気圧力が低下し、排気温度が高くなる等の機関の性能低下をまねく主原因はコンプレッサ部のインペラおよびディフューザの汚れによる場合が多い。これを防止するには過給機を分解することなく、運転中に、水または特定の洗浄液をインペラに向けて噴射し、化学的または、機械的にその付着物を除去する。
洗浄時期は、当初の吸気圧が10%程度低下した時点が、一応の基準とされているが、状況に合わせて行うのが良い。具体的な洗浄方法はメーカにより多少相違はあるが、説明書に従って実施することが大切である。また、コンプレッサのみでなく運転中にタービン部も洗浄する場合もある。
(故障原因と予防)
過給機は運転中に数万回転の高速回転をするため異物などがタービンやコンプレッサ内に入り込むと非常に強い衝撃を伴いタービンブレードやコンプレッサホイールの羽根が曲ったり折損して飛散し、大きな衝撃音が連続して発生すると同時にケースと干渉したりしてロータ軸が曲がり運転不能になることもある。このような事故は組立時に異物が排気管内に入ったり、サイレンサから吸い込んだりせぬように注意すれば避けられることである。 以下運転中に発生する主な事故と原因ならびに予防について説明する。
(イ) 過給機タービンロータ軸の焼付き
潤滑油の不足、油膜切れ、ガス浸入などにより発生することが多く、特に潤滑油フィルタの詰り、汚れ等による給油不足の他に始動時のウィング不足や、高負荷運転後の機関急停止など取扱い上の不注意により発生する場合が多い。
(ロ) タービンブレード破損
殆んどの場合は吸排気弁傘部の欠損による破片がタービンブレードに巻き込まれ二次的事故として破損することがある。運転中タービン部から異音が発生したら直ちに機関を停止し、タービンブレードを点検することが重要である。ブレードが曲ったり折損していると高速回転におけるバランスが崩れ、振動が出たり、タービンロータ軸が曲り、大事故となる恐れがある。吸排気弁のスキマを点検するか各シリンダの圧縮状況を点検して傘部欠損シリンダをさがすことが大切である。
(ハ) タービンケースの赤熱
排気温度が異常に高い場合であり、過負荷運転、燃焼不良によるアフタバーニング、機関室温度の異常上昇、排気弁からのガスもれの他、空気冷却器の汚れによる冷却効果の低減、などにより発生する。但し夜間などはタービンケースが赤熱して見えることもあり、正常な排気温度か否かを点検する必要がある。
(ニ) 給気圧力の低下
サイレンサカバー(フィルタ)の汚れ、コンプレッサホイールの汚れ、タービンブレードのカーボン汚れ、タービン背圧が高過ぎるなどのほか吸気系統のもれ及び排気ガスのもれなどがある。 コンプレッサホイールの汚れ清掃は少量の清水を高負荷運転中に注入して行う方法もある。またサイレンサのスポンジフィルタは中性洗剤で洗ったあと清水で良く洗って陰干しにして使用する。 背圧がメーカの規定値を越える場合は悪影響が出るため、抵抗を少なくするように配管しなければならない。
(ホ) コンデンス現象によるトラブル
大気の湿度が高い時に高過給機関では空気冷却器内の温度低下が大きく空気中の水蒸気が凝縮して大量のドレンを発生することがある。
この多量なドレンを機関に吸い込ませると、運転中再び蒸気となり排出されるので直ちに事故とはならないが、吸気弁やライナの腐蝕などを促進したり、また停止中にシリンダ内へ流入し、弁およびシート、ライナ、ピストンリングなどに錆を発生させるためできるだけ凝縮水をシリンダ内へ吸い込ませないようにすることが大切である。
このため殆んどの空気冷却器にはドレンコックを設けたり、ドレンセパレータを設けており、運転中にはこれらのドレンコックを開いてドレンを排出することが湿度の高い時には必要である。ドレンコック開放運転による給気圧力の低下はそれ程、大きな影響はない。
(ヘ) サージング現象
コンプレッサ側に発生する不安定な運転状態であり、故障ではないがコンプレッサホイールが正転しているにもかかわらず圧縮空気が逆流し、振動と大きな騒音を発生する。この現象をサージングと云い高速高負荷運転中、急激に低速回転域へ調速ハンドルを操作した時に発生し易く、特に空気冷却器の空気通路が汚れ不純物が堆積して通路が狭くなっている場合は中低速高負荷運転時に発生し、運転不能となることもあるため空気冷却器は定期的に清掃することが大切である。サージング現象が連続して発生する場合は機関回転数を下げるか負荷を減少して早く脱出することが重要である。
2)空気冷却器
(1) 装備の目的
過給機は機関に多量の空気を供給するために使用される。これは給気圧力を高くし密度の高い空気を機関に送り込むことであるが、そのため機関出力を増大することが可能となる。しかし密度の高い空気を作るには給気圧力を上昇させるほかに給気温度を低下させることによっても同様の効果を得ることができる。したがって過給機を使用して給気圧力を上昇させ、さらに空気冷却器を使用して給気を冷却することにより出力の増大を図っている。
(2) 空気冷却器の構造
空気冷却器の構造を2・201図に示すが、アルブラックまたはエバブラス製の内径10〜20mmの円管、あるいは偏平管に銅または耐蝕性アルミ合金製の円形または矩形の薄板フィンを接着させてある。管内に清水あるいは海水の冷却水を流し、圧縮空気はフィンの間を通過する際に冷却される。
なお空気中の湿度の高い時には、圧縮空気を空気冷却器で冷却すると、空気中の水蒸気が凝縮して水滴となる。このため梅雨時期等には運転中に空気冷却器または吸気管下部に水分が溜ることがある。発生した水分の一部はシリンダ内に吸入されるが、少量ならば運転上支障はない。ただし空気冷却器の水漏れとは区別する必要がある。多量に出る時は吸気弁保護のため常時水分を排出する必要がある。
2・201図 空気冷却器の構造