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2.3 動弁装置
 ピストンの動く位置に応じて、吸排気弁をタイミングよく開閉させる機構であり、一般にクランク軸の回転を、クランク軸に焼嵌されたクランク歯車から、中間歯車を介してカム歯車に伝え、カム軸に設けられた吸排気カムにより、タペットを上下に動かしこれに連動する弁押し棒(プッシュロッド)により弁腕(ロッカアーム)を動かす。弁腕先端は弁腕支え台に支えられた弁腕軸(ロッカシャフト)を支点として上下に動き、弁押し棒と反対側で吸排気弁それぞれの弁頭に動きを伝え、弁を上下に動かして開閉させる。この一連の装置を動弁機構と云う。なお、殆どの機関は、シリンダヘッドの上部に弁、弁バネ、弁腕、弁腕軸などを囲って弁腕室を設けエンジンオイルで強制潤滑しているが大型機関では弁腕室のみ別のオイルで潤滑する構造としたものが多い。
2・74図 動弁機構図
 
1) クランク歯車、中間歯車、カム歯車
 これらの歯車を調時歯車(タイミングギヤ)と云い機械構造用炭素鋼又は特殊鋼などで造られ、歯形には、平歯、ハスバ歯が用いられるが高速機関には騒音面で有利なハスバ歯車が多く使用されている。
 歯面は浸炭焼入れ又は高周波焼き入れして硬度を上げ耐摩耗性を向上させている。


2・75図 ギヤトレイン
2・76図 中間歯車の取り付け


 クランク歯車は殆どがキーで位置決めをし、焼嵌めによりクランク軸に取り付けられており、これら噛合伝動系(ギヤトレイン)の起点となる歯車である。
 2・75図は、ギヤトレインの一例であり、タイミングを合わせるためにそれぞれの歯車には噛合いマークが打刻されている。
 中間歯車はクランク歯車とカム歯車の中間にあって回転を伝える歯車である。中心に軸受けブッシュを圧入して中間歯車軸台に取り付け、挿入側に歯車が抜け出さないようストップリングか押さえ板が取り付けられている。
 カム歯車はカム軸にキーで位置決めしてナットで固定するか、押さえ板を介してボルトで締め付け固定している。潤滑は殆どの場合飛沫注油であるが中間軸ブッシュヘは、シリンダブロックからパイプで強制注油している。
 
2) カム軸と軸受けブッシュ
 カム軸には吸排気カム、燃料噴射ポンプカムを、軸と一体で鍛造または鋳造したものと、カムと軸を別々に造り、軸にカムをキー止め又は焼嵌めする方式とがあり小形機関には殆ど一体鍛造のものが使われている。軸受け部とカム表面には高周波焼入れを施して硬度を上げ、耐摩耗性の向上を図っている。又、カム表面は焼き入れ後、研磨によりカムプロフィルを正確に形成させている。なお、最近の高速機関には列形噴射ポンプが使われており、これらの機関では吸排気カム軸と燃料カム軸は別々につくられている。
 カム軸はシリンダブロックに設けられたカム軸受け孔へ軸受けブッシュを組み付け、この軸受けを介して支持されており、4サイクル機関ではクランク軸の1/2の回転で廻され、吸入、圧縮、燃焼、排気の行程を完了するのに丁度1回転するように作られている。
 軸受けブッシュヘの注油はシリンダブロック内に設けられた油孔から各軸受けブッシュの油孔を通して供給される。
 カムリフトは2・77図に示すようにカムの最大径と最小径との差であり、このリフト量が弁腕の長さの比率に応じ、吸排気弁の作動リフト量になる。
2・77図 カムリフト
 
3) タペット
 タペットはカム表面に接触し、タペット孔を上下に動きその動きをプッシュロッドを介して弁腕に伝える役目をしている。
タペットには2・78図に示すように、接触面にローラを使用したもの、平面又は曲面を持つキノコ形(マッシュルーム形)又はピストン形のもの及びレバーを介してタペットを動かすもの等がある。
 カムとの接触面は焼き入れして耐摩耗性を向上させているが小形高速機関によく使われるピストン形やキノコ形のタペットにはチル鋳鉄が多く使用されている。
 キノコ形及びピストン形のタペットは、カム接触面が均一に当たるように、殆どの機関はカム巾の中心とタペットの中心とをずらし(オフセットして)運転中にタペットが回転するようにしてある。(2・79図)


2・78図 タペット
2・79図 タペットの取付け位置け


4) プッシュロッド(弁押し棒)
 プッシュロッドはタペットの動きを弁腕に伝える役目をしており、高速運転時には大きなバネ荷重と慣性力が働くため、重量が軽く、且つ圧縮に対し十分なる強度を有する材料が要求される。又機関からの熱を受けるので、熱膨張の少ない材料が望ましい。そのため丸棒又は中空丸棒が使われ2・80図Aに示すような形状に加工し、耐摩耗性を上げるため両端を表面硬化するか、B又はCの如く焼入れ硬化した凸球面又は凹球面状の部品を両端に溶接して使用している。
2・80図 プッシュロッドの形状
 
5) ロッカアーム(弁腕)、ロッカシャフト(弁腕軸)、弁腕軸支え台
 弁腕は、弁腕軸支え台に固定された弁腕軸を支点にして、弁押し棒の動きを吸排気弁に伝える役目をしている。弁腕には可鍛鋳鉄又は鍛造材が使用され、弁との接触面には焼き入れ又はチル硬化により耐摩耗性を高めている。又弁腕軸に嵌る部分にはブッシュを入れ軸受けとしている。
 弁腕軸支え台は鋳鉄で造られ、ボルトでシリンダヘッドに固定されている。又弁腕軸両端にはサークリップ等を入れ弁腕の抜け出し防止処置が施されている。
 なお、4弁式ヘッドには2・81図に示すようなT形のレバーを使用し弁腕の動きを同時に2本の弁に伝える構造となっている。
2・81図 ロッカアーム部分の構造
 
6) 吸排気弁及びコッタ
 吸排気弁は、カムの動きをタペット、プッシュロッドを介して作動する弁腕により、シリンダヘッドに圧入されたバルブガイド(弁案内)に沿って上下に作動し、シリンダ内の吸排気をタイミング良く行うと共に、弁バネによって弁シート面が、シリンダヘッドに設けられた弁座シート面に密着してシリンダ内の気密を保持している。
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2・82図 コッタの形状
 従来の機関には吸気弁、排気弁各1個のものが多く、吸気効率を高めるため吸気弁傘部の径を排気弁傘部の径より大きくしていたが、シリンダ径が大きくなるに従い、又高過給機関の出現により最近の機関には3弁式、4弁式が多く採用されている。
 弁には耐熱鋼が使用され、シートの角度には90°と120°の2種類が採用されている。又シート部には高温でも硬度低下の少ないステライト鋼を溶着して一段と耐摩耗の向上を図っている。又弁棒上端部近くには、弁バネ受けを固定する弁止環(コッタ)を嵌め込む溝が加工されており、2・82図に示すような構造となっている。又弁棒上端の耐摩耗性を高めるためキャップを設けているものもある。
 
7) バルブガイド(弁案内)及びステムシール
 バルブガイドは一般には鋳鉄等で造られ、シリンダヘッドに圧入されている。弁案内の内面に沿って吸排気弁が上下運動をしており弁の着座位置が変わらないように位置決めすると共に弁からの熱を放出する役目をしている。
 ステムシールは、バルブガイドの上部に取り付け、弁とバルブガイドの隙間より必要以上の潤滑油が吸排気ポートや弁傘部へ流れ落ちるのを防止している。
2・83図 ステムシール
 
8) 弁バネ
 弁バネは、弁バネ受けを介して弁を持ち上げ、弁シート面を弁座シート面に密着させシリンダ内の気密を保持すると共に、高速回転時にも弁腕、弁押し棒を介してタペットがカム面から離れないようにして、カムの運動を正しく弁に伝える役目をしている。
2・84図 不等ピッチスプリング
 バネには、通常円形断面のピアノ線又はオイルテンパ線を巻いたコイルスプリングが使用されている。又最近の高速機関には、弁系統の耐久性の向上、騒音の低減を図るため高速時の弁のおどりや、サージング等の防止に効果のある多重スプリングや、不等ピッチスプリングが多く使用されている。
 
9) バルブローテータ
 運転中、弁を回転させ、弁と弁座シート面の当たりを、全周にわたりまんべんなく当たらせ、偏摩耗や、片当たりを防止してシート面の耐久性を向上さすために取り付けられるもので、最近の機関には多く採用されている。
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2・85図 バルブローテータ








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