8) クランク軸
クランク軸はピストンの往復運動を回転運動に変えると共に機関出力の取り出し軸でもある。クランク軸は連接棒大端部と連結するピン部、軸を支えるジャーナル部及びこれらを結ぶアーム部から成り立っている。
クランク軸は機関の最重要部品であり、衝撃的に作用する曲げやねじりに対し、十分な強度を有する炭素鋼やニッケルクロームモリブデン鋼等が用いられ鍛造によって造られている。
ジャーナル部やピン部には高周波焼入れを施し耐摩耗性を向上させている。又ピン部への給油のためジャーナル部からピン部へ油穴があけられている。軸端には動力取り出し接手やフライホイールを取り付けるための加工が施されている。
クランクアームには通常ピン部と反対側にバランスウエイトを取り付けて振動の軽減と円滑な回転をするようにしている。
バランスウエイトは殆どが鋳鉄で造られ遠心力で飛ばないよう丈夫なボルトで締め付けられているが、小形高速機関には、クランク軸と一体で鍛造されたものもある。
(クランク軸の焼き付きについて)
クランク軸が焼き付いた場合はカラーチェックを行い焼割れを調査すると共に、硬さも調査する。ヘアクラック程度でアンダサイズメタルが使用出来る径まで研磨してクラックが完全に除去できれば使用可能であるがその場合も必ず硬さを再チェックすること。なお、焼き付いた場合は相手側のメタルハウジングが変形していることが多いので必ず調査し異常があればメーカに相談し修正又は交換する。
2・67図 クランク軸と関連部品
2・68図 クランク軸油穴
9) 主軸受及び主軸受キャップ
主軸受けはハンガタイプではシリンダブロックの隔壁部に、台板式では台板の隔壁部に、リブで補強したボス部を設け、主軸受キャップと共加工して内にクランク軸のジャーナル部を支える主軸受メタルを納めるハウジングである。
主軸受部へはいずれもメーンギャラリからドリルで加工された油孔から潤滑油が給油されるようになっている。主軸受キャップとは合せ面がズレないようにノックピンやインロなどで位置決めされると共に主軸受側との組み合わせ番号が打刻してある。ハウジング内面はメタル裏金との密着性を良くするため規定トルクで締め付けた状態で精密な仕上げがなされている。
2・69図 主軸受けの構造と注油孔
10) 主軸受メタル(ジャーナルメタル)
主軸受メタルは主軸受ハウジング内に納められ、内面でクランク軸のジャーナル部を支えクランク軸を回転させるメタルである。メタルは衝撃力に近い大きな力を受けるためこれに耐え、摩耗が少なく、熱伝導の良い材料が要求される。従来は厚肉のホワイトメタルが使われていたが、最近の機関は高出力化により、クランク軸の軸受部を焼入硬化しているため、連接棒大端部メタル同様耐圧荷重が高く耐疲労強度、耐腐食性、に優れたケルメットやアルミの三層メタル(完成メタル)が多く使用されている。
11) スラストメタル
クランク軸が軸方向に移動しようとする力を受ける軸受けである。通常はクランク軸には大きなスラスト力は働かないようにしてあるが、機関台の傾斜などによって生ずる小さなスラスト力を受け止めるために設けられている。
台板式の場合は中心部分に位置する主軸受けを基準とするため、これの両側にスラストメタルが設けられ、ハンガ式の場合はどちらかの軸端ジャーナル部分にスラストメタルを入れスラスト力を受けるようにしている。
スラストメタルは一般には2・70図に示すように半月形のメタルを上下組み合わせて用いられているが中には主軸受メタルと組み合わせて一体形に造られたものもある。
2・70図 スラストメタル
12) 主軸受キャップ締付ボルト
クランク軸の衝撃力を主軸受を介して受けるため、クロームモリブデン鋼などの特殊鋼で造られている。ハンガ式ではクランク軸の自重も加わり、より大きな力が働くので十分な強度を持たせている。重要なボルトであり整備マニュアルに従って片締めや締め過ぎ、締め不足にならないよう規定のトルクで締め付けることが重要である。
13) フライホイール(勢車)
フライホイールはクランク軸端に取り付け、燃焼行程の余分なエネルギをフライホイールに吸収させ、他の行程では、その回転惰力のエネルギを吐き出させクランク軸の回転を円滑にさせる重要な役目を持っており、一般に鋳鉄製で外周リムの断面を有する車輪形状に造られている。
クランク軸への取り付けは2・71図に示すように、テーパ式又はフランジ式の構造となっている。テーパ式は小形機関に用いられ電気始動機関の場合は駆動用のリングギヤを外周に焼嵌めしている。又フライホイールの外周にはクランク位置やタイミングマーク等が打刻され、位置合せやタイミング合わせに使用している。
2・71図 フライホイールの取付け構造
14) ダンパ(減衰器)
ダンパはねじり振動の振幅が一番大きくなる軸端等に取り付け、ダンパの慣性体の動きで、振動エネルギをおさえ、ねじり振動による被害を低減させるものである。
2・72図 ダンパの構造
ダンパには振動エネルギの吸収材として、ゴム、粘性液等を使用しているためある程度の劣化は避けられず定期的な修理、交換により事故を防止する必要がある。
ダンパにはダイナミック式、固体摩擦式、粘性摩擦式、ゴム内部摩擦式等がある。2・72図にその一例を示す粘性摩擦式では隙間Cに封入されたシリコンオイルの粘性摩擦により又ゴム内部摩擦式ではゴムDのヒステリシスによる内部摩擦によりねじり振動エネルギを吸収している。
15) バランサ装置
ピストンが往復運動するエンジンでは、クランクピン及び連接棒大端部による回転慣性力の他に、ピストン、ピストンピン、及び連接棒等による上下方向の慣性力が発生し、エンジンを振動させる力として作用しているが、この不釣合慣性力を取り去り、エンジン振動を軽減する機能を持つのがバランサである。バランサにはクランク軸と同回転で回転する一次バランサと、2倍の回転数で回転する二次バランサとがあり、3気筒又は4気筒のエンジンに多く使用されている。2・73図に二次バランサの一例を示す。
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2・73図 二次バランサ