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2.4 潤滑装置
 潤滑装置は、エンジンの各摺動部や回転部に潤滑油を供給し、焼付きを防止すると共に減摩、冷却、密封、防錆、等の働きによりエンジンの性能を十分に発揮させるためのものである。
 装置としては、潤滑油を供給する潤滑油ポンプと、潤滑油コシキ、油圧調整弁、潤滑油冷却器、圧力計等、の関連部品で構成されている。
 又潤滑方式には、下記に示すように強制給油式、はねかけ式(飛沫式)、オイルバス式、ジェット噴射式、等の潤滑方式があり、殆どの場合、強制給油式をメーンにして、部分的に給油が不十分な箇所に対して各方式を併用しているのが一般的である。
 
1) 潤滑方式
(1) 強制給油式
 潤滑油ポンプで潤滑油を圧送し、必要な箇所へ給油を行う方式であり、殆どの機関及び、油圧クラッチ等の主要部分はこの方式により潤滑が行われている。その一例を2・86図に示す。
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2・86図 潤滑油経路
(2) 飛沫式
 クランクケースやオイルパンに一定量を張り込み、2・87図(A)のような油掻きにより油を跳ね上げ飛沫させこの飛沫油により各部を潤滑する方式である。小形機関のクランクケース内の潤滑やピストンライナ等の潤滑に広く用いられている方式である。
(3) オイルバス式
 カム軸とタペット等の潤滑や、減速機歯車室の他タイミングギヤ室などに広く用いられると共に、ガバナ室や給油ポンプの軸受けなどの潤滑にも用いられている。
2・87図 潤滑方式
 2・87図(B)は減速機歯車室の給油図であり、減速歯車の回転により潤滑油を跳ね上げて各部を潤滑している。
(4) ジェット噴射式
 潤滑油の圧力を利用し、油パイプ先端の小孔(噴口)より潤滑油を噴射させる方式であり、ピストン裏面の冷却等に採用されている。(2・87図(C))
 
2) 構成部品
(1) 潤滑油ポンプ
 潤滑油ポンプとしては、歯車ポンプが多く用いられているが、小形機関にはトロコイドポンプも採用されている。
[1] 歯車ポンプ
 歯車ポンプは、噛み合わせた一対の平歯車を、歯車ケースの中へ出来るだけケースとの隙間を少なくして納めたものである。歯車が回転すると吸入側の潤滑油はケースと歯車の間に挟まれて吐出側に運ばれ、歯車の噛み合い部では隙間が無くなるので吐出口より送り出される。
[2] トロコイドポンプ
 トロコイドポンプは、ケース内に歯数の異なるインナロータとアウタロータが偏心して組み付けられたものである。インナロータが回転するとアウタロータも同方向に回転するが歯数及び中心が異なるため、インナロータとアウタロータとの隙間の容積が位置により異なるので、この隙間が大きくなり始める位置に吸入口を、一度大きくなって次ぎに小さくなる位置に吐出口を設ければ、隙間容積が大きくなる位置で潤滑油を吸入し、小さくなる位置で吐出される。


2・88図 歯車ポンプ
2・89図 トロコイドポンプ


(2) 潤滑油コシキ
 潤滑油ポンプから圧送された潤滑油に混入しているゴミ、スラッジその他の不純物を、運動部分や摺動部分に送る前に取り除くために潤滑油コシキが設けられている。
 以前はオートクリーン式のものも使用されていたが、最近の高速高出力化に伴い、ホワイトメタルに比べ不純物の埋没性で劣るケルメットメタルや、アルミメタル等の使用が多くなったため、潤滑油に混入する不純物を出来るだけ取り除く必要があり、そのために遠心コシキを併用したり、濾過性能の高いノッチワイヤ式やろ紙式等目の細かなコシキを使用すると共に口詰まりを考慮して容量も大幅に増大している。
 コシキのメッシュはろ紙式の場合20ミクロン程度であり、ノッチワイヤ式は30〜50ミクロン、オートクリン式は80〜100ミクロン程度のものが多く用いられており、いずれも目詰まりに備えバイパス回路が設けられていることが多い。
 特に、ろ紙とケースをセットにしたカートリッジ式、ろ紙のみ交換できるタイプのもの等ろ紙式コシキには目詰まり警報を設け、コシキエレメントの前後差圧が所定の圧力を超えると警報を発してエレメントの交換を知らせると共にバイパス回路が自動的に開いて潤滑油不足による焼き付きなどの事故防止を施している。しかしこの状態で運転を続けると焼き付きはとりあえず防止できるがゴミや不純物が混入した潤滑油が流れるので不純物による傷、摩耗は避けられないので即刻、交換又は清掃せねばならない。
[1] ろ紙式コシキ
 2・90図はカートリッジ式コシキの断面図で、潤滑油は正常な状態では実線の矢印のように流れているが、ろ紙が目詰まりを起こし入り口側と出口側の圧力差が規定値以上になると、右側のバイパス弁が開き汚れた油が濾過されずに通るようになる。
 2・91図はエレメントのみ交換できるろ紙式コシキのバイパス回路を示しており、コシキエレメントの前後の差圧が設定値以上になると、入口側の圧力がバネを押し上げて潤滑油をバイパス回路に流す構造となっている。


2・90図 カートリッジ式コシキ
2・91図 ろ紙式コシキ


[2] 遠心式コシキ
 2・92図は遠心式バイパスフィルタの断面図で中心部にスピンドルがあり、これに回転するロータが挿入され、ロータの外側にはケースが取り付けられている。潤滑油はハウジングに設けられたチェックバルブを開いてスピンドルの中心を通ってロータ内に入り、ロータ下部のノズルからハウジング内に噴射される。この反動によってロータは高速で回転するため、潤滑油に混入していた不純物は、遠心力によりロータ側面に堆積し、きれいな潤滑油は出口よりオイルパンに戻る。このように遠心コシキはろ材を使用して濾過するのではなく、遠心力により潤滑油と不純物を分離する方式である。なお、遠心式バイパスフィルタのハウジング内に設けられているチェックバルブは、規定の油圧に達するまでは開かずロータに潤滑油を流さないようにして、低速回転時の各潤滑部への油量不足を防止している。


2・92図 遠心コシキ
2・93図 ノッチワイヤ式コシキ










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