2) 応力・ひずみ線図
板状あるいは丸棒の標準試験片を材料試験機にかけて引張り、荷重と伸びを計測することにより、材料の力学的性質が求められる。試験片にかかる力Pの増加と共にそれが伸びてゆく有り様は、横軸にひずみ、縦軸に応力をとった応力・ひずみ線図で表される(補・41図)。応力とひずみは点Aまでは比例する。この範囲を弾性域という。この範囲では、荷重を取り去ると、もと来た道をたどり荷重ゼロで変形も消えて元の状態に帰る。点Aにおける応力σYを降伏応力という。これ以上にさらに荷重を増すとひずみは急速に増加し両者の比例関係は成立しなくなる。点Cに至って棒は破断する。このときの応力σBを抗張力あるいは引張り強さという。降伏応力を越えた任意の点Bで荷重を取り去ると応力・ひずみ関係はもときた道を逆にたどらず、弾性域の直線に平行に下降し、荷重ゼロでB1に達する。B点におけるひずみεのうちBlB2に当たる弾性ひずみεeは回復し、OB1に当たる塑性ひずみεpは荷重を完全に取り去っても永久に残るひずみである。この状態から再び荷重をかけるとB1からBまで弾性範囲となるが、これは降伏応力が大きくなったことに相当する。この現象を加工硬化という。
補・41図 延性材料の応力・ひずみ線図
3) せん断応力
断面積Aの鋲継ぎ手に両側から力Pがかかるとき(補・42(a))、鋲の横断面には板がすべろうとするのを妨げる抵抗力が働く(補・42図(b))。次式で定義される単位面積当たりの値τをせん断応力という。
これは考える面に平行に働く力である。長さh隔たった平行な面がeだけずれたときの相対的なずれの量、すなわち、単位長さ隔たった平行な面のずれの量γをせん断ひずみといい次式で定義される(補・42図(c))。
補・42図 鋲継手のせん断応力
ある面にせん断応力が存在すると、その面に直交する面上に、大きさが同じで、方向については、力のベクトルの矢の矢頭あるいは矢尻同士が向かい合うようなせん断応力が存在するという特性がある。すなわち、せん断応力は単独では存在せず、必ずそれに直交するせん断応力を伴う。
4) フックの法則
棒を引張ったときの垂直応力と伸びひずみ、および、鋲継ぎ手におけるせん断応力とせん断ひずみの間の関係は、弾性域内では共に比例関係にある。これがフックの法則で、それぞれ、次のような関係式で与えられる。
E[N/mm2]をヤング率あるいは縦弾性係数、G[N/mm2]を剛性率あるいは横弾性係数という。これらは、材料に固有の材料定数である。棒を引張れば、軸方向に伸びるが横方向には縮む。この横方向の圧縮ひずみεtと縦方向の引張りひずみεとの比νはポアソン比と呼ばれ、次式で定義されるが、これも材料定数である。
等方性材料では、独立な材料定数は以上の3個である。
5) モールの応力円
物体内の応力は、その働く面の位置と方向が与えられて初めて大きさと方向が決まる。一般には、力の方向は面に対して傾いているので、ベクトル的に分解して、垂直応力とせん断応力に分けて考える。せん断応力が存在しない面に働く垂直応力を主応力といい、その面を主応力面という。主応力面は互いに直交しており、主応力は考える点における最大および最小の垂直応力である。最大せん断応力は主応力面と45度をなす面で生じる。
直径dの棒を力Pで引張ったとき、M[N/mm2]の曲げモーメントで曲げたとき、あるいは、T[N/mm2]の振りモーメントで捩ったときに棒の横断面に生ずる応力の分布を、それぞれ、補・43図に示す。
引張ったときには断面全体に次式で与えられる一様な引張り応力σが生ずる(補・43図(a))。
曲げたときには、中立軸からの距離に比例して、へこんだ側は圧縮の、出張った側は引張りの垂直応力が分布する(補・43図(b))。中立軸は中心を通る曲げモーメントの軸NNで、伸びも縮みもしない。最大の曲げ応力σmaxは(曲げモーメント)/(断面係数)で与えられるが、円形断面に対しては、次のようになる。
断面が、幅b[mm]、高さh[mm]の長方形の場合には、次式で最大曲げ応力が与えられる。
捩ったときには、断面全体にわたって、中心からの距離に比例し、円周の接線方向に向いたせん断応力が生ずる(補・43図(c))。最大のせん断応力τmaxは次式で与えられる。
これらの図には、代表的な直径に沿う応力分布を示した。内径d[mm]、厚さt[mm]で内圧p[N/mm2]を受ける薄肉円筒の圧力容器に生ずる応力は、平面応力あるいは2次元応力と呼ばれる(補・43図(d))。フープ応力あるいは円周方向応力σθおよび軸応力σzは、それぞれ、以下の式で与えられる。
これらの応力分布はすべて外力と応力の釣り合い式より求められる。
物体内のある点における任意の面とその面上の応力との関係はモールの応力円によって与えられる。これは横軸に垂直応力を、縦軸にせん断応力をとり、最大主応力σ1と最小主応力σ2を与える横軸上の2点を通る線を直径とする円である(補・44図)。いま考えている面の法線と最大主応力面の法線のなす角度θの2倍の角度2θを、円の中心Cにおいて、横軸に対してとった半径とモールの円との交点Pの横座標および縦座標が、それぞれ、その面上の垂直応力σとせん断応力τを与える。また、それらの値は、次式で与えられる。
これらの関係式は、考える面および2つの主応力面に平行な三角形要素の釣り合いより求められる。
補・44図 モールの応力円
4.2 材料の破損の法則
1) 静荷重のもとにおける破損
材料の破損の定義は、その機器の使用目的によって異なる。形状の変化が許されない場合には応力が降伏応力に達したところで破損が始まると考えるべきであろう。しかし、多少の変形は問題ではなく、とにかく破断しなければよいというのなら、応力が抗張力に達するまでは破損しないと考えてよい。機器の設計に当たっては、外力の見積もりの不確かさや材料の不均一性などの不確定要素を吸収するために、安全率というものを考え、基準強さを安全率で割った許容応力、すなわち、許容応力=(基準強さ/安全率)、を使用する。基準強さには、降伏応力、抗張力あるいは後に述べる疲労限度などのうちから、目的に応じた選択を行う。
軟鋼やアルミ合金のような工業材料は、破断するまでに大きい塑性変形を伴うのであって、このような材料は延性材料と呼ばれる。他方、鋳鉄のような材料は脆性材料と呼ばれ、破断までにほとんど塑性変形を伴わない。しかし、軟鋼のような延性材料でも、たとえば、極めて低温の環境においては、脆性破壊を示すことがある。したがって、延性材料とか脆性材料とはいう分類は本質的なものでないことに注意すべきである。
さて、軟鋼のような延性の材料では、すべり面における相対的な変位によって塑性変形が生じ、さらにすべり面の分離によって破壊に至ることから、最大せん断応力が材料固有の一定の値に達すると最大せん断応力面で破損が起こると考えてよい。すなわち、延性材料にたいしては、最大せん断応力が基準になる。これにたいして、鋳鉄やガラスのような脆い材料では、塑性変形をほとんど伴わずに破壊に至る。この場合は、最大主応力が材料固有の強度、すなわち、抗張力に達すれば、最大主応力面で破断することが知られている。このように、脆性破壊においては最大主応力が基準になる。脆性破壊において破壊に費やされるエネルギは、延性破壊のそれにくらべてはるかに小さい。以上より、延性材料および脆性材料の丸棒が引張りを受ける場合の破断の様式は補・45図に示すようになることがわかる。同様に、それらが振りモーメントを受ける場合の破断の様式を補・46図に示す。
補・45図 引張り力をつける丸棒の破壊
補・46図 ねじりモーメントをうける丸棒の破壊
現実の機器には、多くの場合、孔、キー溝、フィレット、切り欠きといった形状的な不均一性が存在する。このように形状が不連続的に、あるいは急激に変化する所では応力集中が起こる。たとえば、無限遠方で一様な応力σを一方向に受けている無限平板中に、引張り方向に垂直に長径2aを持つ楕円孔が存在する場合、楕円の長軸を延長した線上の応力の分布は補・47図に示すようになり、その最大応力σmaxは次式で与えられる。
ここで、ρは楕円孔先端の曲率半径である。また、次式で与えられる係数αを応力集中係数という。
円孔の場合には、a=ρ〔mm〕であるから、応力集中係数は3となる。
補・47図 楕円孔の応力集中