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1.2 防振据え付け

1) 防振据え付けの状況

 近年、船舶に於いても居住環境の改善を求める声が高まっており、その対策の一つであるディーゼル機関の防振支持も発電用機関のみならず、主機にも適用される例が増加しつつある。
 しかし、その適用例はこれまで高速、及び中速機関がほとんどであり、低速機関への適用はあまりなかった。
 これは、低速機関の場合、防振系の固有振動数と機関の仕様回転数範囲が接近しているので、適切な設計を行わなければ、防振系と機関が共振現象を起こして振動が逆に増加してしまうという困難がある為であり、実用化されたのは比較的最近になってからの事である。
 またこれまで低速機関で実用化されたものは、機関下部の防振ゴムを斜めに取り付ける方式のものであり、機関据付時の芯出しや防振ゴムの交換が大変困難なものであった。
 そこで、最近の垂直支持方式(機関下部の防振ゴムを垂直に取り付ける方式)による低速主機関防振の一例を以下に示す。

2) 防振方法

(1) 防振系の固有振動数
 防振を行った機関では、全部で6つの振動形態(5・14図に示す)が存在し、それぞれが固有振動数を持っている。

5・14図 振動モード
 ここで、機関振動に影響を与える起振力としては6気筒機関の場合、1次、2次、3次の低次成分があげられる。これらの次数と防振系の固有振動数との共振点が機関の使用回転速度範囲に発生した場合、その回転速度で機関を使用すると振動は逆に増加し、防振方式を使用した意味がなくなってしまう。
 ちなみに、固有振動数と各次数の共振点の関係は下記となる。
(2) 固有振動数の設定
 1)で示した次数のうち、2次成分の起振力については往復運動部重量(ピストン、及び連接棒の一部の合計重量)のシリンダ間のバラツキをなくす事によりその影響をおさえる事が可能である。
 1次成分についても実際に機関を運転してフィールドバランス(回転運動部重量の不釣り合いをクランク軸の両端におもりを取り付ける事で解消する方法。自動車のホイールバランス取りと同様な考え方)を実施することである程度影響をおさえる事ができるが、機関使用回転範囲内に設定しておく事は危険な事である。
 よって、1次と3次の共振点が機関使用回転数範囲内に発生しない様な防振系の固有振動数を決定する必要がある。

(3) 固有振動数の決定方法
 防振系の固有振動数を決定するには下記の要素が必要になる。
a 機関質量 g 弾性継手バネ定数
b 機関慣性モーメント h 弾性継手個数
c 機関重心位置 i 弾性継手配置
d 防振ゴムバネ定数 j 伸縮継手バネ定数
e 防振ゴム個数 k 伸縮継手個数
f 防振ゴム配置 l 伸縮継手配置

 これらの要素を用いて防振系の各固有振動数の計算を行うが、a〜cの項目については機関形式が決まれば数値に変更はほとんどない為、d〜lを調整して最適な固有振動数を決定することとなる。
 また、防振ゴムのバネ定数の精度は防振系に大きな影響を与える為、実際に防振ゴムの動的バネ定数を計測して計算の精度を上げる必要がある。

 設定の一例を5・15図に示す。
5・15図 固有振動数設定
(4) 防振据え付けの実施例と効果
 防振据え付け実施例を5・16図に、その効果を5・17図、5・18図に示すが、定常運転状態での機関各部の振幅値は、いずれの位置においても低く抑えられている。また、防振ゴムの上下で比較すると下側では振幅値が最大でも0.009mmと大幅に減少している。
 防振系の防振性能を確認する為、防振ゴムの上下位置で加速度を計測した結果では、体感振動に影響する100Hz以下の振動数域でも、音響域(物体から音が発生する様な振動)である16kHzまでの振動数域に於いても、20〜40dbの低下が見られ、振動、騒音共に非常に低いレベルに下がっている。
5・16図 防振据付実施例
5・17図 機関各部の振動計測結果
(拡大画面: 27 KB)
5・18図 垂直方向防振ゴム上下での加速度計測結果比較
 








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