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第5章 据え付けと運転
1. 据え付け

1.1 据え付け調整

1) 据え付け工事(主機)

(1) 船体の変形と芯出し
 船体は進水後に変形を生じ更に浮力による撓みにより5・1図のようにトモ、オモテが下る。一般にこの撓みをトモ、オモテのだれとよんでいる。従って軸中心線(スタンチューブの芯)が最初直線状であったとすると船体の変形により円弧状に曲がり、軸管中心線からみると機関のクランク軸芯が下ったようになる。従って機関据付時、軸芯の中心線より上り目にしておかなければならない。この上り目の芯を一般的に上芯(あげしん)という。
5・1図
(2) 浮芯(ウキシン)と陸芯(オカシン)

 [1] 一般に進水後の芯出しを浮芯、進水前の芯出しを陸芯という。
 普通、芯出しは浮芯を原則とするが実際には造船所の工程の都合や吊り設備の関係で陸芯を採用する場合もある。どうしても陸芯で芯出しをしなければならない時は造船所自身の経験に基づいてどの位の上芯とするかと言うことについてその造船所とよく協議することが大切である。
 [2] 一般的には浮芯による芯出しは進水してから48時間後に行う。
 [3] 進水後48時間以内に行う浮芯による芯出し、および陸芯による芯出しの場合は進水後に発生する船体変形を考慮にいれて芯出しをする。
 [4] 夏の暑い日光が直射する場合には船体が変形するので注意しなければならない。(5・2図)
5・2図
 [5] 陸芯の場合、盤木の影響のない状態(盤木を一旦ゆるめた状態)で軸芯の変化を確認し必要であれば上芯の程度を加減する。
 [6] 盤木をゆるめることが許されない場合は前項[5]にくらべて上芯を多くする必要がある。
 [7] 太平洋側の造船所の場合、干満の差が大きいので船底が下に当たっていると芯だしをして具合の悪いことがあるので注意しなければならない。(干潮の時に底が当たっていると問題になる)

(3) 据え付け作業

[1] 着工前の点検
a. 盤木の状態の確認
 最初から盤木の上で建造したものかどうか。建造途中で船台を横すべりに移動させた―横どりした― ものかどうか造船所にきくのもよい。横どりの場合は変形を考慮しなければならない。
b. 機関台の確認
 打ち合わせ図と照合して機関台の状態、厚さ、高さ、及び位置を確認する。船体との溶接状況も確認する。
c. キールから機関台までの寸法を計測し、機関を据付けた時にベッド下面とキールとのスキマが充分かどうか調べる。
d. ダブリングの点検確認事項
 ダブリングは造船所側で付けることもあるが据付作業上望ましい寸法は次の通りである。
 ・ 厚さ  10〜15mm
 ・ 勾配  0.3/100の中高にする。
       外高はチョックライナ合せに不都合となるので避けなければならない。
5・3図
 また、大きな勾配がある場合は何等かの方法で抜け止めを施工する必要がある。
経年変化によりチョックライナが抜けだしていることもあり、整備時には、チョックライナの状態を確認する必要がある。


・ ダブリングの溶接状況  :  浮いてないかどうかハンマで確認する(不具合の場合は修正する)。
・ 当たり  :  ベアリングレッド又は青ペンを使い定盤で当たりを確 認する。(80%以上当たりがあること)
e. 機関取付ボルトが機関台のリブに当らないかどうか確認する。
f. 中間軸受けの位置の確認……メーカあるいは造船所の図面による。

[2]機関および減速機、逆転機、スラスト軸受、クラッチ、ガイスリンガ継手等の芯出し
 芯出し要領および標準値は後で述べる。
a. 機関台に芯出し用のジャッキを取付ける(機関の前後、左右移動用)。芯出しが終ってもこれはとらないでそのままつけておく。
5・4図
b. 機関を図面通りの位置におく。
c. チョックライナあわせ
 一般的な据付基準による順序を次に示すが、造船所によってはその造船所としての流儀があるので一応尊重しなければならない。
 (イ) 機関トモ側前後2個所チョックライナ合わせ
 (ロ) 機関オモテ側前後2個所チョックライナ合わせ
 (ハ) 機関中央の前後2個所チョックライナ合わせ
 (ニ) 上記6個所の据付ボルトの仮締付け
 (ホ) (イ).(ロ).(ハ).の中間の個所のチョックライナ合わせ
d. チョックライナの両面が夫々ダブリングおよびベッドに確実に当たるようグラインダ又はヤスリで削り調整する。
 チョックライナの当たりは80%以上当ってなければ駄目である。
e. チョックライナの厚さ
 標準厚さ…………45mm (鋳鉄製)―機関付属品
 調整後の厚さ……30〜35が望ましい(最小20mm)
   20mm未満のとき鉄板製に取替える。
   45mm以上のとき鋳鉄製で新作する。
   55mm以上のときダブリングを厚くしチョックライナの厚さを許容値内に入れる。
 チョックライナが厚くなり過ぎると機関振動の原因となる。
f. チョックライナの形状
5・5図
 客先(機関長)に対して、新船の時はよいが半年位経ったらチョックライナを必ずチェックして貰う様に云うこと。
g. 機関及び減速機等の芯出し完了後中間軸受ボルト、機関据付ボルト等を本締めする。
 (イ) ジャッキボルトはゆるめておく。
 (ロ) サイドジャッキはそのままとする。
 (ハ) 据付ボルトを平均にそして充分に締付ける。
h. デフレクションおよび主軸受のスキマを確認する。
i. 中間軸受ジャッキを取り去り中間軸受を点検する。
j. 軸系リーマボルトを取付け平均にそして充分に締付ける。
k. 船尾管パッキングランドとプロペラ軸スリーブとのスキマを確認する。
l. 芯出し作業にはクランク軸のターニング回数が多いので各軸受に油切れが発生しないよう常に注油すること。
 
2) 補機据付
 補機としての各機器にはその制御機構として高圧油圧系統が付くなど機器夫々の取扱いが異なってくるので各説明書等によってその調整には充分な注意が必要である。

(1) モータとセンタリング
 各機器にはモータのつくものが多いが、それが共通台床上にセットされていてもメーカからの輸送中の歪や据付時の無理等によりセンタリングが狂っている場合が多いと思わなければならない。従ってこれら機器を据付ける際に必ず手で廻して回転状況を点検してみる必要がある。
 尚チェーンカップリングやゴム輪を使った撓み継手の場合も、軸芯の狂いは継手自体の寿命をそこなうばかりかモータ側にも悪影響を及ぼすものだと考えるべきである。
 軸芯の狂いを調べるにはカップリングの外周を上下左右4ヶ所に定規を当て又スキミゲージをカップリングのスキマに入れて面の段差とスキマを測定する。基準内におさまらない場合は取付台下部にライナを挟む等して調整しなければならない。
 基準(例)軸心の狂い0.03mm以内、スキマ誤差0.1mm以内。
5・6図
 カップリングを取付るときはカップリングを90〜110℃に暖め押込む様にして取付け、絶対に軸を叩き込む様な作業は行なってはならない。
 モータと機械本体を別々の台に取付る場合もセンタリングは前述の様に完全に行なわなければならないのは勿論である。尚、取付台は機械の重量と荷重に充分耐えられるよう強固なものとし、取付面は摺合わせによって完全に密着する様にすること。
 船内に於ける機器の取付方向は客先の使用条件によって決定されるものであるが据付位置と配管の関係を充分に検討の上出来るだけ船首尾線に平行になるように据付けるべきである。これは船のローリングはピッチングに比較して傾斜が大きいのでローリングによる影響をベアリング等に与えないためである。
(2) クーラなどはエア抜きの方向を考えて据付けた方がよい。
 
3) 据付基準
 船尾管、プロペラ軸、プロペラの取付等が完了した後(なるべく進水後、艤装が相当進んだ状態で)中間軸および中間軸受の取付を行う。即ち、プロペラ軸を基準として中間軸を合わせる。なお、ネックブッシュ方式の場合は、プロペラ軸をパッキングランド部のスキマを計測して芯に置く必要がある。軸の芯出しは、ダイヤルゲージでカップリング外周の芯振れやスキミゲージにより面振れを計測して中間軸受の高さを決定する。小型船の場合は、芯振れや面振れのないように調整するが、大型船の場合には軸系の重量や軸受支点の位置の影響を考慮して、アライメント計算(前述説明参照)により、また経験的に芯振れをあえて設定する場合がある。中間芯出しが終ったあと同要領で推力軸受、主機関の芯出しを行う。
 この据え付け(芯出し)の為の基準値はメーカあるいは造船所から示され、それに基づいて作業を進めることになるが、目安として一般的な例を以下に示す。

(1) プロペラ軸と中間軸の芯出し

[1] 芯ずれは上下左右0となる様に調整する。
[2] 面振れは中間軸のフランジ外側端面上部をプロペラ軸外側端面に接触させ下側のフランジの開きが0〜+4.5/100mmの範囲に入る様に調整する。
5・7図
(2) 中間軸と減速機の芯出し

[1] 芯ずれは上下左右0となる様に調整する。
[2] 面振れは中間軸のフランジ外側端面上部をプロペラ軸外側端面に接触させ下側のフランジの開きが0〜+4/100mmの範囲に入る様に調整する。

5・8図
(3) 減速機とクランク軸の芯出し

[1] BC型ガイスリンガ継手の場合
 各容量の継手毎にそれぞれの許容誤差が規定されている。
5・9図
[2] 大容量クラスになると自重が大となる為、芯出しが容易に出来なくなる事が考えられる。その場合にはローラジャッキを締付リング外周部に当てジャッキアップして、ダレを修正する。
[3] BE型ガイスリンガ継手の場合
 ガイスリンガ取付けの為に生じる減速機入力軸のダレは、ローラジャッキを締付リング外周部に当てジャッキアップしてダレを修正する。
5・10図
(4) スラスト軸受直結型(クラッチ無し)機関の芯出し

[1] 中間軸とスラスト軸の取付けカップリングは上開き(0.03〜0.05mm)にし芯ずれは上下左右0となる様に調整する。
[2] スラスト軸受に於いては、スラストスキマ、スラストメタルの当り(当り状態は80%以上の事)及び軸が軸受メタル(トモ、オモテ)の下側に平均して当る様に調整確認する。
[3] スラスト軸とクランク軸(フライホイール)の取付けカップリングはインロになっているのでインロを合せカップルする。
[4] カップル後のクランク軸のデフレクション数値は規定範囲内に入る様機関側を調整する。
[5] クランク軸の軸方向の位置決めは、位置決めゲージをNo.6軸受のオモテ側、No.5アームのトモ側との間に挿入しクランク軸の位置決めを行なう。
5・11図
(5) MN逆転ラバーブロック付機関芯出し

[1] 中間軸とMN逆転機の取付けカップリングは下開きにし芯ずれは、上下左右0となる様に調整する。
[2] MN逆転機とクランク軸の芯出しは芯ずれ、面振れを下記数値内に入る様調整する。
 A 芯ずれ  上下左右0
 B 面振れ  ±0.1mm
5・12図
(6) 機関の芯出し

[1] クランク軸のデフレクション及び主軸受の間隙は工場記録に基づいて芯出しをする。
[2] デフレクションの許容限度は、一般にストロークの1/10,000以内とするが、メーカ基準値による。
[3] デフレクションの調整方法については後述する。
 
4) 配管工事

(1) 配管計画

 艤装配管工事の中で最も重要な作業の1つは配管計画である。機関室内部の構造に合わせて機器配置を決め配管設計をするが、実際面では図面に現れていない点で色々と注意を払わなければならない点が出てくるものである。
 各機器各装置の配管工事と云うのは単にパイプを継なぐだけでなく適正な材料を選び充分な耐振構造にすると共にパイプ内部にはスケールや錆、ごみ等のない正常な状態に仕上げるまでの一切の工事を含むものなのである。パイプ内部の極微量のごみや水分でも装置の機能に著しく影響するし、配管の耐振性や修理の容易なことも要求されるので配管計画の上手下手によって作業の難易、工数の多少に大きく影響するものであり、もし計画が良くない場合には各機器が正常に働かなくなる恐れすら出てくるものである。

(2) 配管材料
 流体の種類及び耐圧強度によって一般的に次の材料(5・1表参照)が使用される。
[1] 配管用炭素鋼鋼管……通称ガス管
 比較的低い使用圧力(1MPa(10.2kg/cm2)以下)のポンプ吸込み側や、背圧のあまりかからないタンクの戻り側に使用される。
 亜鉛メッキの有無によって、白管、黒管に区分される。
[2] 圧力配管用炭素鋼鋼管
 使用温度350℃程度以下、使用圧力10MPa(102kg/cm2)以下で使用する。
[3] 高圧配管用炭素鋼鋼管
 5・1表に準ずる個所に使用する。
[4] 配管用ステンレス鋼鋼管
 一般の場合に比較して内部の発錆を恐れる場合とか長期に亘ってパイプの内外面を侵す雰囲気にさらされることが予想される様な場合に用いられる。
[5] 銅及び銅合金継目無管
 圧力計用配管とか遠隔操縦装置配管など特にメーカの指定ある場合に使用する。
5・1表 配管材料
種   類 記   号 適   用
配管用炭素鋼鋼管 SGP 水、ドレン、ミスト
圧力配管用炭素鋼鋼管 STPG L.O、エア、スチーム
高圧配管用炭素鋼鋼管 STS L.O、エア、スチーム
配管用ステンレス鋼鋼管 SUS×××TP エア、スチーム
銅及び銅合金継目無管 C××××T  

(3) 配管施行方法

[1] パイプの通り場所は(図面上に大体は指示されてはいるが)、サポート(支持)の取り易い場所を選ぶこと。
[2] 出来るだけ直線部を長くとる様にし、また急激な曲がりは避けるようにすること。(直線部を先にとった方が作業がやり易い)
[3] フィルタの取付個所は点検のし易い場所とし、エレメントを取り出すスペースの余裕をみること。フィルタは水平に取り付けること。
[4] フランジ部はスパナが充分使用できる個所にすること。
[5] パイプが船内作業の邪魔にならないような位置を考えること。
[6] パイプは徐々に立上って行く様にし、立上ってからまた下る様な個所は出来るだけ作らない様にすること。
[7] 特に油槽から油圧ポンプ吸い込み口までは中高にならない様にすること。
[8] 配管中、止むを得ず中高になる部分には必ずエア抜きプラグをつけること。
[9] 配管途中に油溜まりの部分のあるものはその部分に継手あるいはドレンプラグを設けること。
[10] 甲板、甲板室、隔壁等により両端が固定されているパイプの膨張に対してはエキスパンションベントを考えること。甲板に据付けられたウインチが荷役の時その甲板が撓むこともあるし、長い間に船体自体に歪が生ずることもあるので、両端固定のパイプは中間部に相当量の湾曲をもたせる必要がある。(殆んど造船所手配となるが念のため)
[11] 貫通部は海水に対しても気密を保つため特殊フランジを使用し、その前後にはエキスパンションベントを設けること。
[12] パイプはその膨張と振動についての対策を常に考えておくこと。
 配管を締付バンドで固定する場合に管の口径に応じた支持間隔は5・2表の通りである。
5・2表 振止めの支持間隔
口 径 間 隔 口 径 間 隔
 A   B   mm   A   B   mm
8  1/4 900 25   1 1,500
10  3/8 900 34 11/4 2,000
15  1/2 900 40 11/2 3,000
20  3/4 1,200 50   2 4,000

 サポートには鉛板のライナを、振動の激しい場合には木材(樫、欅)あるいは硬質ゴムのブロックを管の上下からはさみサポート台に固定する。
 配管の曲り部はなるべくその近くで支持すること。
 配管は出来るだけ剛性の大きい壁や床、架台枠に近い所を通し、何時でもサポート金具を追加取付けできるようにしておくこと。
5・13図 配管サポート金具図
[13] パイプラインと他のものが直接触れる恐れのあるところには鉛板やゴム等を捲いてパイプを保護すること。
[14] 電気配線がある場合には、その下側を或いは出来るだけ離した位置に配管しその配線に油のかからないようにすること。
[15] おす、めすのフランジを使うことは出来るだけ避けた方がよい。フランジの合わせ面にガスケットを挿入する際パイプを充分引き離すのが困難になるからである。
[16] パイプ1本々々の内部が点検できない様な形のものは更にフランジ継手を入れて分割すること。
[17] エキスパンションタンクの位置はその配管系統の最頂部よりも高くすること。
[18] 配管の取付け取外しは他の機器を取外さないでも出来るようにすること。
[19] 各油圧機器のドレンは他の戻り管と結合しないこと。
[20] 配管系の必要個所に点検用接続口を設けるが、図面指示以外には付けない方がよい。
[21] 予備ポンプの他用途への共用配管は避ける。

(4) 配管工事の注意事項

[1] パイプの切断にはパイプカッタや鋸を使用し、アセチレンガスやアーク等を使ってはならない。配管中に溶接スラグが入ると同時に溶断部付近に酸化膜が多量に生じ、これが後で運転中剥離して故障の原因になる。
[2] パイプを曲げる場合はなるべくベンダを使い、曲げ半径を管径の3倍以上にすること。また、シーム部分は真上又は真下(中心線上)におくこと。
[3] 高圧の場合は電気溶接で三層盛りとし、一層めはアンダカット出来る程度に盛り込み、スラグを除去してから二層、三層で仕上げる。
[4] 配管は通路等を通り最も長いパイプの所から始める。
[5] ねじ込み方式の接続は完全な油洩れ防止が困難なため、特に高圧管は避けた方がよい。止むを得ずねじ込み方式を使う場合にはテーパ部に対して予めねじ部の増し締めが出来るように計画すべきであり、ストレートねじに対しては必ずOリングを使用してシールすべきである。
[6] ねじ部のシールにテフロンテープ(シールテープ)を使う場合はねじ山の先端から2山程度内側から巻くこと。
 テープの切端や一部分が配管内部に出ていると流れに吸い込まれる恐れがあるため。
[7] 喰い込み継手のスリーブは大体スパナの柄の長さが500mm位あれば喰い込む。
[8] 仮り配管でフランジを締めつける場合は必ずパッキンを入れてボルトは全数締めつけること。この場合例えば2mmのパッキンの代りに2mmの棒をU字にして使うこともよくやる方法である。
 このようにしないと後で本溶接した時に入らないボルトが出てくる。
[9] ポンプに取り付くパイプの取付け部がずれている場合に、無理に引張って取り付けることは絶対に避けること。無理な配管は油圧ポンプやモータに変形を与え故障の原因になるのでこの部分のパイプは現物合せにより正しく形を定めなければならない。
[10] 油圧機器のパイプ取り付け部にはごみや溶接くず等が跳び込むのを防ぐために閉止蓋がしてあるが作業中にこれを絶対取り外さないこと。また逆にパイプを取り付ける時に閉止蓋を外すことを忘れないこと。この様な初歩的ミスが現実にはよくあることであるから注意すること。
[11] パイプ内部の掃除にスポンジを使うのならよいが、ウエスを使ってはいけない。
 ウエスの細かい繊維が付着し油の中に浸入して油の性能を低下させたり、バルブ等に付着して故障の原因になる。
[12] パイプを途中で継ぐ場合はカップリングスリーブを用いて行なう。
 芋継ぎ(突合せ溶接)という手段は安価で手軽なため配管の接続に対してしばしばとられるが高圧配管に於ては極力使用しないこと。芋継ぎにより生じた溶接スラグは除去不可能であり、残留したスラグは機器使用中に振動や油の流れで剥離して管路を伝わって機器に達し機器破損の原因となる。
但し、ポンプ吸込み側の管径の太い所で配管抵抗を少なくするためどうしても芋継ぎを使用したい場合には内面のスラグが充分除去出来る場所で行なうこと。
[13] L.O系、F.O系の配管は水圧テストした方がよい。或いはエアテストをして石鹸水でみるのもよい。エアの圧力は水圧の場合の半分でよい。

(5) 酸洗い

 機関等に使用するパイプの内部に、ゴミ、錆及び溶接屑が付着していた場には、機器の故障等の重大な事故に発展する恐れがある。従がってパイプは配管後、機器取り付け前に洗浄作業を施行してゴミ、錆その他の異物を除去し、かつ防錆処理を施して事故の発生を防止する必要がある。作業工程としては一般的に次の通りであるが、これが不十分であると後のフラッシングをどんなに入念に行なっても管内を完全に清掃することは難しくなるので、この酸洗い洗浄は十分注意して行う必要がある。
[1] 脱脂作業
 イ) 洗浄方法:溶液槽ドブ漬け
 ロ) 洗浄時間:40分間
 ハ) 洗浄剤:水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)
 ニ) 検査:目視
[2] 中和水洗
 イ) 洗浄方法:放水水洗(0.4MPa(4.1kg/cm2))
 ロ) 洗浄液:清水
 ハ) 洗浄時間:1〜2時間
 ニ) 検査:目視
[3] 酸洗
 イ) 洗浄方法:槽にドブ漬け
 ロ) 洗浄時間:3時間
 ハ) 検査:2.3〜10%(平均6%)HCl(塩酸)
 酸洗い液の濃度を決めたら試験片を使ってデモンストレーションを行なった方がよい。(パイプ内の錆および汚損状態により濃度、時間を調整すること。また現地入手の塩酸濃度不明のものもあるので必ずテストを行う)
[4] 中間検査:目視
[5] 水洗(清水):1〜2時間
[6] 中和処理:苛性ソーダ、1〜2%のもので1〜2時間
 この中和処理作業は手早く行わないと赤錆が発生する恐れがある。
[7] 水洗(清水):1〜2時間
[8] 乾燥
 イ) 方法:エア又は熱風乾燥
[9]防錆処理
 イ) 防錆液:CeBo(セボ)#930 NP−9型 防錆油
 メーカ:東洋薬化学工業(株)
 ロ) 浸漬、スプレ塗布又はハケ塗り
[10] 密閉
 イ) 方法:開口部をキャップ又はガムテープで密閉する。
 尚、この密閉部材は配管取付時に忘れないで除去する用十分注意すること。

(6) フラッシング

 油系統配管作業完了時点において、下記基準によりフラッシングを施行し、配管系統内部の錆、繊維、溶接屑、塗料、土砂などの爽雑物を除去するとともに内部を洗浄し、機関の安全運転を確保するために行うが、次の2通りの場合がある。
・ 配管組立時、酸洗いによって剥離されたものや組立時の管内汚染物などの除去を目的とする場合
・ 作動油交換時、長期間の中に溜まった管内堆積物や付着物あるいは汚染作動油除去を目的とする場合

フラッシング要領

(イ) 配管系統
 a) シリンダ油、システム油移送管系統
 b) シリンダ油、システム油主管系統
 c) システム油機関循環系統
 d) 燃料油系統

(ロ) フラッシング実施順序
 a) フラッシング前点検
 b) フラッシング準備
 c) フラッシング実施
 d) 判定(判定基準に達しないときは、繰返しフラッシングを行う)

(ハ) フラッシング油の選定
 前処理の良否、機械の重要度により使用油を選定する必要があるが、下記の性質を有するものとする。
 a) 低粘度であること。
 b) 洗浄性を有すること。
 c) 発泡しないこと。
 d) 腐食しないこと。
 e) 引火点の高いこと。
 f) 潤滑油との混油に際し潤滑油の性状を劣化させないこと。

 尚、状況によっては、使用油のみで施行することもあるが、完全でないので注意が必要である。
 一般には次の通り使用区分する。

 a) 一次フラッシング  フラッシング油
 b) 二次フラッシング  友油(添加剤が入っていないべースオイルで可)
 c) 三次フラッシング  使用油

(ニ) フラッシング施行前点検
 フラッシング工事の成否は、管内の状況の良否に掛かっているので、充分注意すること。
 a) タンク及び配管チェック
 系統検査、外観検査
 機器取付位置、サイズ、曲り、溶接仕上、油抜プラグ位置、各ゲージ座、仮設フィルタ、配管フランジエア吹込座等本時点で、配管上、追加修正のないことを確認する。
 b) 配管内面検査
 管分岐部、プラグ座、フランジ各溶接部、LO主管端カバー等について行う。
 c) 内圧検査(耐圧及び漏れ)
 水圧の場合は最高使用圧力の1.5倍、空圧の場合は1.25倍
 d) 酸洗いエアブロー防錆
 前述酸洗い要領による。
 e) 再組立(フラッシング用配管・フィルタを含む)

(ホ) フラッシング準備作業
 a) 加熱装置取付け
 フラッシングは通常50℃位の油で行うので、サンプタンクにヒータを取りつける。加熱は、スチーム加熱が好ましいが、電熱器でもよい。但し、電熱器を使用する場合は、漏電引火の危険防止に注意のこと。特に、サンプタンクの油面は、ポンプ運転時と停止時で変動するので電熱器の配線接続部まで油に浸ることのない様取付位置に、充分注意すること。
 ヒータの容量は、最高温度75℃まで可能のものを選定する。
 b) 加振装置の取り付け
 加振装置の取り付け位置あるいはハンマリングの位置を決定する。特に加振による計器類への悪影響、取り付けボルト類のゆるみへの配慮、機器類の臨時サポート等に注意すること。
 ハンマリングの徹底のため各溶接部に番号をつけ、チェックシートにより管理すること。
 c) フラッシング除外部の処理
 取り外し部分は、ゴミの浸入を防ぐため確実に閉止栓を施行する。此の際その部分に番号をつけ、チェックリストを作成し、フラッシング終了時に開放忘れのない様注意すること。取り外し部は、主軸受枝管としカム軸受枝管、歯車装置枝管、過給機注油管等は閉止とする。又、できるだけクーラには入れない。
 常設フィルタ使用の場合は、必要に応じ保護フィルタを取りつける。又、主軸受注油管等、取り外した部品に対する閉止栓の施行を忘れずに行うこと。
 d) 仮設フィルタの取り付け
 主軸受枝管出口、サンプタンク落とし口、ポンプサクション入口等には、仮設フィルタを取り付ける。
 各仮設フィルタは通油停止時異物が逆流しない様設置の位置方向に注意のこと。

(ヘ) フラツシング作業
 フラッシング作業は、その機関の型式、酸洗い等事前作業の程度、納入先等により、その仕様をメーカ及び造船所で決めているが一例を以下に示す。
 a) 作業内容
 a. 各部点検は4時間毎を原則とする。
 b. 各段階で主軸受枝管出口のフィルタに全然異物が認められない場合は24時間を待たずに次段階へ進むことが出来る。
 c. ハンマリングは1段、2段、3段で行う。
 d. バイブレータは1段、2段、3段で行う。
 e. 空気の吸込は、1段、2段、3段で行う。
 f. 主軸受枝管出口に絞りもしくは、一部を閉止して主管圧力を50kPa(0.5kg/cm2)以上に保つ(1、2、3段)。
 g. クランクケースドアは埃の入らぬ様注意し、可能な限り開放する。
 b) 判定基準
 a. 各段毎に実施、2段目迄は目視
 b. 3段終了で、主軸受枝管出口フィルタにおける異物量の総計が0.05gr/24HR以下とする。
 c. それ以降更に4HR施行し異物量が0で、且つマグネットに金属粉の附着しない状態で3段フラッシング完了とする。

(ト) その他
 a) 主系統の油濾器エレメントは一次フラッシング着工時取り外し、二次フラッシング時、正常状態に復旧し、以後使用する。
 b) 取り外し部分は、ゴミの浸入を防ぐため確実に閉止栓を施行する。
 この場合、その部分に番号を付しチェックリストを作成し、フラッシング終了時、閉止栓の開放を忘れないように注意する。
 取り外し部は、主軸受枝管・カム軸受枝管・歯車装置枝管等、機関内部配管とする。
 c) 潤滑油サンプタンク内配管、並びに各補機器は長期間放置されているので、内部に発錆があるか、又、酸洗いの状況を充分に点検してから配管を接続のこと。








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