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2. 潤滑油
2.1 潤滑油に要求される性質

1) 潤滑性
 潤滑されている摺動部分は、条件によって、境界潤滑と流体潤滑の状態があるが、ここで重要な性質は、粘度と粘度指数である。
 粘度が低すぎると油膜が切れて、境界潤滑を越えて、固体摩擦の状態になり、焼付をおこす。逆に、粘度が高すぎると潤滑油の抵抗によって、発熱及び摩擦損失が大きくなる。また、機関の潤滑箇所や運転条件により、温度が大きく変わるため、温度変化による粘度変化が小さい(粘度指数が高い)ことが要求される。
2) 清浄分散性
 燃焼残渣物や潤滑油の熱や酸化によって生成したスラッジが、機関内部に付着堆積しないように清浄し、潤滑油の中に凝集しないように分散させる性質を清浄分散性という。
清浄分散性を向上させる添加剤は、酸中和性を向上させる添加剤と同一のものであるので、全アルカリ価の高低が清浄分散性の良否を示す。この観点から、全アルカリ価をTBN(Total Basic Number−潤滑油の性質を表す代表値)という。
3) 酸中和性
 燃焼によって生ずる硫酸を中和させる性質で、使用燃料油中に含まれる硫黄分(S分)の多少により、使用潤滑油の全アルカリ価が規定される。
4) 酸化安定性
 潤滑油は使用中に空気中の酸素と反応して酸化するが、温度が高くなればなるほど、反応速度が急激に早くなる。一般に、10℃温度が高くなると、反応速度は2倍になるといわれている。これを防ぐために、酸化防止剤を添加する。
5) 熱安定性
 潤滑油が高温にさらされると熱分解し、炭化物を生成する。ピストンのリング溝や、ピストンクラウンの裏側は200℃前後の温度になるため、熱安定性が悪い潤滑油を使用すると炭化物の堆積が発生する。
6) 錆止め性
 機関内部の結露や水の混入に対し、錆を発生させない性質が必要である。
7) 水分離性
 水が混入した場合に、乳化せずに水を分離させる性質が必要である。
8) 泡止め性
 攪拌された潤滑油は多かれ少なかれ泡が生じるが、水と同様に局部的に油膜切れを起こすので、泡止めが必要である。
2.2 基油の特性と添加剤の種類
 上記の性質を満足するために4・3表及び4・4表のように、基油の選定と添加剤の配合がされている。
4・3表 潤滑油(基油)の特性
特性 精製法 普通精製 溶剤精製
原油の種類 パラフィン系 ナフテン系 パラフィン系 ナフテン系
比重 (同一粘度に対する)
酸化安定性 安定 やや不安定 きわめて安定 安定
粘度指数
流動点 高い 低い 高い 低い
機関におけるカーボンの付着状態 硬質、多い
やや粘着性
軟質、多い
剥落性
硬質、少ない
やや粘着性
軟質、少ない
剥落性
2.3 使用限界

 潤滑油の使用限界は、潤滑油の種類、潤滑条件、使用環境条件等によって異なるので、管理基準を一律に決めることは実際的ではないが、一応のめやすとしての基準を以下に示す。

1) 動粘度
 システム油の粘度は、酸化をはじめとするそれ自身の劣化や、外部からの不純物の混入などにより増加し、また低粘度油(例えば燃料油)の混入などにより低下する。粘度増加は摩擦損失の増加や清浄機、フィルタに対する悪影響をもたらし、粘度低下は油膜形成が不充分になったり、消費量が増加したりする。但し、同じ粘度グレードであっても銘柄によって新油の粘度が異なるので、粘度変化率で表し、上限は+30%下限は−20%とする。

2) 引火点
 使用油における引火点の規定は、燃料油混入によってクランクケース内の爆発を防止することにあり、180℃以上とする。
4・4表 添加剤の作用と成分
  作     用 成     分
粘度指数向上剤 油中に懸濁して、高温での油の粘度低下をおさえる ポリイソプチレンポリメタクリレートなどの高分子量ポリマ
流動点降下剤 油の低温固化の原因である油中のワックスの結晶生長をおさえる。 パラフィンワックスとナフタレンあるいはフェノールとの縮合物など
油性向上剤
(油性剤)
金属摩擦面に吸着されて潤滑油膜をつくる (ただし高温に弱い) 高級脂肪酸、高級アルコール、エステル、アミノ酸
極圧性向上剤
(極圧剤)
高温高荷重摩擦面に摩擦係数の低い金属化合物をつくる 塩素、いおう、りんなどの化合物鉛セッケンなど
増粘剤 潤滑油の金属面に対する粘着性 (ねばり)を増す 高分子量ポリマなど
酸化防止剤
(酸化抑制剤)
開始・伝播・終了という酸化の連鎖反応を遅らせ停止させる 亜鉛・いおう・りん化合物クレゾール化合物など
金属不活性化剤 金属の酸化触媒作用をなくす(一種の酸化防止) 有機窒素化合物など
清淨剤 燃焼生成物の酸の中和スラッジの凝集を防ぎ、機関内を清浄に保つ Ba、 Ca、Mgのスルホネートあるいはホスネートなど
分散剤 燃焼生成物、油の酸化生成物を油中に分散させ、機関内部への沈降付着を防止する。 Ba、Caのホスホネートなど(金属系)アミノ塩(非金属系)
さび止め剤
腐食防止剤
酸を中和し金属面に吸着膜をつくり、水蒸気および酸素との接触を防止 高分子量有機物、その金属塩、アミン中和生成物
泡立ち防止剤
(泡止め剤)
油の表面張力を下げ、生成したあわをこわれやすくする シリコン油

3) 全アルカリ価(TBN)
 潤滑油の働きは潤滑作用の他に、燃焼によって生じた酸を中和する酸中和作用、燃焼によるカーボンや熱劣化物を油中に分散させる分散作用、油中に溶解させる可溶化作用がある。酸中和、分散、可溶化作用を行う添加剤を清浄分散剤と呼び、最近の潤滑油では非常に重要な役割を担っている。この清浄分散剤の働きの指標としてTBNは重要な管理項目である。TBNの測定法には塩酸法(JIS
K2501 5.2.2項)と過塩素酸法(JISK 2501 5.2.3項)とがあるが、塩酸法は過塩素酸法に対してTBNを過小評価する傾向がある。即ちHD油の様に多量の添加剤を含む場合、添加剤が水、熱等の作用でその構造が変化し、粗粒化する場合がある。この粗粒化した物質は過塩素酸のような強酸に対する中和作用はあるが塩酸に対しては塩基価として測定されにくい。このため塩酸法のTBNが低くなるものと考えられている。ここでは、塩酸法で1.5〜5.0mgKOH/g以上、過塩素酸で50%以上とする。
 尚、過剰な添加剤成分は金属系灰分となって堆積し、逆に機関性能や耐久性を低下させる原因となるので、TBNは常に適切な値に管理することが必要である。

4) 全酸価(TAN)
 一応+1.5mgKOH/gとするが、添加剤を多く含むHD油では新油時に高い全酸価をもつので、全酸価による管理はあまり意味を持たない。

5) 強酸価(SAN)
 強酸は腐食摩耗の原因となるので、検出されないこととする。通常、TBNが残存し、酸中和作用があれば強酸は検出されないはずであるので、強酸価が確認された場合は粘度や不溶分にも異常をきたしている等、潤滑油が異常状態になっている場合が多く、従って全量更油することが必要である。

6) 水分
 高TBNのHD油では、水分が混入した場合微細な粒子となるので分離は困難となる。そこで、分離の難易度と実用上問題のないレベルとの兼合いから上限をO.2%とする。

7) 不溶解分
 不溶解分は溶解力の異なるn−ペンタンとトルエン(以前はベンゼンを使用していたが発癌性物質であることから使用されなくなった)を用いて測定する。トルエン不溶解分は、すすや硫酸カルシウム等の燃焼生成物と、摩耗粉、さび等外部から持ち込まれたものである。また、n−ペンタン不溶解分はこれに潤滑油自身の熱劣化、酸化劣化物を加えたものである。従って、n−ペンタン不溶解分とトルェン不溶解分との差が、一般に潤滑油の熱、酸化劣化物と考えられる。
 不溶解分の測定法は凝集剤を使用しないA法と、凝集剤を使用するB法とがある。清浄分散作用の高いHD油では微細な不溶解分は油中に分散するため、A法とB法とに大きな差が生じる。また、それぞれにおいても分析試験所によっても試験法に差がある。
 さらに、潤滑油中に安全に含有しうる不溶解分の量は、使用されている清浄分散剤によって大きな差がある。各石油メーカは自社製品についての能力を知っていて、製品毎に不溶解分含有率の上限を設定しているので各メーカの基準値に従うこと。
2.4 サリシレート系潤滑油

 近年のディーゼル機関の高負荷、高出力化に対応して、高温での耐コーキング性、清浄性に優れたサリシレート系潤滑油が常用発電機関のみならず舶用機関等においても使われ始めている。高負荷、高出力機関では当初一般用よりもTBNを高目に設定し、高負荷によるカーボン堆積等に対する清浄性を高めることを目的としたが、高温における清浄性は従来タイプの添加剤では不十分であった。このため、ピストンリング溝の堆積物や清浄機の固形堆積物の増加、フィルタの詰まりが発生し、また潤滑油の消費が増大する等の問題が発生した。この対策として、従来のフィネート、スルフォネート系の添加剤からサリシレート系の添加剤への変更が提案された。サリシレート系の潤滑油は石油メーカ各社によりその配合や種類が異なるが、いずれも酸化防止性、.熱安定性を高め、高温における耐コーキング性や清浄性を高めたものであり、これらの潤滑油の使用により問題はかなり解決できた。
 なお、従来タイプの潤滑油からサリシレート系潤滑油に更油する場合は、ピストン抜き等を行い、出来る限り機関内部、潤滑油配管や潤滑油タンクをきれいに掃除しフラッシングを充分行うこと。サリシレート系潤滑油の高い清浄性により、スラッジが洗い出されてフィルタの目詰まりを起こすことがある。また、遠心式清浄機の設置が望まれる。
3.冷却水
3.1 水質に関する障害
 冷却水の水質の良否によってディーゼル機関に及ぼす障害としては、主にスケールによるものと、腐食によるものがある。冷却水の水質と障害の関係を4・5表に示す。
3.2 冷却水添加剤
 ディーゼル機関のジャケット部には、一般的に電気化学的な腐食、キャビテーションが発生するが、これらは、冷却水中に添加剤を投入し、金属表面に安定した保護被膜を作ることにより防止できる。この添加剤には用途により、インヒビタとロングライフクーラントの2種類がある。

1) インヒビタ
 防食、防錆を目的とし、凍結防止効果のない冷却水添加剤等よく使用される添加剤の種類について一般的な特徴や諸注意を下記する。

(1) 亜硝酸塩系
 従来より多くの製品が市販されているが、一般にそのままでは総理府令の排水基準(CODの項目)に合致しない場合が多く、ジ亜塩素酸ソーダ等で酸化した後投棄しなければならない。従って、こうした処理が不都合な場合には使用できない。
 また、亜硝酸粉末は消防法上の危険物に指定されているため、指定数量以上の保管には届出が、また、危険物の取扱い者は免許が必要となる。具体的な数量は各銘柄の注記を参照のこと。
(2) リン酸塩系インヒビタ
 投棄上の問題はないが、使用する水はアルカリ性であることが要求されるため使用範囲が制限される。
 防食性能としてはアルミニウムに対する効果は少ない。
4・5表 冷却水の水質と障害の関係
項  目 概     要 障害との関連
濁 度 濁りの程度を示す。通常10を超えると汚れが目視出来る。 沈殿・腐食
P H PHが7で中性、7より小さいものを酸性、大きいものをアルカリ性という。通常、天然水ではPHは6〜8である。 腐食
導電率 溶存イオンが多いと導電率が高くなり、水の腐食性が増す。 腐食
Mアルカリ度
(CaCO3)
アルカリ度は一定のPHに達するまでに必要な酸の量をいい、Mアルカリ度(前アルカリ度)とPアルカリ度とに区別される。通常天然水においてはMアルカリ度のみ検出され、その主成分は重炭酸塩 (HCO3)である。 腐食
全硬度
(CaCO3)
水中のカルシウムイオン及びマグネシウムイオンの全量によって示される硬度。 スケールの主因
塩素イオン
(Cl-)
水の腐食性を増大させる。塩素イオンが500ppm以下を淡水という。 腐食
硫酸イオン
(SO42-)
Ca2+と結合してCaSO4のスケールを生成する。水の固形物を増加する。 軟質スケール沈殿・腐食
アンモニウムイオン
(NH4+)
クーラーチューブ等の銅合金に対して応力腐食割れを起こす。 腐食
硫黄イオン
(S2-)
同    上 腐食
硫化水素
(H2S)
同    上 腐食
全 鉄
(Fe)
0.3ppmを超えると沈殿物となって着色、スケールの原因となる。イオン交換樹脂に付着してその効果を低下させる。 着色スケール
マンガン
(Mn)
同    上 着色スケール
シリカ
(SiO2)
Ca、Mgと結合し硬質のスケールとなる。硬度の低い水においてはあまり問題とならない。 スケール
遊離炭酸
(CO2)
腐食の原因となる。雨水には大気中のCO2が溶解し問題となる。 腐食
遊離塩素
(Cl2)
激しい腐食を生じる。イオン交換樹脂の分解を促進する。微生物の除去には有効。水道水には若干含まれている。 腐食
溶存酸素
(O2)
腐食の原因となる。 腐食
全蒸発残留物
(全固形物)
蒸発によって求めた不溶性物質の全量である。 沈積・腐食
全強熱残留分 全蒸発残留物を強熱 (600°) した場合に残留する物質をいい、無機質がほとんどである。  
強熱減量 (全蒸発残留物)−(全強熱残留物) の差で有機物がほとんどである。 有機物量のチェック
化学的酸素消費量
(COD)
酸化剤で水中の被酸化性物質を酸化処理し、酸化剤がどの程度消費されるか推定するもので、おもに有機物、第一鉄等の還元性物質濃度を推定するのに用いられる。 有機物量のチェック

(3) ケイ酸塩系インヒビタ
 投棄上の問題及び毒性や危険性はないので取扱い上の問題はない。
 アルミニウムに対する防食性も十分である。
2) ロングライフクーラント
 凍結防止を目的とし、防食、防錆効果のある冷却水添加剤で年間を通して使用出来るもの。エチレングリコールに防食・防錆剤を添加したものがほとんどである。
3) 不凍液
 凍結防止を目的とし、防食、防錆効果のない冷却水添加剤を不凍液という。
 これに、防食・防錆添加剤を加える場合は添加剤メーカに混用が可能かどうか確認のこと。
4. 清浄機(分離板形)
 遠心分離機の一種で、液体―液体―固体の三相分離を行うものを清浄機(ピュリファイア)と言う。これに対して、液体―固体の二相分離を行うものを清澄機(クラリファイア)と言うが、基本的な原理・構造は変わらない。また、円筒形と分離板形の2種に大別されるが、ここでは最近の主流となっている分離板形について説明する。
4.1 基本原理
 比重の異なる液体や固形物の混ざった混合液を容器に静置すれば、その比重差によって重いものが沈殿し液を分離することが出来る。これを4・5図に示す。これを重力沈降と称するならば全く同じことを遠心力を利用して強制的に行なおうとするのが遠心沈降である。遠心沈降は重力に比べて数千倍の遠心力が作用するので、重力沈降より分離度、分離清浄度は極めて大きなものとなる。遠心分離機は沈殿による分離を遠心力の場で行わせる遠心沈降機の一種であると言ってよい。これを4・6図に示す。
4・5図 重力沈降
4・6図 遠心沈降
4.2 基本構造
 代表的な清浄機の回転体の構造を4・7図に示す。
 回転体は回転胴、回転体蓋及び回転体ナットにより容器が構成され、回転体内部には分離板、水取板からなる分離室と原液を回転体入口から分離室に均等に分配する案内筒が組み込まれている。更に、回転体内壁には分離、堆積されたスラッジを運転中に排出させるため水圧により上、下方向に摺動する弁シリンダがある。
 また、回転胴の外周2ヶ所に弁シリンダの摺動を制御するパイロットバルブアッセンブリが組み込まれている。
 原液入口から案内板をとおり分離室に導かれた原液は分離板の間隙を通過するが、その途中にて固形分及び水が分離され、清浄油となって回転体上部の求心ポンプ(軽液インペラ)により外部へ連続的に吐出される一方、分離された水はトラップより連続的にオーバフローする。
4・7図 清浄機の回転体
4.3 運転上の注意事項
 清浄機の回転体は高速回転により大きな遠心力が働くので取扱いを誤ると大変危険である。従って、運転、分解、組立及び保守点検等、各機器の取扱説明書に従い十分注意して取扱うこと。
1) 通油量
 清浄機を効率よく稼働させるためには適切な通油量とする必要がある。燃料油の場合は、機関MCR時における燃料消費量より15%程度多い量を、清浄機の処理容量とし、それ以上の実容量をもつ清浄機を選定するのが通常の方法である。また、潤滑油の場合は、相当絞って通油しているのが実状である。
2) 処理温度
 清浄機の処理量は粘度により左右されるので、効率よく活用するためには処理油を加熱して粘度を下げる必要がある。
 しかし、経済性、加熱による油の劣化及び加熱による清浄機への悪影響等の理由により最適粘度を24mm2/s(cSt)、最高加熱温度を98℃(100℃以下)としている。参考までに各油種における処理温度を4・6表に示す。
4・6表 各油種における処理温度
油種 処理温度 (℃)
A重油  13mm2/s (cSt) / 40℃  40℃
 20mm2/s (cSt) / 50℃  46℃
C重油  180〜600mm2/s (cSt) / 50℃  98℃
潤滑油  150mm2/s (cSt) / 40℃ (VG150)  83〜90℃
 100mm2/s (cSt) / 40℃ (VG100)  74〜90℃


3) 調節板
 ピュリファイア運転の場合、回転体内の軽液と重液との分離境界面をある一定範囲内に保持する必要があるが、分離水出口径を変える(径の異なる調節板を使用する)ことによって、その調節を行っている。
 径の大きな調節板を組込むと分離境界面は外側に移動し、径の小さな調節板を組込むと内側に移動する。
 適切な調節板を選定することは清浄機を使用するにあたっての最も重要な項目の1つであるので誤りのないよう、十分な注意を払う必要がある。

4) 潤滑油
 潤滑油は堅軸と横軸の各軸受及びギヤの潤滑を行なうためのもので、その方式は油浴とスパイラルギヤによる飛沫潤滑である。
 潤滑油の保守管理は直接、動力伝達各部の寿命に関係するのでその取扱いには細心の注意が必要である
 油種はギヤ油またはタービン油で酸化安定性にすぐれた良質のものを使用する。また、水が混入してもエマルジョンが生成しにくいものを使用する。

5) スラッジ排出間隔
 スラッジ排出間隔が適切であれば、効率よく運転できるが、その間隔は、清浄機の型式は勿論のこと運転方法あるいは処理油の性状やその他種々の条件(例えば、潤滑油であれば、主機の型式、馬力及びサンプタンクの大きさ等)により大きく異なるので一概に決定することはできない。
 間隔が長過ぎると、スラッジの固着等により排出性が悪くなり、短ければ、運転効率が悪くなる。
 清浄機の選定にあたってはスラッジ排出間隔について基本的な考慮がなされているものの、実際の排出間隔は試運転を行ない、処理油のスラッジ濃度に合わせた適正な排出間隔を、決定することが好ましい。

6) 封水、置換水量
 封水はピュリファイア運転を行う場合、あらかじめ回転体内に水の相を作り原液を給液した時、重液側から油が流出することを防ぐためのものであり、また置換水はスラッジ排出前、回転体内の油を回収し、ロスを最少限におさえる為のものである。
 従って、これらの水量は適正に設定しないと運転上支障をきたすので、各機器の取扱説明書に従いその水量を規定すること。

7) 始動時・停止時
[1] 異常音がする時は直ちに停止し、点検する。
[2] 始動から所定の時間経過しても回転速度が定格に達しない時は、直ちに停止し、フリクションクラッチ部及びギヤケース内の油の漏れ等を点検する。
[3] その他、通液を開始した後、各部の圧力、電流値の異常及び回転体及び配管の締付部から油や水が漏洩していないことを確認する。
[4] 異常振動がする時は直ちに停止し、点検する。但し、回転体が定格回転速度に達する前に危険速度(CRITICAL SPEED)を通過する際、一時的に振動が生じるが、これは異常ではない。
[5] 回転体が停止する際にも危険速度を通過するが、始動時と異なり通過時間は比較的長いので、振動が若干大きくなる場合もあるが、これは異常振動ではない。
4.4 分解組立て上の注意事項

1) 停止の確認
 回転体の回転が完全に停止したことを確認してから各部を緩め、分解する。
なお、回転が完全に停止したかどうかは、ギヤポンプと横軸の連結部(安全接手)で確認できる。

2) 部品の取扱
 清浄機は、精密機械なので部品等は衝撃や高熱を避けるよう、取扱いに注意する。

3) 回転体の部品の交換
 回転体はバランス調整しているので同一機種であっても回転体の部品(分離板を除く)の入れ換えは絶対に避けること。
4.5 保守点検

1) 回転体
 回転体各部の寿命は処理油の性状、運転条件などが関連して一概に決める事は出来ないが、一応の目安として補修可能範囲、新替を必要とする使用限度を次に示す。
 なお、腐食に対する限界を明確な数値で表すことは出来ない。元来腐食は使用する環境、使用条件により大きく左右され、舶用の場合においても処理油の性状により、その程度は千差万別である。特に燃料油を処理する場合は、海水の混入も起こり得るので、腐食環境は過酷と考え注意深く保守、点検を行なう。

(1) 点検箇所
(イ) 腐食はスラッジの付着、堆積する箇所に発生し易いので腐食を避けるためには、スラッジを堆積させないよう適正な排出間隔に設定すると共に、開放時は清掃を励行する。
(ロ) 回転体部品は一部を除きステンレス鋼であるが、過酷な条件下では必ずしも腐食しない訳ではなく、ピッチングとして発生する。また、回転体は高応力下にさらされているので、このピッチングを起点とした微細割れを起こす可能性があり、特に注意して点検する。
(2) 点検の手順
(イ) 十分に清掃を行ない、付着物を取除く。
(ロ) 目視検査
(ハ) カラーチェック検査
(3) 腐食に対する処置
(イ) ピッチングは、グラインダにて腐食部分を除去し、目視、カラーチェック検査で確認して異常なければ継続して使用できる。
 グラインダによる除去代は0.5m/m以内とし、グラインダをかけた後、バフ研磨(#250以上)を行なう。
(ロ) 線状欠陥(割れ)の発生及び多量にグラインダ仕上げを行なった場合は、部品の新替、バランス調整を行なう必要がある。
 何れにしても亀裂、ピンホール、腐食等の箇所を決して補修してはならない。

2) 竪軸部
 竪軸部は高速回転で、しかも重量物である回転体を竪軸頂部円錐面の摩擦力で駆動している。従って、その保守の良否は回転体のバランス、フレームとの接触、振動、各部の損傷等に直接関係してくるので重要である。
 竪軸部の寿命は、回転体各部の寿命と違って、処理油の性状等に直接左右されることなく、或る一定時間の運転によって新替を必要とする部品が多い。

3) 横軸部
 横軸部は電動機の動力をギヤポンプヘ、また竪軸を介して回転体へ伝えるもので、その構造は特に複雑なものではなく、保守間隔も他の部分に比較して長期となっているが、保守の如何によっては運転不可能となるので、充分留意する必要がある。
 横軸部各部の寿命は竪軸部と同じく処理油の性状等に直接左右されることなく、或る一定時間の運転によって新替を必要とする部品が多い。

4) ギヤポンプ部
 一般には、定期点検以外は分解して点検する必要はないが、異常音を生じたり容量不足となった場合、油洩れがあった場合など分解して調査し、異常が発見されたら新替する。

5) 潤滑油
 潤滑油の取扱いは以下の点を注意して行なう。
[1] 潤滑油を新替する場合は機械を停止後、潤滑油を抜き、ギヤケース内壁に付着しているものは掃除する。
[2] 乳化等の異常現象のために潤滑油を新替する際は、古い油を少量サンプリングしておき、調査する際の資料とすると良い。
[3] 給油の際は、異物が混入しないよう充分注意し、必要ならこし網を通して行なう。

6) ブレーキ装置
 ブレーキ装置は特に早く停止させたい場合以外はできるだけ使用しないことが望ましい。
 ブレーキを使用して停止した場合は、再始動に際して電動機に過負荷をかけないよう必ずブレーキの開放を行なわなければならない。

7) 給水装置
 給水装置は回転体内に堆積したスラッジを自動的に排出させる回転体の開閉機構へ作動水を供給させるための装置である。
 従って、水垢の詰まり、あるいはシートパッキン、Oリングの損傷等が水圧の低下、水量不足の原因となり回転体開閉動作の不能につながるものであるから、その点検及び清掃には充分な注意が必要である。








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