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3.質疑応答
武貞
  ありがとうございました。ご質間を皆様からお受けしたいと思います。よろしくお願いいたします。
 
A
  2000年になって、北朝鮮の動きに前よりも少しいい兆しが出てきているということをおっしゃいましたね。私は2000年以前の情報は持っているのですが、新しいものはあまり知らないので、例えば、医科大学を卒業した人がマッサージをしたり、飲み屋が増えたり、止まっていた配給が復活したりなど、少し変わったということがとてもよくわかりました。それは私にとっては大変貴重な情報でしたが、「現在の朝鮮半島情勢の変化と中国の外交」の中で先生のおっしゃる南北の自主平和統一は一番早く来るとしたらいつごろだと思いますか。統一はあり得るのでしょうか。どのような状況が整ったら統一がなされるのでしょうか。
 
  かつて、中国の立場、国益から見れば、「統一するのはあまり望ましくないのではないか、今の状態で置いておいた方がいいのではないか」という議論が多く出されました。
 
A
  そう思っておりましたので、中国も変わったのかと思ったのです。
 
  自主統一というのは、この前会談のとき金大中氏が「20年か30年ぐらい」とおっしゃいましたが、結構難しいのではないでしょうか。統一して周辺国にどのような影響があるのか、ということがとても重要な問題だと思います。両国の事情のみによって統一されるとは思えません。まずアメリカの国益、それからロシアも含めた中国、日本の国益となりますと、もっと複雑で難しいのではないかと思います。
 
A
  姜先生のお話を聞いていると、現実にはまずアメリカ軍付きの統一は望んでいませんよね。それから日本やアメリカにとって、北朝鮮の脅威がなくなってしまうと、今度はパワーバランスのためTMDは確実に「中国の脅威があるから」と言うでしょう。それは中国にとって望ましくはないので、北朝鮮が脅威であることがいいのでしょう。そうすると南北の自主平和統一というのは言葉だけで、リアリストの立場から言うとそれはないほうがいいと。統一してほしい、「統一は来い」というのは”Come”ですが、「どんと来い」ではなくて”Don't come”ではないか、とお話を伺っておりますと受け取れますがいかがでしょうか。
 
  私自身そうだと思いますし、同じように他の人も感じられると思います。北朝鮮が今までのような南北に分裂した状態で脅威であり続ければアメリカの注意力はそこに傾きますから、中国にとってはプラスだという話になりますね。しかし一方で中国は、実は北朝鮮のために政治安保面で損なわれたところも結構多いのです。例えば、北の核問題・ミサイル問題を口実として、日本やアメリカにTMD,NMDの議論が出てきますが、これは中国としては絶対に望ましくないと思います。もし北朝鮮に問題がなければ、相手にも口実がないわけですから、中国にとっては非常に望ましい。多くの中国人は、表では北朝鮮の脅威という話でも、多分TMDなどは絶対に中国向きだろうと受け止めています。
 
武貞
  論理的には姜さんの発言はつまり、TMDなどが根拠になってしまうので、「分断された状態よりは統一が望ましいのだ」という中国の公式的な立場は正しいのだ、ということになるでしょうね。難しいですね。
 
B
  中国は、実際にはリップサービスだけで、北朝鮮に対して何も援助していないのではないでしょうか。中国は2,3年前に油を何万トンか援助しましたが、国交を回復していない日本より、米もそれほど援助していません。金正日が来たときに江沢民が握手をして上海を案内しただけ、という感じがします。それからもう1つが、亡命者が鴨緑江あるいは図們江を渡って来たりしていますが、皆追い返していますよね。朝鮮で殺されていますよ。それについて姜先生は延吉からご覧になっていて、同じ民族が追い返されて殺されているのをどのように見ておられますか。先生は「そういったことはない」と言わざるを得ない立場にあると思いますが、同族として嫌な気持ちになるのではないでしようか。
 
  2つの質問だと思いますが、まずは「中国は日本よりも北朝鮮への支援がない」ということですね。しかし、中国と北朝鮮との間の支援というのは、公表された数字より内部的なものが多いと思います。日本に来て他の人の論文も読んでみましたが、その中に中国が実際に石油や食糧をどれぐらい援助したかという数字も出ていますし、第1の援助国はやはり中国だと言われていますよ。今回平壌へ行ったときに、北朝鮮の人が「最近は中国が石油をあまりくれないものですから、車が走らない」などと言っていました。彼らは中国から石油を取るのは当たり前だと、ずっと思っていたわけです。しかし、市場経済に入ってからは、中国も昔は物々の貿易だったのが今はドルをくれなければ渡しませんから、昔よりは少しその状態が悪くなったのですね。それでも支援が一番大きいのは中国だと国際的に認めるところだと思います。
 それから、中国の延辺などで北朝鮮から逃げてきた人に対しても援助します。実は私もそういうことをたくさんやりました。子供を店に連れて行って食べ物を買ってあげるのです。子供にお金をあげると他の人に取られてしまいますから。先程も少し触れましたが、中国では非人道的に彼らを追い返すなどということはありません。警察も人道的に彼らをかわいそうに思って、あまり摘発などはしないのです。中国に図們という場所がありますが、そこで北朝鮮から図們江を渡って来た人が捕まって連れていかれる光景を見て、中国人は皆「こんな非人道的なことが」と怒っています。
 
武貞
  一度延辺地方に行かれましたらわかると思います。空港に行っても物をねだりに来る子供たちが、野放しと言ったら失礼ですが、官憲によって取り締まられるということは全然ないですね。つまり事実上黙認ということで、それは人道的配慮なのだろうと思います。そういう風景はあちらこちらで見られます。
 
C
  いくつか大変おもしろい見通しを聞かせていただきましたが、私が伺いたいのは中国と北朝鮮の関係についてです。1つは、金正日がソウルを訪れるのが電車を使ってで、鉄道の京義線が連絡した後の10月ごろか秋ではないかということを言われたと思います。ロシアからは自国との鉄道の連結、つまりロシアと北朝鮮との鉄道輸送の問題でかなり熱心な発言が聞かれますね。中国サイドは京義線の連絡によって、あるいは新義州からまた中国に達するわけですが、ではそのような鉄道網が韓国まで行くことについて関心があるのでしょうか。中国サイドからはあまりロシアほどには聞こえてこないのですが。先に京義線の方が連結してしまうわけだから、中国にとって輸送路が韓国まで延びることの経済的メリットということは協議されていますか。
 それからもう1点は、秋にも労働党の第7回大会があるだろうと言われましたが、実際そういう動きが本格化しているような兆しを見ることはできるのでしょうか。
 
  まず、京義線を結ぶことについてですが、中国にいるときもこの問題に関する論文を読んだことがあります。中国にとっても大変プラスになると思いますね。北朝鮮からあるいは南からヨーロッパヘ輸送される品物は中国のほうも経由しますから、最近中国でも新義州の突き当たりの丹束を開発して特区にするという動きがありますが、おそらくその準備ではないかと思います。丹東というのは遼寧省に当たりますが、この前新しく就任した遼寧省の省長が丹東まで行って、「丹東を東北地方の深にしよう」とする話も出てきています。鉄道網の整備は大歓迎だと思います。
 また、労働党大会の問題ですが、今までに本格化しているような兆しは見られませんが、第6回の大会が開かれたのは80年になりますね。すでに20年もたちましたし、この何年かの出来事があまりにも大きいため、北としてはやはり金正日時代になったのですから大会を開いて何か重要な決定をしなければいけないのですね。社会主義のシステムでは普通、人事の改編などは党の大会でまず決められます。これまでの北朝鮮におけるいろいろな出来事を見ても、必ず今年中には開かないと。韓国のほうでも今年中には開かれるのではないかという話が多く出ています。
 
D
  非核化、また経済協力とも関連しているかと思うのですが、北朝鮮に対する中国の外交の基本的スタンスについて、中国のKEDO(The Korean Peninsula Energy Development Organization、朝鮮エネルギー開発機構)に対する見方や、それから今後何らかの形で関わる可能性があり得るのかどうかをお伺いしたいと思います。
姜  中国の国益から見れば、北朝鮮の核の開発を阻止するためにもKEDOの存在には賛成します。でも今はこれに関する費用の問題があります。また助ける国も今まではアメリカや日本、韓国というように決まっておりましたが、「中国も必ず資金をもたなければならない」「資金を出してください」という声があがれば、中国もある程度出すのではないかと思います。
 
E
  ブッシュ政権になって、新しい政策は現在作成中だと思いますが、今までクリントン政権との間では北朝鮮が比較的有利なゲームという展開だったでしょう。しかし、通常兵器の問題も含めた、より具体的な話が出てきたとき、つまり、一番ハードルの高いところまで話が来たときに、彼はこれをどう評価していくのだろうかと。そしておっしゃっているように、もし本当に北朝鮮が変わろうとしているのであれば、例えば、トランスペアレントな査察の問題を含めて積極的に対応するというようになれば、「北朝鮮もいよいよ変わったな」というふうに見られるのではないかと思うのですが、その辺についての先生のお考えはいかがでしょうか。
 
  最近の統一院のインターネットでいろいろ読んでみましたが、昔クリントン政権のときはミサイルや核といったものばかりだったのが、ブッシュ政権に変わってから通常兵器まで規制することになっているため、北朝鮮は大変反発しています。通常兵器というのは主権国としては必ず自分が持たなければならないと受け取れますが、これまで持たせないということは主権国を完全に武装解除するものだと受け止めて、とても反発しています。最近北朝鮮側からアメリカに対する非難が大きいのも、多分通常兵器の問題も絡んでいるからではないかと思います。
 今北朝鮮が他の国に見せている開放や改革ですが、今の段階ではアメリカ側が厳しくしていますから、やはりアメリカとの関係が本格的に改善されれば北もだんだん開放し始めるのではないかと思います。交渉というのはいつもぎりぎりのところで成り立つものですから。最近、最高人民会議を見ても開放の兆しは非常に目立ちます。まず全体的に見ると、経済面に向けた政策が作られております。例えば加工貿易法のように、昔羅津、先鋒にしか適応されなかった法律が、今度は国内全体に普及されることになりました。また開放に必要な著作権などは、アメリカ側はいつも中国だけでなく他の国に対しても厳しく求めていますが、今度北朝鮮は先立って著作権法も定めました。さらにアメリカに関してこの会議では一切言及も非難もされなかったのです。彼らは対外関係を全面的に拡大発展させるつもりです。そういうことから最近、開放がだんだん見え始めているのではないかと考えます。
 
武貞
  必ずしも軍事分野での透明性の確保には、積極的になっているということはおっしゃっていませんが、経済の分野に限定した新しい動き、という姜先生の回答だったと思います。
 
F
  金正日の中国訪問を?小平の訪日あるいは訪米と比較して非常に高く評価しておられましたが、私も個人的にはそう思います。先ほどおっしゃった83年に金正日が中国を訪問した当時の香港資料などが一部ありますが、私が知っている限りでは、?小平は強く「あなたたちもこれから生きる道としては改革・開放しかない」ということを勧めたのです。すると金正日が帰国してから「中国は資本主義修正主義をやっている」と大きく労働新聞などで報道して、その批判に対して?小平が非常に怒ったといいます。それで金日成は「有事の際はぜひ謝りに行きなさい」と言って、実際85年ごろ謝りに行かせたそうです。それからずっと中国に対して不信感を持ち、金日成首席が死んだ後も、江沢民や?小平が中国を訪問するよう要請しても行きませんでした。それが2000年5月に行かれたのですが、この間の変化が非常に読み取りにくいのです。彼の考え方、あるいは戦略的思考なのかわかりませんが、どのような変化によって中国に行くようになったのでしょうか。中国を訪問したということは、実際には中国に頭を下げたということだと私は思いますが。
 もう1つは、中国訪問が、中国の改革・開放時期における78年の改革・開放のスタートにあたるものだと言っていることについてです。実際、北朝鮮で対外開放を局部的にでも進めたのは羅津・先鋒自由経済貿易時代だと思います。それに伴う国内のいろいろな法律整備も含め、憲法まで改正して外資を投入する動きは、実際92年から見られます。これは図們江開発と関連しますが、そうしてみますと、中国は78年から外資を投入して先端技術も導入したのですが、北朝鮮は91、92年ごろが初めてです。去年の訪問でまた1ランクアップするのか、それとも今までの開放の延長線であるのか、その点についてはどのようにお考えですか。
 
  まず、金正日の85年における中国訪問については、今までの話によりますとないようです。83年が1回で、2000年が2回目、2001年が3回目になりますが、もしあったとしても?小平が改革を勧めたところで怒ったなどというのは、過小評価ではないかと思います。そのために中国を訪問しないなどというのはあまり考えにくいですね。そのような気持ちでは1つの国をリードするということは絶対にできないと思います。それは金正日氏に対する誤解ではないかと思います。
 もう1つは、今の北朝鮮の羅津・先鋒地域の開発・開放ですが、実はこの2,3年前日本人ビジネスマンを連れて、2,3日間泊まりながら見てきました。そのとき道路など中国より進んでいないという状態でしたね。でも先鋒から羅津までの道路を新しくセメントで作るといった兆しは明らかでした。羅津・先鋒市は直轄市になりましたが、今度は咸鏡北道の1つの市になったのではないかとも言われています。羅津・先鋒も含めて、今北朝鮮が計画中の南浦や開城、新義州などを全体的に考えて見ているところだと思います。政治的に南北関係がよくなれば、中国やロシアの興味も増すことと思います。
 
武貞
  ありがとうございました。それでは予定された時間がまいりましたので、今日のセミナーを終えたいと思います。
司会  お時間のある方はあちらにコーヒーをご用意しておりますので、ぜひ姜教授と意見交換をしていただければと思います。どうもありがとうございました。    
                             [文責事務局]








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