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3.質疑応答
司会
 ありがとうございました。
 ご質問、コメント等たくさんおありかと思います。ぜひ積極的にご発言いただければと思います。ご発言の際には、まず挙手いただきまして、ご所属とお名前をお願いいたします。それではどうぞ。
 
A
 新潮社のAと申します。
 あまりにたくさんのお話を一度に聞いたので、どこからどうお伺いしようかと思いますが、この前米陸軍の元大佐と話をしていたときに、前方展開能力について、まさにコソボを例に引きながら、これからは必ずしも必要じゃないんだ、という言い方をされたんですね。極端な言い方かもしれないですが。とすると、さっきちょっとおっしゃったように、在日米軍のあり方というのは、高橋さんご自身はこの先抜本的な変化というのは起こり得るとお考えですか。
 
高橋
 その辺は技術的要素だけじゃなくて国際政治的な要素も当然考慮しなきゃいけないわけで、いろいろ問題はあると思いますが、少なくとも朝鮮半島が片が付くまでいじらないとは思うんですよね。というのは、あまりにもここ過去10年間在日米軍のあり方というものが議論になり過ぎてしまったゆえに、いじることのインパクトというものが予想以上のものになりかねないことが考えられますから、多分そこは朝鮮半島が一定の方向性が見いだされるまでは変わらないのではないかと私は考えています。
 将来的な部分ですが、例えば朝鮮半島が片付いた、次は台湾だという話になったときに台湾を一義的に考えた場合に、沖縄地方に近過ぎるという問題が多分あります。つまり、攻撃を受けやすいわけですよね。そういうことが起こると、ちょっと地上兵力を減らした方がいいかね、という議論が起こるんだと思います。
 あるいは、本当に米陸軍が96時間で世界中どこにでも展開できる能力を持つとすれば、それは場所によっては海兵隊よりも早く到着するわけですよね。そういったことを考えると、変わっていく可能性は極めて高いと私は思います。
 米国のRMAの専門家で、特に戦略予算評価センターというRMAのためだけに生きているようなシンクタンクがあるんですが、そこの人たちがどう米軍のあり方を評価しているかというと、2000年から2010年ぐらいまではRMAの第1段階で、それは既存の装備体系なり組織体系を情報化してハイテク化していくことである。そこから先に第2段階というものがあって、そこはもう無人化された航空機から長距離誘導ミサイルを発射するような世界が訪れていくであろうというふうに考えている人もいますね。
 他方、別の専門家もいて、結局、最終的には陸上部隊を上げなければ相手は言うこと聞かないと彼らは指摘しています。そうすると、前方展開兵力は必要ということになる。また、情報革命で革新的に変わっていく部分というのは情報処理の部分とセンサー技術のところにとどまっている。1つのものを別の場所に運ぶのにかかる時間というのは基本的にはそんなに変わらない。輸送船の速力というのは20ノットから25ノットであって、それが100ノットや1000ノットになることはあり得ないし、船で運ばなきゃいけないものを飛行機で運ぶことはできないということから、しばらく陸軍は必要であるという議論もあるわけですね。
 そこは多分、どっちを信じるかというか、自分がどの程度のタイムスパンで物を考えるかというところなんだと思いますが、私の個人的な考えを言わせてもらえば、長期的に見れば前方展開戦力の構成は変わっていくし、減っていくんじゃないかと思います。
 もう1点、在日米軍という観点から言うと逆に、コソボのもう1つの教訓は、空軍力の圧倒的な優越性が再確認されたということにある。その意味で、イタリアにあったアビアノ空軍基地がなければコソボの空爆はああはできなかったわけです。その同じ役割を東アジアで果たす基地はどこだというと、嘉手納になるわけです。嘉手納の重要性というものは、ある意味においては以前より増しているということは言えると思います。
 
B 
国際社会経済研究所のBです。
 今の先生のお話を聞いていると、結論としてRMAは必要なのかどうかというのは先生自身にもまだ不確かなことがあると。きょう聞いた印象では、僕はRMAは必要だと思いますが、特に必要だと思うのは、先生もおっしゃったRMAの背景のところの3番のところですね。企業でもマネジメント革命ということで小コスト化、効率化するということは国民の税金の効率的な利用という側面では非常に有意義で、これは進めるべきだと思うし、実際に日本の取り組みのRMAについての考え方の少子化に対応するということも非常に説得力があると思います。
 ただ、他国との関係でいいますと、TMDの議論でもそうなんですが、相手に対する抑止力が増すと言っても、相手がそれを破ろうとするということは必ず働くわけですよね。実際TMDを配備するということでいえば、ロシアも中国もそれに対するミサイルの開発とか必ず軍拡の方向に行くわけだし、RMAを自分たちだけで推し進めるということは、さっき先生もおっしゃったように、やはり政治的、戦略的要素ということをよく考慮しないと進められないと思うわけで、RMA全部を一緒くたにやっちゃいましょうというよりも、むしろRMAの省コスト部分というのは積極的に進めましょうというふうに言っていった方がよろしいんじゃないか。
 それから、TMDとRMAがバッティングするという議論も、今の話で切り分けでいけば決してバッティングしないわけで、省力がすれば予算が少なくなって同額でもよくなるというので、バッティングしないで両方とも開発していきましょうというような議論もできるんじゃないかと思うんですが。
 
高橋
 多分ご指摘はポイントを突いたご指摘だと思います。
 例えば、平成7年に決まりました新たな今の防衛計画の大綱では、防衛力の効率化、コンパクト化、合理化というものを進めていくとうたわれているわけですね。それについては一応今度の中期防衛力整備計画で達成されることにはなっています。コンパクト化というのは、能力は変わらないけれども規模は下がっていくという意味のようですが、これからさらにそれを進めていく。特に、これから先まだしばらく厳しい財政事情が続いていくんでしょうから、その中でより効率的かつコンパクト化された部隊によって国防を行おうとすれば、そこで情報技術あるいはRMAというものを使っていかなければいけないということは十分考えられるわけで、恐らくそういう方向になっていくんだと思います。
 ただ、どうも直観的に、RMAのインフラ整備にはものすごいお金がかかるのではないかということは何となく感じてしまうわけです。実際にそうなのかどうかはきちんと計算してみないとわからないんですが。アメリカ軍なんかは、より効率的に、しかも、より低いコストでディフェンスミッションをやるためにRMAを進めていくんだというような話をしているわけで、そこは直観が間違ってるのかもしれないんですが。
 いずれにせよ、ある程度初期投資を考慮しながらもRMA化というのは進めていくのではないかと思います。
 もう1点、中国、ロシアの話が出てきたので今ちょっと思い出したことがあるんですが、西側、特にアメリカが、きれいな戦争という形でRMAを進めていくとしたら、それに対して中国、ロシアはどう対応するだろうということを考えると、そこは汚い戦争に持っていくしかないわけですよね。言葉はちょっと抽象的ですが。
 つまり、彼らが今すぐ手に入る方法で軍事力を強化するとすればどういう方法があるか。それは、核ミサイルの数を増やすことと、性能を更新することですよね。そこは開発、整備、調達にどの程度時間がかかるかどうかよくわからない、あるいは、どの程度コストがかかるかよくわからない巡航ミサイルなりステルス機などに行くよりは、今手元の核兵器を増やしていった方がいいことは間違いないわけです。
 そういうふうに考える国は多分ほかにもあるわけで、RMAを進めれば進めるほどBMDの必要性が増していくというジレンマというのも訪れかねない部分があるわけです。そういうことも将来的には考慮していく必要があるのかなとも思われます。
 
C
 日本国際交流センターのCでございます。
 きょうのお話の中で、ITの関係なり、私も素人考えなのですがよくわかりました。ただ、お話の中で一番最後のところが非常に違和感を覚えました。つまり、日本の国家戦略は何かといったら、日米関係は少なくとも30年は続くはずだと思うのですね。そして、日米関係の中で日本はITなりRMAをどうするか、というお話ならわかるのですが、それにかわるオプションといったら恐らく地域組織になると思うんですよね。きょうのお話でしたら、何か日本が単独でどういう形でやればいいかというお話で、それは全く技術的な話が逆のように感じたのですが、それについて何か。
 
高橋
 ちょっと私の話し方がまずかったのかもしれませんが、日米同盟というのが戦略の中心にあることは間違いないわけですよね。
 日米同盟は大事である、あるいは、日米同盟を強化する必要がある。強化する必要がある、については若干異論を持つ人がいるのかもしれませんが、少なくとも日米のディフェンスコミュニティーの中にはこういうコンセンサスが生まれていることは間違いない。例えば、去年の秋に出ました「アーミテージ・ぺ一パー」でもmore equal relationship、イコールな役割分担を目指してということが書いてあるわけですね。つまり、そこでは強化していく必要がうたわれているわけです。
 ところが、強化した結果どういう役割分担をするのか、ということに関する議論というのはほとんどないわけですよね。先ほど言いましたように、現状の役割分担というのは、日米共同作戦というのは日本有事だけである、周辺有事のときには日本は後方地域支援を行うという形の役割分担になっているわけですが、その役割分担を変えるのか変えないのかというところに私の注目点があります。
 「アーミテージ・レポート」で要求していることは、そこを変えることですね。あるいは、日本で集団的自衛権を行使すべきだと言っている論者の言うことも、基本的にはそこを変えるべきだと言っているわけです。ところが、そこを変えることによって何をするのか。何のために集団的自衛権を行使するのか。つまり、どういう東アジアをつくるために、どういう世界をつくるために自衛隊をより積極的に使って集団的自衛権を行使する、あるいは、海外派兵をするという選択をしようとしているのかという議論が完全に欠落しているわけですよね。
 特にRMAというのはすぐれて防衛戦略の議論ですから、自衛隊にどういう役割を与えるのか、そこからRMAの進み方が決まっていくわけですよね。その結果、本当に日本も中東に行くのですか、そこまできちんと腹を据えて決めていただかないと、自衛隊がどのような形のRMAを進めていくことが最適なオプションなのかということに関する答えは出てこない。
 というような意味で私はお話ししたので、若干説明の仕方が悪かったんだと思いますが、日本がアメリカと離れて全く別のオプションをするという意味ではないです。むしろ、日本の国家目標の中に日米同盟をどう役立たせていくのか、その存在を相対化しながらもどう役立たせていくのか、その中で自衛隊と米軍にどういう役割分担を規定していくのか、与えていくのかといったところを決めてほしいというのが国家戦略という言葉で意味した部分です。
 
司会
 ほかにご質問があればぜひお願いいたします。
 高橋さん、つけ加える点はございますか。
 
高橋
 普段内輪でしている話の延長でしてしまったかもしれないので、ちょっとマニアックな話が多かったかもしれません。あとは、途中で話が若干散漫になって申しわけなかったと思いますが、また「戦略概観」なりをお読みいただければ、より整理された形で書いてあると思います。
 
D
 先ほど在日米軍の話を質疑応答でされましたが、在韓米軍についてもちょっとお聞きしたいと思います。
 一応朝鮮半島が落ちついてくれば、これを平和維持軍にしていくであるとか、海兵隊中心の組織にしていってシーレーン防衛ですとか、そういう多機能化をしていくとか、いろいろな議論がどうもアメリカではあるようなんですが、先ほど言われたような海兵隊、陸軍の機能がある程度境目がなくなっていくですとか、そういうようなところも考えると、在韓米軍というのは当面どういうふうなものが考えられるでしょうか。
 
高橋
 もちろんそれはどういう形で朝鮮半島問題が片付くまでのトレンドが決まっていくかにもよるとは思いますが、基本的には今のままであれば変わらないんだと思うんです。あるいは、対中政策との観点からいって、統一された後米軍が残るのかどうかというのもまた1つの議論があるわけですから、そこは一概には答えが出せない部分があります。
 ちょっとご質問とは別の文脈ですが、RMAとかBMDにかかる経費を捻出するために前方展開兵力を削減するのではないかという懸念を私は一時期持ちまして、若干議会のスタッフ等にインタビューしてみたこともあるんですが、そこは関係ないと。そこについては、基本的に今の前方展開戦力は維持する方向にあるというふうに僕が聞いた範囲で議会の人々は考えているようなので、その観点から言うと、少なくとも、今南北会談があったとはいえ半島の問題に劇的な変化が起こっているわけではないですから、この状況が続くのであればそこは変わらないのではないかと思います。
 ちょっとそこについては私は確証的なお答えはできません。
 
司会
 ありがとうございました。ちょうどお時間ですので、セミナーはここでいったん終了させていただきまして、この後別室でコーヒーのご用意をしております。ぜひそちらの方で引き続きご歓談、ご議論いただければと思います。
 本日はお忙しいところお集まりいただきまして本当にありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。(拍手)
[文責事務局]








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