日本財団 図書館


第1部 発言内容
1.報告要約(Summary)
 
「IT革命と日本の安全保障」
 
 IT革命は、グローバリゼーション、情報RMA(revolution in military affairs)、サイバー戦という3つのレベルで安全保障に影響を及ぼしつつある。中でも情報システムの革新、兵器システムの革新、指揮・運用に関わる革新からなる情報RMAが現在米軍を先頭に進められており、各国の軍事組織を根本的に変革する可能性があると考えられている。日本としても、将来の国家戦略を見据えながら、自衛隊の情報RMAに取り組んでいかなければならない。
 
"Information Revolution and Japan's Security"
 
The information revolution will exert an effect on Japanese national security on three levels: globalization, "information-based RMA (revolution in military affairs), " and cyber-warfare. Among them RMA (i.e., a "revolution in military affairs" that exploits information technologies to achieve strategic superiority) comprises three components of innovation: information systems (sensor and advanced information network); weapon systems (precision guided munition and stealth technology); and organization of command and control. In all three of these areas, the US currently takes the lead in the world. It will be imperative for Japan as well to develop a post-RMA Self-Defense Force with an eye to its future national security policy.
 
司会
 本日はお忙しい中第37回東京財団アフタヌーンセミナーにお集まりいただきましてどうもありがとうございます。
 本日は、講師に防衛庁防衛研究所の高橋杉雄さんをお迎えいたしまして、「IT革命と日本の安全保障」というテーマでお話しいただきます。IT革命の軍事における側面であるRMAが日本の安全保障にどのような影響を及ぼすのか、また、自衛隊はRMAを追求すべきなのか、そういった点を中心にお話しいただきます。
 初めに1時間ほど高橋さんにお話しいただきまして、その後30分ほど質疑応答のお時間を設けさせていただきたいと思います。また、セミナー終了後は、別室にてコーヒーのご用意をさせていただいておりますので、ぜひ引き続きご歓談いただければと思います。 それでは、よろしくお願いいたします。
 
2.講師報告
高橋
 こんにちは。ただいまご紹介いただきました高橋です。最初におわびを申し上げておきたいのですが、きのうちょっと風邪で寝込んでしまいまして若干聞き苦しい点があるかもしれませんが、その点はご容赦ください。
 実は私、もう1つ防衛庁の政策課にございます研究室というところでも働いております。そこはどういうところかというと、1998年の7月にできた部署なんですが、防衛庁としても政策官庁をこれから目指していくということで、防研だけではないより政策に近いところで政策研究を行おうという趣旨でつくられたところでございます。
 きょうお持ちしたんですが、そこで昨年9月に「情報RMAについて」というパンフレットみたいなものを公表いたしまして、そこで防衛庁の中でどういう研究をしたのかということを明らかにしております。ちなみに、これは防衛庁のホームページに行けばアクセスできますので、そちらの方からダウンロードしていただければ全く同じものが手に入ります。
 最初に、IT革命と日本の安全保障ということなんですが、IT革命という言葉自体私実はあまり好きじゃありませんで、情報革命という言葉を普段は使っています。
 なぜかというと、革命的変化なるものは技術にとどまるものなのか、ということを感じるわけです。つまり、情報技術なり情報通信技術の革命というのは、コンピューターの処理速度が増えていくなり、ネットワーク技術が発達していくということを意味するのであって、それに伴って社会が変わっていくということは果たしてIT革命という言葉の中にインプライさせていいことなのかどうか。社会の中での情報の役割、人間のライフスタイルの中での情報の位置づけといったものが変わっていっているのではないかと考えると、ここはやはりIT革命と言うよりは情報革命という言葉を使った方がいいのではないかなというふうに普段は考えているわけです。
 もう1点としては、例えば3〜4年前にマルチメディア革命という言葉が一世を風靡したわけですが、果たしてその言葉は今どこに行ってしまったのか。IT革命という言葉もまた何年かすればどこかに行ってしまうのかもしれないというふうに考えると、情報革命という言葉を普段は使いたいと考える次第でございます。
 それと、後でまたお話ししますが、幾つかのレベルでIT革命の影響というのは考えられるわけですが、その中でも特にRMAと呼ばれているものについて分析の視点を絞ってお話しします。その中から、では米軍は何をしているのか、さらに、日本は何をしているのか、あるいは、何をすべきなのかという点についてお話を進めようと思います。安全保障というのは、基本的には政治の世界で起こる政治現象ですから、IT革命によって直接変わる部分、要するに、技術を導入することによって直接変わる部分もさることながら、IT革命による社会の変化に伴って影響を受ける部分と両方考えられると思われます。
 また、最初にRMAという言葉についてちゃんと説明しておいた方がいいと思うのでここでまた申し上げておきますと、防衛庁、自衛隊なり安保研究者の中ではかなり人口に膾炙した概念なんですが、RMAというのは、Revolution in Military Affairsという言葉なんです。このinというところにかなり趣があります。つまり、Revolution of Military Affairsではないんですよね。
 軍事史の学者の中では、かなり前からMilitary Revolutionという言葉がありました。Military Revolutionというのはどういうことかというと、特に17世紀あたりのことを念頭に言われていた言葉なんですが、例えばマスケット銃のような兵器の革新によってヨーロッパの秩序が変わっていったのではないか。つまり、軍事に起こった革命的な現象が歴史に大きな影響を及ぼしたというようなことから、Military Revolutionという概念が昔から存在していました。
 RMAという議論はどこから生まれてきたかというと、まず70年代のソ連が提唱した概念です。どういうことかといいますと、70年代のソ連、要するに、ワルシャワ条約機構軍は、米軍及びNATO軍を観察しているわけですよね。そこで、NATO軍が積極的にコンピューターあるいは長距離精密誘導兵器を導入し始めていると。これはもしかして軍事において革命的な現象が起こりつつあるのかもしれない、というふうに考えたのが最初です。ちなみに、彼らは最初は、ロシア語ですが、Military TechnicalあるいはTechnological Revolutionという言葉を使っていました。
 ソ連においてそういう議論がされているということをアメリカが知って、アメリカは、では自分たちがやっていることは何だ、あるいは、歴史的にこういう革命的な現象が起こっているのかどうかということを再び検証し直した結果生まれてきたのがRevolution in Military Affairs。つまり、ソ連が使っていたMilitary TechnicalないしTechnological Revolutionとちょっと違うわけです。つまり、ここはTechnical、テクノロジーのよさだけではないぞ、というところからテクノロジーが落ちてRevolution in Military Affairsという言葉になっています。
 今の経緯からわかるように、歴史的にもこのRMAという現象は何度か起こっていると言われています。学者によって数が違っていて、10個なり12個ぐらいなんだと思います。例えば大昔のチャリオットですか、馬で引く戦車ですね。あれが使われたのもRMAだと言われます。あるいは、最近でいえば、核兵器の登場というものもRMAと言われることがあります。核についてはまた難しい問題があるんですが。
 特に今回のRMA、つまり、IT革命に伴って引き起こされているRMAという観点で言うと、歴史的に似たような事例というのは、まず農業革命に前後して起こったRMA。つまり、人間が定住生活を始めることによって兵士の数を増やすことができるようになったということ。そこが1つのRMAだと呼ばれます。
 もう1つは、産業革命なり市民革命。ナポレオンの時代にたまたま両方並んで起こっているわけですが、国民国家体系というものが生まれていく。そのことによって、王朝同士の戦争ではなくて、国家同士の国民軍による戦争というものが生まれていく。さらに、産業革命がそのとき並列して起こっていることによって、兵器技術も発達していった。そういった形で起こっていったものもRMAと呼ばれていますが、これは今回の情報革命によるRMAに匹敵する変化だとしてよく指摘されるものです。
 例えば、有名なアルビン・トフラーなどは「第3の波」という言い方をして、農業革命によって起こったRMAと、産業革命によって起こったRMA、情報革命によって起こったRMA、この3つを指摘しているわけです。
 果たして何がRMAなのか、ということの定義を始めてしまいますと全く生産的な議論にはならないので、これはその辺にしておきますが、情報革命をきっかけとして軍事においても何らかの革命的な変化が起こりつつあるんだということをご理解していただければいいと思います。
 では、どのような変化が今起こりつつあるかということです。ここはペーパーの真ん中ぐらいに書いてある情報RMA化された戦闘の特徴というところに書いてありますが、大体9つぐらいの特徴があるのかなと考えております。
 1つは、戦場認識能力の向上と書いてあります。例えば人工衛星からのセンサー、あるいは、JSTARSというのは飛行機に搭載されて地上に展開する敵の部隊の配備状況、展開状況をレーダー情報上で捕捉するシステムのことですが、このようなセンサー。あるいは、無人航空機に搭載されたレーダーなり、赤外線カメラなどのセンサーといったものの情報を総合することによって得られる戦場認識能力、battle space awarenessと言われますが、その能力が向上してきたこと。
 これまで歴史の中では「戦場の霧」という言葉がございました。つまり、戦場においては何が起こっているのか実際にはよくわからないということを一口で「戦場の霧」と言うんですが、霧が吹き払われつつある、これまでわからなかった敵の情報がわかるようになってきているということがこの戦場認識能力の向上という部分です。
 第2に、システム化による戦力発揮。これは言葉だけ見ると全く理解できないと思いますが、戦場認識能力の向上に伴って、例えば前線奥深くにある敵の情報を無人偵察機の情報によって味方が得られる。では、そこに向かって攻撃機は何をすればいいかというと、例えばトマホークのような巡航精密誘導兵器の射程距離まで近づいて撃てばいい。
 これまでの攻撃機には何が必要とされたかというと、もちろん目標情報は偵察機なり何なりから得られるにしても、まず敵の防御砲火を回避する能力が必要とされるし、当然最終段階では目標を捕捉するためのレーダーシステムのようなものも必要とされる。それから、搭載能力も必要とされたわけです。ところが、情報収集能力の部分を全く別のセンサーに分けることができる。さらに、回避能力の部分を長距離巡航ミサイルを使うことによって飛行機自らが持たなくて済むようになる。
 したがって、これまで戦闘機や戦車のようなプラットホームの性能を上げていくことが軍事能力を上げていくのに必要だったのに対して、今度は情報収集能力と飛んで行く兵器の能力を強化することによって軍事能力を強化できる。
 ある実例をもってみれば端的に説明できると思いますが、B52という爆撃機を米軍は装備しています。B52というのは、1960年代の技術でつくられたジェットエンジン8発を積んだ重爆撃機なわけですが、ステルス性も当然持っておりません。巨大であるがゆえに回避能力も当然持っておりません。
 それはもともと何のためにつくられたかというと、米ソ核戦争のときにソ連中枢に核爆弾を投下するためにつくられたものです。だけれども、それは湾岸戦争でもコソボでも使われています。それはなぜか。つまり、人工衛星などのセンサーの発達によって、B52は別に敵を見られる位置まで進む必要はない。また、トマホークが発達したことによって、敵の防御砲火が飛んでくるところまで飛んでいく必要もない。
 つまり、B52に要求される性能は、トマホークをその射程距離まで持っていって発射することなわけですね。その意味で言うと、B52のペイロードというのは極めて有益なわけです。そうした観点から、いまだに30年、40年前のB52が使われているし、多分10年後、20年後に至っても寿命が延長されて使われているであろうと言われているわけです。
 このような形で、軍事力の能力というものをこれまで推し量っていた指標である個々のプラットホームの性能というものが違うものに変わっていく、指標が別のものに変わっていくということが第2の特徴として言えます。
 第3の特徴としては、今も言いましたが、精密誘導兵器の活用による精密攻撃ですね。つまり、これまでであれば、例えば橋を爆撃するならその橋を中心とした数百メートルには付随的な損害といったものが及んだ可能性があるわけですが、そこはレーザー誘導爆弾あるいはGPS誘導爆弾のようなものを使うことによって目標地点だけをピンポイントで破壊することができるようになっていく。これは皆さんも、湾岸戦争なりコソボ空爆のテレビ画面なりを見て最も端的に感じられた部分だと思います。
 あとはここから先、広域分散化した小規模部隊からの連携した攻撃とかいろいろあります。この辺はちょっと細かい話になるのでここでは説明いたしませんが、今お話ししたような形で戦争が変わりつつあるということはかなり広い範囲で認識されていることだと思います。
 もう1つ革命が起こりつつあると判断し得る材料がございます。それは、米軍の死傷者の数なんですね。ベトナム戦争のときには、ちょっと正確な数は覚えていませんが、5けたの死傷者が出ているはずです。湾岸戦争のときは100人から200人、確か150人ですよね。コソボ空爆のときは、戦闘中の死傷者はゼロです。このときに出た死傷者は、マケドニアにおける訓練中に出た2人だけ。このように、圧倒的に戦死者の数が減っている。
 これは、昔超大国としてアメリカと覇を競ったソ連ないしロシアが今どうなっているかということを考えれば一目瞭然であります。ベトナム戦争とアフガンを考えると大体同じような損耗率だったんだと思いますが、コソボなり湾岸戦争なりとチェチェンというものを考えていくと、その能力差というか、死傷率の差というのが全く歴然として現れてきているわけです。
 そこにはもちろん、アメリカ自体が米軍兵士が死ぬ可能性の高い形態の戦争をしなくなっているという要素が1つはあるわけなんですが、それを差し引いてもなお、明らかに革命的に米軍の死者は減ってきているということは指摘できると思います。
 とまあ、RMAについて若干お話しした後でまたIT革命の方に帰ります。1番目として、IT革命の安全保障への影響というところですが、これは先ほど申し上げましたように、安全保障というのは政治現象ですから、幾つかのレベルにおいて技術的要素としてのIT革命は影響を与えてくるものと考えられます。
 まず1つ考えられるのは、安全保障を展開する場、つまり、国際関係に及ぼしてくる影響ですね。多分いろいろな考え方があると思いますが、私はグローバリゼーションという言葉で語れるのかなと思います。
 グローバリゼーションというのは、皆さんご案内のように、過去に何度か起こっていると言われています。例えば第1次世界大戦前のヨーロッパ諸国の貿易の相互依存の拡大とか、戦間期における同種の現象、あるいは、70年代の西側先進国における貿易依存度の拡大、そういったものなどいろいろこれまでにも起こっていると言われますが、今回は前回とかそれまでのものと違っている要素が幾つか指摘されております。例えばリチャード・ローゼクランスとか田中明彦さんのような学者が指摘されているところですが、それをまとめてみると大体3つか4つぐらいになるのかなと思います。
 1つは、相互依存というあり方が質的に変化しているということ。つまり、これまで、特に第2次大戦前はそうだと思いますが、お互い自給自足できるんだけれども貿易をしていたというものですね。今度は、単に貿易だけではなくて、例えば直接投資の流れ、あるいは、これはローゼクランスの指摘ですが、本社機能は先進国にあるけれども工場機能は途上国にあるとか、そういった形の垂直的な相互依存。つまり、本社がなくてもやっていけないし、工場がなくてもやっていけない状況が生まれつつあるということ。そのような形で、相互依存が本当に切れない形のものに変化しているのではないかという指摘もあります。
 もう1つの特徴として挙げられるのは、相互作用の変化というふうに言えると思いますが、少なくとも西側先進国の間で軍事力を使って政治的な摩擦を解決するということはしばらくは考えにくい。その辺何が原因で起こっているかよくわからないけれども、田中先生なんかは「新しい中世」という言い方をされています。少なくとも軍事力が行使されにくい国家間関係が生まれていることは間違いない。
 第3には、経済のグローバリゼーションだけではなくて、社会のグローバリゼーションが起こっているのではないか。そこにおいて特にIT革命というものが大きな役割を果たしていると思いますが、時間の壁なり空間の壁というものがインターネット上には存在しないわけで、インターネットを通じて直接的に国境を越えて人々が結びつきつつある状況が生まれている。それが何を生み出すかはよくわかりませんが、少なくともナショナリズムを越えた何かが生まれつつある、あるいは、生まれる可能性を秘めていることは否定できない。
 というふうに、相互依存の変化、相互作用の変化、社会のグローバリゼーションの3つぐらいの特徴が今展開しているグローバリゼーションにはあるのではないかと考えています。そうすると、相互依存の変化と社会のグローバリゼーションというところでIT革命というのが大きな影響を及ぼしているのではないか。あるいは、「新しい中世」というものが生まれていることに関しても、もしかすると影響を及ぼしているのかもしれない。
 ちょっとそこは実証的な研究が必要だと思いますが、そういった形で安全保障が展開している場が変化しているとすれば、国家レベルの安全保障政策にも当然大きな影響を及ぼさざるを得ないと考えられます。この点については最後にもう1回帰っていきますので、また後で議論しようと思います。
 国家安全保障レベルでは、今申し上げた情報RMAと、サイバー戦というものが挙げられるでしょう。
 RMAというのはこれからお話ししますが、ここでは情報RMAというふうに「情報」という言葉をつけております。なぜ「情報」をつけたかというと、今回のRMAというものがIT革命というものを背景としているということが1つ。もう1つは、すごくつまらない理由ですが、過去10回ぐらいRMAが起こっていると言われている以上、それを区別する名前が必要だというぐらいの話ですが、1つは情報RMAだと。
 もう1つは、サイバー戦ですね。この辺についてはいろいろ新聞紙上あるいは一般雑誌でも議論されているところであります。つまり、情報化社会の発達によって社会の情報インフラというものが脆弱化しつつある。その脆弱化しつつある情報インフラに対して電子的な攻撃が加えられるのではないか、というところがこのサイバー戦ですよね。言ってみれば、手段としてはウイルスなりハッキングなりロジック爆弾といったものが指摘されます。
 あと、論者によっては、RMAの中にサイバー戦を含む論者もおります。ただ、私はここでは区別して考えようと思っています。というのは、そこにRMAはRevolution in Military Affairsだからです。つまり、サイバー戦によって戦争が決まるというふうに考えるとすると、それは多分軍事そのものが変わっているんだと思います。
 軍事の本質というのは、敵の一部を物理的に撃破することによって自らの目標を達成することにあるのであって、そこは変わらないのではないか。相手を破壊する政治的目的の上で、軍事的手段として相手の何かを破壊するためにサイバー戦を補助的手段として用いることはあるだろうけれども、サイバー戦によって戦争そのものが決着することはないのではないか。少なくともそれは10年、20年の単位では起こらないのではないかというような考え方ですね。
 というのは、いろいろ理由はあるんですが、サイバー戦については防御手段が存在するということですね。つまり、核ミサイルが飛んできたら、今BMD技術はまだ極めてプリミティブなものですから、それを迎撃する手段はないわけです。ところが、ハッキングなりウイルスに対しては、時間と資源を費やせればその対抗手段がつくれる。そう考えていくと、全く無抵抗であることは考えられないので、特に情報化社会が発達すれば発達するほどその辺の防護能力も高まっていくであろう。人任せにしていていい部分ではないんですが、高まっていくであろうと予想される。
 そうすると、サイバー戦だけで戦争の片が付くものではない。もちろん重要な問題ではあるんですが、サイバー戦だけが安全保障上の問題になるわけではないというふうに考えられる。
 むしろ、例えば戦争を開始する直前の5分間相手国の早期警戒網をウイルスによって麻痺させることができて、その5分間に集中的に精密誘導兵器をぶち込むことができれば圧倒的に戦争は有利に働くわけです。
 そういった形での補助的な手段としてのサイバー戦というものが考えられるけれども、やはりサイバー戦には防護手段が存在している以上、それだけでやったときの効果がわからないというところが大きな問題として考えられる。したがって、主要な手段とは考えられないし、RMAの構成要素としてサイバー戦のみがクローズアップされていくのは間違いではないかなと考えております。
 この辺についてはいろいろ議論があるところだと思います。また、若干私どもの手に足るような議論ですので、質問などで議論ができればと思います。
 次に、2つ目の情報RMAの背景というところに入っていきます。
 ここは先ほども半分ぐらいお話しした部分ですが、議論のオリジンは70年代のソ連にあります。それが国際的に注目されるようになったのは、湾岸戦争であるというふうに言えます。湾岸戦争で精密誘導兵器やらステルス機やらジョイントスターズのようなハイテク通常兵器が活躍したということで明らかになった。
 つまり、湾岸戦争前に米軍の死傷者数というものを世界の軍事評論家がどの程度予想していたか。数百でおさまると予想した専門家はほとんどいなかったわけですね。それが、実際には150人そこそこで済んでしまったというところが大きな衝撃であったし、CNNによって、世界中のテレビに放送された精密誘導兵器の威力といったものが大きな衝撃を与えて、RMAというものが概念として大きく広まっていったと言えます。
 では、そのRMAの構成要素ということですが、先ほど特徴ということで幾つかお話ししたんですが、構成要素は大体この3点なのかなと言えます。
 1つは情報システムの革新ですね。これがIT革命が直接的に影響を与えた部分だと思いますが、まずは先ほどお話しした多様なセンサーを整備したことによって戦場認識能力が向上していく。つまり、山の陰であろうが、林の中であろうが、敵がどこに展開しているかわかるようになるというふうに言われているわけです。この辺についてはいろいろな異論がございまして、それはまた後でお話ししますが、IT革命の成果を直接導入することによって、戦場で何が起こっているのかわかるようになる。
 もう1つは、センサーがつかんだ情報を、先の言い方だとブロードバンドと言うんでしょうか、大容量のネットワークを使うことによって味方のすべての部隊が共有する。場合によっては、政治指導部まで共有する。これまで戦場の報告というものは、中間指揮所でフィルタリングされて、当然時間的ロスも伴って最高指揮官ないし政治指導部までたどり着いていたわけです。それが、IT革命の成果を応用してネットワークを構築することによって、リアルタイムで味方がすべてその情報を共有することができるようになる。そういうことが情報システムの革新です。
 もう1つは、兵器システムの革新ですね。これはIT革命というよりは高度技術ということなんだと思いますが、長射程精密誘導兵器が普及し、大規模に使われていくようになっていくということ。これも先ほどお話ししたように、民間人に付随的な打撃をできるだけ与えることなく敵を破壊することが可能になっていくということですね。
 第3に、これが最も重要なポイントだと私は考えているんですが、指揮・運用にかかわる革新である。つまり、情報システムの革新と兵器システムの革新に伴って新たな戦い方が生まれてくるはずだと。その新たな戦い方というのものは、当然新たな組織なり新たな戦術などを必要とするはずであるから、そうしたものに対応した組織なり戦術なりをこれから改めてつくっていく。
 それらが3つ合わさって情報RMAというものが構成されていくのかなと考えております。
 ちなみに、防衛庁の定義、正確には防衛庁の定義と言うのは正しくないんですが。というのは、防衛庁としてはまだ定義してないからです。定義したのは防衛庁防衛局防衛政策課研究室という部署です。そこでどう定義したかといいますと、「軍事力の目標達成効率を飛躍的に向上させるために、情報技術を中核とした先進技術を軍事分野に応用することによって生起する、装備体系、組織、戦術、訓練等を含む軍事上の変革」というふうに定義しております。
 ここで「軍事力の目標達成効率」という言葉を使っておりますが、どういうことかといいますと、破壊力ではないと。破壊力については、核兵器によってそれ以上の破壊力というのは考えられなくなっている。そうではなくて、同じ資源、要するに、同じ爆弾1発でどれほど効率的に物事を破壊できるか、あるいは、どれほど余計な損害を伴わずに目標を破壊できるか、といった言葉を表現するために目標達成効率という言葉を使っております。それがすべての目標にある。
 「情報技術を導入していくことによって生起する、装備体系」というのは、先ほど申し上げた攻撃機のあり方の変化のようなものです。
 組織の変化というのはどういうものが考えられるかといいますと、先ほどネットワークを活用することによってリアルタイムですべての部隊が情報を共有することができるのではないかという話をしたわけです。これは当然、民間の、特に企業なんかではもう何年か前から言われていた話で、それに伴って中間管理職等がいなくなって組織がフラット化するのではないかという議論があったわけですね。同じことが軍隊にも起こるのではないか。つまり、中隊や大隊がなくなって、小隊が直接連隊にくっつくとか、小隊が直接師団にくっつく、そういうことが起こるのではないかというような議論です。
 ただ、そこについてはまた異論があります。どういう異論かというと、一般企業と軍隊とは違うということなんですね。軍隊というのは、仕事をしながら人間が減っていく組織なわけです。そういう観点から考えると、組織上何らかの冗長性というものを確保しなきゃいけないわけで、そこは、民間企業でやっているから軍隊でもできるでしょう、というふうに言えない部分がある。そこは今後、例えば実験部隊の編成などを通じて試していかなきゃいけない部分なんだと思います。
 ただ、戦術だって当然そうですよね。これまでは、見通し線上で戦車を撃ち合っていくようなことが陸戦の華だったわけです。それが例えば、全然見えないところから精密誘導兵器が飛んできて戦車が破壊されてしまうということになれば、戦車は要らなくなってしまうし、そもそも陸戦戦術そのものが変わっていくといった形で、さまざまな変革が起こっていくということです。
 今の戦車の話を膨らませていきますと、戦車は相手からの精密誘導兵器によって破壊されてしまうんだねと。じゃあ戦車は要らなくなる。そのかわり陸戦部隊に何が要るかというと、そこでは精密誘導兵器を20〜30発積んだ戦車みたいなものが必要になるのではないか。その戦車みたいなものというのは、敵のセンサーから見えちゃいけないから形もステルス的になってくる。当然ステルス化するということは、今戦車の主要な構成要素である砲塔はなくなっていく。そもそもミサイル化されていけば砲塔も必要なくなりますが。そのような、20発ぐらいの精密誘導兵器を積んだ四角いステルスシェイプした車両20両ぐらいによって構成されている部隊というものが戦場に出てくるのかな、というようなことも長期的には考えられるわけです。
 そうすると、これまで戦車というものは敵地を蹂躙して占領するという機能があったわけだけれども、そこはミサイルで打撃することによって敵を撃破していくだけにとどまって、占領はしなくなるのか。
 まあ、いろいろとスペキュレーションはできるわけですが、こうした想像力の膨らむ範囲でさまざまな変革が将来考えられているということが言えるわけです。
 ところが、ちょっと話が散漫になって申しわけないんですが、装備体系、組織、戦術など、軍事力が向かう方向というのは技術によって規定されるわけじゃないわけですよね。そこは政治戦略的要素によって規定されていく。つまり、軍隊を何のために使うのか、どのような役割が軍隊に与えられるのかというところが政治的戦略的要素から規定された上で軍隊のこれからかかわっていく方向性が決まっていくのではないかと考えられます。
 そこは例えば、IT革命がどんなに進展していてもまだ冷戦が終わってなかったらどうだったかということが1つ言えるわけです。つまり、そのときは、アメリカはいまだにヨーロッパ平原においてワルシャワ条約機構軍と数十万単位の兵力による地上戦をやることを考えていなきゃいけなかったわけですよね。当然そこでは核兵器も使われる。そういう状況と、今、湾岸戦争とかコソボ紛争のような、それなりの烈度は高いけれどもしょせん地域紛争である、地域紛争に対処すればいい、という能力あるいは編成といったものとは根本的に変わってきますよね。そういった意味で、政治的な要素を考慮した上で方向性を決めていかなきゃいけない。
 その判断で必要とされるのは、今直面している脅威はどのようなものなのか。例えば70年代あるいは80年代であれば、直面している脅威というのはワルシャワ条約機構軍の戦車部隊である。それは極めて大きなものだから、今持っている能力を下げるようなリスクは負えないわけですよね。ところが、今はどうか。今の脅威というのはしょせん地域紛争レベルである。そうすると、将来直面するであろうリスクの方にある程度資源配分を割くことができるはずであるということが言えるわけですね。
 あるいは、リスクに対処するためにはどのような能力が必要とされるのか、それは今持っている能力とどう違うのか、という判断が必要とされるわけです。それが違っているのであれば革命的な変化が起こる。もしくは、将来も今と同じ能力で対処できるのであれば、そこには革命的な能力は必要とされない。したがって、RMAは起こらない、という話になるわけです。
 先ほどRMAの構成要素として1,2,3というのを挙げたわけですが、1番というのはIT革命に伴って起こるわけですね。2番というのも今の加工技術等の発達によって起こっているわけです。
 問題なのは、そこの1番と2番だけだと、私の定義では、という形なんですが、Information Revolution in Military Affairs にすぎない。Revolution in Military Affairs ではないと。それがRevolution in Military Affairs であるためには、今軍隊に与えられている役割というものをどう変えていくのか。あるいは、今軍隊が想定している任務というものがどう変わっていくのか。それは今に比べて革命的に変わっているのかどうか、ということを判断した上でRMAというふうに呼ぶのか呼ばないのかが決まってくるというふうに考えております。
 では、そこで果たして今の軍事において革命が起こっているのかどうか、というのを判断する上で必要なのが米国の置かれた政治戦略的状況ということなわけですね。そこで、3番の米国の取り組みというところに入っていくわけです。
 結論から言うと、そこは革命が必要でしょう、という結論になるわけです。なぜかというと、今ちらっとお話ししたように、冷戦期の米軍というのは、ソ連という比較的対照的な、核から通常戦略までほぼ同じ程度の質と量を持った能力を備えた仮想敵国を相手にした軍隊であった。それが今は、例えば湾岸戦争のイラク、コソボのセルビア、あとは、朝鮮半島有事が起こった場合の北朝鮮といったように、能力的には完全に非対称である。場合によっては彼らは大量破壊兵器を持っているかもしれないけれども、総合国力での優勢というものはだれの目にも明らかである。その意味において、非対称なアクターであると言える。
 ただ、問題が1つそこで起こってきた。冷戦期の場合、ヨーロッパで負けることはアメリカの国益が重大に損なわれることだというのは、ほぼコンセンサスとしてアメリカは認識していたわけですね。ところが、湾岸ぐらいだとどうかわかりませんが、地域紛争というものが果たして本当にアメリカ兵の血を数百、数千流してまで得るべき利益なのかというところについては若干議論が分かれるところである。したがって、そうした紛争に介入するときには、米軍は死傷者をできるだけ出さないようにしなければならないという制約条件がかかってくるわけです。
 そうしたことを考えていくと、アメリカが実際に進めている構想が意外にクリアに理解できるようになるんです。例えば、全体として見るものとしては、96年に「ジョイントビジョン2010」というものがあります。これはRMAのバイブルと言ってはなんですが、RMAについて勉強する場合には必ず読まなきゃいけないものです。
 ちなみに、この「ジョイントビジョン2010」の中にはRMAという言葉は使われていないんですが、国防報告の中には、RMAを実現する1つの道しるべとして「ジョイントビジョン」があるというふうに書いてあります。
 ここでは何が書いてあるかというと、前方展開兵力とパワープロジェクション能力は維持・強化する。そのための情報技術であり、そのための統合であるということを明確にうたっている。つまり、冷戦後の地域紛争に対処するために前方展開兵力を維持しなきゃいけないし、パワープロジェクション能力を強化しなきゃいけない。それをできるだけ効率よく行うために、情報技術を活用して情報優勢を追求する。また、軍種間の統合、陸・海・空・海兵隊の統合を進めていく。
 情報優勢という概念は、飛行機が生まれた航空優勢という概念と似ています。制空権という言葉でも使われますが。これは、味方の行動を容易にするとか、敵の行動を妨害するために、敵の航空兵力を撃破してこちらから爆撃をしやすくするなり何なりするという概念です。つまり、相手の情報システムの能力を阻害することと、味方の情報システムの能力を確保することによって作戦を効率よく進めていくという概念です。
 そういった形で、情報技術を極めて重視した形での前方展開兵力とパワープロジェクション能力というものの維持・強化を強調しています。
 また、2000年には「ジョイントビジョン2020」という文書をつくっていて、技術のみならず人的・組織的な革新か必要であると。そこが「ジョイントビジョン2010」との違いでして、「ジョイントビジョン2010」の際には、技術はやっていけば何とかなるんだということが読み取れるわけですね。ところが、「2020」の際には、技術だけじゃだめだと。技術は民生技術の拡散によっていろいろな国が持つようになる。今米軍が持っている優位はいずれ失われる。だから、差を開けるためには人的や組織的なレベルでの革新をやっておく必要がある、というような考え方ですね。
 あと陸・海・空それぞれ書いてありますが、この辺のこまごまとした話は、もしご関心がある方は、ことしの3月ぐらいに、防衛研究所の方から毎年出している「東アジア戦略概観」の2001年版が出るので、そちらをご覧になればおわかりになると思います。
 ここの中で1つだけ指摘しておかなければならないことがあります。それは陸軍の98年、99年の項目に書いてあるものです。
 陸軍の98年のものは何かといいますと、陸軍の師団の中でデジタル化を進めて、先ほど申し上げた情報のリアルタイムによる共有を大体2010年ぐらいまでにやってしまおうという構想があります。その結果どうなるかというと、情報化によって効率化するから頭数を減らせるじゃないか、というような発想で師団単位を減らしてしまうということを指摘しています。
 もう1つ、99年の「アーミービジョン」というもの。これは俗に、今の陸軍参謀長の名前を取って「シンセキビジョン」という名で言われることがあります。これはどういうことかというと、コソボの空爆のときに米陸軍はほとんど貢献できなかった。コソボの空爆というのは大体空軍力で片が付いてしまったのが大方の印象で、それは間違いなく事実でもあるんですが、米陸軍は兵站に極めて時間と手間がかかるといったことから、コソボに展開する準備が完了した瞬間に終わってしまったような状態だったわけですね。そうなってくると、陸軍なんて要らない。要するに、今後想定される紛争というのはああいう形での短い紛争であることが想定される以上、陸軍がこれまでのような重武装な部隊を持っていても役に立たないのではないかという懸念が陸軍の中で生まれてきたわけです。
 そこで「アーミービジョン」というものが生まれてきました。そこでは何を言ってるかというと、全地球どこにでも96時間以内で展開できる部隊を9個つくる。つまり、これまで重武装だった9個師団をそうした形の、ミディアム旅団という言い方をするんですが、中規模旅団に改編する。そこでは、戦車は使わない。重くて兵站にもメンテナンスにも手間がかかる戦車は使わないで、車輸を使った車両を使って展開するというような形での陸軍を志向しているわけです。
 これは、実は東アジアの日本の安全保障にかなりの影響を及ぼし得るものです。どういうことかといいますと、こうなると陸軍と海兵隊の境界線がなくなってしまうわけですね。海兵隊もどういう作戦構想を今立てているかというと、伝統的に海岸から陸地に上陸していく作戦は古いと。上陸母艦から事故が頻発して見直しもささやかれていますが、現在開発中のオスプレイと言われる垂直離着陸のプロペラ機によって敵中枢奥深くに展開することによって敵の中枢を麻痺させる、撃破するというような形の作戦。コソボの「オペレーション・マニューバ・フロム・ザ・シー」、あるいは、ここにちょっと書き忘れましたが、2000年に出した「ストラテジー21」という文書では言ってるわけです。ここで、では陸軍とどう違うか、という話になってくるわけですね。そうなってきた場合、では沖縄海兵隊をどうするのか、という議論にも当然結びつきやすい。
 もう1つは、マニアックな議論なんですが、デジタル化師団というものは、単純に編成が発表されただけじゃなくて、どの師団をいつデジタル化するかというタイムスケジュールも発表されています。
 それは2010年ぐらいまでのスケジュールが決まっているわけですが、一番遅いのは朝鮮半島に展開している第2師団。それはある程度当たり前のことで、ここではあしたにでも戦端が開かれるかもしれない。最近はそうでもなくなってきていますが、今の部隊を大きく装備をいじることはできないということから遅らされています。
 ところが、第2師団というのは、朝鮮半島と、あと、米本土のワシントン州にあるフォートルイスにも存在します。1個旅団だったと思いますが、そちらの旅団は「アーミービジョン」による緊急展開軍への改編を一番最初に受けるんです。
 そうすると本当に、では海兵隊とどう違いがあるの、日米安保の今の大きな柱である在日米軍の駐留というものはどうなるの、というところはちょっと防衛庁、外務省的には今後考えなきゃいけない問題ではあるということは言えると思います。
 ちょっと米軍の話にかまけ過ぎているきらいはあるんですが、結論に戻りますと、結局、人が死なない戦争をやらなきゃいけない要求が米軍には強まっているし、世界どこで起こるかわからない地域紛争へ介入する能力を持たなきゃいけない。以上の点から考えて、米軍は革命的な能力の変化を必要としている。したがって、今米軍が進めているものは明らかにRevolution in Military Affairs という名前に値するというふうに私は考えております。これはただの定義の問題ですが。
 ただし、いろいろな批判が存在しています。アメリカ軍は全然革命を進めてないじゃないかというふうに、例えばエリオット・コーエンなんかが「フォーリン・アフェアーズ」に指摘したように、結局、米軍は今だってヨーロッパ平原における戦闘を念頭に置いた装備体系を整備してるんじゃないの、という批判は根強く存在しております。
 ただ、それはやはり早晩変えていかざるを得ないし、変わっていくであろうというふうに考えられますので、日本としては、米軍がどう変わっていくのかというところに注目しておく必要がある。つまり、IT革命と日本の安全保障というものを考えたときに、米軍がどう変わっていくかというのは1つの大きな検討要素であるからということです。
 では日本にはどういう影響があるのかというようなところに最後に持っていきたいと思います。
 日本において今どのような取り組みがされているかということですが、まず1つは、自分たちがどうIT化していくかというところがあって、もう1つは、それがどういう影響を及ぼすのかということなんだと思います。
 ドキュメントとしては、2000年の7月ぐらいにある部署がつくられまして、そこで検討した「防衛庁・自衛隊におけるIT革命」という文書があります。これは、今情報ネットワークがどういうものになっているのか、というものをまとめたものですね。次に、先ほどご説明した「情報RMAについて」です。最後に、「防衛庁・自衛隊における情報通信技術革命への対応に係わる総合的施策の推進要綱」。この3つの文書が大体今の取り組みを説明している文書です。
 今、平成13年から17年の次期防衛力整備計画が国会にかけられている最中ですので、それが加わればそこも入るのだと思いますが、大体こういった形で整理されています。
 ただ、ここのレベルでは何にとどまっているかというと、自衛隊はITを導入しますよということを言っているだけです。それに伴って組織を変えていくとか、戦術を変えていくとかという話はしていません。あるいは、米軍の変化がどのような影響を日本に与えるかということも特に説明はしていません。
 では、RMA、つまり、我が国として単なるIT化を越えた革命を追求するべきかどうかというところなんですが、4つのファクターがあります。
 1つは、まず我が国が専守防衛であるということ。専守防衛というのは、字面どおりに取るのであれば、水際撃破に成功すればともかくとして、大体の確率において敵軍が日本領土に上陸してくるわけですね。上陸してくると、敵を撃破するために自国領土を戦場として戦わなければいけない。そのときに、無差別攻撃を行わなければ敵軍は破壊できないのと、敵軍だけを選択的に破壊できるのとどちらがいいかと言われれば、それは後者がいいことは間違いない。
 例えば、今どきそんなことがあるとは考えにくいですが、旭川市街が戦場になりそうなときに、市街に与える影響、それはゼロにはなりませんが、それを限りなくゼロにしながら戦える能力を持つということは、まさに専守防衛に必要である。したがって、精密誘導兵器を持つ必要というのは実は米軍より高い。
 米軍がなぜ精密誘導兵器を持つ必要があるかというと、それはもちろん効率的に破壊をすることが1つあるわけですが、もう1つは、きれいな戦争を行うというイメージを得ることによって自国の支持なり国際世論の支持を武力介入について勝ち取ることがあるわけですね。だけれども、そこは開き直ってしまって、敵の民間人がある程度死ぬのはかわいそうだけれどもやむを得ない、という理論の構築はできるわけです。
 ところが、日本の場合は、そこに逃げ遅れた民間人もいるかもしれないし、少なくとも民間資産は逃げ遅れているわけですから、そこをできるだけ破壊しないようにロシア軍なり何なりを撃破する能力を持つというのは大きな重要性を持っている。
 ただ、大きな問題があります。つまり、RMAというものが仮に進んでいくとしたら、果たして上陸部隊なんて来るのかどうか、という質問は当然あるわけです。そこはそこで将来また後で考えましょうという話になってしまうのですが、そこは専守防衛であるから必要ないとは言い切れない。
 もう1つは、米国との相互運用性の維持。つまり、同盟国である米軍がすごい勢いでデジタル化している、そこにうちがアナログ化されていたら共同作戦なんてできませんよね、という批判はできる。
 ここにももう1つあって、今自衛隊と米軍の役割分担というのはどうなっているかというと、仮に日本有事が起こったらという話ですが、自衛隊が防御をする、米軍が攻撃をするという役割になっていて、必ずしもNATO軍みたいに隣で戦うかどうかというのはよくわからない。そういう想定はしてないはずなんですよね。そう考えていくと、海上戦闘を除いたら必ずしも相互運用性はなくてもいいんじゃないかという議論は成り立つところなんです。でも、そこはないよりあった方がいいでしょう、という議論ができるわけで、米軍が進めているデジタル化に少なくともキャッチアップはしていく必要がある。
 第3点。これは日本に固有の理由だと思いますが、少子化している。今はたまたま不景気ですから自衛隊の応募隊員数は減ってないようですが、これから仮に景気がよくなった場合、自衛隊を受ける数は減っていくであろうことが予想される。そうすると、少ない人数である程度の仕事をしなきゃいけない。そのためには、やはり情報技術を積極的に活用して組織の効率化なりドクトリンの活用なりを一緒に行って、単位部隊当たりの戦闘効率を上げていく必要があるのではないかということが言える。
 もう1つは、技術的優位性ですね。最近では若干怪しい部分があるのかもしれませんが、少なくとも中国がやるよりは技術的には優位があるのではないか。一応IT先進国と言われている日本ですから、そこを追求する土壌はあるのではないかということは言えると。
 こういった4つぐらいの要素を考慮すると、大体日本としても積極的にRMAは追求していくべきであるということが言えると思われます。
 まあ、7原則と書いてありますが、ここの情報化、統合化など7つの原則に伴って今後の防衛力整備を進めていくべきだというふうに考えているということですね。
 今後どういう形で取り組まれるかということですが、先ほどちらっと13年から17年までの防衛力整備計画のお話をしましたが、そこにはRMAという概念は存在しません。軍事技術の発達に伴うどうのこうのという部分はありますが、RMAという形で体系化されたものではございません。
 それはどういう意味かというと、単純に時間的に間に合わなかったということもあるし、RMAを仮に自衛隊がやるとすれば、自衛隊ができて以来最も大きい、これまで経験しなかったほどの変革をやらなければいけない。それは1年、2年で結論を出せませんよねと。それは3年なり5年なりかけた上で平成18年以降の防衛力整備計画の中で形にしていくということが今後なされることだと思います。
 若干時間も厳しくなっているようですが、最後に、日本の安全保障との関連における今後の課題ということで、3点ばかり今私が思いついた問題をお話しします。
 まず1つは、グローバリゼーションとの関係ですね。先ほどグローバリゼーションについて若干とりとめのないお話をしましたが、特にグローバリゼーションというよりは田中明彦先生のおっしゃる3つの圏域論との関係に近いんですが。
 田中明彦先生の3つの圏域論というのをここで改めてご説明しますと、市場経済の発達度と民主主義の成熟度によって現在世界に存在する主権国家を3つのグループに分ける。最も先進的なものは新中世圏、次が近代圏、3つ目が混沌圏というわけです。
 新中世圏というのは、いわゆる西側先進国プラスアルファという形で、そこはもう民主主義も成熟しているし、経済の相互依存もはっきり進んでいる。国家主権というものも相互に浸食を受けていて、お互いに武力を使うことは考えにくい関係である。
 近代圏というのはどういうものかというと、そこでは国家主権というものが極めて重視される、紛争には武力が使われることもある。
 混沌圏というのは、そもそも国家というのは制度的な存在でしかなく、政治的な存在ではない。そこでは内戦やら何やらが頻発している状態、というような分け方です。
 そこで安全保障上の問題をどう整理しているかというと、新中世圏の国々の安全保障上の問題はお互いの問題ではない。つまり、近代圏国家同士の紛争が波及してくる、あるいは、新中世圏と近代圏、例えば中国との関係において起こってくる問題の2つしかないという考え方なわけですね。
 RMAというのは、これまでずっとお話ししていますが、こういった形の軍事のハイテク化というのができる国というのは極めて限られているわけですよね。米国はできるだろう、NATO諸国も難しいけどできるでしょう、日本も難しいけどできるでしょう、だけど、中国とかロシアはいかがですかね、という話になってきますよね。
 少なくともできるだろうというふうには思われますが、それはしばらく時間がかかることは間違いないし、できてほしいという願望を持っているアメリカ人も中にはいるようですが、そこは少なくともしばらく時間がかかるであろうと。そうすると、すごくシニカルな言い方をすると、新中世圏の国々が近代圏の国々との摩擦を解消するための手段としてRMAは機能するのではないかというふうに考えられるわけです。
 そうすることによって、近代圏が新中世の国々に挑戦してくるのを核抑止より下のレベルで抑止する力として、ソフト面で同盟の強化があり、ハード面でRMAがある。それは多分、明確に意識されているかどうかは別にして、そういう効果を持つことは間違いないと思うんですよね。
 そうなってくると、これまで基本的に受け身で物を考えている日本の外交政策というものに対して、かなり難しい問題を突きつけてくるのではないか。つまり、近代圏との摩擦に対して軍事力を平気で使うようになっていくような状況が生まれてくるとすれば、軍事力をできるだけ使わないで受け身の外交を取ろうとしているこれまでの日本の外交政策というのは新中世の仲間の中で極めて浮いた存在になっていかざるを得ない可能性がある。そういったことをちょっと考えておく必要があるのではないかと思われます。
 第2に想定される問題は、同盟関係の将来ということです。NATOでの作戦能力にギャップがあったと書いてありますが、これはコソボの空爆のときでの出来事です。
 NATO軍というのは、自衛隊よりもはるかに米軍に近いというふうな印象が一般的にあるし、それはある意味では事実なんですが、コソボ空爆の際には、夜間の精密攻撃能力を持っていた国はアメリカ以外には存在しませんでした。あるいは、電子情報の収集能力も全面的にアメリカに依存していたわけです。そういった意味で、英仏のようなNATOの中でもかなり高度な軍備を整備している国であっても、米軍との共同行動にはかなりの問題が生じていた。そう考えると、果たして自衛隊ってどうなんですかね、ということは当然出てくるわけです。
 そこで例えば、NATOと違って自衛隊、あるいは、韓国と違って自衛隊というのは、アメリカ軍と交錯した形で戦争はしないという議論はあるんですが、そこはそことして、能力のギャップというのが問題になる可能性はある。
 あるいは、前方展開能力の役割の変化。つまり、先ほど申し上げたように、まず海兵隊と陸軍の役割が変わっていけば、沖縄海兵隊の役割はどうなっていくのかという議論が1つある。
 もう1つは、RMAのもう1つのポイントというものが、先ほどもちらっと申し上げましたが、敵国を占領することではなくて敵の軍事的目標を破壊することに重心が移っていくのではないかという気がちょっとするわけです。例えば戦車がミサイルキャリアに変わっていった場合、敵の軍事力を撃破するだけで必ずしもそこは占領しないでいいということも考えられるわけですよね。その議論をもっと進めていけば、じゃあ、昔あったアーセナル艦という概念、つまり、200〜300発の巡航ミサイルを積んだ船からミサイルを敵に撃ち込んでしまえばそれだけでいいという話になっていく可能性もある。そうなっていくと、陸上兵力そのものが要らなくなるではないかという議論があるわけですね。
 その辺の議論はコソボのときもあったわけですが、コソボのときその辺の反論として出たのは、結局平和維持活動としての陸軍勢力というのは必要だったじゃないか、という議論があって、そこの部分はなくならないんだと思います。ただ、向こうを占領して言うことを聞かす能力というのが今後とも必要とされるのかどうか、あるいは、アメリカがそこに必要性を見いだすのかどうかというところは若干議論が必要なところだと思います。
 場合によっては、そういったところは同盟国に任せてしまうということも考えられるわけですから、前方展開能力の役割がどう変わっていくのかということについては見ておく必要があるのではないでしょうか。
 最後に、我が国の情報RMA化の方向性というふうに述べております。ここは、先ほど申し上げたとおり、軍隊の改革の方向性というのは政治的条件なり戦略的条件によって変わっていく。そこによって規定されていくということになると、では、日本として政治的、戦略的条件をどう規定するのか、というところが問題になるわけです。
 そこは一言で言うと国家戦略ということになるんだと思いますが、軍事レベルで言えば、例えば今の日米の役割分担。つまり、日本有事のときの共同作戦。周辺有事のときには日本が後方地域支援で米軍が戦闘任務ということであれば、はっきり言って自衛隊が情報RMA化する必要って今ないんですよね。
 なぜかというと、まず敵軍が情報RMA化するにはまだ当分時間がかかる、上陸侵攻する部隊もしばらくは考えられないとすると、今一番考えるべきは周辺有事における後方地域支援である。そうすると、米軍が今後進めていくであろう兵站のハイテク化、兵站のデジタル化といったものにキャッチアップしていくことがまず大事。要するに、後方地域支援というのは兵站支援の一部を担うわけですから、米軍の兵站システムのトランスフォーメーションについていければそれでいいじゃないかという議論が成り立つわけですよね。そういうことは別に専守防衛型RMAという議論もできるわけですが、そこは脅威見積もり等によって決まってくるわけです。
 他方、仮に集団的自衛権を行使するとか、海外派兵を行うとかということになって米軍と一緒に地域紛争を戦うことが想定される事態になった場合には、すべてのプライオリティーが変わるわけです。その場合には、例えば一個連隊なり一個旅団なりの部隊をハイテク化して、いつでも地球の裏側にでも送れる部隊をつくらなきゃいけない。
 この辺は、我が国がどのような戦略を持って、どのような日米関係を将来構築していくのかということがもうちょっとはっきり見えていかないと答えが出てこない問題なのではないかと考えていて、もしかするともうはっきり見えていると言う人もいるのかもしれませんが、少なくとも私の目には見えていないということが言えます。
 もう1つの間題は、BMDとの関係ですね。つまり、弾道ミサイル防衛について今アメリカと共同研究をしているわけですが、それを仮に配備することになれば膨大な金が必要になるわけですね。そこは整備計画としてRMAという形で進めるであろう自衛隊のハイテク化とバッティングしてしまう可能性がある。恐らく自衛隊は両方はできないでしょう、そのときにどうするのか、という問題はありますね。
 ただ、考え方はいろいろあって、BMDというのも結局高度な情報技術を背景として成り立っているわけです。つまり、BMDとRMAは別のものではない。我が国が置かれた中国と北朝鮮の弾道ミサイルの射程におさめられているという戦略的条件を考えると、実は我が国のRMAというのは弾道ミサイル防衛能力を備えることなのではないかというふうな結論も導き出せるわけです。そうなるとすれば、アメリカ軍への地球の裏側への協力はしないというふうにはなるんでしょうけれども。
 その意味で、どのように東アジアの脅威を見て、どのような東アジアを将来つくるのか、そのときに日米関係をどう使っていくのか、という国家戦略ができて初めてIT革命をどう自衛隊の中、あるいは、日本の安全保障の中に生かしていくのかということが決まっていくのではないかというふうに考えております。
 以上です。








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