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二章 藩王国集合国家ヴィジャヤナガラ帝国
 ヴィジャヤナガラ帝国は、1300年代中葉から1500年代中期、デリーにムガル帝国が磐石の体制を打ち立てるまでの二百数十年間、南インドを統治した。その支配は、アンドラプラデッシュ、タミール・ナドゥ、カルナータカ、ケララの各域に及んでいた。文字通り南インドを治めていた。しかし、長い間、その存在は知られていなかった。歴史の空白であった。小藩国が割拠していたと見られていたのである。
 この帝国が、なぜ知られなかったか。ひとつにはその政体にある。日本の徳川幕藩体制に似ていて、多くの藩王国があたかも大名のように帝国の治下にあったのである。租税を納めることが帝国の統治下にあるという地方分権国家であった。たとえ、周辺王国が帝国の統治下にあっても、マンガロールはその治下に入らなかった。港湾を持ち、商業都市として自立したマンガロールはいわば都市国家として、ヴィジャヤナガラの支配下に入る必然がなかったのだ。そこには、ふたつ目の多様な社会である南インド、ドラヴィダの特異な状況があった。後述するように、帝国の首都ハンピーが発見されなかったこともあって、幻の帝国であったのだ。前章で触れた、ブラーミズムに対するリンガエットの激しい宗教運動を経たカルナータカを中心としたヴィジャヤナガラを民俗と文化のファクターから捉えてみたい。
 
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