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パネリストと聴衆のディスカッション
 
モデレーター: それでは、ボイド将軍は、フロアの方から質問をいただきたいということなので、残された時間をそれに使いたいと思います。ひとつよろしくお願いしたいのですが、最初にお名前をおっしゃっていただきたい。フリーランスの方がいらっしゃいますから、全員の方に言えとは申し上げませんけれども、会社名をおっしゃってください。それから、何を質問したいのか、何を言いたいのかということを、最善の努力を払って簡潔におっしゃっていただきたいと思います。
山内: 防衛大学校の山内と申します。日本語で失礼いたします。
 
モデレーター: いいですよ。全然失礼なことはありませんよ。
山内: ボイド将軍にお伺いしたいのですが、テロ対策として「開発」と「安定」ということを提起されましたけれども、「開発」と「安定」という言葉そのものが、米国とテログループの間では「同床異夢」ではないのか。かつてユダヤ戦争のときに、ローマ帝国が主張した自由とユダヤ人の求めた自由との間に大きなギャップがあって、これが結局、ユダヤ戦争につながり、ユダヤのディアスポラ(Diaspora)になった。それと同じように、おそらくいま米国が主張される「開発」と「安定」、とくに「安定」とテログループが求める「安定」には相当のギャップがあるのではないか。だから、この両方が受容可能な「開発」と「安定」とはどういったものを想定されるのか、ボイド将軍のもう少し詳しいご意見を伺いたいと思います。
 
ボイド: では、いまのご質問にお答えしましょう。非常に重要な質問だと思いますので、さらに加えていただいてもかまいません。
 いろいろなテロの形態があり、それはいろいろな不満に対するレスポンスであり、多くの場合、それはほかの問題を隠蔽するものです。一つ例を挙げましょう。9月11日のテロ活動の参加者の多くはエジプトあるいはサウジの人間でした。抑圧的な政権下の国で、どちらの国も政策上、ほとんどどんな政治的な表現もモスクとか学校制度で許容しているのですけれども、ただし政権に影響を与えてはならないのです。か
 それはどういうことかといいますと、たとえば、どちらの国の学校の教科書も、もっとも激しい米国とイスラエルの表現に満ち満ちており、それは実際に翻訳されたものを読んでみないと、ほとんど想像し難いぐらいの表現になっております。子供たちはその教科書を読んで大きくなり、そこから反感とか嫌悪感、不満、恨みが生まれていきます。
 キャンプデービッドでサダト氏とベギン氏が歴史的な合意を行ったあと、エジプトに対するアプローチとして、教科書の委員会を両国の間で設立してはどうかということが提案されました。
 それは、フランスとドイツが第二次世界大戦後に行ったようなもので、お互いの国でお互いの教科書をレビューして、歴史の記述によって憎しみが生まれているとすれば、それを緩和し、もっと合理的なものにしようということでした。この委員会が設立され、非常に大きな成功を収め、ドイツやフランスの今の教科書を読みますと、そのような憎しみはもう現れていません。
 そして、イスラエルがエジプトにその提案をしたときに、エジプトは絶対的に拒否しました。つまり、それをしてしまうと主権の侵犯になるというわけです。したがって、教科書は引き続きそのように書かれ、憎しみや恨みは引き続き生まれています。
 ほかの例を挙げてもいいと思いますが、「開発」とは、こういったことをもう少し和らげ、憎しみや恨みを抑えようとするものです。それは歴史に基づいていて、非常に非合理的であるとすれば、大きな課題であるといえると思います。
 
モデレーター: ありがとうございました。ラショナルな問題であり、すごく精神の根源にかかわる問題で、非常に難しい問題ですよね。でも、安全保障にとってすごく大事なテーマで、ほとんど哲学的なテーマではないかと感じました。
 
益田: 公明党の益田洋介と申します。まだ原書は読んでおりませんが、ハーバード大学ケネディ行政大学院のジョセフ・ナイ教授が最近出されました「アメリカのパワーの逆説」の中で「アメリカは単独行動主義をとるべきではない。それは長期的にはアメリカの国益にかなわないことで、むしろ多国間主義がアメリカのとるべき主義である」ということを述べているそうです。
 とくにアメリカは現政権になってから単独行動主義をとっておりまして、「京都議定書」に反対するとか、CTBTにも反対するとか、われわれから見ると、他国の尊厳なり協定をまったく無視したような行動をとってきています。9月11日以降、現政権は多国間主義に多少軌道修正しつつあったのですが、戦争の第1段階で勝利を収めると、それを見て、現政権の中枢部は「やはり自分たちだけでできるんだ」という言い方をまたしてきている。こういうふうな現政権の舵取りについて、将軍はどのようにお考えでしょうか。
 
ボイド: 一国で一方的に何かをやりたいという衝動は常に存在するものではないかと思います。とくに軍事力の行使という分野においては、そういう衝動はつきものです。理由はいくつかあって、そのうちの一つは、まずアメリカと同盟国の間の軍事力のレベルの違いがありますし、軍事支出額の大きな乖離があることです。
 軍事的な観点からこれを考えますと、たとえば、作戦を合同で行うということになりますと、活動レベルがスローダウンしてしまうということは、アメリカから見ると確かにあるわけで、その分、能力は劣化してしまう。だからこそ全部単独でやりたいということがあると思うんです。
 ただ、ブッシュ政権が今は何をやっているか、何を認識しつつあるかということを聞きますと、対テロ戦争は軍事力では勝てないということです。もちろん軍事的なツールは重要なツールになることは明らかですけれども、いちばん重要なツールはそうではなく、むしろ外交あるいは経済的なツール、あるいは開発のツール、法の執行が重要で、それらを効果的に実施・実行していくには単独主義では無理で、多国間でのアプローチが必要なのだという認識があると思います。ですから、もっと広く見ますと、今後は単独行動よりも多国主義的なアプローチが増えていくことになるだろうと思います。
 ただし、固有の個別の軍事行動に関していうならば、個別行動のほうがやりやすいし簡単だからということで、これからも散見されるでしょう。しかし、やるのは簡単かもしれないけれども、政治的には多国主義の重要性のほうがずっと大きい。つまり、単独でやったほうが効率的であるとしても、政治的には多国主義でやるほうが重要だという側面が強調されてくることになると思います。
 
萱原: 拓殖大学の萱原と申します。先ほどからの論議で、テロ対策の中で中国というファクターがコメンテーターからも出たような気がしますが、第1段階でアフガンで展開しておられる反テロ戦争の長期化に伴い、アメリカ勢力の中央アジアヘのプレゼンスの長期化が予想されておりますし、いろいろな兆侯が報道されております。しかし、一方で、中国にとってみれば裏庭が荒らされる思いであり、場合によっては新たな中国とアメリカとの摩擦になりかねないと私は見ております。アメリカが、グルジアを含め、いろいろなところに基地を拡充し、中央アジアにプレゼンスを強化し長期化しそうだと見られることについて、アメリカの特別な戦略がおありなのかどうかということが質問の1点です。
 もう1点は、私が最初に申しましたように、それをもとにした中央アジアにおける中国とアメリカの摩擦、将来的には、現在は妥協しているロシア等との新たな地域的な摩擦ということについて、どうお考えでしょうか。よろしくお願いします。
 
ボイド: おそらくロシアも中国も、9月11日のテロ事件に対して、あれだけ積極的なかたちで、しかも非常に素早い対応を行ったのは、両国にとっても国内にかなりのテロリスト問題を抱えていたからではないかと思います。ですから、アメリカを支持するということは互恵主義で、自国内におけるテロ対策に対する支援がアメリカからあるのではないかという期待があったのではないかと思います。実際のところ、テロ攻撃直後、世界中のリーダーの中で、プーチン大統領がいちばん早くブッシュ大統領に電話をかけてこられましたし、中国も驚くほどの支援・支持をしてきたという状況があります。
 私も、どちらの国も、アメリカが中央アジアやコーカサス地域に長期的にプレゼンスを持つことを喜んで受け入れているとは思いませんけれども、アメリカとしても、必ずしもそれを望んでいるわけではありません。たとえば、中国の場合、深?、新疆で問題があり、われわれが向こうの状況を許容するかぎりにおいて、向こうも許容するのではないかと思います。
 アメリカは中央アジアに関して戦略はあるのかということは、わかりません。ないのかもしれません。こういった場合、ブッシュ政権はケース・バイ・ケースで、そのつど状況に合わせてやっているということだと思います。全体を包括するような戦略があるのかどうかということに関しては、先ほどのプレゼンテーションでも言ったとおり、ないのではないかと思っているということです。今つくろうとしていることは確かですけれども、今存在しているのかと聞かれれば、そうではないということだと思います。短期的な対策を積み重ねて、日常的にケース・バイ・ケースでやっているという状況だと思います。
 
八島: 慶応義塾大学の学部生の八島と申します。きょうはプレゼンテーションをありがとうございました。私の質問は、日本が東アジア地域において役割を拡大するときに、日本人としてはもっと大きな役割を果たしてほしいのですが、現実的にどういう戦略を持ってやっていけばいいのかという点について、ボイド将軍と志方将軍にお答えいただきたいと思います。
 今、中国と韓国が、日本のプレゼンス拡大に対してネガティブなイメージを持っているわけですね。中国の場合、共産党が人民解放軍をコントロールするパワーが落ちていて、日本がプレゼンスを拡大させると、さらにそのパワーが落ちてしまうので、それを避けたいという方向が国際環境として一つあると思います。
 韓国としては、歴史的な問題ということで、日本からすると対支対英米蘭戦争は国際法上合法だったという意見もありますが、韓国から見ると感情的なネガティブなイメージがあって、それは払拭できない。それに対して、日本がより円滑に、反発を受けることなく、より安定的な東アジアの環境を保ちながら、どうやってパワーとか役割を拡大させていったらいいのか。その戦略をどう構築していったらいいのかという点について、ボイド将軍と志方将軍にご意見をお願いしたいと思います。
 
ボイド: まず、最初の質問は広範囲にわたる対中対策だったと思いますが、後半におっしゃったのは、日本の軍事能力を、近隣諸国の過去の記憶という観点からいって、どのように大きくしていくことができるのかという、もっと具体的な質問だったと思います。
 中国に対処するいちばんいい方法は、中国にグローバルコミュニティという制度に積極的に関わってもらい、統合化していくということだと思います。つまり、多国間の共同体の中に中国が取り込まれれば取り込まれるほど、その参加国になればなるほど、そこから逸脱したような行動はとりにくくなっていくだろうと思うんです。ですから、それを包括していく。中国を国際コミュニティの一員として、可能なかぎり引き入れていくということだろうと思います。
 ハート・ラドマン委員会の報告書にも書きましたけれども、世界においては、仮に、大国あるいは大国になりうるようなところ、ロシア、中国、インドが完全に各国間の共同体の成員にならなかったとすると、長期的な安定性はありえないだろうということです。もちろん経済力もそうですが、人口の大きさということもあります。いずれも核保有国であるということで、地球全体の安定性を覆す能力を持っている国ばかりですから、そういった国々を取り込むことができればできるほど、統合化することができればできるほど、国際法の下に置くことができればできるほど、世界全体にとってそれはいいことなのだということです。
 さて、後半のご質問に関してですが、アメリカとのパートナーシップ、同盟関係の中で、段階的にお国がこの地域における軍事能力を拡大し、近隣諸国に脅威を与えないかたちで、だんだんとそういうものを構築していくことは可能だと思います。もちろん歴史的な記憶はなかなか消えるものではありませんし、それは私も認識しております。しかし、いまお話しになった国々、とくに韓国の場合は半世紀にもわたって民主国という伝統はでき上がってきていると思います。日本は半世紀にわたって民主国として非常にうまく運営されてきたということは、近隣諸国も認識するところだと思います。
 この点に関しては志方将軍にお任せしたいと思います。
 
志方: では、陸軍のほうに入ります。中国に対して日本がどういうグランドストラテジーを持てばいいかというのは、ボイド将軍と変わりません。地球の5分の1の人口を持ち、ユーラシア大陸の中心にある国をコンテインメントすること自身、間違っていると思うんです。これは、コミュニティにエンベロップするという戦略をとったほうがいいと思います。
 ただ、われわれがいつも念頭に置いておくべきことは、新しく大きくエマージングしてくるスーパーパワーは、ともすると軍事力にディペンドしがちであるということです。日本にもそういうことがありましたし、ドイツにもイギリスにもそういうことがあったわけですから、そういうことにならないように日米同盟がきっちりしていれば、彼らが、軍事的オプションはあまり得しないオプションだということに気がつくと思うんです。中国の人たちは非常に賢明だから、それは気がつくと思うんです。そういうことをやったほうがいいと思います。
 わが国の軍事的な影響力は、これからそれほど大きくする必要はないのですが、政治的な影響力はもっと持つべきだと思うんです。たとえば、日本版台湾関係法はつくってもいいと思うんです。
 それから、自衛隊も、さっき言いましたように、憲法も改正して、ちゃんと基本法を決める。わが国がユース・オブ・フォースをするときは、こういうときに限るということを、ちゃんと表明することが大切だと思うんです。われわれが警察官が持っているピストルを怖がらないのは、彼らが警察官職務執行法によって、ちゃんとルール・オブ・エンゲージメントを持っているからです。しかし、今、近隣諸国から日本の自衛隊を見ると、世界で有数な軍隊が、それをどうコントロールするかということもわからない。どういうときに使うかということもわからない。憲法にもそのレゾンデートルがない。そういうものは非常に怖く見えると思うんです。
 ですから、そういうことをしっかりして、日米同盟をしっかりして、中国を世界的な枠組みの中に少しずつ入れていく。日中関係がうまくいけば、アジアの平和は大丈夫だと思います。
 
田久保: いまのご質問に、お二人の将軍にプラスアルファのお答えをしたいと思います。中国はエンゲージメントポリシーで、われわれの国際社会に組み入れていくことは、基本的な戦略で、正しいと思います。ただし、日中関係の今の状況は、基本のところで少し正さないと、エンゲージメントポリシーまで進まないのではないか。それはどういうことかというと、片方は日本の主権と独立を尊重してくれているのかどうかという基本のところなんですよ。日米間のように、あるいは日韓間のように、基本のところで尊重してくれているかということです。
 日本の領海の中に情報収集艦が入ってきたり、総理大臣が靖国神社へ行くときには中国の決裁をいただかないと何もできない(笑)。普通の民主主義国でこんな国がこの世の中にありますか。それから、不審船が沈んでも、中国のお許しを得ないと引き上げられない。また、日本の民主主義のこういう自由なシステムの中で教科書を書いて、これにイチャモンがつくと文部省もビビッている。教科書の問題は中国だけではありませんが。
 日本は民主主義、向こうは共産党の一党独裁なんですね。だから、ここがなじむように、普通の国家として、「おはようございます」「こんにちは」「さよなら」というケジメのところをきちっと向こうに守っていただく。ここのところができないと、エンゲージメントポリシーとか何とか大口をたたいても、口だけの話になってしまうのではないかと、僕は思います。
 ですから、小さな始まりでも、国家と国家の関係を向こうに正していただくように、まず求めてることが最初ではないかと私は思います。以上です。(拍手)
 
モデレーター: 福田さん、ありますか。いくつかのオプションをお出しになっていましたね。
 
福田: まったくおっしゃるとおりで、エンゲージかコンテインかといったときに、最終的にエンゲージしなければいけないということは本当にそのとおりだと思います。ただ、今の中国のあり方、あるいは、外に対する影響、中に持っているエントロピーを考えたときに、それをそのままずっとエンゲージしていくというのは、やや楽観的なのではないかというのが私の見方です。変質を促していくというときに、エンゲージメントポリシーももちろんその変質に関わるかもしれないけれども、ほかの選択肢も考えなければならないのではないかと思います。
 
モデレーター: いま12時10分過ぎで、12時に終わることになっていたのですが、いま僕が考えていることは、中国の問題をやりましたけれども、もう一つ質間をいただいて、ほかのテーマを午前中にやりますか、やりませんかということです。皆さんがよろしければ、あと10分延長して、質問をいただきますが、そのかわりメシを食う時間はそれだけ減るんです。皆さん、お答えがないので、こういうモデレーターが存在することそのものが、とてもルサンチマンになると思いますけれども、ここでやめましょう。第二部、第三部がありますから、そのときにまた深めましょう。
 では、どうもご苦労さまでした。第二部は13時30分に始まります。(拍手)
 
進行役: どうもありがとうございました。第二部は1時半から始まります。それまで昼食休憩といたします。








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