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基調講演チャールズ・ボイド(米国外交問題評議会副会長)
 
「世界の安全保障環境〜新しい世界・新しい選択肢」
モデレーター(歌川): 皆さん、おはようございます。このシンポジウムは、実はおもしろく設計されています。きょうの式次第をご覧になっていただきたいのです。これは三つに分かれておりまして、第一部は、アメリカのキーノートスピーカーの方の基調のお話に対して、日本側の3人のパネリストがそのコメントをして、そののちにキーノートスピーカーとパネリストの間で若干のやりとりをしまして、そのあと、フロアの皆さんと対話をするという仕組みになっております。第二部は、それと対称的な設計がされておりまして、基調講演者は日本側、パネリストはアメリカ側で、第一部と同様のやりとりをして、またフロアの皆さんと一緒にディスカッションをします。第三部は、芝居にたとえればフィナーレで、アメリカと日本の一人ずつのキーノートスピーカーとパネリストの方が、ここに全部集まって、第一部と第二部で出てきた問題点について、さらに討論を深めるということになっています。私は、そういうかたちのセミナーに出るの初めてですが、これを設計したのは、先ほど日下会長がお話しになったロナルド・モースさんです。
 では、始めましょう。ボイド将軍、よろしくお願いします。
 
ボイド: ありがとうございます。私が太平洋を渡ってきた回数は20〜30回になると思うんですけれども、昨晩、小さな夕食会が日下会長主催で開かれ、そこで初めて、私がキーノートスピーカーとしてまず話をして、そのあと、日本の知識人3名から、「おまえは間違っているぞ」と大攻撃を受け、たたかれ続けるシンポジウムに、翌日参加するのだということを知りました。
 さて、本日、私に与えられた講演のテーマは非常に難しいものです。2001年9月11日のアメリカの同時多発テロの結果、世界において何が変わったと私が考えているのか、また、それに対処するにあたって、アメリカの観点からいって、どんな選択肢があるのかということを話せということです。おそらくいちばんいいのは、9月11日、自殺志向の男たちが乗っ取った飛行機でワールド・トレード・センターとペンタゴンに突っ込む以前に存在した世界についてお話しすることではないかと思います。
 私は、光栄にも、米国21世紀安全保障委員会、のちに共同議長のハート上院議員とラドマン上院議員の名前をとってハート・ラドマン委員会と呼ばれることになる米国の連邦諮問委員会の理事長を務めることができました。与えられた作業を達成するために、われわれは、14名の著名なアメリカ人、政治家、大使経験者、軍の将校、財界人、それからジャーナリスト1名を委員に任命いたしまして、そのグループをサポートするために、50名の専任・兼任の学者、外務職員、情報局員、事務局員等のスタッフを置きました。
 与えられた課題は、三つの基本的作業をこなすということでした。まず一つ目は、向こう四半世紀の間に、われわれはどのような世界の中で暮らすことになるのかを見極めること、二つ目は、そのような世界の中で、わが国の国家安全保障上の目的を追求するにあたって、適切な国家安全保障戦略を立てること、三つ目は、アメリカ合衆国が国家安全保障上の責任を果たそうとする構造、プロセス、つまり仕組み全体を検討し、今後25年の時代と課題に対応するものになっているかどうかを見極めることです。
 この作業は、過去半世紀の間に行われた、わが国の国家安全保障機構のもっとも包括的な見直しをすることになるはずで、本当に重要な使命だったわけですけれども、その仕事をするのに2年半という時間と十分な資金が与えられました。この委員会は、二大政党の協力の下で、両党から同数の代表を出すというかたちで構成されました。また、研究結果から影響を受ける可能性があるいかなる制度や機関からも独立して運営されるものとされ、また、ちょうど新政権が誕生するときにタイミングを合わせて作業が完了する日程が組まれました。
 これは、下院議員のニュート・ギングリッチ氏の強い推奨の下、クリントン大統領の指示で設立された委員会です。作業の初めに、私は、ピーター・シュワルツという、グローバル・ビジネス・ネットワーク所属の未来学者の助けを借り、方法論的アプローチをまずつくりました。彼は、ロイヤル・ダッチ/シェルの80年代のシナリオ作成を手掛けた人なので、財界の方であれば、シュワルツという名前をご存じかもしれません。
 われわれが意図しましたのは、未来を細かく正確に定義することではなくて、そこそこ信頼性のある方向性についてのパターンを確立するために、十分なトレンド情報を集めることが可能かどうかを見ることでした。ある一定範囲のありそうな将来像の幅を確立できれば、大規模投資が必要か、戦略上の変更が必要かを知るには十分であろうということでした。
 トレンドデータは四つの主要領域を選んで集めました。「国内および世界経済」「科学技術」「社会政治動向」「軍事および安全保障の動向」でした。およそありとあらゆる資料を読み、ありとあらゆる分野の専門家を集めて知識を伝授していただくということで、33回の大きな会議を行いました。
 また、日本を含めて28カ国、この惑星中を飛び回りました。友好国、同盟国にも行きましたし、そのどちらでもないと考えられる国の人々ともお話をしました。行った先ではどこでも、その国、その地域の人々が、自らのセキュリティに関して、将来どうなると考えているのかを学ぼうということで聞き取りを行いました。安全保障上、自分たちにとって最大のリスクは何になると考えているのか、それぞれの国、地域の安全保障上のトレンドは何と考えているのか、向こう四半世紀で何をいちばん心配しているのか、また、自国と所属する地域全体の関係はどうなると思っているのか、アメリカとの関係はどうなると見ているのか、といったことを聞いたわけです。
 きょうの会議の目標を考えると、時間も限られていますので、研究結果の中でいちばん重要と思われるところだけを申し上げたいと思います。戦略的展望の中で幅広いビジョンを得るのに必要な情報と、今後来るべき新しい世界において、われわれが提案する戦略の主要な特徴についてお話ししたいと思います。わが国の国家安全保障に関係する制度上の変更について、50にも及ぶ主要な提言が出てまいりましたけれども、きょうのカンファレンスの目標からは離れるところがあると思いますので、そのすべてをお話しすることはいたしません。
 まず、ありとあらゆるかたちで現れている「グローバル化」が、われわれの住んでいる今の時代における主要な特徴であると捉えられました。グローバル化は、生活のすべてに変革をもたらし、経済統合と富の創造に参加できている国および人々にとっては、かつてないスピードで物事を変えているわけですけれども、世界の人口の大きな部分、また、各国、各部門の中でも置き去りにされている人々がいて、その結果として、豊かな民主国家と、取り残され、疎外されたそれ以外の国々という、大きな分断が起きています。
 90年代初頭に特定された「情報革命」が今加速化して、経済統合化、より高い水準の効率性、生産性、現在のような富の創造の水準が出てきているわけですけれども、それがまた不満と疎外感の大きな原因にもなってきています。貧富の差が、世界の隅々においてより明らかに現れるようになってくるなかで、それが指摘されております。
 「バイオテクノロジー」「ナノテクノロジー」「材料技術」は、20世紀後半から21世紀初期における革命の第2番目の波をつくっていますけれども、これは、人類にとって大きな約束を提示しているだけではなく、大きな不安のもとにもなっています。農業や医療分野において可能性がいわれております遺伝子操作を含めたバイオテクノロジーは、多くの人々の心に不安と反感をもたらしています。たとえば、ヨーロッパの農業部門は、競争優位性を失うのではないかという不安を感じており、それが、伝統的な生活や価値観が根本的に変えられてしまうのではないかという道義的・宗教的な不安と相まって拡がっています。
 また、ナノテクノロジーと材料技術が進歩することによって、軍の研究開発分野の創造力が解き放たれ、光センサーや聴覚センサーを昆虫のような大きさの飛ぶデバイスに入れることによって、10年前には考えられないような偵察能力が得られるのではないかとか、考えただけでめまいを感じるような飛行機の無制限の可動軌条面が可能になってきているということです。
 次に「政治および社会分野」ですが、より多くの国々が民主国になってきていますけれども、グローバル化の歪みも非常に大きな影響を及ぼしています。国家権力が、どんどんグローバルに統合化された経済権益の中で、手を縛られたかっこうになっているということもあります。好戦色である政府と、そうではないNGOの関係性も世界中で拡がってきていて、どういう関係性がいいのかということに関しては、まだ決まっていませんが、しかし、大きな影響が出てくるだろうということです。
 一方、「軍事および安全保障分野」において最終的に結論されたのは、アメリカは、歴史上、ほかの国になかったような、しかも、現在、地上で唯一の最大の超大国になったにもかかわらず、驚くべきかたちで、かつてないほど安全保障面では不安を抱えているということです。いま両方の現象が同時に起きているのですけれども、それがアメリカにおける安全保障環境を大きく変えてしまいました。
 まず、アメリカは、多くの伝統社会およびサブグループにとっては問題だと考えられている「グローバル化の象徴」として台頭しました。何らかの理由で神益のできない国々にとってみれば、アメリカはグローバル化という悪のシンボルそのものであるということになっています。
 2番目は、大量破壊兵器にも必要な技術が拡散してきているということで、国家あるいは非国家のアクターが、アメリカのような巨大な力がある国に対しても脅威となるような力を持つことになりました。これはかつて歴史にはなかったことです。この種の脅威は、アメリカがもっとも準備できていないもので、つまり本土攻撃という脅威であったわけです。このことはどういう意味を持つのか。戦略的な動向にどういう影響を与えるのか。また、全世界的な権力の配分にどういう影響を与えるのかということです。
 アメリカの役割に関してですが、冷戦時代を終えて、ライバルがないという状況の中で登場し、世界各国からは、ソ連を負かしたということで大きな歓迎を受けたというのがアメリカであります。しかしながら、そのアメリカが、今では非常に相矛盾する感情を、友好国からも、彼らをけなす批判者からも受けているようです。先ほど申しましたように、われわれが世界中を旅行して聞き取ったメッセージのいちばん大きなものは「怨恨」でありました。われわれがしていることに対する恨みだけではなくて、われわれのあり方、今後ありうる「存在に関しての恨み」であります。
 非常に顕著なのは、アメリカを恐れるという点で、われわれが容赦なく非常なスピードをもって、世界のほかの国とは比べものにならないような能力をつけていくことに対する恐れであります。それは、われわれの軍事的能力に関わることだけではなく、そのほかの能力に関しても恐怖が感じられているようです。
 遺伝学について、われわれはいろいろやっていますけれども、最終的には人間の身体的・精神的発展を大きく改善させることができると思います。また、ヒトゲノムを操作することで、われわれは、もっと大きく、速く、強くなり、頭がよくなり、もっと長生きができ、視力がよくなり、歯も丈夫になり、精神病の人は減るというような改善が見られると思います。しかし、世界のほかの地域では、そのような改善は得られないと見られているのです。
 アメリカは、いろいろなやり方でもっと力をつけ、もっと覇権的になり、もっと単独行動主義者になり、その結果、世界から孤立してしまうというように、われわれは言われました。
 そして、アメリカの同盟関係ということでは、9月11日のあの出来事は、それをあまり変えていません。少なくとも当面のところは変わらないでしょう。しかし、アメリカに対して、自分たちの弱さ、もろさをわからせることとなりました。そしてまた、世界は変わったのだということを認めさせることとなりました。それはみんな知っていたのですけれども、何もしてこなかったわけで、世界は変わったのだということを認める動機づけともなったということです。
 こうした出来事そのものは、アメリカとその同盟国あるいは友好国あるいは敵との関係を、それほど大幅に変えるものではありません。あの出来事のあと、当初、NATOや日本、同盟国から、本当に心からの同情と支援が寄せられました。しかし、これが永遠に続くとは考えられません。その同情から戦略的な関係が永久に続くとは考えられません。9月11日の前からいろいろなトレンドが存在し、それは変わっておりません。すべての国が、自分たちの利益にとっていちばんいいのは何なのかということにのっとったうえで、行動を決めていきます。
 9月11日のずっと前から、北大西洋同盟は懸命になって、その存在の意義を模索していました。ポスト冷戦時代になって、その存在理由が何かはまだはっきりとはわからないし、敵がはっきりとは見えないというなかで、集団安全保障体制となるのか。域外の安定確保にも出ていく軍事力になるのか。あるいは、アメリカが欧州大陸に領土なきパートナーとして残るための政治的な媒体になるのか。それはともかくとして、ヨーロッパでは、自分たちの外交政策をアメリカに任せる時代はもう終わりました。しかし、そのあと何がとって替わるかということは、まだわかりません。
 とはいいましても、湾岸戦争はNATOの作戦ではありませんでしたが、イギリスやフランスのような主要国でさえ、アメリカと効果的な合同作戦をすることはなかなか難しいということを、はっきりとわれわれに示す証拠となりました。そして、数年後のコソボでの作戦では、われわれは、アメリカとそのパートナーのギャップの拡大を見ることとなりました。NATOの地上軍は、二、三の例外を除いて、アメリカの軍隊から見ると、近代的な戦闘をする陸軍というよりも、「バックパックを持って遊びに出ていく集団」と形容した学者もいました。それほど弱いものであるということです。また、空軍も、あまり精密兵器もないし、ステルステクノロジーもないし、指揮の統制もできていないと思われました。
 また、効果的なインターオペラビリティ(相互運用性)も問題です。これはあまりはっきりとはいわれず、非常に用心していわれていますが、ヨーロッパでは、ヨーロッパ独自の個別な防衛イニシアティブを求めているということです。これはESDIと呼ばれていますけれども、自分たち自身のアイデンティティということで、アメリカが関わっても、あまり大きな意味を持たないことに関しては、ヨーロッパ独自でケアしていくという力を推し進めようとしているのかもしれません。これは責任分担ともいえるのかもしれません。あるいは、EUの政治的な重しの軍事的構成要素の一つとして、アメリカの覇権的な試みを阻止しようとするものかもしれないというのです。
 また、アフガニスタンの戦争も、NATO同盟の不確実性を是正はしておりません。NATOの場合には第5条を運用し、一つの国が攻撃されたら、すべての国の攻撃であるということで、実際にアメリカは要請なくして一方的に効果的にタリバンに向かい、アルカイダのネットワークを山岳部の隠れ家に追いやることになりました。
 日米関係に関してですが、私は若い士官として10年ほどこの地域にいましたけれども、ここ25年は欧州が中心になっていますので、日米関係に関する私の知識は非常に危ういということを、まず白状いたします。でも、日米関係に対する私の印象や直観を語りたいと思いますので、そのあと、皆さん、どうぞ私をいろいろと教育してください。
 ハート・ラドマン委員会が99年に日本に来たときには、われわれは、ビジネス界の方々、外務省の方々や国会議員の方々にもお目にかかり、たくさんの質問をいたしまして、答えてくれる人の年齢によって答えに微妙な違いがあることに気がつきました。私のように比較的高齢な人たちは、一様に日米同盟を支持し、日米関係の構造そのものはこれからも変わらずに伝統的なかたちで存続するであろうと、いわばその分業のようなものを支持していました。核兵器は持たないし、長距離攻撃能力も持たないという見解でした。21世紀の政治地図がいくら変わっても、たとえば朝鮮半島の統一が行われたり、中国が台頭してきても、日米同盟は影響を受けないという考え方をしていました。
 しかし、同じ質問を40歳以下の若い人たちにすると、反応は違いました。今後は、アメリカの傘にはそれほど頼らないような日本独自の役割を持つような動向になるだろうと、彼らは考えているようでした。しかし、こうした自信も今は少し弱まっているようです。経済的な低迷や、侮り難い中国のプレゼンス、朝鮮半島での不穏な状況があり、アメリカとの緊密な同盟関係の存在理由が高まってきているわけです。
 9月11日のあとの状況はどのようになるのかということですが、今後はもっと成熟した「普通の関係」ができてくるのではないかと思います。アメリカは日本を必要としていますし、また日本もアメリカを必要としています。あとで戦略の話をするときに申し上げますけれども、皆さんが私に同意できないとおっしゃるのであれば、あとで教えていただきたいと思います。
 では、9月11日以後の戦略的な情勢はどうなると見ているのか。予見できる将来に関しては、とくにアメリカの場合はテロリズムが安全保障上の最大の問題であり続けると思います。アメリカだけではなくて先進国はどこもそうだと思います。これは新しい現象ではなくて、ヨーロッパやアジアの国々は、その影響をよく知っていて、これは弱い者が強い者に対して使うツールであると考えられています。しかしながら、最近はとくにアラブの国々、さらにはイスラムの国々では、その正当性を広げ、それは9月11日以後、さらに強まってきたような気がします。9月11日と比べますと、今ではアメリカに向けてテロリストになるのは難しくなっていると思いますが、しかし、テロの脅威は大幅に減ったわけではありません。アメリカにとって、すべての破壊的な紛争は、予見できる将来、匿名のものであり、しかも非対称的であるという状況でしょう。
 9月11日はウサマ・ビンラーディンに簡単に結びつけることができましたが、テロリストは今後どこに報復すればいいのか、アメリカにとってもっとわからないようにしていくと思います。われわれに対して使われるツールは、大量攪乱あるいは大量破壊であると思います。また、通常的な爆発物、生物兵器、科学兵器、放射能の装置なども、われわれの非常に穴だらけの国境を越えて、コンテナ船あるいはコンテナなどでどんどん運ばれてきます。また、サイバー攻撃が、銀行システム、電力施設、その配電施設、管制塔などに向けられる可能性があり、恐怖で政府あるいはコミュニティの日々の生活を麻痺させてしまいます。市民に恐怖を与えて、彼らが国境の外へ出ていかず、家にこもってしまうようにしようとするわけです。
 では、どうすればいいのか。近々のことでは、ブッシュ政権のいちばん大きな安全保障上の焦点は、最後に残っているアルカイダやタリバンの残存勢力分子をアフガニスタンから駆逐してしまうことです。比較的小さな作戦を行い、そのために地元の政府とテロ対策活動を行う。フィリピンやグルジアなどでテロの取り締まりの訓練をする。あるいは、ソマリアやスーダンなどのテロの訓練キャンプに対して攻撃をし、それに対応する。最終的にはイラクの問題も取り上げざるをえないでしょう。どのようにして、そして、だれとやるのかということは、今後また検討を進めていくことです。サダム・フセインは核兵器の運搬手段を持ち、そういう恐怖をわれわれに与えているということは忘れることはできません。
 アメリカとしては、今後、今日の安全保障の環境に沿ったものにするために、軍の革新あるいは改革、とくに軍隊の革新に力を入れていくと思います。ブッシュ政権は、2004年には国防予算を2003年の3790億ドルよりさらに引き上げると思います。そして、ミサイル防衛システムは、われわれにとって優先事項であり続けます。また、国土防衛にも力を入れ、2003年には377億ドルが計上されています。国境警備については、今はあまり整備がよくありませんし、訓練もされていませんので、この再編が行われると思います。
 では、長期的にはどうかというと、もっと効果的な軍隊と情報収集のツールが必要ですし、法の執行や、本土を守るための安全保障のメカニズムも必要で、これらを開発していきますが、しかし、これだけでは戦略にはなりません。これは戦術的な改善にしかすぎません。安全保障上の環境として、新しいものに対応するための戦略的なアプローチは何かといいますと、はっきり申し上げて、それはまだできていないと思います。われわれは、NSC68という、冷戦時代の封じ込め戦略をつくりましたが、それと比較できるようなアプローチはまだできていません。
 2000年4月、ハート・ラドマン委員会は、二つ目の報告書を発表しました。「国家の安全保障戦略・自由の促進と安全を保持するための共同作業・」というタイトルで、それが、この質問に関するわれわれの答えであったわけです。今後、われわれは新しい世界に何をすべきかということで、この報告は正しい答えであったと思います。9月11日のあとも、われわれの見解は変わっておりません。
 この戦略の中核となるのは、テロの反応を起こさせるような根本的な原因に対応するということです。つまり、近代的な生活の中に統合できない人たちがいるということで、そのためには三つのことが必要です。政治プロセスの複数化、経済システムとしては民間の人たちが資本を管理できるようにすること、司法制度に関しては、個人の尊厳を守るようにすることなどです。テロリズムは、こういうようなものを持っている国々でもありえますけれども、いま言いましたようなことは、テロを排除するための一つのモデルとなりうると思うのです。
 このような戦略は「開発」と「安定」という二つの柱から成るものです。開発のプロセスということでは、われわれはすべてのかたちで開発の支援をしなければなりませんし、不安定なところでは、それを鎮めていく努力を同時にしなければなりません。
 アメリカがこれからやろうとしていることは、向こう数十年間、世界全体の協力が必要です。援助の支援や紛争の回避に関しても、われわれの姿勢や考え方を変えていかなければなりませんし、資金の配分に関しても変えていかなければなりません。よりよい国際的な体制も必要ですし、われわれの同盟関係の強化も必要です。われわれの委員会に来てくれた非常に実際的な政治家、成功している企業のマネージャーたちは、この問題に関して、長期的に本当に一生懸命考えてくれました。最終的に彼らの結論として出てきたのは、この歴史の現事態にあって、やはりこういうことを全部やっていかなければ、この問題は解決できないし、テロリズムと生きていくしかないということです。ブッシュ政権にとって、テロとの戦いが国の最大のプライオリティであり、われわれはテロリズムと共存していくつもりは毛頭ないということです。
 以上が私のスピーチです。ご清聴、ありがとうございました。(拍手)








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