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3.2 大型高速船の試設計及び評価
3.2.1 試設計対象船の選定と試設計
 実績面で大きく先行している豪・欧の高速船に追いつき、追い越すに足るブレークスルー技術を検討するには、我々自身の高速船技術レベルを評価・認識することが基本的に重要である。そこで、欧州において就航中の高速フェリーの中から、文献において船体重量や速力等、基本要目が明らかな船を選定し、乗船等による実船調査を行って、文献では不明な部分を可能な限り把握した上で試設計を行い、船体重量等を比較することによって彼我の技術レベルを明らかにすることとした。
 即ち、通常、船主が造船所に引き合う時に示される所謂設計条件「主要寸法或いはその制限値、船級、載貨条件、主機関等」を、検討対象既就航船と全く同一にして試設計を行い、船体重量を算定して、公表或いは入手データと比較する。
 この比較により、軽量化における技術レベルの差を理解・認識することができ、如何にすれば、先進の豪・欧に追いつけるかという技術検討のスタートラインに付くことが可能となる。
 さて、就航中の大型高速船即ち高速フェリーは、主として豪州で建造或いはデザイン(豪社デザイン、スペインBazan造船所建造例等もある)されている双胴船と欧州で建造されている単胴船とに分類されるため、各々1船型を選定して、試設計を行った。因みに、欧州独自のデザイン・建造の双胴型大型高速フェリーは、超大型船として有名なHSS1500及び900とSEAJET250のみである。ここで、豪州の双胴船は、INCAT社によるウェーブピアシング型高速フェリーとAustal Ships社によるAuto Expressシリーズがあるが、元来大型高速船の扉を開けたのは、1990年に英仏海峡に就航したINCAT社の74m型であり、その後、次々に大型化しながら高速フェリーの世界をリードしてきた上、船体重量等、各種データも公開されていることから、対象船としては、ウェーブピアサーの中から最も新しくて大きいINCAT96m型を選定した。一方単胴型については、TSL実海域模型船「飛翔」を改造した高速フェリー「希望」を除けば、我が国唯一の35ノット級の高速フェリーである「ゆにこん」との比較が可能なように、同じく主船体が高張力製のイタリア建造Aquastrada TMV114を選定することにした。両船型については、海外調査において、できるだけ詳細データを集めることとした。
 試設計においては、公表ないしは海外実船調査等で入手したデータに基づいて、一般配置図を復原し、これを基に詳細艤装品等を想定した。
 次に、船体重量において最も影響が大きい船殼重量の算定精度を向上するため、各船級に基づいて構造計算を行い、中央横断面図を作成し、これを基に、通常用いている長さ当たりの重量を推定する方法で、船殼重量を算出した。なお、単胴船TMV114については、単胴船型であり、船型がスタンダードであるため、概略線図を作成し、船長方向10断面について、構造寸法を決定して船殼重量の推定精度の向上に努めた。
 艤装重量の中で、甲板機械や空調機等、海外メーカーが不明なものについては、容量を推定し、国産品とした。機関部・については、主機関重量や発電機重量の占める割合が大きいため、推定値は、実態に最も近いものと思われる。
 両船型の要目及び船型の特徴等を、表3.2.1に並べて示す。
 
表3.2.1 試設計対象船要目
船 型 114m単胴船
Aquastrada TMV114
96m型双胴船 INCAT96
Wave Piercing Catamaran
船 名 Volcan de Tauro Bonanza Express
航 路 スペイン領カナリア諸島
Las Palmas〜Santa Cruz
同左
造船所 Rodriquez(伊) INCAT Tasmania(豪州)
船 級 BV DNV
全 長(m) 113.45 96.00
水線長(m) 96.20 86.00
全 幅(m) 16.5 26.00
深 さ(m) 10.80
5.70
12.50
7.50
喫 水(m) 2.50 3.70
双胴幅(m)   4.50
載貨重量(t) 547 800
最大搭載人員 729人(旅客712+乗員17) 755人(旅客735+乗員20)
搭載車両 乗用車200台
トラック3台+乗用車186台
乗用車230台
トレーラー24台+乗用車95台
主機関 Cat3616 6,000KW×6基 Ruston20RK270 7,080KW×4基
推進器 ウォータージェットLipsLJ135D ウォータージェットLipsLJ150D
速力(満載) 40ノット 38ノット
船型及び仕様の特徴 主船体を高張力鋼として、1993年に登場したAquastradaシリーズの大型版。TMV90及び100がガスタービン搭載であるのに対し、運行経済性を重視してディーゼル搭載としている。
船型は、伝統的なディープV船型。船底形状は、オメガ型のように耐航性能を考慮した船型ではなく、ほぼ直線であり、浸水面積をできるだけ小さくして船体抵抗の軽減を図っている。
船側と船底の交差部であるチャイン部は、チャイン材も無く、船底両端を平坦にした伝統的なスタイルを踏襲している。
小型船からスタート。実績に基づいた改良を重ねながら、徐々に大型化。96m級になって初めて重車両(トレ一ラー)の搭載が可能となり、その1番船として“Devil Cat”が誕生。本船は、それに旅客定員を増加する等の改造を加えた2番船として建造。WPC船型の特徴は、双胴を全面的に細長形状とした上に、船首部分を極細形状として、波を突っ切る形にしていること、通常の単胴型高速船とは逆に、船尾から船首に掛けて船底を切り上げていること、更には、船尾船底を切り上げてトランサム抵抗の軽減を図っていること、船首中央に縦揺用予備浮力確保のための第3胴を有すること等、船型的には種々の特徴を有している。

 
 以下、図3.2.1-1及び図3.2.1-2に単胴船TMV114べースの一般配置図及び中央横断面図を、図3.2.1-3及び図3.2.1-4に双胴船INCAT96mべースの一般配置図及び中央横断面図を示す。
 
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図3.2.1-1 単胴船TMV114型一般配置図
 
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図3.2.1-2 単胴船TMV114型中央横断面図
 








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