1. 研究の目的と狙い
船舶の省エネ対策の中で最も重要な項目である推進性能向上については、造波抵抗や粘性圧力抵抗(形状抵抗)は船体形状の改善により十分に低減されており、抵抗成分として最も大きく実用上有効な低減技術が殆どない摩擦抵抗の低減に切り込むことが望まれて居る。
近年、乱流境界層の研究が進み乱流の制御等により摩擦抵抗を低減する方法が幾つか発表されており、船舶についても基礎的な研究がされているが、摩擦抵抗低減のメカニズムがまだ十分に理解されていない部分もあって実用的なレベルには達していない。本研究部会の発足に先立って、平成8年10月より企画部会の下に「摩擦抵抗分科会」を設け、各種の摩擦抵抗低減法に関する研究のレビューを行い、その中から船舶への適用性が高いと考えられる方法として下記の3種を選定した。
[1] マイクロバブル法…微細気泡を境界層内に供給すると摩擦抵抗が減少する。80%の低減が得られた実験例がある。抵抗低減のメカニズムはまだ充分には解明されてなく、相似則も確立していない。
[2] 空気膜法…船底を薄い空気膜で覆うことにより摩擦抵抗を低減する。抵抗低減の理由は空気の摩擦力が水の約1/80であること。船底に薄い空気膜を維持する方法の開発が課題である。超撥水性塗膜と組み合わせた効果が注目されている。
[3] 表面処理法…防汚機能を有し、且つ摩擦抵抗低減が期待できる塗料として自己研磨型塗膜及び撥水性塗膜がある。自己研磨型では、船の航走により表面粗度が減少しトムズ効果により摩擦抵抗の減少が期待される。撥水性塗膜は、水中で表面に薄い気膜が生成され気体潤滑により摩擦抵抗が減少することが期待される。また、物体表面を適度の密度と弾性係数を持つ弾性皮膜で覆うことにより摩擦抵抗が減少する実験例もあるが、まだ確立した方法ではない。
これらの摩擦抵抗低減法の実船への適用の目処を得るために、平成10年より平成13年までの4年間に下記の項目について検討を行うこととした。
[1] メカニズムの研究とデバイスの考案…マイクロバブルや表面処理法では乱れ抑制による摩擦抵抗低減のメカニズムが十分には解明されていない。空気膜については空気膜を安定的に維持するための空気と海水の界面の安定性についての解明が不十分である。抵抗低減や気液界面の安定性の現象を支配する主要なパラメータを見出し、その影響を実験的に調査して、実船への適用可能なデバイスを考案する。
[2] 実船性能推定法の検討…上記の摩擦抵抗低減法の現象を支配する要因を抽出し、その尺度影響や相似則について検討し、模型実験や理論解析を組み合わせた実船の性能推定法を提案する。
[3] 大型模型による実験…摩擦抵抗低減法は新しい技術であるため、相似則が不明で、尺度影響についての知見がほとんどない。実船の性能を推定するためにはそれぞれの低減法の尺度影響を把握することが不可欠である。このため、実験設備の許容する範囲で出来るだけ大型の模型で高速の実験を行う。
[4] 実船実験の計画…本研究で考案された摩擦抵抗低減法の効果と尺度影響を確認するために実船実験を実施する。実船実験は供試船、実験費用、実験期間などに制限があるため、必要最小限の実験項目、計測項目を選定し、実船実験のための計測法や計測装置の開発を行う。
[5] 実船実験…供試船への摩擦抵抗低減装置および計測装置の取り付け工事を行った後、実験法案に従って、実海域での実験・計測を実施し、計測結果の解析と評価を行う。最後に、実船実験結果を基に、供試した摩擦抵抗低減法による実船の省エネ効果を定量的に評価する。