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VI 刑事事件
(1)刑事手続
[1] 刑事手続を担当する司法機関としては、沿岸警備隊、警察、検察庁、裁判所(刑事)等である。
 SHKが調査した結果は、刑事で利用されることはあっても、SHK自体は刑事手続に一切関与しない。
[2] SMAは行政機関であり、海技免許の処分(停止、取消等)をすることはできるが、刑事事件については権限がない。刑事処分が相当と考える事件については検察庁等に告発することができるだけである。
(2)告発と資料の利用
 SHKは、SMAに報告書を送るだけであり、SMAが報告書を見て安全管理を担当する立場上刑事事件として告発する必要があるか否かを決める。SHKは、調査した事件につき刑事事件として告発するか否かにつき一切関与しない。
 但し、前述したとおり、SHKの収集した調査資料は、全て公開されているので、検察官は全て利用できるし、実際に証拠として利用することもある。
(別紙) 事故調査に関する法令
 事故調査に関する法律及び政令のうち、主な規定は次のとおりである。
1. 事故調査に関する法律(1990:No.712)「Act on the investigation of Accidents」 1990年5月23日公布
 
序文規定の概要
1条
 本法は、安全性の見地から、災害を調査する規定を定める。
 
調査の対象となる災害
2条
i) 航空事故(調査の対象となる災害については省略)
ii) 海難事故:商船、漁船、又は、国有船舶の次の災害
イ) 複数の死傷者が発生した場合
ロ) 船舶、又は、船舶では輸送されていなかった有価物が相当の損害を被った場合、若しくは、環境に相当の損害を発生させた場合
ハ) 船舶が海上で滅失し、又は、放棄された場合
iii) 鉄道事故 (調査の対象となる災害については省略)
iv) その他の重大な事故(Other serious accidents & Incidents.安全性の見地から調査することに意義を有する場合)
イ) 複数の死傷者が発生した場合
ロ) 有価物、又は、環境に相当の損害を発生させた場合
3条
 第2条の災害より小規模の事故であっても、安全性の見地よりみて、必要な場合には、調査を実施することを命ずることができる。
4条
 事故がスウェーデン国内で発生した場合は、調査は必ず実施しなければならない。
 事故が、外国船に関係する場合は、特別の理由があり、当該船舶がスウェーデン領海内に存在する場合にのみ、本法に基づく調査を行なうことができる。
 
調査の主体
5条
 調査は、政府の指定する機関が実施する。政府は、調査機関が他の機関に調査することを委任するよう定めることができる。
 
調査の目的
6条
 事故の原因及び損害や影響などにつきできるだけ詳しく解明する。
 同種事故の再発の防止、又は、その影響を限定する(拡大させない)ことを目的とする措置を定めるに役立つ資料を作成すること。
 
調査の実施
7条
 調査を行なう機関は、実施可能な範囲において、事故に関係する者に調査を実施することを通知し、その者に意見を発表する機会を与えなければならない。それらの者は、事故現場及び調査に差し支えない場合は、調査作業の現場に立ち会う権利を有する。
 前項の場合、スウェーデンも加盟している国際条約による調査への協力に関する規定を必ず尊重しなければならない。
8条
 警察、又は、政府の指定するその他の機関は、調査が開始されるまで、現場領域への立入を禁止し、物(property)を保存し、その他の必要な措置を講じなければならない。
9条
 調査を行なう機関は、調査に必要な情報を有すると思われるものを訊問することができる。また、同機関は調査に必要と思われる文書、又は、物を検査することができる。調査機関は他の方法では目的を達することが出来ない場合には、警察に協力を求めることができ、又、事故現場に立入る権利を有する。
10条
 調査機関は、管轄地方裁判所に対して証人、又は、専門家を訊問すること、又は、必要とする文書、又は、物を提出するように命令することを要求することができる。
 
物の移動禁止
11条
 調査のために重要と思われる物は、警察当局又は事故調査機関の許可なく移動させることはできない。但し、人命救助、又は、他に特別な理由がある場合にはその限りでない。
 
物の受領
12条
 第11条1項に定める物を受領した者は、警察、又は、事故調査機関に対してその旨届出なければならない。
 
責任その他
13条
 故意、又は、過失により第11条又は第12条に違反したときは、刑法に処罰規定がない場合に限り、罰金が課せられる。但し、その違反が軽微な場合には課せられない。
14条
 第8条、第11条、又は、第12条に基づく決定に対しては、行政控訴裁判所に控訴することができる。
15条
 政府は、地方自治体の救助サービスに関して、地方自治体が第5条第1項に規定された機関に対して、本法に基づき調査の対象となるべき事故の通知を行なうように定めることができる。
 
2. 事故調査に関する政令(1990:No.717)
「Ordinance on the investigation of Accidents」
 1990年5月23日公布
〔概要〕
調査機関等
1条
 法第2条の事故、又は、事故発生のおそれの調査は国の災害調査委員会(以下「SHK」という。)が行なう。
2条
 SHKは、個々のケース、又は、一定の種類の事故を対象として他の者に権限を委譲することができる。
3条
 法第2条に定められた種類に属さない事件につき、安全性の見地から調査を行なうことが必要とされる場合には、本法(Act)に基づき調査が行なわれる。
 [2] 調査は次の機関により実施される。
i) 軍事的な航空以外の航空事件は航空庁(Civil Aviation Administration)
ii) 軍事的な航空事件は空軍の長
iii) 軍事的な海運以外の海上交通は海運庁(the National Administration of Shipping and Navigation,以下「SMA」という)
iv) 軍事的な航海事件については海軍の長
v) 鉄道、地下鉄、又は、路面電車による交通事件は鉄道庁
vi) 航空、航海、又は、軌道交通に関係しない事件についてはSHK
4条
 第3条第2項第1乃至5号に定められた機関は、他の者に調査権限を委譲することができる。
5条
 本政令の監督機関(supervisory authorities)に関する規定は、第3条第2項の第1号乃至第5号に定められた機関に適用される。
 
監督機関の協力
6条
 監督機関は、機関自身の重要な任務を遂行するのに支障をきたさない限り、機関の責任分野に属する事件の調査のために、SHKに専門家を提供しなければならない。
 監督機関及び国の救助委員会(the National Rescue Service Board)は、同機関や同委員会の責任分野に影響を及ぼすSHKの調査に関して、調査の内容を知る権利を有する(have the right to insight into investigations)。
 
調査に関する通知等
7条
 SHKは、事故で負傷した者、事故で死亡した者の遺族、事故により物的損害を被った者、航空機、船舶、軌道車輌等の所有者、占有者及びそれらの保険会社、その他調査結果の如何に依存する権利を有する者に対して、可能な範囲内において、調査の通知を早急にしなければならない。
8条
 SHKは、外国の官庁機関及び国際組織に対する航空機に関する事件の調査報告及びそれらの機関及び組織の調査に対する協力については、スウェーデンの拘束している1944年度のシカゴ条約の民間航空に関する規定を尊重しなければならない。
 船舶に関する事件について事故調査に関する法律に基づく調査を行なう場合は、SHKは、外国の官庁機関との協力において、法律に抵触せず又は不適切でない限り、IMOが1989年10月19日付で採択した"the resolution A.637(16)"のガイドラインを尊重しなくてはならない。
 
準備的措置
9条
 航空機、船舶、軌道交通に関係する事件においては、警察及び監督機関は、事故調査に関する法律第8条第2項に定められた措置を講じることができる。
 
尋問の際の補償
10条
 SHKで尋問を受ける者の有する補償受領の権利については、刑事訴訟の予備審問に出廷したときの政令が適用される。
 
外国官憲の協力
11条
 SHKは、外務省に対して、事故調査に関する法律に基づき調査に必要とされる情報を入手するために援助を求めることができる。外国に滞在している者から入手した情報及びSHKの要求に基づき他の方法で得られた情報については、その報告をSHKに早急に提出しなければならない。
 
外国での調査
12条
 外国で発生した航空事故についてスウェーデンの官庁機関が調査し、又は、調査に参加する場合は、SHKがスウェーデンを代表して行なうものとする。(以下略)・・・・・
 
調査報告
13条
 SHKは、できるだけ早く調査を完了させ、事故調査に関する法律6条に定められた各事項についての調査の内容と結論を記載した報告書を作成しなければならない。
14条及び15条
 省略
 
国際組織への報告
16条
 航空庁は、シカゴ条約のAnnex13に定められた国際民間航空組織に対する報告義務を履行する。
 SMAは、スウェーデンも加入している国際条約の事故調査規則に定められたIMOに対する報告義務を履行する。
 
事故再発防止のための勧告
17条
 調査の対象となった事件と同種の事件の発生を防止し、又は、そのような事件による影響を限定するに必要な場合には、SHKは、調査が終了しないため報告書の作成が完了する前に、報告書に記載すべき情報を第14条第1項の監督機関に通知しなければならない。
 監督機関は、SHKが勧告した方法に対して意見を述べなければならない。
 
再調査
18条
 調査結果に影響すると推定される新しい事情が判明したときは、調査が完了した場合でも再調査することができる。再調査の報告の内容は、最初の調査後に判明した事情及び先に発表した意見の修正に限定することができる。
 
外国の船舶
19条
 外国の船舶に関する事件について、事故調査に関する法律に基づき調査が実施される場合は、SHKは、SMA及び当該船舶の滞在する港湾を管轄する税関に対して、調査の完了するまで船舶の出航を促すような措置を採らぬよう要請することができる。
 
発生した事故に関する報告等
20条
 航空法第5章第8条第1項及び第2項、又は、海法第70条第1項に基づく報告は、関係官庁に早急に行なわなければならない。鉄道、地下鉄又は軌道電鉄の運行に際して発生した、「事故調査に関する法律」第2条第1項の3に定められた事故及び事故発生のおそれについても同様とする。(中略)・・・・報告に関する詳しい規則は関係官庁がSHKと協議して定める。
 
発生した事故に関する通知
21条
 警察が「事故調査に関する法律」第2条第1項の事故が発生したことを関知した場合は、関係官庁に直ちに通知し、同法第2条第1項(4)に該当する場合は、SHKに直ちに通知しなければならない。
 警察がプレジャーボートに事故が発生したことを関知したときは、その事故により人が死亡又は重傷を負った場合、SMAに直ちに通知しなければならない。
 警察の通知義務に関する上記規定は、船舶事故に関する場合、税関及びコースト・ガードにも適用される。
22条
 スウェーデンの軍用機が他国の領域で使用中に第21条第1項の事故が発生した場合は、空軍幕僚長(Head of the Air Force)は直ちに防衛省に通知しなければならない。
23条
 スウェーデンの船舶が海外で使用中に第21条第1項の事故が発生した場合、スウェーデンの在外公館は事故につき関知したときは、速やかに監督機関に通知しなければならない。
 外国籍の船舶がスウェーデン領海内で難破、座礁、又は、その他の遭難をした場合には、SMAは、当該船舶の所属する国の領事で事故現場に最も近い場所に駐在する者に対して遅滞なく通知しなければならない。スウェーデンに当該国の領事が置かれていない場合には、その国の大使館に通知しなければならない。
24条
 「事故調査に関する法律」第2条第1項第1号乃至第3号に定められた事故が発生した場合は、監督機関は、その事件につき警察が関知しているか否かを確認しなければならない。監督機関は、また、警察に対してどの機関が事故の調査を行なうかも通知しなければならない。
25条
 監督機関は、SHKに第24条の事故が発生したことを直ちに通知しなければならない。監督機関は、また、航空交通、海上交通、鉄道、地下鉄又は電車による交通の安全に影響する可能性のある事故でSHKが指定するものにつきSHKに通知しなければならない。
26条
 地方自治体(the Municipalities)は、地方自治体の救急体制の範囲内で、SHKの定める範囲及び方法により、「事故調査に関する法律」に基づき調査すべき事故が発生した場合、その旨をSHKに報告しなければならない。
 
責任
27条
 故意、又は、過失により第20条第1項、又は、第2項に違反した者、又は、第20条3項に基づき定められた規則に違反した者に対しては、罰金が科せられる。但し、違反が軽微な場合は、刑罰は科さない。
以上
 
(参考資料)
1 REPORTS 1997:3 (Grounding of the dry-cargo vessel MV Tina)
2 REPORTS 1998:02e
 (Collision on between the Swedish vessel MV Tarnsjo and the Russian vessel MV Amur-2524)
3 REPORTS 1999:01e (Accident involving MV Hyphestos)
4 Why accident investigation?
 SWEDISH MARITIME ADMINISTRATION
 (Maritime Safety Inspectorate )
5 Cruise Ship GRIPSHOLM - grounding -
6 Grounding of Chemical Tanker MARTINA-ELNF
7 Collision Tanker MARTINA-ELNF 7 and the Container Vessel WERDER BREMEN-9 HMW6
8 Lag om undersokning av olyckor utfardad den 23 maj 1990 (スウェーデン語)
9 Forordning om undersokningavolyckor utfardad den 23 maj 1990 (スウェーデン語)
10 final report MV ESTONIA
11 海難審判法研究報告書(その2)−「スウェーデン王国、ノルウェー王国、デンマーク王国、及び大韓民国の各海難審判制度についての調査研究」平成5年3月(財)海難審判協会発行)
以上
(峰 隆男委員執筆)








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