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第5章 スウェーデンの海難調査
I 序説
 スウェーデンにおいては、1864年海法の中に海難審判に関する規定が制定されていたが、その後、デンマーク及びノルウェーと共同して海法の改正に関する共同委員会を設けて検討した結果、各国夫々実質的に内容を同じくする自国の海法典を制定した。
 スウェーデンでは、1891年海法がこれに相当し、同法は、1891年6月12日に公布され、1892年1月1日に施行された。
 海難審判に関するものは、同法第12章に規定され、海難に関する船員の処罰に関する規定は同法第13章に設けられた。
 その後も必要の都度小改正が行なわれたが、1990年に至り、同法314条の「政府が海難審判を行なう予定の事故につき特別調査委員会の設置を命じた場合は、同一事故について海難審判を実施する必要がない」旨の規定が、国際的な情勢の変遷に伴ない廃止された。そして、新たに、航空、海上、陸上及びその他の重大事故の調査につき「事故調査に関する法律(1990年第712号)」と「事故調査に関する政令(1990年第717号)」が制定・施行され(事故調査に関する法律と政令の主な条文については末尾(別紙)に添付)、重大な海難とインシデントについては、内閣に直属する災害調査委員会(Statens haverikommission=SHK、英語訳Board of Accident Investigation)が調査を行なうようになり現在に至っている。
 それ以外の海難については、運輸省に所属する海運庁(Swedish Maritime Administration=SMA以下、「SMA」という。)が調査を行なうことになっており、現在に至っている。
 一方、海難審判は、従来どおり、裁判官を審判長として裁判所において行なわれている。
 本稿は、スウェーデンにおける海難調査制度と海難調査の国際協力化につき、同国の災害調査委員会(以下「SHK」という。)を中心に述べるものであるが、海運庁の業務及び海難審判や刑事手続についても若干触れることとした。
II SHKによる海難調査
1 SHKの設立の経緯と組織
(1)設立の経緯
 SHKは1978年7月1日に軍用機を含む航空機事故(aircraft accidents and incidents)の調査のため設立された。その後、「I序説」で記述のとおり、1990年に国際的な情勢の変遷に伴って海法が改正されたが、その折り、委員会の調査の客体が広くなり、航空事故の他、海難、鉄道事故等の運輸に関する事故のみならず、火災、爆発、原子力施設における事故、地すべりによる事故も調査の対象となった。この点、米国のNTSBとカナダのTSBの2大独立調査機関が運輸に関する事故のみに限定しているのに比較して調査の対象となる事故の範囲は広くなっている。
(2)SHKの組織
 SHKは当初米国のNTSBを参考にして類似の組織・規模を有する機関として設立される予定であったが、NTSBの規模が大き過ぎてスウェーデンの国情に合わなかったため、カナダのTSBを模して設立されたといわれている。
 SHKは、内閣に直属しており、内閣がSHKの委員長(Director-General)を指名する。委員長は他の委員を指名する。会計も内閣に帰属しているが、仕事の内容について内閣は一切干渉することはない。
 SHKは、2000年10月現在、委員長1名の外、常勤調査官(Full time employed investigators)6名、非常勤調査官(Part time employed investigators)2名及び事務官(Administrative staff(Secretary))3名により組織されている。
 委員長には法律実務家が就任することになっており、2000年10月にSHKを訪問した当時の委員長はAnn-Louise Eksborgという元裁判官であった。
 8名の調査官の内訳は、Chairmen2名(元裁判官)、Aviation(operation)、Aviation(technical)、Aviation(military)、Fire & Rescue、Marine(operation)、Marine(technical)となっている。
 災害調査は、先ず、災害事故が発生した場合、SHKの内部で調査をする必要がある事故であるか否かにつき検討する。調査をすることに決定すると2名の調査官が選任され事故の調査を担当することになる。それに、長として、委員長かChairmenのうち1名が参加するので、実際には、3名が担当し一つのチームが結成されることになる。海難調査の場合を例にとると、2名の調査官のうち1名はMarine(operation)として船長経験者、もう1名はMarine(technical)として造船技師経験者が担当することになる。
 調査に際して、特に、専門家が必要とされる場合には、外部に依頼することが出来る。例えば、医学、心理学、冶金学等の専門家に調査を依頼することも可能であり、又、外国人の専門家に調査を依頼することもできる。
 SHKはこれらの専門家を既にリストアップしており、報酬も各専門家と個別に時間当り幾らと契約している。
2 調査の客体と目的
(1)調査の対象となる海難
 調査の対象となる海難(Accidents & Incidents=災害又は災害になるかもしれない事故)は次のとおりである。
[1] 多人数が致命傷を負ったとき
[2] 船舶、船舶で輸送されなかった財産及び環境が広範囲にわたり損害を受けたとき(extensive damage to the vessel or property not transported in the vessel or to the environment)
[3] 船舶が海上で行方不明、又は、放棄されたとき
 調査の対象となる船舶は、商船のみならず、漁船、沿岸警備隊の船舶、軍艦、官公船も調査の対象になるが、プレジャーボートについては調査の対象からはずしている。
 (注)インシデント(Incidents: narrow escapes 以下「インシデント」と言う。)が事故発生の重大な危険に繋がるような場合や、船舶の本質的な欠陥や、安全性の見地からみて基本的な不備を示すものであるときは、調査の目的となる。
 SHKは年間平均3、4件の海難を調査している。1件に要する調査の期間は海運庁の調査よりも長いが、内閣は12か月以内に調査を完了することを要望している。
 SHKは、大きな海難を調査し、それ以外の海難はSMAが担当することになるが、小さな海難であっても航路に関係するような事故であれば、航路を管理しているSMAが調査を担当するよりも、SHKが調査するほうが適正な調査ができるということでSHKが担当することになる。SMAに所属する船長が事故を起こしたときも、同様な理由で、事故の規模にかかわらずSHKが調査を担当することになる。
 SHKは、当直制度をとっており、海難が発生する度に事故の情報を海難救済センターなどから入手している。
(2)調査の目的
 SHKが行なう調査の目的は次の3点である。
[1] 事件の経緯、海難の原因、損害の程度と他に与えた影響を可能な限り安全性の見地より明らかにする。
[2] 事故の再発防止及び(又は)事故の影響を制限(軽減)する方法を策定する。
[3] 事故に関連する公共団体の救助サービス(community's rescue services)について調査し、救助サービスを改善する。
 事故についての責任の所在や過失割合を定めることは調査の目的とされていない。
(3)調査の区域(Territorial limit)
[1] 調査はスウェーデン領海内の事故に限られる。但し、外国船の場合には、特別の理由が存在するときに限られる。
[2] スウェーデン船舶が外国で事故を起こしても調査が行なわれる。但し、外国とスウェーデンにより国際的合意がある場合は除く。
3 調査の手続等
(1)SHKの権限
 SHKは、調査を行なうために次のような権限と義務を有している。なお、SHKは、実行可能な範囲で、調査と法的に関係のある者に対して遅滞なく調査の通知をしなければならない。
[1] 調査に必要な情報を有する者にインタービュー
[2] 事故に関連する書類や物を検査
[3] 事故現場に立入ることができる。拒否された時には、警察の協力を求めることができる。
〔SHKが取るべき措置〕
[1] 事故による破損部分や他の物的証拠を含む現場の保存と証拠写真の撮影
[2] 事故の関係者(staff)や目撃者(witness)にインタービュー
[3] マスメディヤの代表に情報の提供
[4] 目撃者や鑑定人に裁判所で証言させることや、関係者に書類や、物(objects)を作成させる
〔SHKが引続き取るべき措置〕
[1] Technical investigationに基づく情報の収集
[2] Human factor's implicationについての調査
[3] 調査は、訴訟法に基づき、事故に関して予審裁判(the pre-trial hearing)を司る者に相談しながら実施しなければならない。
 SHKは調査を他の機関に委嘱することができる。
 なお、SHKは前述のとおり米国のNTSBに比較して小さな組織であり、NTSBが備えているような検査室も無いため、大学の研究室に依頼して検査を行なっている。
(2)利害関係者の権利
 事故により、負傷した者、死亡した者の親族、財産に損害を蒙った第三者、船舶の所有者、オペレイター、又は、保険会社等の利害関係者は、調査に立会うことが出来る。
 調査は原則としてオープンであり、調査の最中でもそれまでに収集した資料は公開することになっている。但し、プライバシーに関するものや国の防衛に関するもののように守秘義務のあるものは例外である。
 SHKがオープンにすることを原則としている理由は、公開することにより、SHKの調査制度の信頼性は高まると考えているからである。
(3)禁止事項(Prohibitions)
 事故(accident)や事件(other occurrence)が発生した場合、調査のために必要と思われる物を警察当局、又は、SHKの許可なく移動、又は、再移転させてはならない。これらの物を受取った者は、直ちに警察当局、又は、SHKに報告しなければならない。海上交通に影響を及ぼすような事件でSHKが調査するものに関連し、事件に影響を受けた船舶で運ばれた物、又は、その船舶に所属する物についても同様である。
4 報告
 調査に関しての報告は、原則として最終報告書(Final Report)にまとめられて行なわれるが、必要がある場合には、予備報告書(Preliminary Report)も行なわれる。
 報告書には、原則としてChairmanと2名の調査官が署名することになっている。SHKは、できる限り速やかに調査を完了して、報告書を作成しなければならないとされている。
(1)予備報告書
 SHKは、必要とみなした場合、出来る限り早い時期(通常は2,3日以内)に、どのような事故が発生したかにつき簡単な予備報告書を発行する。
 予備報告書は、関連機関、利害関係人及び一般の人々に情報として提供される。
(2)最終報告書
 最終報告書には、検査の報告(事実の部分)、SHKの判断(分析の部分)、検査の結果及び想定される事故の原因の報告(報告)が記載される。
 報告書には、殆どの場合、同種事故の再発を防止するための方法についての勧告(Recommendations)が記載される。
 なお、外国が関係している事故については、英文で報告書を作成することになっている。
最終報告書も、関連機関、利害関係人(事故の被害者を含む)及び一般の人々に配布される。
 
5 勧告
 最終報告書には、原則として勧告が記載され事故に関係のある行政機関や船舶所有者、造船所などの民間企業などに対して同種事故の再発防止のために採るべき措置や方法等について提言し改善することなどを求めている。
 勧告が必要になるのは、例えば、「この航路は非常に船舶の交通量が多く且つ見通しが悪いので、この地点とこの地点に灯浮標を設置しなさい。」とか、「この種船舶は構造上この個所が弱いのでこのように補強する必要がある。」というように新たに具体的な処置をすることによって事故の再発が防止できるような場合である。
 法令の規定に反して事故が発生したような場合には、既に法令で定まっていることに違反しただけであり、また、報告書には、船長や水先人などが法令に違反して自分たちの職務をどのように怠ったかということが綿密に記載されることになるので、新たに勧告するまでもない。例えば、「見張不十分により事故は発生したのであるから見張を十分にすべし」とか、「船長と水先人との間のコミュニケーションが悪くて事故が発生したのであるから両者間のコミュニケーションを良くせよ」などということなどは、勧告の対象とならないことになる。
 そして、SHKは報告書をSMAに送り、3か月毎に勧告が守られているか否かをSMAから報告してもらうようになっている。これは、事故を調査するだけでは事故は無くならず安全は守れない。勧告が守られて初めて事故が無くなるとの考え方に基づいているからである。
 勧告に対する対処率は85ないし90%であるといわれているが、SHKは、年に1度内閣に勧告がどのように遵守されているか報告することになっている。
 なお、航空機の事故の事例であるが、勧告に応じなかったので調べたところ、1年後にはその航空機を使用しないことにすると回答してきたので、勧告に従わなかったことをSHKが容認したことがある。実行することが不可能なような勧告をしても無意味なので、SHKは勧告を大まかに出し、細部にわたるようなものは出さない。細部については、勧告を踏まえて、航路施設などに関してはSMAが担当することになる。例えば、数年前にイェーテボリィ港で視界制限状態下で発生したティナ号(The Tina)の乗揚事故(後述の第V.「国際協力」第2項参照)では、SHKは浅瀬に小さな灯台が在れば事故は防げたと考えたので、その旨を勧告した。これを受けてSMAは、その海域には既に多くの灯台が設置されていたが、検討して最も適切な場所に灯台を新たに設置したことがある。
III SMAの事故調査と懲戒処分
1 所属
 SMA、は現在産業省に所属しているが、もとは、運輸省に所属していた。
2 調査の客体と船長の通報義務
(1)調査の対象となる海難
 海難のうち、SHKが調査する事故以外の海難を調査する。SHKとSMAが重複して調査することはない。海難が海上交通に影響を及ぼす場合(軍事上の海上交通を除く)には、SMAが調査を担当する。また、プレジャーボートの事故で人身事故を伴うものや重大な事故はSMAが担当する(政令第21条参照)。
 SHKの調査が年間3、4件であるのに対して、SMAは2000年10月現在年間約15件程度を調査している。調査に要する期間については、1件につき3か月以内に完了することを目途としているが、実績は2ないし6週間位である(2000年10月現在)。
(2)船長の通報義務
 商船及び漁船の船長は、次に定める海難、インシデント又は積荷等の事故に遭遇した場合は、SMAの規則(SMA Decree 1991:5)に従って所轄官庁(the competent authority)に一定の様式に基づき通報する(Maritime Code 6章14節)。
ア) 事故
[1] 船舶の運航に関連して、人が死亡し、又は、死亡した疑いがあり、若しくは、重大な傷害を蒙ったとき
[2] その他の関連で、船舶の乗組員、又は、他の使用人が死亡し、又は、死亡した疑いがあり、若しくは、重大な傷害を蒙ったとき
[3] 上記[1]、又は、[2]以外に、船舶から人が落ちて溺死し、又は、溺死した疑いがあり、船舶で死亡した人を水葬したとき
[4] 猛烈な種類の毒による毒殺が行なわれ、又は、行なわれた疑いがあるとき
[5] 船舶が他船と衝突、又は、座礁したとき
[6] 船舶が海上において放棄(abandon)されたとき
[7] 船舶の運航に関連して、当該船舶、又は、その積荷、若しくは、当該船舶外の財産に重大な損傷が発生したとき
[8] 積荷の大量の移動(shifting)が発生したとき
 船長は、船舶の運航に関連して、上記事件が発生し、又は、発生した疑いがあるときは、海難報告書をSMAに提出する(Maritime Code 18章7節)。
イ) インシデント
 海難が現実に発生しなくとも、海難が発生するかもしれなかったような事実(incident)で、海難発生について重大な危険を有するとき、又は、インシデントが船舶の本質的な欠陥(essential defect)、又は、その他安全性についての基本的な欠如を示すとき。
ウ) 積荷又は積荷運搬具
[1] 航海中に積荷に損傷が生じ、危険物や海洋汚染物が漏れて流れたとき
[2] コンテナー、積荷用フラットベット、トレイラーその他貨物の運搬具が航海中、又は、スウェーデンの港において船舶の積荷中に損傷があることが発見され、安全性に危険があるとき
3 懲戒権
 SMAは、海技免許を発行する機関であるが、一方、全ての海難の関係者を対象として懲戒権(免許の停止、取消等)を有する。
4 報告書(Notice)
 SMAは、SHKと同じような内容の報告書を作成している。
 SMAはスウェーデンの商船と漁船が係わった海難の概要につき英文の報告書(「NOTICE OF THE SWEDISH MARITIME ADMINISTRATION」Summary of reported marine causalities and incidents and accidents to persons-Swedish merchant and fishing vessels)を毎年発行しているが、SHKはこのようなことはしていない。
IV 海難審判制度
 1891年に公布された海法(以下「海法」という)は、現在も施行されており、海難審判に関する規定は、同法第12章と「海難審判に関する政令」(1967年)(以下「政令」という)に設けられている。
 スウェーデンにおける海難調査は、主な海難については、SHKやSMAによって行なわれているが、それ以外の海難については、従来どおり海難審判が裁判所において行なわれている。
 スウェーデンにおける海難審判は、強制的海難審判の他に海運会社、保険会社及び荷主等の要請により開催される海難審判を明文をもって制度的に設けている点で我が国の海難審判制度と比較して異なっておりこの点に特徴があるように思われる。
1 海難審判の客体(海法303条)
 事故及びその発生原因は海難審判により可能な限り解明されなければならない。
 事故の発生に関係したと推定される、又は、航海の安全について重要な意味を有すると推定されるすべての事情について調査されなければならない。
(1)強制的海難審判(海法301条)
 海難審判は、次の場合に、スウェーデンの商船及び漁船を対象として行なわれる。
〔概要〕
[1] 船舶が航海中に、船舶の運航に関連して、人が死亡し、又は、死亡したことが推定され、若しくは、重傷を負った場合。
[2] 前号以外の場合で、船舶勤務者又は船舶に搭乗するものが死亡し、又は、死亡したことが推定され、若しくは、重傷を負った場合。
[3] 人が船上で死亡し水葬された場合。
[4] 船上で重大な中毒が発生し又は発生したことが推定される場合。
[5] 船舶が他の船舶と衝突し、又は、座礁した場合。
[6] 船舶が喪失し、又は、海上で放棄された場合。
[7] 船舶の運航に関連して、船舶そのものに相当な損害が発生し、又は、発生したことが推定され、また、航海中に船舶以外の有価物に相当な損害が発生し、又は、発生したことが推定される場合。
[8] 貨物に相当の火災、爆発、又は、荷崩れが発生した場合。
 上記の規定の例外については海法308条3項と312条に規定されている。
(2)要請による海難審判(海法302条)
 船舶の運航に関連して発生し、又は、発生したと推定される事故に基づき海運庁が命じる場合のほか、船長、又は、海運会社が要請する場合にも、海難審判を実施しなければならない。
 貨物の所有者、又は、貨物の保険会社が海法308条3項又は312条に該当しない場合に、船舶の運航に関連して貨物に発生し、又は、発生したと推定される相当の損害の原因について情報を得るために、海難審判を要請する場合も同じとする。
 SMAが海難審判の実施を命じる場合は、その旨を船長、又は、海運会社に通知しなければならない。
 貨物の所有者、又は、貨物の保険会社が海難審判を要請する場合は、船長、又は、海運会社に対して要請する。
2 海難の通報、確認及び報告等(海法70条、政令1条)
(1)通報
 スウェーデンの商船、漁船又は国有船舶の船長は、次の場合、遅滞なく関係官庁に通報しなければならない。
[1] 船舶の運航に関連して人が死亡、又は、死亡したことが推定され、若しくは重傷を負った場合。
[2] 船舶勤務者又は船舶に搭乗するものが死亡、又は、死亡したことが推定され、若しくは、重傷を負った場合。
[3] 船舶から落ちて溺死し、又は、溺死したことが推定され、若しくは、重傷を負った場合。
[4] 船上で重大な中毒が発生し、又は、発生したことが推定される場合。
[5] 船舶が他船と衝突し、又は、座礁した場合。
[6] 船舶が海上で放棄された場合。
[7] 船舶の運航に関連して、船舶、貨物、又は、船舶以外の有価物に相当の損害を発生し、若しくは、発生したと推定される場合。
[8] 船舶に相当の荷崩れが発生した場合。
 なお、政令1条は通報義務者として船長のほか次の者を規定している。
[1] 警察、税関、又は、沿岸警備隊が海難を知ったときは、SMAに対して当該事故につき関知しているか否か確認をとる。
[2] 領事は、外国の任地でスウェーデン船舶につき海難が発生した場合にはSMAに通報する。
[3] SMAは、外国船舶がスウェーデン領海内で海難に遭遇したときには当該国の領事に対して遅滞なく通知しなければならない。
3 調査(海法303条2項)
 事故の解明に役立つと推定される証人訊問、文書、又は、物の検査や、事故が発生したと思われる船舶、又は場所の検査が実施される。
4 海難審判の時期と場所(海法304条、政令4条)
 原則として[1]事故が発生した港湾で実施され、[2]事故が海上で発生した場合は、船舶が最初に到着した港湾、又は、船長が最初に上陸した港湾で実施されなければならない。
5 審判機関
(1)地方裁判所
 国内で行なわれる海難審判は、海法336条に基づき海難審判所に指定された地方裁判所で行なわれる。
 具体的には、リューレオ、スンズヴァル、カールスタード、ストックホルム、イェーテボリィ、カールマリー及びマルメーの7か所の地方裁判所である。
(2)審判官の構成
 判事1名が審判長(裁判長)となり、海事に関する知識と経験を有する専門家2名が補佐する。補佐をする者の少なくとも1名は、商船の航海、又は、機関について充分な知識を有し、最近までその実務についていた者とすべきである。
6 審判手続(海法309、310条、政令7,9,10,11条)
(1)証人訊問
 証人訊問は、裁判所において、原則として宣誓の上行なわれる。SMAの代理人又は事故関係者は、裁判所の許可がある場合には証人を訊問することができる。
(2)審判議事録
 裁判所が海難審判を行なう場合には、審判議事録の写しをSMAに早急に送付しなければならない(政令11条)。
7 再審(海法311条)
 海難審判の結果が、何等かの点で不充分と判断される場合、SMAは、新たに海難審判を実施することができるが、その場合は、新たに審判を実施する場所を指定しなければならない。
8 外国船の審判(海法313条、政令13条)
 外国船舶の運航に関連して発生した事故の調査が航海の安全の点から必要とされ、当該の船舶が、スウェーデン領海内に存在する場合は、SMAは、海難審判を行なうことができる。
9 援助の提供(海法315条)
 SMA、沿岸警備隊、税関及び警察は、海難審判を行なう地方裁判所に対して、裁判所が調査に必要とする援助を提供しなければならない。
10 重大事件の調査等(海法315a条、政令2、14条)
海法315a条
 航海の安全に関係する海難及びその他の事故の調査には、事故調査に関する法律の規定が適用される。
 政令14条
 海法301条に基づく海難審判は、事故調査に関する法律に基づき調査すべき事件を国のSHKが調査中又は調査予定である場合は、実施する必要がない。
 第1項の場合、調査すべき事項が安全に関するものである限り、SMAは海法302条1項、308条3項、313条2項に基づく海難審判の実施を命ずることはできない。
V 国際協力
1 The Estonia事故の調査と国際協力の問題点
 スウェーデンにおける海難調査の国際協力として特筆すべき事例はエストニア号(The Estonia。以下「Estonia」という。)事故のケースである。
 Estoniaは、元ソ連から独立したエストニア国の旅客フェリー(RO-RO Passenger Ferry)でエストニアのTallinnからスウェーデンのStockholmに向けて航海中、1994年9月28日北部バルト海(the northern Baltic Sea)の公海上で転覆して沈没した。その結果、乗客乗組員等989名のうち137名が助かり、他は死亡乃至行方不明となる大きな事故が発生した。この事故につき、沈没した地点がフィンランドの捜索・救助海域であり、また、乗客の大部分がスウェーデン人であったためエストニアの大統領の要請でスウェーデンとフィンランドがエストニアに協力し、3か国が共同して Joint Accident Investigation Commissionを組織し事故の調査にあたった。スウェーデンでは内閣の要請によりSHKが担当した。
 事実を明らかにするため、各国はそれぞれ担当を決めた。Estoniaに関しての船舶技術的事項については、スウェーデン(実質的にはSHK)が担当し、また、救助に関しては、沈没した地点がフィンランドの捜索・救助海域であるため、フィンランドが担当した。そして、Estoniaの乗組員に関してはエストニアが担当した。
 Estoniaの事故調査についての国際協力上の問題点としては、次の点が挙げられている。
 
 [1] 言語の障害  共通語として英語を使用したが自国語のように円滑にはいかなかった。
 [2] 国の制度  特に、国際協力をする上で障害とはならなかった。
 [3] 調査の知識、能力  スウェーデンとフィンランドに比較し、エストニアの調査に関する知識、能力は劣っていたように感じた。
 [4] 国の圧力  特に無かった。
2 その他
 特に海難調査の国際協力の例としては、ティナ号(The Tina)座礁事件、タアルソーヨ号(The Tarnsjo)とアムール-2524号(The Amur-2524、以下「アムール号」という)衝突事件及びハイフェストス号の岸壁等との衝突事件を挙げることができる。
 (1)ティナ号(The Tina)座礁事件というのは、オランダのコンテナ船ティナ号がスウェーデン領海内のイェーテボリィ港で1996年12月1日早朝座礁した事件であるが、スウェーデンのSHKがオランダの調査委員会と協同して調査し、英語で報告書を作成した事件である。SHKの報告書には、勧告として、灯台を設置すべきことがスウェーデンのSMA宛に出ている。
 (2)タアルソーヨ号とアムール号衝突事件は、スウェーデンのプロダクト・タンカーであるタアルソーヨ号(空船。船長及び航海士はスウェーデンの海技免許を所有)とロシアの河川用の船舶(River Vessel)であるアムール号(木材積。船長はロシア人)とがスウェーデン領域内の氷で閉ざされたマラレン湖の水路を蛇行しながら反対方向から航行中に約90度曲がっている地点で、1998年2月6日午後6時30分頃に衝突した事件である。両船ともスウェーデン人の水先人がきょう導しており、互いに連絡をとり両船はHjulsta Bendsという地点で行会うことになると予想していたが、水路に流氷が存在していたため速力の予測に誤差が生じてしまい両船が出会う地点と時刻の予測に齟齬が生じて衝突事故が発生してしまった事件である。
 本件衝突事故の原因として、両水先人間の連絡や水先人と船長や当直士官とのコミュニケーションが欠如していたこと、また、船橋に集まってくる情報、例えばレーダーや速力計などによる情報の収集を水先人が十分行なっていなかったことなどが報告書で指摘されている。しかしながら、これらは、勧告するまでもなく水先人や船長、航海士にとって当然のことであるためか、報告書には改善すべき点については何も記載がなく、勧告の項目にはNoneと記載されているだけである。
 (3)ハイフェストス号の岸壁等衝突事件は、OBO船のハイフェストス号(船籍港リベリアのモンロビア、士官は旧ユウゴスラビア人)が石炭約56,000トンを積載してマルモ(Malmo)港内の石油ターミナルに1998年3月16日正午頃3隻の曳船を使用して着岸しようとしたが右回頭ができず岸壁上のクレーン2台と岸壁に重大な損傷を与えた事故である。SHKは、ハイフェストス号の速力が過大であったこと、岸壁までの距離の判断を間違えたため予定していた右回頭ができなかったこと及び収集可能であった情報を適切に使用しなかったことが事故の原因であると判断したが、それに加えて、本船の船長、当直士官と水先人との間のコミュニケーションや水先人と曳船の船長との間のコミュニケーションが悪かったことも一因であると認定した。
 なお、報告書(英文)には、勧告はNoneとなっている。
 これら3件の海難の調査はSHKにより行なわれているが、国際協力についての問題点を示すような記述は報告書からは読み取れなかった。
 なお、スウェーデンの場合は、日本の近海、沿岸に比べて航行する船舶の数が少なく、その代わり島の数が多いので、衝突事故よりも座礁の件数が多いのが特徴であるとSHK訪問の際説明された。








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