S造船(新造)
1. 組織
・ 造船工作部は管理課と造船課に分かれる。
・ 作業区というユニークな組織体制をとっている。
・ 作業長:指導・段取りで計上するが、直接作業が約半分あり。
・ チームリーダ配置職場と作業指揮者。
* 組立:E棟西、小組、E棟東
* 船台:検査・仕上げ、溶接(3人)、決め方(固め)
* 電装:課長補佐が直接
* 鉄艤:作業長直接
* 船装:配管(鉄艤)、仕上げ
* サービス:盤木全般、クレーン、足場、海上運転時の着離岸は作業長兼務
* 塗装:作業長直接
2. 職種別技能者敷
(1) 人員:本工=54人、協力工=112人
・ 本工は少なくしていきたい、チームリーダだけでも良いとも考えている。
・ 人の増減は難しく、技能判定も困難。
・ 人員変動を極力少なくする方針で構内人員は、少しずつ減ってきている。
・ 100%子会社で本工再雇用者と中途採用者を受けいれる。本工としての扱い。
(2) 職制
・ 作業長は個々人の技能評価、予算管理主体
・ チームリーダ(TL:ほぼ班長と同義)は、要素作業グループのまとめ、作業の指示・指揮・配員(協力工も含む)。
・ 協力会社の棒心はいるが、実際の作業指揮、配員は行っていない。
3. 職種別作業内容
(1) 内業作業区
・ ほとんどが、同じ作業区内の作業を兼務して行い、固定しているのは曲げと切断くらい。
・ 曲げ型作製:CAD担当。
・ 鋼板手切り:27mmなどの厚板ガス切断含む。
・ 鋼板曲げ:プレスは、型鋼曲げと兼務で施工(3人)。撓鉄は専属の協力業者。
・ 型鋼切断:逆直線マーキン含む。
・ 部材仕分け:配材・整理職。
・ クレーン:水きりクレーン運転(仕事があるときだけ)およびその他のクレーン運転
(2) 組立作業区
・ 検査準備:専任
・ 大組鉄工:曲がりブロックの足場架設・撤去も行う。
・ 本工、協力工ほぼ全作業区にわたり混在作業。
・ 大きな歪み取りは内業の鋼板曲げから出張(2回/船程度)。
・ C棟:1業者(11〜12名)で完全請負制。
・ E棟:本工と混在(押出し式コンベア上での組立)。
・ 大組鉄工:逆歪みをつけることなど組立精度指導も兼ねる技能者が存在。
・ 若手をつけて組立技能を継承させている。3ヶ月ピッチで選手交替。
(3) 船台作業区
・ 歪み取り:1人専任。上部構造のときは、鉄工から応援。
・ 決め方鉄工と鉄工職は、残念ながら歴然と分かれている。ブロックは決め方鉄工と溶接職が組んで受け取る。
・ グラインダ:専任(経験年数が少なくて単能工)。
・ 高所作業車運転:各作業員が運転。専従者はいない。
・ 特殊技能溶接:2名のみの専属の協力業者あり(右、左利きのエンジンルーム狭隘部)。
(4) 船装作業区
・ 仕上げ:機装と兼務。
・ 積込み:サービスの玉掛が主として行うが、簡単なものは各職で行う。
・ 木艤:一括外注(資材外注)。
(5) 機装作業区
・ 配管以外は、本工で固めている。
・ 指導・段取りの作業長ともども4人で甲板仕上げも兼務。
・ 配管・仕上げ:親会社に出して訓練したいところだが、人員的に無理。また、協力工の腕も現在そこそこで、差し迫って教育の必要性はない。
(6) 電装作業区
・ 管理は、船殻課課長補佐。
・ 居住区とその他で、業者の担当分け。
(7) 塗装作業区
・ 磨き、塗り:ほぼ専任で分かれている(9割方、人が固定)。
(8) サービス作業区
・ 船具・操船:ワイヤスプライスも兼(少ないが作業としてはある)
・ クレーン:3人だが、全てのクレーンが同時に稼動している訳ではないので、必要に応じ乗り換え。
・ 倉庫:工器具保管・払出し、電気器具補修。
・ 集配材は、倉庫(単に、所定置場にもっていくだけで、積込みはそれぞれの担当職)
4. 標準作業書
(1) 施工要領書:新設計船で作成。
・ 同型船の場合、3隻目くらいで見直し、改定。
・ 建造前に関係者を集めて建造法、工作基準、その他の要注意点を説明。
・ 外注先にも提供して工作法について注意。
(2) 各作業毎には「作業手順書」作成
・ 作業要領、使用工器具、注意点を記載。
・ 作成目的:生産性向上の基礎資料。実際には使われていないが、基礎資料として用意。
・ 実際に用意されている作業:部材表、溶接、平鋼マーキング、NC部材片付け等など。
(3) 職種別技能要求水準書
・ ボーシン向け作業要件書。
・ 内業切断、内業撓鉄、組立鉄工、組立配材、船台固め、船台取付、船台溶接、船殻検査。それぞれ約10〜11項目を記載。
5. 雇い入れ基準
(1) 本社
・ 新規採用者数は、定年者の半分が目安。しかし、減耗もあり退職者数に見合った補充はしていない。この1年で約10人減(∵ 極力、固定人員圧縮)。
・ 新卒:面接、試験、学校推薦書など。船殻では数学、幾何が好きな人をとりたい。
・ 中途採用者:原則、受け入れの100%子会社が窓口。この3年で3人しかとっていない。
・ 作業経験(職歴)を聞いても、実作業につかせてみると当り外れ半々。
・ 面接は、本社側で行い、子会社籍にいれる。所有している資格はチェックするが、そんなに重きをおいていない。
・ ただし、ここ最近、大量採用の実績はない。
・ 重点採用、補充希望、あるいは養成したい職種:組立、仕上げ(機装)、大型クレーン玉掛、組立溶接、配管。
(2) 協力会社(新規採用、新入りの場合のチェック項目)
・ 履歴書、健康診断書、免許証の提出を求める。
・ 常用の場合、試用(ならし)期間は約半月。
・ 本人の向き、不向きと、やる気の有無を確認。
・ 協力会社間での引き抜きは自粛(紳士協定)。
・ 所有資格:特に溶接、ガス、玉掛
・ 技能レベルは特にチェックしていない。ただし、1ヶ月試用期間中の仕事振りをチェックし、駄目であれば入門拒否を業者に通告。
・ 採用可否は、協力会社に一任。実質は、作業長に気に入れられればOK。
・ アゴアシはださない(そういう感覚はない)。∵ 加算すると単価があわない。
・ 採用ルート
* 職安、知人(縁故)人材派遣業経由が普通。
* 2割ほどが年間で入れ替わっている。
* 入れ替わりが激しい職種:とび、ぺン屋。
* 鉄工、溶接職はあまり入れ替わらない。
* 職安に求人票を出している。結構集まる。
* この地区の人がほとんど。
(3) 新規採用時の教育、訓練内容および時間
(4) 特に、採用が困難な職種
・ 配管:システムチェックができるまでには相応の期間と技能がいる
・ 溶接、塗装:業者を使える作業長養成は困難。かといって、先手をつけ時間をかけ養成するだけの余裕はない。
(5) 協力業者の雇用保険、労災保険に対する考え
6. 技能レベル判定基準と考課基準
(1) 常駐協力工の技能レベル考課基準
技能評価のための試験項目はもっていないが、査定の項目として、
A基礎事項(マナー)、B技能レベル、C工事処理量、D所有資格の4項目で4段階評価(優秀、良好、普通、初心者でそれぞれ、重みをつけて点数を記入)。年に2回、作業長が記入。
・ 協力会社との単価査定のバックデータとして利用。
・ 技能レベルを偽って潜り込むことの抑止力にはなっている。
(2) 協力業者の技能判定、技能レベル把握方法
・ 仕事をやらせてみて判断。
・ 質問して返事できるかどうかでも判定する。
・ 資格保有有無で給与に色。また、家庭、年齢も考慮。
・ 給与を途中で下げるのは現実的に難しいので、職安単価の最下限からスタートする。
7. スポット工採用有無と職種
・ ルート:まず、知り合いの会社に頼む、次に人材派遣業に依頼。
・ 造船職人の融通はききにくい。
・ 期待した腕がないケースは多い。技能が悪い場合は、昼からでも帰ってもらう。
・ 人材派遣業者経由だと、単価は20%ほど高い。ただし、防保護具は本人もち。
・ 溶接工で進水前に5〜6人スポット採用することあり。溶接の業者に依頼して手配。
・ どこの誰々と名前がわかっているので、指名する(課長がそのデータをもっている)。
8. 技能維持・向上と教育訓練
(1) 資格免許取得
・ 高所作業車免許は、構内で講習会を2回ほどやったことあり。
・ 玉掛は外部講習会派遣。費用は、協力工は協力会社負担。教育期間中の時数は本社負担。
・ 教育訓練費用を何らかの形で公的に補助する制度を作る必要があるのではないか。
・ 本工には玉掛資格取得で一時金を出している。
・ 協力業者にとって、クレーン運転は本社が供給という条件ではあるが、免許取得者もいる。ペンダント式(床上操作式クレーン)は、相当数持っている。
・ 資格、免許取得のための講習会期間中の日当補助など助成があればありがたい。
(2) 技能の伝承
・ 現状、下請け率100%では将来、技能伝承面、安全衛生面で大きな問題になりそう。
・ 若手をベテランにつけて、組織的に技能伝承しているところに大きな特徴。
・ 撓鉄:本工新卒を協力会社のベテランに預けて教育中。協力業者は了解済み。
・ 型鋼曲げ:6年前に教育目的で配属した人を配転して、技能継承中。
・ 鉄工(組立、船台):先生(58と61歳)を決めて教育してもらっている。また、2ヶ月ほど親会社に派遣し訓練。先生は出向してきた現役か0B。
・ 機装作業でも同様の方法をとっている(プロパーの技能者を先生に)。
・ 他に、クレーン玉掛、塗装で先生役を決めて、後進指導をしてもらっている。
・ 指導役手当は出していない。
・ 若いのは「意欲(やる気)」が希薄(指導役作業長談)。
・ 資格制度を設け、金銭的にもインセンティブを与える必要もある。
(3) OBによる巡回指導訓練
・ OBを講師にした巡回技能訓練制も技能伝承上、有効ではないか。特殊技能保有者を指導員として、各社を巡回して指導させる方法はどうか?
・ 指導員に、「造船マイスタ」などの称号を与える必要がある。
・ グループ会社で巡回技能訓練制をやるのが一番手っ取り早いのではないか。
・ 大手にもこのような「造船マイスタ」に値する技能者はいないので、養成のための職歴パスも難しくなりつつある。
・ 機関室内の主要機器、配管を総合的にチェックできる技能者は、大手にはいない。この手の技能者は、中小の特徴であるが、こういう技能者は中小でも数少なくなっている。
(4) 何をどう教えるか:テキストの編集について
・ 必要資格や作業手順は、比較的明確にわかるが、次のステップとしての技能の中身を記述するのはほとんど不可能。
・ 言葉では表現できないが、何があるか、何が必要かを洗い出さないと、前に進まない。
例;製鉄所高炉制御の際の「炎の色」を判断する目。
・ 作業別要件も、単に「図面読解力」と記述するだけではなく、もっと詳しく、何の図面をどう読まなければならないかなど分解する必要があるのではないか。
(5) 協力業者の技能伝承に関して:
・ 「技能伝承に気をつけてくれ」との造船所からの要望あり。
・ OJTべース。経験者につけて先手として訓練。1人作業ができるようになれば、後は、経験をつませるだけ。
・ 年間の建造隻数が少なくて、いろいろな応用がきくような訓練の機会があるのかという問題がある。
・ 厳しく叱ったとき、本人が「耐えられる」かどうかがポイント。悩んで勉強すべき。
・ 基本を知っている人の方が、進歩は早い。
・ 組立鉄工は現図も勉強しないといけない。
・ 溶接(下向き)は6ヶ月で1人前になるのではないか。
9. 外国人労働者に対する考え
・ 溶接職が中心。長期的な対応策は今後の問題。
・ 多少興味あるも、法的にかなりややこしいので、そんなに安くならないのではないか。
・ 少なくとも、協力会社の規模では、手続きなど1社ではできない。
10. 請負条件等に対する考え
(1) 工費予算達成の場合の協力業者への金額対応
・ 同型船の場合は、最後の船まで予算を提示し、努力してもらっている。
・ 実績に基づいて、次船の予算を削減することはしていない(つもり)。
・ 能率あがった分は、外注量を内作取り込みで対応。
(2) 会社側からの請負条件
・ 前工程の瑕疵、追加工事は、別途追加請求。
・ 減額されるケースは、今までない。後工程に迷惑かけるのは職人の恥。
・ 防保護具、安全ベルトなど身に付けるものは協力会社負担。ホルダ、トーチは本社側から貸与。工具類は、本社から「借りっぱなし」。ただし、火口、フィルタは協力会社もち。
(3) 協力会社経営者の後継者問題
・ (子供には)違う分野で頑張って欲しかったが、本人がやりたいといって3年前に、会社に入ってきた(社長1)。
・ 後継ぎがいなくて困っている(社長2)。