図4:台風の渦巻く風ができる原理を説明する道具。スタンドの軸のまわりを自由に回転するおもりが2つある。おもりの腕の長さは、スタンドの軸をおおう筒を持ち上げると短くなる。(a)は腕を伸ばした状態。(b)は腕を縮めた状態。腕を伸ばした状態で、おもりにゆっくりした回転を与えておくと、腕を縮めることによっておもりの回転が速くなる。
なぜ渦巻きを低気圧というのか
今、南半球の「熱帯低気圧」という言葉を使いましたが、南半球の「台風」とはいえないのです。「台風」とは、熱帯低気圧という大気の渦巻きの中で、北太平洋の日付変更線より西側で発生するものをいいます。日付変更線より東側で発生するものは「ハリケーン」といいます。ついでに、インド洋で発生するものは「サイクロン」といいます。いずれも、気象学的に見ると同じ種類の大気の渦巻きで、総称して「熱帯低気圧」といいます。
なぜ、渦巻きなのに「低気圧」という言葉を使うのでしょうか。天気予報では「高気圧」という言葉もよく使われます。「日本列島が高気圧に覆われるので、天気はよくなるでしょう」というようないい方をします。このことは、渦巻きと気圧が深い関係にあることを示唆します。この関係とは、どのようなものなのでしょうか。
それを理解するために、簡単な実験を行ってみましょう。これは透明なプラスチックでつくった円筒容器で、中に水が入っています。この中にピンポン玉を入れてみます(図5の左手の近くの円筒容器)。普通のピンポン玉は軽いので、水に浮きます。しかし、このピンポン玉には小さな穴が開けてあり、そこからピンポン玉の中に水を入れてありますので、比重が1より重くなり、水に沈みます。
ピンポン玉が水に沈んだことを確認したうえで、今度はピンポン玉を水に入れる前に、スプーンを使って水中に渦巻きをつくってみます。その中央部にピンポン玉を入れてみるのです。すると、今度はピンポン玉が沈みません。水中にじっと浮かんでいます。よく観察すると、少し沈んでから、また昇ってくるのがわかると思います。一見、手品のようですが、これは渦巻きの作用なのです。
水にスプーンを入れて渦巻きをつくる場合は、強い渦巻きになればなるほど、水面がすり鉢のようにへこみます。水が遠心力で外側に押しやられますから、中心部の水が少なくなって水面がへこむわけです。水圧は水深に比例しますから、渦が強くなればなるほど、中心の圧力は低くなります。
さて、渦巻きの中にピンポン玉を入れると、ピンポン玉の上側では、ピンポン玉が沈むにしたがって、まわりから渦の中心に水が集まります。するとピンポン玉の上側の渦巻きが強化されて、ピンポン玉の上側の水圧が低くなります。一方、ピンポン玉の下側の水は、ピンポン玉が沈むにしたがって外側に広がり、それに応じて渦巻きは弱くなって、中心の水圧が高くなります。このように、渦巻きの強化と中心の圧力低下は深く関係しているのです。その結果、ピンポン玉が沈もうとすると、ピンポン玉の上側の圧力のほうが下側の圧力より低くなって、水圧がピンポン玉を下から押している状態になります。そのために、比重が1より大きくても沈まないのです。
台風も、同じように大気の渦巻きですので、渦巻きが発達するのにしたがって、中心の気圧が低くなります。それで、「渦巻き」というかわりに「低気圧」というわけです。
この実験は水遊びの一種ですから、子どもたちも興味をもって遊んでくれるのではないかと思います。このような実験は、実際に水にさわって物質の感触を知るのと同時に、大きな自然界の現象のメカニズムに通じているという二重の面白さがあると思います。