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お運びしたら、そのまんま次の食事のときにチェンジするというようなことがあって、たまにひとくちかふたくちスープ類を召し上がるというようなこともありました。そういうのが案外流れの中でということが考えられます。ちょっと気を付けていただきたいなと思います。

 

松島:ありがとうございました。渡辺先生お願いします。

 

渡辺:ちょっとだけよろしいですか。今日、こんな話するつもりなかったのですけれども、食事のことで、実は私の母のことを思い出したのです。私も戦争で父を亡くしていますので、親1人、子1人でずっときて、母は相当けち根性があったものですから、何も食べられないときでも、食事をとにかく取っていたのですね。私も母親のけち根性が始まったなあと実を言うと内心思っていたのです。しかも私自身が勤めていた、前の病院でときどき総回診なんかもさせられたりしましたから、みんなよく知ってますので、私もちょっと恥ずかしいと思って、「お母さん、食事とるの止めよう」って言ったのです。母が何と言ったかというと、「正、おまえは何も分かってない」と言うのですね。つまり「私のところに食事が来なかったとしたら、私は死ぬのを待っているばかりじゃないか」と言うのですよ。要するに母としては、孫が自分の残したもの食べられないものをソファーベッドで食べるのを楽しみにしているんですね。そういうことが分かりましたので、私としては最後の親孝行ということで、母が食べ残したのを恥ずかしい思いをしながら、白衣を着たまま廊下をすたすたと行って、配膳台に持っていくという、最後の親孝行としまして、母が亡くなった。そんな思い出があります。今日、そんな話をするつもり全然なかったのですけど、つい今の話で思い出してしまいましたので、一言。

意外とそういうことって多いですよね。決して患者さんっていうのは、生きる気持ちというのを最後まで持っているということを緩和ケアでも忘れると、管理的に食べられないのになぜ出すのという、そういう1プラス1が2であるという感覚にはなかなかなれない。やはり人間のそういう気持ちを理解できるっていうことが必要かなと思って、雑談ですけど話させていただきました。

 

松島:ありがとうございました。それでは最後に磯崎さんどうぞ。

 

磯崎:患者さんの尊厳と人権をどういうふうに守るかということのもう1つの方は、やはり言葉遣いをちょっとチェックしていただけたらと思うのですね。幼児言葉を優しさとか親切と勘違いしてないだろうかって。例えば、「どこが痛いの?」とか「おしっこ取ろうか」みたいなことを言われると、患者さんはおそらくうわべだけの必要最小限のやりとりしかしなくて、本音を漏らしたりはしないと思うのです。それは優しさではなくて、患者さんの尊厳を傷つけていることになると思います。それは相手がお年寄りであっても、若い人であっても、みんなやはり基本的にはです、ます調で接していただきたいと思うのですね。

医療関係の方がいらっしゃるところでこの話をしますと、患者の尊厳とその言葉遣いがどんな関係があるのだ、本当に枝葉末節なことを言う人だなと、しらーっとするんですね。でも公民館やなんかでお話をして、そういう経験のある方、手を挙げてくださいと申し上げますと、みんなそういう言葉遣い嫌だって、ほとんど皆さん手を挙げられます。ですから患者さんのニードをつかむとか、気持ち、本音をキャッチするとかっていうそのとっかかりの部分で言葉遣い。相手を1人の人格のある人間として考えるというふうに自分の胸に聞いてもらったら、どういう言葉遣いになるだろうかちょっとチェックをしていただきたいなと思うわけなのです。

 

 

 

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