日本財団 図書館


先生の方は「家族とご相談しながら少しずつ眠れる、決して安楽死という意味ではなくて、ちょっとウトウトできながら、家族ともお話ができるという、そういったふうにしていきましょう」と言われました。その患者さんは、それから1日半ほどウトウトウトウト寝ながら、最期の終末を迎えられたわけなのです。ちょうどお友達がピアノのデュオを約束されていたようで、2日後にいらっしゃるということで、私どもの病棟で2日ほど居ていただいて結構ですからということで、2日間亡くなったまま泊まっていただきました。

お友達の方がお見えになって、広い30畳ほどのリビングルームがありますので、そこで患者さんベッドごと来ていただいて、お友達がモーツァルトを弾かれました。最後に弾かれたのが、とっても私たち心に残って、子守歌を弾いてくださったのですよね。それを聞いていると、私もスタッフも号泣するぐらいこみあげてきました。私たちは産まれてきて母親に子守歌を歌ってもらったので、自分が亡くなるときも子守歌でもいいんじゃないかなあとそのとき思いました。とても印象に残った亡くなり方をされた方だし、またお友達も彼との約束をちゃんと守られてお見えになったということでは、とてもいいというのもおかしいかもしれませんけど、その方の望んだようなターミナルまでのステージを踏んで逝かれたのかなあと思いました。それを言わせていただきたかったので、すみません。

 

松島:ありがとうございました。具体的な例をお話いただき、イメージが湧きました。そこで私が最初にお話したように、今のようなことってホスピスだからできるのかなあっていうふうに思うのです。久保山さんは看護のお仕事をされ、ホスピスで仕事をし、改めて看護を見ておられると思うのですが、今日ここにはたくさん一般病院の中で働いておられる方がいらっしゃると思います。そういう意味で看護っていうのはどうなのでしょう。ホスピスは特別なのでしょうか。

 

久保山:特別と言うよりも、特殊ではあるけど特別ではないと思うのですね。私たちやっていることは、本当に毎日ケアに関してはシンプルです。ただ患者さんはガンて痛みながら苦しんで死んでいくんですよねっていう思いがありますので、決してそうではない。入院して来られたときに、生命の質、生活の質、それを今以上下げないようにするには、早期にその患者さんが一番つらいところを取らないと、その人の生活的な動作も広がらないのですね。ですから入院してきたときに、痛みがとても強い方は、その方に痛みをまず取らなきゃいけない。私どもの病棟では痛みに対して我慢してくださいねっていうことはタブーなのですね。だから、痛み止めに関しても、Aというものだけではなく、AプラスBを組み合わせると、その患者さんに痛みを取りながら、なおかつその患者さんが毎日快適に過ごしていけられるような、そういったことを考えていきます。一般病棟の方においても、患者さんが例えばいろいろ聞いて欲しい、こうして欲しいという気持ちでお話になったときに、やはりキャッチできるような五感を育てておく。感性ですよね。感性を育てるということが、私は一般病棟の方にお願いしたいなあと思うのです。患者さんが何か不審がって言われたときが、「ああそうなんですか」って終わるのではなくして、「どうしてそういうふうに思われているのですか」、「何でそういうふうに思われるようになったんでしょうか」とか、「どうしてそういうふうに思われますか」ということを、まず問わないと患者さんの本当の気持ちっていうのは出てこないと思うんですね。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION