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ご主人のお話を伺ったときに、私は第3の涙が出てきたのです。こういうのを第3の涙と言うのではないかなというふうに思って、第3の涙が流せるような場所にいられることの幸せを感じます。第1の涙っていうのは、ごみが目に入ったというような物理的な涙ですよね。第2番目の涙っていうのは、感情を伴う、うれしいとか、悲しいとかっていう感情を伴う涙。第3の涙っていうのは、やはり人間としての共感、魂の触れあいを感じることっていう涙。ご主人が「人間っていいものだなあと思えた」っていうようなお言葉を聞いたときに、思わず、もちろん感情が入っているのかもしれませんが、お互いに流した涙っていうのは、第3の涙ではないかなっていうふうに思います。

 

松島:ありがとうございました。よい聞き手がいるからこそ、自分を語れるということなのかなと思いながら伺いました。吉田さんは医療を受ける立場で、たくさん医療者に対して思いがあるかと思いますが、医療を提供している側に具体的にご提言ございますでしょうか。

 

吉田:人生最後ホスピスで過ごせられる方が増えることは大変うれしいし、その方向に今、向かっていることはうれしいのです。けれども手厚い看護を受けて、ホスピスで亡くなる死もあれば、先ほどの柏木先生のお話ではないですけど、紙1枚裏返しには、思いもかけない死がある。計り知れない不条理な死が付いて回っておりますよね。つい最近もNHKの番組で放送されたので、皆さまご存じだと思いますが、高校生3年生の17歳の女の子、フルダテユキさん。あごにできた初期のガンで、手術は成功して、そのあと転移を防ぐためにという抗ガン剤治療担当の先生は、図書館で調べたバクホウという療法をご自分で見つけられて、これを使おうと。残念ながら、1ウィークを1ディと読み間違えて、1週間に1遍ずつ12週投与する抗ガン剤を毎日投与してしまった。そのために8日目にフルダテユキちゃんは急死して亡くなっってしまったのですね。こういうのは、ニュース聞いていても、私は体が震えてくるぐらい悲しいし、怒りもあるし、くやしい。何でという思いですね。亡くなられた17歳は、さっき冒頭で申し上げた21歳で切腹して、敗戦の翌日死んだ青年とどこが違うのかなあと。何かもっと若い人に訴えているものが、この中にはある。僕は71ですが、ここまで生き延びて、ひょっとガンになれば、多分私は素直にホスピスを選んで、手厚い看護を受けたいと思っています。これは生き延びれたからかもしれませんね。ここまで来る間に私も2度ほど全身麻酔の手術受けていますけど、ひょっとしたら、担当の先生のミス、あるいは看護婦さんのミスで何が起きてたかも分からない。人生ってそんなもんですよね。

ただただ恨むわけではありませんが、そういうものだと悟るまでには、人はかなりつらい思いをみんなしょってます。ですからホスピスへ来るまでの医療も決して無視はできないのです。ホスピスまで来られた方は、「ああ良かったね」かもしれません。これをやはり私たち患者、家族が絶えず注意してないと、今の医療の水準、教育は上がらないと僕は思っています。もっとさかのぼって言えば、あの悲惨な戦争でわれわれが勝ち得たものは民主主義、それよりもっと大事なことは基本的人権という世界に向かって発せられた人権宣言というものを、あの戦争で全人類は英知として勝ち得たわけです。その人権という思想が本当に私たちの間に根付いているか。患者の権利法1つ、10年運動していますが、いまだに国会を通らないのですよ。患者の権利法がないために、つい最近乳ガンの患者さんがインフォームド・コンセントを受けなかったことを理由に訴訟を起こされた方が、最高裁で敗訴になったのですね。

 

 

 

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