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それで今度患者さんのご家族に別室に来ていただいて、未告知の方であっても、これからもし病状が進んでいって、本当に患者さんがお知りになりたいときはどうしましょうかということもご家族と相談しておきます。入院のときにしっかりとそういったお話を聞いておかないと、後ではなかなかことがスムースにいかないことがあるのです。

ですから、未告知の方であっても、例えば検査をしても、採血をしても、いろんなことをやったときにそれをお知りになりたいか、なりたくないのか、そういったことも入院のときにお聞きしてきます。やはり未告知の方がだんだんご自分の病気が思わしくないと、1つの希望をもってお入りになりますよね。そしてある程度希望が叶えられても、自分の体が楽になっていかない時期がまいりますよね。そういったときに、本当に私って良くなるのかしらという言葉を出されるようになります。そういう、患者さんがお聞きになりたいときが一番いいタイミングなのですね。グッドタイミングなので、予めガンということをボンと言うわけではなくて、患者さんが私ってもしかしてガンなのかしらって言われたときには、それに近いですねって。ダイレクトにそうですよっていうことではなく、それに近いですよねっていう形で言ってきます。やはり先ほども、先生の講演の中でおっしゃったように、ガンということは言わないです。悪いものができている、その悪いものがよくなることはないと言うのですかね。そういった形でやんわりとオブラートに包んだような言い方していきます。信頼関係ができた中で、患者さんも張りつめた空気がふっと和らいで生活していく場を私たちが提供させてもらっているということです。ですから、信頼関係ができた中では、今、緩和ケア病棟は1つの大きな家族がみんなで暮らしているという形になっていっています。

私どもの病棟では、全部お花の名前が付けています。全室個室で、桜の部屋とか、コスモスとか。和室が2つありますが、福寿草と芙蓉という、少しクラシックな名前が付けています。スタッフの方も、例えば村上さんという方がいらっしゃったら、「村上さん家に行って来ます」という、そういう言い方して、お部屋を訪れてます。本当に自然な形で、看護婦と患者、医師と患者というわけではなく、何か人と人とが大きな家族で生活しているという雰囲気で暮らしております。

 

松島:ありがとうございました。久保山さんは一般病院での経験も長かったと思いますが、今、ご説明くださったような環境の中でお仕事をされ、死についてのご自分の姿勢や考え方、何か変化はございましたでしょうか。

 

久保山:そうですね。私は内科、外科、整形外科とおりましたけど、今考えると、ターミナル・ステージの患者さんに申し訳ないなという思いがこみ上げてきます。それは緩和ケアを経験したから言えることだと思うのですけど、ターミナル・ステージにいる患者さんって本当に心寂しい、自分がどうなっていくか分からないというつらい気持ちがあるのに、私たちって言って差し上げることがないから、なかなかお部屋に行きにくいんですよね。

外科病棟でしたら、これから手術するという患者さんはよくなっていくということが目に見えていますから、お部屋は伺いやすいのですけど、どうしてもターミナル・ステージのところは、もし病気のことを聞かれたらどう答えようという不安があって、なかなか訪れない。でも緩和ケアを経験して分かったのですが、患者さんて何かを看護婦に求めているわけではないのですよね。今、自分がこういう気持ちである、こういうつらい思いを抱いているのだということを、その場の空気で一緒に共感してほしいという思いがあるのですね。だから皆さん、一般病棟においては、優しくそばで寄り添って、その方の気持ちに寄り添っていただけたらいいのかなあと思うのですね。

 

 

 

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