なお、最初にもお話しましたが、セミナーの申し込みをいただいたときにいろいろなご質問やご意見をいただいております。それを直接お答えすることは難しいのですが、そういったことを盛り込みながら進めてまいりたいと思います。これから約1時間ですが今日は大きなテーマですので、2つの点で話を進めたいと思います。初めに、実際に日々、亡くなっていく方の現場におられる方々が多いですので、そういったことを通して、先生方はどんなふうに死を考えておられるのか。ご質問の中にも死とは何か、医療者が死をどう考えているかを聞いてみたいという、自分への問いも含めてそんな質問もございましたので、まずその点を。それから1番目には、よりよい医療にという話もありましたが、医療者が死を迎えていく方にどう対応したらいいのか。あるいは今日はご家族の方もおられるかと思いますので、家族としてどう関わっていったらいいのか。そんな亡くなる方への対応について具体的なお話ができればと、そんな点を大きな2つのテーマで進めたいと思いますが、話がどのように進むかは分かりませんし、予定通りにいくか分かりませんが、そういったことを目標に話してみたいと思います。
それでは具体的な死とは何かという話は難しいので、ホスピスで患者さんやご家族はどんなふうに過ごしておられるのですかというご質問もございましたし、久保山さんは看護の立場でたくさんの方を看取られておられると思います。そういった方々を体験の中で、死をどんなふうにお考えでしょうか。そこからお始めくださいませ。
久保山:まず緩和ケア病棟に入院していただくには、緩和ケア外来というのにお越しいただきます。そのときには、ご本人はいらっしゃらなくても患者さんのご家族の方がお出でになったら結構なのですけど、紹介状を持ってきて、いろいろお話を伺ったうえで、患者さんはどう思っていらっしゃるのか、あるいは家族はどうしたいのかということをお聞きして、その日が入院の登録日ということになります。
まだ患者さんの体に余裕がある場合と言うのですか、まだ痛みがコントロールできている場合は入院を先送りにするということも可能です。入院していただきましたら、医師と看護婦が患者さんと家族と同じ部屋の中で、同席したままで、情報をいろいろお聞きします。ここで一般病棟と違うのは、私たちが知りたい情報をどんどん聞くというわけではなく、入院するまでに経過してきた状態をいろいろ患者さんとご家族の方から、生の言葉でお聞きします。そのときは患者さんもご家族もいったいどういうところかなあと思っていらっしゃるんですけれど、緩和ケア病棟に入った途端に、ふっと「ああここは暖かな空気が流れているわ」って皆さんおっしゃっていだだきます。
まず私どもナースも医師の方も、ご家族と患者さんに今までお疲れさまでしたねえということと、ご家族に対しては、よくがんばって来られましたねという、労をねぎらうことから始まっていきます。そうすると、患者さんもご家族もリラックスして、張りつめて来られた患者さんのご家族は、ポロポロっとそこで大泣きされるんですね。それでいろいろお話を聞きます。それが1つの患者さんと私たちの間、ご家族との間のコミュニケーションの始まりです。
いろいろお話を伺っているうちに、だんだんご家族もリラックスして、患者さんが告知、未告知であっても、その場は両方ともお聞きしたいことはお聞きします。その後、医師が退席したあとに看護婦の方が医師がいろいろお聞きした中とか、ご説明した中で分からないことありませんかということをお聞きします。