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べたべた生きてきた人は、べたべた亡くなっていくのです。これは本当に不思議です。それから周りに不平ばかり言って生きてきた人は、我々医者や看護婦にも不平ばかり言って亡くなっていくんです。周りに感謝をして生きてきた人は、我々に感謝をして亡くなっていかれる。そういう意味からは、本当に生きざまというのが見事に死にざまに反映されるということを患者さんの看取りを通して私は感じます。

で、そのような患者さんの姿を見ていますと、やはりよき死を死すためには、よき生を生きなければいけないなというふうに思うのですね。そういうことを逆に言いますと、よき死を死すためによき生を生きる。それ、よき死を死すためにはよき生を生きる必要があるというそのことは、よき生を生きなければよき死を死すことができないということにもなる。同じことなのですけれども、そういうふうに思います。

少しホスピスの話をしたいというふうに思いますが、先ほど、もう日野原先生がかなりの部分をお話しくださったので、それでまた会場におられる方はほとんどの方がホスピスということをご存知だと思います。これはずっとホスピスの仕事をしてきた者にとってはうれしいことで、自分が一生懸命やっている仕事を世間の方々、一般の方々が知ってくださるというのは非常にありがたいことです。私は1973年に病院で末期の患者さんのためのチームアプローチを始めました。これが日本における初めてのホスピスのプログラムだったのですけれども、日本において初めてホスピスの病棟ができたのは1981年、聖隷ホスピスというのができました。1984年に私どもの淀川キリスト教病院に初めて病棟型のホスピスができました。いわゆる独立型の、全く病院とは関係なく独立してできたのが日野原先生がつくられたピースハウスですね。なかなかホスピスという言葉が一般の人たちに浸透をしなかった。ある雑誌で―これだいぶ前の話ですけれども―タクシーの運転手さんがある言葉を知るようになったら、その言葉はだいたい社会に浸透していると考えていいという、そういう記事を読みました。これ私、妙に納得をいたしました。タクシーの運転手さんというのはいろんなお客さんを乗せて雑学の大家になりますから、世間で何が今問題になっているかということをキャッチされるわけですね。数年前に東京でタクシーに乗りまして、私ちょうどその記事を読んだ後でしたので、タクシーに乗るたびに「運転手さん、ホスピスって知っていますか」って尋ねる妙な癖がついていた時期がありまして、その運転手さんに「運転手さん、ホスピスってご存知ですか」と言ったら、「ああ、あの新手のホステスですか」って、これはちょっとまいりまして、しかし何事も宣伝だと思いまして、「いやあ、実はホスピスとホステスというのはよく似ているのです」という話を始めまして、実際に似ているんですね。言葉の響きが似ているだけではなくて、語源が共通なのですね。語源はラテン語のホスピチウムというのがホスピスの語源なのですけれども、ホステスもホスピスもこのホスピチウムから出てきているのです。それからホテルがそうですね。それからホスピタルもそうです。それからホステルもそうです。みんなホスピチウムという言葉から出てきているので、語源が同じだという点ではホスピスもホステスも同じなんです。もう一つ共通点はホスピタリティ、親切にもてなすという点でもホスピスとホステスは似ているわけです。その話をするときにもちろん私は、「いやあ運転手さん、でもそのもてなし方はずいぶん違うのですよ」ということはちゃんと言っておきましたけれども、とにかく「親切にもてなす」という点では共通しているわけですね。

 

 

 

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