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で、それ以後、タクシーの運転手さんの中で非常にホスピスということを聞くたびにだいたいわかってこられるようになりました、都会のかたは。今日私はJRの津駅からこの会場までタクシーに乗りました。タクシーの運転手さんに途中で「運転手さん、ホスピスってご存知ですか」と言ったら、「はあはあ、末期がんの患者をケアするところですね」とすっと答えてくれた。まあうれしかったですね。思わず「ありがとうございます」と言ってしまいましたが、自分でなんのことかよくわからない。「ここにも一つありますよ」ということで、藤田保健衛生大学のホスピスの話をしてくださいました。もう今、多くのタクシーの運転手さんがホスピスをご存知です。それほど少しずつですけれども日本に浸透するようになりました。

ホスピスというのは歴史は非常に古いのですね。中世のヨーロッパにまでその歴史はさかのぼるのですけれども、当時キリスト教の聖地であるエルサレムに巡礼の旅人が行き来する。その巡礼の旅人の中で疲れきってしまったり、病気になったり、お金がなくなったり、非常に困った状況になる人が出てきました。そういう人たちに対して、当時のカトリックの修道院の尼僧たちが一夜の宿と温かい食事を提供した。これがホスピスの原泉なのですね。それ以降、いろいろ時代的な変遷がありました。たとえばライ病が非常に―ハンセン病ですね―ヨーロッパ全土を脅威の渦に巻き込んだときにはライ病の方々にケアを提供しましたし、結核が死に至る病であったときには末期の結核の患者さんがホスピスケアの対象になった時代があります。現在はがんの末期の患者さんが主ですけれども、エイズの患者さんもその対象になりつつあります。先ほどの日野原先生のお話にもありましたが、欧米諸国ではホスピスケアの対象になる患者さん、疾患、病気は、がんとエイズにとどまらず、たとえばアメリカの1000年度の統計によりますと、アメリカ全土に今3,100のホスピスがありますけれども、その3,100のホスピスの中でがん患者は60%しか占めていないんですね。あとの40%はがん以外の疾患です。エイズが入りますし、慢性の心疾患ですね、心臓の病気、それから慢性の腎疾患、それから肝臓の病気、ときにはALSといわれる筋萎縮性側索硬化症というふうな難病、それからときにはアルツハイマーの末期の患者さんというふうな、がんやエイズ以外の困った状況にある患者さんに対してケアの手を差しのべているということで、ずいぶん対象が広がっています。おそらく日本のホスピスもやがて必ずケアの対象ががんとエイズ以外のものに広がっていくと思うのですけれども、まだ少し時間がかかると思います。今現在日本では89カ所の公的なホスピスがあります。しかし、1年間ホスピスという場でケアを受けて死を迎えた人は、全がん死の2.5%に満たないのですね、まだ。ですからまだまだ数が必要です。そして数だけではなくて、いま質が問われている時代になっています。ホスピスのケアの質をどのように高めていくかということが、今非常に大きな課題です。1991年に全国ホスピス緩和ケア病棟連絡協議会という協議会ができまして、私その会長をさせていただいているんですが、その協議会の中でも、ホスピスの質をどう高めていくか、そこで働いている医師や看護婦をどのように研修を受けていただいて質を高めていくかということが大きな課題になっております。これからホスピスも、今までは量、「数、数」と言っていたのですけれども、その質を高めていくための工夫が必要になるというふうに思います。

残りの時間が非常に短くなりましたけれども、最後に「人は生きてきたように死んでいく」ということを先ほど申し上げました。

 

 

 

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