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この失袒祭祀を考える時に特に現代社会におきまして非常に大きな問題が2つあります。1つはご承知のように、特に高度経済成長以降になりますと、都市にどんどん人々がやってきた。村は過疎で潰れてしまった。そういう方々が自分たちのお墓を都市に作るようになってきました。こうして新しいお墓を作る。そうすると、田舎にある先祖の霊を祀って、一緒に祀りますが、それでよいのかどうかという問題が出てきております。

それからもう1つ大きな問題というのは、いま死を迎えている女性の方の問題です。ご承知のように、第二次大戦のときに、男性の多くが戦死いたしましたから、適齢期に配偶者を得なくて独身ですごした女性が今死期を迎えております。この方々は、柳田民俗学によりますと、祀ってくれる子供を持たない、祀ってくれる子孫を持たない。そいういうことから、仏教の言葉でいいますと無縁仏になるといいます。そしてやがて祟るかもしれない。そういう方々が次第に増えてきているわけですね。そういう方々が中心になって必死になって考えて「もやいの会」というのができあがりました。もやいというのは、ご承知のように、身内の人々が集まってお互いに慰め合うのを「もやい」というのです。この会は1990年に出来たのですが、有名な都市社会学者の磯村英一先生が会長でして、豊島区の巣鴨に「もやいの碑」というお墓を作っています。これは今申し上げましたように、結婚しないで一人ぼっちになった女の方々、今死期を迎える方々が、お互いに生きている間に友達を作って、友達同士でお墓を作ってその縁をもとに葬式や供養をしようとする運動なのです。この会では、世代であるとか性であるとか、地域とか、あるいは階級とか宗教も乗り越えて、とにかく残された生をお互いに温め合って、慰め合って生きてきた人が、自分たちだけのお墓を作って、それを守っていこうじゃないかと。こういう運動なのですね。会員には2つの種類があって、A会員というのは、会の趣旨に賛同してそれに登録するものです。B会員というのは、実際にすでにもやいの塔に、さっきの逆修のように赤い字で俗名を書きまして、そこへ死んだあと遺骨を納めてもらって、戒名を刻み込んでいただくことを信頼した人です。松本由紀子さんの研究「葬法の革新を求めて」によりますと、1995年現在会員は2,800人で、そのうち遺骨を納めている人が約300人。その3分の2以上が女性です。特に、70歳以上の会員は8割方が女性です。さっきも言いましたように、結婚できないで子孫を残さないで死んだ女性たちが、この会やもやいの碑を頼りにして生きていく、そういう面が見られているわけなのですね。このグループでは、年1回もやいの会を開き、さらに共同の慰霊祭を行っております。それから、月に1回は例会をしたり勉強会をしたり、あるいはまたお互いに誕生会をしている。このように晩年になりまして独りぼっちになった女性たちが、こういう形で「もやいの会」というのを組織して、慰め合いながら自分たちの死後のことを考えている。そういうふうな動きがあります。またこの会では、現在会報を出しております。『もやい』っていう。その会報の中に、自分たちの心情と申しますか、どうしてこの会に入ったのかという入会の動機であるとか、そういうものを書いている部分があるのですけれども、それによりますと、自分は独りぼっちになったけれども、田舎にいる身内に負担をかけたくない。それから、自分は無縁になりたくないのだ。無縁になると祀ってくれる人がいないから祟ることになりますから、無縁になりたくないのだというのです。

 

 

 

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