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R男 「はい」(恥ずかしそうに!)

藤井氏「今度これを売ってみい」(チヌを持ち上げる)

R男 「えっ、…」(途方に暮れる)

藤井氏「なあに、簡単よ。好きな女の子を口説く時一生懸命になろうが、それと同じよ。客にこれを絶対買ってもらうんじゃと思うんじゃ。やってみい!!」

R男 「はい」

R男 「これ買って下さい。これ…」(言葉じりが小さくなる)

女性客「えっ、チヌ、どうするん」

R男 「お願いします」(悲痛な訴えに近くなる)

女性客「もう、しょうがないな。お兄ちゃん見てたら、買わんわけいかんなー」

R男 「ありがとうございます」

(初めて客に魚が売れ、うれしそうに藤井氏に目で訴えている)

藤井氏「ほら、やれたろうが。魚売るのは簡単よのう」

(こうした会話が続き、R男は徐々に市場の雰囲気に慣れていく)

 

12:00−両親がR男の様子を見に来る(セラピストがR男の変容を見て、両親に電話を入れる)。R男が楽しそうに魚を売る様子を見て、母親はひたすら関係者に頭を下げ、お礼を言う。寡黙な父親は、目に涙をため息子の姿を遠目から見ている。この日は、12時30分まで働き終了した。

藤井氏は終了後、「今日は手本を見せようとがんばりすぎてのどが痛い」と、うれしそうに話していた。R男にわが子の姿をダブらせ、また子を持つ父親として両親の気持ちを思い、R男の人生の再出発に力を注いでくれる。こうした人々の助けがあれば、R男が自分の人生を取り戻す日も決して遠くはないであろう、と確信した。

11月24日(日)−a.m.8:00昨日と同様、セラピストの車で市場へ行く。

今日は14:30(市場終了)まで働く。昨日以上に有意義な時間を過ごす。

11月25日(月)−今日は市場がない日だが、R男は自転車で市場へ向かう。次週から自転車で市場に行こうと思いついたようだ。私たちが求めた以上のことを自分で考え、進んで実行に移したR男の行動力は以前には見られないことであり、大いに評価したい点である。市場では藤井氏をはじめ社員の人と語らい、初対面の人のトラックに乗り込み、運搬の手伝いまでしている。まだ、ぎこちない対人関係だが、R男なりに努力している様子がうかがえる。

 

《R男の日記から》−本人の文章をそのまま記載−

11月25日(月)

今日は、朝起きて魚屋に行って魚の名前、食べ方、値段などを知るために行こうと思っていた。魚の値段や名前や食べ方などを覚えれば、お客さんに話しかけてこられても、聞かれても答えられるし、お世話になっている(株)一休庵(イキイキ新鮮市)の人たちにも恩返しというか、そんなものができる気がしたからだった。しかし、結局は社長や市場の人たちと話をしたり、何か手伝いができればいいし、自転車で行くことの不安をなくすために市場へ行った。

―中略―

 

 

 

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