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A子は、問いかけられると困ったようにうっすら笑顔を見せる程度で、言葉は単語程度しか話さない状態がしばらく続いた。子ども担当者は、相談室の役割などを説明し、A子自身の言葉で何に困っているか話してもらおうとしたが、「学校に行けないこと」という以外は、何を聞いても首をタテヨコに振るだけで、話すことを避けているようであった。

そこで、2回目以降は付き添う母親(主な付き添いは母親)と、母親担当者を交えて気持ちを柔らかくしたり、気分を軽くしたりするためのゲームや描画を行った。

1週間に1度の定期的な面接を1カ月半続けたところ、A子はプレイルームに興味を示した(部屋を見せると、ちょっと驚いたような表情になり、視線が部屋の中を頻繁に動いた)ので、子ども担当者とのふたりでの面接に導入した。

 

たまに人目を避けて外出するが、こもりがち(X年12月〜X+1年3月)

プレイルームでは箱庭に興味を示し、人形や家などのミニチュアが置いてある棚を眺めたり、砂箱をのぞき込んだりはしたが、実際に箱庭を作成することはなかった。プレイルームでの過ごし方はA子の自由にしてよいと伝えても、緊張して動けず、カーペットに座り込んで困ったような笑顔を見せるだけの状態が続いた。担当者も少し距離をとって座り込み、他愛ない話に終始することが何回か続いた。

担当者からの話しかけには、いやな表情を見せることはなかったので、A子が困っている、学校に行けないことを解決するためにふたつの提案をした。

1] 学校に行けなくなった訳をいっしょに考えていこう。

2] 元気がなくなっているようなので、元気を取り戻す工夫をしよう。

1]についてA子は、友達から受けたイジメについて話し、「謝ってもらったので、もう大丈夫と思うのに行けない」という。また、母親に叱咤されたことで「母にはわかってもらえない。両親はいつもは優しいが、学校のことになると厳しいので怖い気持ちもある」と語った。

「元気が戻ってないから不安になるのかもしれないね。元気を取り戻す工夫をしよう」と、コラージュ画の作成や、多色クレヨンによる画用紙上への模様づくりをふたりで行った。

当初は自分から動き出すことがむずかしく、担当者があらかじめ作成しておいた丸や四角・三角などの多色折り紙を並べて貼り付けたり、淡い色彩のクレヨンの線を消え入るような筆圧でしか、画面に置けなかったりした。3カ月目くらいから、少し積極的にかかわるようになり、表情が和らぎ笑顔が生きてきた。丸しか使えなかったのが、三角や四角を並べてみたり、少し複雑な形を自分で作ってみたりする工夫も始めた。画面上で用いるクレヨンの色調も、原色に近い色が加わったり、筆圧が強くなったりした。その変化を言葉で伝え、元気が戻ってきた印だと思うと意味づけた。

 

 

 

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